c4 変態人間現る現る〈前編〉
「そういうわけで、不審者の情報が出てるから、お前らも気をつけるように」
6時間目の非常に有益な無駄授業を終え、ホームルームの最後の最後。
担任の妻甲斐先生が珍しく注意喚起をした。
「変態?」
「朝お母さんから聞いた」
「露出魔らしい」
「きっしょ」
「ボッキしてたのかなー?」
「別に怖くねーだろ」
モブキャラ達が各々、聞いてもない感想を語り出していた。
先生の話によると、この中学校の周辺の西門側(つまりは私の通学路!)方面で先生曰く局部(つまりはソレ!)を露出する男が現れるのだという。
それは色違いポケモンのようなもので、きっと何かのネジが外れてしまった大人が社会に紛れてしまったのである。
義務教育を行なっても、こんな大人が生まれるのであれば日本の教育は最早終わっている。
私は大人や大人達の弱点が大好きだ。
【chapter.04 変態人間現る現る】
とはいえひとつの矛盾。
変態が現れたというのに放課後の部活動は通常通り行われるというのだ。
これが例えば刃物男であれば集団下校なのに。
局部露出では、組織は動かないという事か。
私は出来れば部活をサボりたかったが、また何日もサボれば連絡が飛んでくるし、仲間内の評価も下がる。
クラスのモブキャラとダラダラ喋っているうちに、時間になっている事に気付いて、焦って小ホールへ向かう。
キュッ、キュッ、パンっ、ぽと。
室内靴が床を擦る音。ラケットが羽根を叩く音。それが落ちる音。女子バドミントン部。
それが私の部活動だ。
「また遅刻か」
モブ部長、略してモ部長が年上ということで偉そうに語りかけてくる。
「すみません」私は年下という事で謝る。
「どうしていつも遅刻するの」
「ついつい話し込んじゃって」
「モブ野!ミヨリカメとクラス同じなんだから、これから連れて来なさいよ!」
モ部長がモブ野に指示をする。
モブ野はモブ野で気まずそうだ。
何故なら私とモブ野は別に仲良くないし、ぶっちゃけモブ野より私の方が上位なので、あの子からは私に話しかける事は無いのだ。
ついでに言えばモブ野よりもバドが強い。
「次から気をつけまーす」
なんとなく悪態をついてみる私をモ部長が無視する。正直悔しい。
このスルースキルが3年生の余裕か。
ー
準備運動している間も、
数回素振りをしている間も、
モブ崎やモブ野とゲームをしている間も、
靴紐を直している間も、
暑いから開けた窓が汗だらけの体温を奪う間も、
ネットを片付ける間も、
ポールを持ち運ぶ間も・・・
ポールを差し込む地面の金具に躓いた時も、
結った髪の毛を解いた時も・・・
私は変態の事で頭がいっぱいだった。
局部を見たいわけじゃない。変態が好きなわけじゃない。
そうじゃなくて、私の大切な友達、モリランドロップが変態に襲われていないか、それだけが心配だった。
ー
無尽蔵の心臓をフル稼働させ、あの公園へたどり着く。
秋も本番でもう暗くなっていて、出でよ変態!と言わんばかりの気味の悪さがこの公園には溢れていた。
私はいつの日か2人でうんこ座りをした所へ向かう。・・・いない。
「どうしたの」
振り向くとモリランドロップがいた。
「よかった」
とりあえず背景に百合の花が浮かぶ感じで私はモリランドロップを抱きしめていた。
「え?」
「この辺に変態が現れるらしいから」
「そうなの?」
「モリランドロップが襲われたらどうしようって思った」
「ミヨリカメ・・・」
「ん?」
「部活終わりじゃ遅くない?」
「言えてる」
「遅い」
「局部露出じゃ私もすぐに動かないという事だ」
「何言ってんの?」
「まぁまぁ」
「クサい」
「えっ?」
「ミヨリカメ、汗臭」
背景の百合の花が一気に枯れる。
私はショックだった。女の子は臭いと言われるのが非常にショックだ。
汗臭いのとあの日の血生臭いは禁句だ。
「えっ、ヤバい?」
「凄いのに比べたら平気」
「凄いのってどんなの」
「地獄みたいな臭さ」
「それと比べられてもなぁ」
「お腹すいた」
「空気食べよ」
「流石に帰るか」
って、もしかしてモリランドロップがここにいるのって・・・。
「私のこと待ってた?」
「うん」
「じゃちょっと語ってく」
「そうしよ」
そんな事を言い出した瞬間、変態男が現れた。