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死神の電話ボックス  作者: howari
8/8

ウェディング・ベル last

「えっ?死神さん?」



「本当に最後なんです。だから、ちゃんと彼に会った方がいい」



彼女と2人で空へ舞い上がる。今までの景色が色鮮やかに目に映る。彼女の目が煌めいているのは、彼に会いに行くからだ。それでもいいから、この時間が永遠に続いて欲しいと思う。




……彼女にならあの力を使ってもいいとすら思う。




「やっぱり、あの場所に居た。初めてデートした公園。プロポーズもしてくれた思い出の場所」



降り立った彼女はベンチに座っている彼の元へ歩み寄った。彼はぼやっと空を眺めて脱力しているかの様だ。



「菜々子……どうして……うぅ……」


「ごめん、ごめんなさい!瞬くん……」



彼は左手の指輪に額を当て、声を殺して泣いている。彼が彼女の婚約者。背が高く優しそうな彼だ。彼女が事故に巻き込まれて亡くならなければ、3日後には結婚式を挙げていた2人。その先には幸せな未来があったはずなのに。




「幸せになろうって約束したのに……君が居ない世界でどう生きたらいい?なぁ、菜々子?」

 


「私もあなたと幸せになりたかった。どうして、あんな事故に……。死にたくなかったよ!死にたくない!瞬くんと離れるなんて嫌だよ」



彼女が彼に手を伸ばすと、彼がそれを引き寄せて、2人が抱き締め合っている様に見えた。

2人は愛し合っているだけなのに。ただそれだけなのに。俺はその光景を見ていられなかった。胸が、ナイフで抉られたかの様に痛い。

苦しい。これが……失恋の痛み?

  



彼女の為に、2人の為に、あの力を使いたい。



本当は神様に許可を得なきゃいけないが、きっとダメだと言われるのが目に見えている。

もう時間もない。

だったら……自分を犠牲にしても……

  



彼女が幸せになれるならそれでいい。




俺はその事を伝える為に、彼女に近寄った。



「あの、あなたを生き返らせる事は出来ないのですが、時間を1日だけ戻す事は出来ます」


「え?昨日に戻す事が出来るの?」


「はい」


「でもそんな事したら……」


「あなたが幸せになれるならいいんです」


「え?死神、さん?」



俺は彼女を抱き締めて力を込めた。

死神に心臓があるのかも分からない。

でも、こんなにも激しく動いている。

生きている心地を感じる。

君に会うまで恋なんて知らなかった。



ありがとう。

少しでも人間に近付けた事が嬉しい。 


きっといつも憧れていた。

限りある命を一生懸命に生きている人間に。

 


次、生まれ変わったなら人間になりたいな。




体から眩い光が放たれ、彼女を包み込む。


 


「菜々子さん、お幸せに……」



「ありがとう、ありがとう、死神さん……」




彼女の体は1日前へ。彼女の愛しい笑顔を見つめながら、俺の身体は美しい夕焼けに溶けて消えていった。




◇◇




俺には未練があった。



だから、魂だけがこの世を彷徨っていた。



彼女の幸せな姿をちゃんと見たい、見届けたいという未練。





純白のウェディングドレスを纏っている彼女。

隣にはタキシードを着ている彼。

2人は幸福の微笑みを交わし合う。

色とりどりの風船が舞い上がる空に、ウェディング・ベルが鳴り響く。

  



カラン

カラン

カラーン



 


「良かったね、2人共。ずっと、ずっとお幸せに……」





この仕事をしていて分かった事がある。

人間誰にも未練や後悔があるという事。

生きている間は大切な人に素直になれなかったりする。

人間はきっと不器用な生き物だ。

でも生きている今、隣にいる大切な人——恋人、妻、夫、子供、友達、両親などに、素直に気持ちを伝えてみたらどうだろう。


「愛してる」と抱きしめてみたらどうだろう。


少しでも未練が無くなるのかもしれない。


死んでしまってからでは遅い。


今、生きている君たちには未練を残して欲しくないと強く思う。


あの世へ逝った後も幸せに暮らせる様に、〝今〟を大切に生きよう。


過去や未来より、生きている〝今〟が何よりも大事なのだから——。


 



「さようなら」 




俺の魂はやっと昇っていく。

果てしなく続く、幸せの青い天空へと。


 



end☆彡



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