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【chapter.07 5%】
「小雨。試験終わったら今日はスシでも食べに行くか?」
「行かない」
今日の朝は珍しくお父さんがいた。
ユーキューキューカ、というものらしい。
お母さんが先に出勤した事をいいことに、私からの家庭内評価を上げようと必死だ。
私はもう大人のオンナになりつつある。いつまでも家族で回転寿司に行く気分じゃないのだ。
私はテスト最終日だと言うのに、相変わらずパンにピーナツバタークリームを塗っている。
ぎり遅刻しそうだ。まぁ、ある程度遅刻したって、朝のホームルームに遅れるだけで試験は間に合う。急ぐ理由なんてなかった。
「小雨、結構ギリじゃないか?」
私が靴を履き、玄関で私を見送る。
なにやらお父さんはどうしても家にひとりでいたいらしい。その理由はきっと何かある。それは知らなくてもいい事だ。
「じゃ、行ってくるよ」
はい。遅刻確定。
エレベーター遅いし、通学路には学生がいない。まぁテストには間に合う。そうなれば急ぐ必要だってない。
「今日に限って」
私は涙が出そうになった。
モリランドロップがいる。
今日も制服を着て、その長い睫毛をパチクリさせ、死んでいた。
「探してたよ」
「ごめんねミヨリカメ」
「会えて嬉しい。何してたの」
「色々」
「へぇ。今日はどうする」
「行きたい気持ち5%」
「悲報があります」
「なに」
「今日はテスト最終日です」
「絶対行かない」
「流石にテストの日に突如現れたらヤバイかも」
「だよね。ミヨリカメは?」
「テスト受けたい気持ちが5%」
「残りは?」
「モリランドロップとお喋り」
「しょうがないなぁ」
「それはこっちの台詞じゃ!」
ー
私は嬉しくてたまらなかった。
またうんこ座りした公園で私達はひっそりと会話をしている。
ちなみにこの公園の名前をヘンタイウン公園と名付けることにした。
学校の遅刻、テストの遅刻はもう確定していたのだけれど、どうでもよくなっていた。
だってテストはもう一度受ければいいだけだ。
テストの時期は決まってるけど、モリランドロップに会えるタイミングは分からない。
天秤にかけた時、どちらに傾くか、そんなのはわかりきっていた。
「髪の毛いつもサラサラだよね」
私はモリランドロップを見て言う。
きっと私なんかより高級なシャンプーやトリートメントを使ってるに違いない。
ツヤがありすぎて、漫画の表現みたいに光の当たった部分が白く光っている。
「お母さんが連れてくから。美容室」
「へぇ。通りで綺麗」
「あとは内面を磨けってお母さんは言う」
「たしかに」
「そこは否定して」
「そんな事ないよ」
「違うの」
「どゆこと?」
「もっと客に愛想良くしろって」
「客?」
「ロリコン」
「ん?」
「私、モデルやってる」
「へぇ」
「驚かないの?」
「モリランドロップ美人だもん」
「もう美人嫌なの」
「ほんのちょっと分かる」
「分かるの?」
「ネイマールに付き纏われてるから」
「ネイマール?」
「そ。男」
「どんな人なの」
「日焼けやばい。エロそう」
「やだね」
「でしょ」
日中の公園はとてもとても気持ちの良い風と少し強めの太陽が照りつけていて、私達は原っぱのところで寝転ぼうか迷ったけれど、パンツが見えるのでやめた。
「何する」
「お腹すいた」
「草食べる?」
「昼ご飯食べたい」
「金ない」
「私持ってるよ」
モリランドロップがポケットからブランド物の小さな皮材布を出す。
「貸して」
「うん。どっか食べ行こ」
「そだね」
私たちは制服を着ていて目立つので、少し遠いところまで歩いていくことにした。
道中、私の気持ちは複雑だった。
テストサボった事は勿論だけど、モリランドロップがモデルだったなんて。
なんかやっぱり遠い世界にいる人のような・・・そんな事を思ってしまった。