c12 ほら
【chapter.12 ほら】
「お前さ、最近いつもここにいるよな」
朝、私が校門で立っているとネイマールが話しかけてきた。
「ちょっとね」
「よく分かんねーなお前」
そう言って去っていく。
「ミヨリカメ発見!」
「今日もいた!」
いつの間にか、私は西門の門番みたいな扱いをされていた。確かにそうだ。
今日はモリランドロップが学校に行くと宣言した日。いつも以上に早くここに立っている。あの子がいつ来るのか分からない。
だんだんと人が減り、本来私が登校するギリギリの時間帯になった。もう生徒はいない。少し前に出て、道路を見てみる。左右に首を振って、見通してみる。モリランドロップの姿は見えない。
ホームルーム始めますよのチャイムが鳴る。いつもならこの時に諦めて校舎に向かうけど、私は待ってみた。
私にはモリランドロップがどんな思いをして学校に行こうとしてるのかは分からない。家庭の事情だって正直何もわからない。わからない事だらけ。でも分かるのは、今日、あのウサギは間違いなくきてくれるって事。
ほら。
美人なのに不恰好な感じで走ってきた。
私は手を振ってみる。
モリランドロップも手を振りながら走ってきた。
少しずつ近づいてくる。
「遅刻しちゃうよ!」
「死にそう」息を切らしながら喋るモリランドロップ。
遠くからモブの声が聞こえる。振り向くと、校舎から私をクラスメートが見ていた。多数のモブが私達を見ている。
モリランドロップが来た!
「おはよ」
「肺やばい」
「チャイムなってる」
「ちょっと休憩しよ」
「早くいくよ」
いつもは遅刻していいと思ってた私。
今日はダメだ。ってかもう遅刻確定だけど。
「ほら」
そう言って、手を出す。
モリランドロップはそれに応える。
手を繋いで、校門を越える。それは不登校と登校の境界線だった。
「走ろう」
校舎まで少し距離がある。いつの日かみたいに、私が手をとって、牽引する。走る。
校舎に目をやる。みんな見てる。
「誰それ!」窓から顔を出したモブが聞いてきた。
「モリランドロップ!」
「転校生?」
「都市伝説の女」
「は?」
下駄箱までもうすぐ。
誰かが指をさして言ってる。
「ミヨリカメとモリランドロップだってさ」
ーおわり。