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c6 退屈な日常描写(2)


変態おじさん事変から1週間経過した。

なぜかそんな気もしていたのに、モリランドロップと会えなくなってしまった。

あの公園に行っても、最初に死んでた場所に行っても、ついでに向かいのホームと路地裏の窓も探したけれど、彼女には会えなかった。


とてつもなく楽しいあの日が、嘘みたいに退屈な日々に塗り替えられてしまっていた。


【chapter.06 退屈な日常描写(2)】


「〜であるが故にホニャホニャするわけであり・・・」

義務教育の為の公務員が英語を教えている。今日はやけに張り切っていた。

日本人の癖に英語を喋っていて、この人にはもう大和魂は無いのかもしれない。

隣のモブ子と手紙のやりとりをする。


〝今日は先生気合入ってるね〟

〝来週から試験だしね〟

〝そうなの?〟


すっかり、忘れていた。

私はモリランドロップと変態おじさん事変の事で頭がいっぱいで、越えなければならない試練を無意識に頭から取り外し、川に流していたのだ。

「はい、今のところ、黒板には書かないけど、試験に出すからなぁ」

公務員が意地悪をする。

いい大人が私たちをハメようとしているのだ。普段無視するだけ無視して、いざとなればお利口な生徒だけを優遇する。

これが均等な義務なのか!今こそ立ち上がれ私!と脳内で旗を立てて終わる。



そういうわけで今週は部活が無いのだけれど、モリランドロップに会いたくて、私はいつもの公園で時間を過ごしてみた。

あれ、あれあれ?これは大変な事だ。私は気がついてしまった。


ひとりが寂しい。


だってつい先日まで一緒に走り回ってたのに、その子に1週間も会えないなんて。

一緒に天国だって言ったのに・・・


「小雨じゃん」

ぼーっとしてた私の視界に現れたのは、望んでもない男、ネイマールだった。

この男もこの男で、サッカーの練習をしていたのだろうか。

仕方ない。久しぶりにちょっと話をしてやるか。

「よぉ」

「テスト勉強しなくていいの」

「アンタこそ、サッカー選手はカシコじゃないとダメでしょ」

「まぁな」

ネイマールは格好つける為に、何故かボールを取り出して、リフティングを始めた。

私は運動音痴で、特に球技なんかは苦手だ。

吸い付くようなその足捌きは、正直カッコいい。どちらかと言うと大道芸のような感じだ。

「私もやりたい」

「ほらよ」

ネイマールの右膝からボールが私の胸あたりに向かって飛んでくる。どうしたらいいかわからなくて、避けた。

「ちゃんとパスしてよ」

「したよ」

「ふ〜ん」

私はボールを拾って、リフティングをしようとする。


そこで気がつく。


「あっち向いてくんない」

「何でだよ」

「パンツ見えたらヤバい」

「べっ、別に見る気ねーよ」

私はネイマールの真似をして、両手を離してボールを右膝に落とす。

1回目。

1回目のボールがもう既に思った飛び方をせずそこで地面に落ちた。

「もう1回」

私はボールを拾って、再度チャレンジする。

ネイマールはあっちを向いていた。

2回続いたが、同じようなミスでリフティングは続かなかった。


「もういい。返す」


私は一度手に取ったボールを、わざと地面に

落として、パスでネイマールに渡した。

危ない危ない。手渡しでうっかり触れ合っちゃったりすると困る。

「どう最近」

話題を変えるようにネイマールが語りかけてくる。楽しい事なら沢山ある。

今はちょっと停滞気味だけど。

「別に。そっちは」

「ぼちぼち」

「好きな子出来た?」その無神経な私の問いかけに、ネイマールの足の甲からボールが離れていった。

「教えない」

「いるんだ」

「さぁな」

「青春じゃん」

「こっ、小雨はいねーのかよ」

「今はウサギが恋人かな」

「ウサギ飼ったの?」

「ま、男には分からない世界ってやつ」

「なんだそれ」

「私帰る」

今日はモリランドロップの気配がない。

今日も会えない気がしたので公園に長居するのは止めることにした。

「なぁ」

「ん?」

「一緒に帰らねー?」


「帰らない」


私はネイマールを振り切った。

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