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気がついたらスライムになってたw

 俺自身が人間でないと自覚したのは割とすぐの事だった。

 最初に違和感を感じたのは視線の低さだ。

 昨日までの俺の視線だったなら普通に見下ろしてたであろう草の群れが、今では目の前に飛び込んできてるからだ。

 思わず目の前の草を払い除けようとしてそこでまたしても違和感に気付いた。

 手の感覚がない。それに足の感覚もない。

 まさか手足を切り取られて山奥に放置されたとか?


 思わず身震いした俺だったが特に体に痛みとかはなかったのでそれはないと察して安堵した。

 しかし手足がないとは不便極まりない事だ。

 これから先の生活どないせぇっちゅうねん!


 一人でツッコミするのも虚しくなったので辺りを見回してみた。

 目に飛び込んでくるのは天然自然な光景ばかりで、文明の色は全く見られなかった。

 この事から此処は相当人の手の届かない山奥なのだろう事は理解できた。

 それでだ、俺の手足がないのは何故だ?

 そしてなんで手足をなくしたのに痛みがないんだ?


 疑念が尽きないが此処で悩んでても仕方がない。

 とりあえずなんとか移動を試みることにしてみた。


(おやっ?)


 不思議な事に移動する事になんの不自由さを感じない。寧ろ手足があった頃よりも移動しやすい感じがした。

 益々分からなくなってきた。一体何がどうなっているのか?

 それにしても目の前の草が邪魔だな。

 良い加減うざったくなってきたので払い除けようとして、目の前に映ったそれに俺は仰天した。


「ピギッ!」


 驚いて声を出してしまった。

 何しろ目の前に現れたのがゼリー状況のうねうねと動き回るきみ悪い物体だったんだもん。

 そりゃ叫ぶわ。

 しかしなんだこれ?

 まさかと思い目の前のそれを動かしてみると、動かした通りにそれが動いた。

 その形状を見て俺は察した。


 うん、俺人間じゃないわ・・・と。


 そうと分かれば話は早い。まずはこの体でなにが出来るのか調べないと。

 今の俺は生まれたての赤ん坊➕育児放棄されてる真っ最中な訳だ。

 下手すりゃ詰むなこりゃ。

 まずは視覚なんだが、最初は人の感覚で見ていたので前方しか見えなかったのだが、意識してみると前後左右から上下まで全て見られることがわかった。

 何これ!視覚に死角なしとかどんなチートだよ。


 他の感覚も問題ないどころか人間だった頃よりも更に鋭くなってる事に驚いた。

 聴覚も凄くなってた。

 周囲の音をかなり広範囲で拾ってくれるだけでなく、集中すれば聴きたい音だけを拾ってくれるとかまじ便利。


 味覚の方は残念ながら鈍いみたいだ。

 試しに目の前の草や土とかを取り込んでみたのだが一切味がしなかった。

 まぁ、別にいいけどね。

 今度は例のうねうねを動かしてみた。

 試しに何本出せるのか挑戦したところ、制限は特にないらしくいくらでも出せた。

 流石に100近く出した時点で今の自分の姿を想像して慌てて引っ込めた。

 流石にトラウマすぎる。もし人間の頃の俺が見つけてたら間違いなく逃げる。もしくは棒か何かで叩き潰す。


 気を取り直して今度は力がどれくらいあるのか試してみた。

 目の前の草とかは問題なく引っこ抜けたが、流石に木とかになると無理みたいだ。

 そこまで便利でもないか。

 以上のことを踏まえて分かったのは・・・

 

どうやら俺はスライムになってしまったようだ。


 スライムと言うと良くRPGとかに出てくるお馴染みのモンスターだ。

 作品によっては序盤に登場する雑魚モンスターだったり、はたまたトラウマ級の強豪モンスターだったりとブレの激しい事で割と有名なモンスターの事だ。


 一応俺もRPGの類はやってた記憶がある。

 その時も結構ぶれまくってたな。


 問題はこの世界のスライムがどれ程の存在なのか分からない事だ。

 もし雑魚モンスターだった場合かなり厳しい事になる。

 何しろ人間からも狙われるし他のモンスターからも狙われる訳だ。

 

