c3 深掘り
【chapter.03 深掘り】
会いたいと思うとすぐに会えてしまうのも悲しい。
それでもモリランドロップとは何かの波長が合っている気がする。
会いたいと思ったら、会えたのだ。
「今度こそ死んでたの」
数日前、2人でうんこ座りしながら会話した公園でモリランドロップは倒れていた。
うまい具合にパンツが隠れている。
「うん、死んだ」
「学校来ないの」
「今日は行かない」
「もう放課後だよ」
私は部活が怠くて逃げる様に帰るところだった。
もしかして、と思ってこの公園に来たら、この死にかけウサギがいたのだ。
「明日は?」
「やる気あったら行く」
「一緒に行く?」
「不登校児みたいだからやだ」
「へぇ」
どこからどう見ても不登校児のくせに、不登校児らしく扱われるのは嫌らしい。
「ミヨリカメは学校楽しい?」
「全然」
「じゃあなんで行くの」
「義務教育だから」
日本国憲法26条その2だった気がする。
私も学校が行くのが嫌すぎて調べた。
「それが理由?」
「本当はお父さんに怒られたくないだけ」
「お父さんいるだけいいじゃん」
「いないの」
「死んだ」
「へぇ」
「驚かないの?」
「驚いてほしい?わぁっ!」
「ミヨリカメってヘンなの」
「モリランドロップ程じゃない」
「お腹すいた」
「土食べよ」
「おかし食べたい」
「じゃあ駄菓子屋行く?」
「学校の人いたら嫌」
「じゃあ私買ってくるから」
「友達をパシらせるのも嫌」
「パシる?」
「使うって事」
「じゃあ行こうよ」
「無理」
「じゃあウチくる?」
「えー」
「大丈夫。両親ともに社畜だから直ぐに帰ってこない」
ー
こうして私はモリランドロップを家に招いた。
私が友達を部屋に招くのは小学6年生以来だ。
「なんか思ってた部屋と違う」
モリランドロップは私の部屋を見ていう。私の部屋はモノトーン調で統一している。
これはちょっとだけ拘りの空間だった。
小学生までの私はちゃおやりぼんみたいな部屋だったけど、親に頼み込んでそれを卒業して意識高い系の部屋にしたのだ。
「私ってどんなイメージ?」
「カワイイ系」
「そう?」
「ミヨリカメってカワイイよね」
「モリランドロップは美女って感じ」
私たちは女同士のお世辞とかじゃなくて、本音を言い合っていた。
私はネイマールに告白されるレベルの容姿だし、そんな私が褒めるモリランドロップは更にレベルが高い。
私達は見た目ではハイレベルだけど、間違いなく私よりモリランドロップの方が上だ。
「なにする」
「何もないじゃん」
「紙とペンならあるよ」
「漫画でも描く?」
「下手だから無理」
「とりあえずウンチ書こ」
「そうだね」
私はこの前道端に落ちてたものを、モリランドロップはソフトクリーム上部の形のウンチを書いた。
この差が容姿の差なのかもしれない。
「ミヨリカメの汚い」
「この前道端に落ちてたやつ」
「よく覚えてたね」
「そういえば、なんであの日死んでたの」
「学校行きたくなくなったから」
「へぇ」
「もっと深掘りしていいよ」
「なんで不登校なの?」
「お父さんが死んでるから」
「へぇ」
「もっと掘ってよ」
「お父さんが死ぬと、不登校になるの?」
「ならないよ」
「じゃあ、なぜに?」
「お母さんが私を必要とするから」
「ふーん。よく分かんない」
「分からない方がいいかも」
「じゃあ辞めとこうかな」
深掘りしていいよ、の台詞は出てこなかった。その日、結局モリランドロップの不登校の理由が分からずじまいだった。
社畜が帰って来る時間である事を知らせると、モリランドロップは帰ると言い出して直ぐに部屋を出た。
帰り際のエレベーター待ち。
「また遊ぼ」
「うん」
私は嬉しかった。さっき公園で、モリランドロップがさらっと私のことを友達って言ってくれたからだ。
なんだか恥ずかしいから、私はそれを深掘りしない。
きっと言わなくたってわかり合っているからだ。