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死神の電話ボックス  作者: howari
6/8

ウェディング・ベル①

「ん?恋?」


「はい、レイ先輩が以前人間と恋に落ちたって聞いたもので。どういうものなのかと」


「シンから聞いたのか?」


「は、はい」


レイ先輩は腕組みをしながら一瞬考えた後、また口を開いた。


「ショウが恋に興味を持つ様になったんだな。そうだなーだいぶ昔の話だ。ちょうどこの仕事にも慣れてきた頃だったかな。迎えに行った死者の友達で、霊感が強かったからか俺の事が見えたんだ」


「恋に興味?お、俺はただ、気になっただけですよ……」


「そっか、ははは。俺はその彼女を見た時、心臓が早くなって体が熱を持った気がした。初めての感覚だったな。話している内に、ずっと一緒に居たいなってそう思う様になった。この感情が恋だって言う事を彼女は教えてくれたんだ。下界に降りる度に毎回会いに行って、会えるのが本当に嬉しかった。一緒に時間を過ごすのが幸せで、もっともっと一緒に居たいなって思えた」


「ずっと一緒に居たい?」


「あぁ、でも死神と人間の恋なんて神様は認めてくれず、これ以上会うな!会ったら消す!って言われたんだ。彼女は俺に生きていて欲しいって言ってくれた。もう会えなくても、生きていてくれればそれだけでいいよって。彼女も俺の事、本当に愛してくれていたんだ。悲しいけどそれから彼女とは二度と会っていない。元気にしてるだろうか?」


遠い目をして窓の外を見ているレイ先輩。

先輩はまだ彼女の事を?

死神と人間の恋か……人間同士はいいのに、どうして死神とはダメなんだろう。

分からない。

そんな事を思っているとまた電話が鳴り響いた。




「もしもし」


「井上菜々子、28歳、事故死。今すぐ迎えに行け。以上」


「はい、了解しました」


俺は切ないようなそんな悲しい気持ちのまま、この世へと降り立った。





高層ビルの下、アスファルトに倒れている2人。1人は制服を着ているので学生だろう。もう1人は私服で焦茶色の髪がサラサラと揺れている。2人共、頭から血を流しているから自殺か何かか?


近くに焦茶色の髪をした女性の後ろ姿を発見し、声を掛けようとした時「あなた死神さん?」と誰かの声が耳に届いた。




振り返ると人間の女の人が立っていた。




「え?あなた、俺が見えるんですか?」


「やっぱり死神さんね。私、霊感があってあなたの姿が見えるのよ。あの……レイっていう死神って知ってる?」

 

「は、はい!俺の先輩です!」


「そうなの?レイは今も元気かしら?」


まさか、この人ってレイ先輩が言っていた女の人?

 

「はい!元気で頑張ってます」


「そう、そっか。良かった……」 


彼女もレイ先輩と同じ様に遠い目をしていた。

この人もまだ先輩の事を忘れられていないのだろうか。


「あ、ごめんなさい!仕事中だったよね?じゃあ、私はこれで」


「ま、待って下さい!」


俺は急いでポケットから紙切れを出し、彼女へと渡した。


「この番号に電話してみて下さい。きっとレイ先輩に繋がるはずです」


「え?レイに?」


「はい、レイ先輩も喜んでくれるはずです」


「ありがとう!死神さん」


彼女は紙切れを胸に抱え、柔らかい顔で微笑んだ。


 


◇◇




あの世の電話ボックス。1台の電話が鳴り響き、レイが受話器を取る。



「もしもし」


「もしもし、レイ?」


「え、この声、まさか……沙耶香か?」


「うん、そう、沙耶香だよ」


「どうして?」


「あのね、あなたの後輩の死神くんが番号を教えてくれたんだよ。可愛い後輩ね」


「あ、ショウのやつが?本当にアイツはお節介なやつだな」


「レイ、元気してた?」


「うん、沙耶香は?」


「うん、私も元気だよ」


「ありがとな、沙耶香が生きて欲しいって言ったから今も生きていられる」


「私の方こそありがとう。あなたが私に自信くれたんだよ。私は私でいいんだって教えてくれたの。だからその後、自信を持って色々な事を頑張れたんだよ」


「俺が沙耶香の役に立てたなら良かった。あの後、幸せだったか?」


「うん。結婚もして、2人の子供のお母さんになったんだよ。今すごく幸せ」


「そっか、良かった……沙耶香が幸せで」



「……」


「……」


2人の間に沈黙が流れ、受話器からは沙耶香のすすり泣く音が響く。



「じゃあね、レイ、元気でね」


「うん、沙耶香も元気で」




ピーピーピー……





受話器を置いたレイの目からは、生温かい涙が零れ落ちていた。レイはしばらくの間、ボックスの中で泣いて動けなかった。



「ショウ、ありがとな」




◇◇




レイ先輩あの人と話せたかな。

さぁ、今日も仕事しなきゃ。

俺は焦茶色の髪の背中に近付いて、声を掛けた。



振り向いたその彼女を見た時、心臓が大きな音をたてて動いた感覚がした。




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