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死神の電話ボックス  作者: howari
2/8

埃被ったカメラ

「谷本光子、76歳、交通事故死。今すぐ迎えに行け。以上」


死者の知らせだ。良かった、天国からの様だ。


「はい、了解しました」



俺はふわっと消え、この世へと降りて行った。





降り立った場所は灰色の道路。


血塗れのおばあさんがうつ伏せで倒れている。


近くには同じ白髪のおばあさんが、目を丸くしてボーっと立っている。

その人に声を掛けて、あの世へ連れていかないといけない。制限時間は24時間だ。それまでに連れて行かないと、成仏出来ずにこの世を彷徨い続けてしまう。それは避けなければいけない。



「あの、谷本光子さんですか?」


「え……あなたは?」


「俺は死神です。あなたを迎えに来ました」


「死神さん?という事は私は死んでしまったのかしら?」


「はい、残念ながら」


「そうですか……」



悲しげな目をして、死んだ自分の姿を見ている。みんな、自分の死をなかなか受け止められない。暴れて「逝きたくない」と叫ぶ人もたくさん居る。でも、死んだものはどうしようも出来ないのだ、連れていくしかない。



「さぁ、一緒にあの世へと逝きましょう」


「あ、あのね、死ぬ事はいいんだけどね、あの人の事が心配なのよ」


「あの人?」


「私の夫の敏夫さん。一人じゃなんにも出来ないのよ。それが心配なの」


「24時間以内に逝かないと成仏出来ないので、もし未練があればそれまでに済ませて下さい」


「24時間以内ね、ありがとう、死神さん」


おばあさんはにっこりと微笑んで、自分の家へと戻りたいと言った。




「私は玄関に居ますので、早めに済ませて下さいね」


「はい、ありがとう」



おばあさんは紙にペンで何かを書いている様だ。おじいさんは連絡を受けて、病院に行っているのだろうか。居ないみたいだ。片付けもしてあって、綺麗に掃除もしてある暖かな家。

毎日、きちんと家事をしていたのだろう。おばあさんが突然亡くなってしまって、この家は汚くなってしまうんだろうな。おじいさんが一人になってしまって。



「死神さん、もう大丈夫です。あの人には会わなくていいですよ。泣いてる姿なんて見たくないから」


「はい、分かりました。では逝きましょう」




一緒に天を登りながら、空を飛んでいく。


他の先輩たちに「死者と深く関わるな」と言われてしまうが、どうしてもその未練とかが気になってしまう。それは俺の悪い癖だ。


でも、やっぱり知りたい。



「あの、さっき何を書いてたんですか?」


「あの紙?あの人ね、本当に何んも出来ないのよ。ゴミ捨ても、料理も掃除も。私たちは子供が居なくてね、あの人の世話してくれる人なんて居ないのよ。家政婦なんてたぶん無理だしね。だから、あの紙にゴミ捨ての仕方から、簡単な料理のレシピ、掃除の仕方などを書いたのよ」


「そっか、それを見れば一人でも……」


「そうね、当分は酒を飲み散らかすと思うけど。一人で出来るようになって欲しいわね」


おばあさんは遠い目をしているが、とても幸せに満ちた目をしていた。おじいさんの事を本当に愛していたんだと思った。





電話ボックスに着き、最後にこちらから天国に連絡をすれば任務完了だ。


でも死者は、最後に誰かに連絡する事が出来る。この電話ボックスから。

制限時間は5分。


俺はその事をおばあさんに伝えた。


「最後に?やっぱりおじいさんが心配だから、電話しようかしらね。書き忘れた事も思い出したしね」


そう言っておばあさんは電話ボックスへと入り、受話器を取った。




「……もしもし」


「あなた?私よ!」


「光子か?!どうして……死んでしまったんだ!わしはお前が居ないと生きていけない」


「ふふ、ごめんなさい。でも、あなたは生きてちょうだいね。私のメモ見たかしら?」


「あんなメモ見てもよく分からん!」


「あなたなら大丈夫よ。それとお酒はあまり飲まない様にね!身体に悪いから。あ、それと最後に。押し入れにね、あなたのカメラが入っているの」


「昔使っていたカメラか?」


「そう、あなたがカメラマンだった時の古いカメラよ。辞めてからずっと押し入れにしまってあったの。あなたはきっと私が居なくなったら、生きがいを無くしてしまうと思うの。でもカメラがあれば大丈夫。またカメラ始めてみたらどうかしら?あなたの写真、私は大好きよ」





ピーピーピー……



そこで二人の電話は途絶えた。



おばあさんは涙を流しながら、ボックスから出てきて「ありがとう」と優しく呟いた。



俺は受話器を握り、天国へと連絡をする。


そしておばあさんは、天国へと旅立って行った。





別の日にこの世へと降りた時、カメラを構えた70代ぐらいのおじいさんが公園にいるのを見つけた。花を見ながらシャッターを押している。


その顔はとても生き生きしていた様に見え、俺は胸が温かくなった。



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