 そう思っていた矢先に、俺の感覚器官が近くで動く何かを察知した。

 こういう時スライムって便利だな。なんて感心してる場合じゃない。


 気配の近くに寄ってみると、其処には一頭の虎らしきモンスターがいた。

 まぁ虎と言ってしまったが口から生えた二本の大きな牙を見るにどちらかと言うとサーベルタイガーの方がしっくりくると言うか。

 まぁとにかくそんなモンスターが目の前にはいた。

 んで、そのサーベルタイガーの足下には、一匹のスライムが捕まっていた。


(あ、同胞)


 同じスライム。だが別に助けたいなんて感情は別に湧かなかった。

 スライムは群れを作る習性がない為単独行動をする傾向でもあるのだろうか。

 まぁ俺個人としては赤の他人。いや、赤の他スライムの為に危険を犯す気はない。

 あそこで奴に捕まったのはあのスライムの落ち度だ。

 つまりあいつが悪い。なので俺が助ける道理は全くない。


 そうして傍観していると、サーベルタイガーは捕まえたスライムを吸い取る感じで一気に飲み干してしまった。

 食べ終わった後口周りを舐め回す顔がどことなく満足気に見えた。

 

 わかるわかる。ゼリー状の飲み物って喉越し良いもんね。

 

 じゃなくて!

 

 どうやら俺たちスライムはこの世界ではかなりカーストが低いことが分かった。

 最悪食物連鎖の最弱位に位置してるかもしれない。

 

(とは言え、このまま隠れて生きるってのも息が詰まるな。何かないかな?)


 目の前にいるサーベルタイガーに対する対策を俺は思案していた。

 まず物理で倒すというのは速攻で却下された。

 この体はそれほど力が強くない。まともにやり合えば即負けになる。


 ならば背後から奇襲は?


 と、考えたがこれもダメだった。

 そもそもスライムの動きは遅い。

 奇襲する前に気付かれるのがオチだ。

 

 良い答えが浮かばず悩んでいた俺だったが、ふと閃いた。

 よくよく考えてみれば今の俺はスライム。つまりゲル状の魔物という事になる。

 ならばこの体を生かして戦えばいけるのではないだろうか?


***


 その日、俺は地面を飛び回る虫を追いかけていた。

 無防備に、そして無警戒にそれを追いかけていた。

 するとそんな隙だらけの俺を見つけてサーベルタイガーが俺を押さえつけて来た。

 

「ピギッ!ピギィィィーーー!!」


 悲鳴を上げて逃げようとするもサーベルタイガーの力の方が強いらしく全く逃げられない。

 そして、以前目の当たりにしたのと同じように俺の体を吸いながら食い始めた。


「ピギッピギィィッ!」


 悲鳴を上げるも虚しく、オレはサーベルタイガーの胃袋の中へと落ちていってしまった。


 残念、オレの冒険はこれで終了となってしまった・・・


 なんて事はない。


 オレが食われたのはワザとだ。

 奴はオレを食って満足してるようだがそれこそ間違い。

 

 他のスライムは食われれば何もせず溶かされておしまいなのだろうが俺は胃袋に落ちた途端に体から強力な消化液を分泌した。

 サーベルタイガーの胃液がオレの体を溶かそうとしてくる。その前に消化液を出して体内から奴を食い尽くしてやる!


 異変に気づいたのかサーベルタイガーが暴れ出した。

 しかしオレ自身も結構やばい。既にかなり奴の胃液に溶かされて来てる。

 早く勝負をつけないと奴の栄養になっちまう!

 焦っていた俺だったが、どうやらその前にやっこさんが限界だったようだ。

 

 さっきまで激しく暴れまわっていたそいつは突然倒れ込み動かなくなってしまった。

 これ幸いにと俺はありったけの消化液を吐き出し周りの肉を溶かし切った。

 勿論奴の胃液も俺の消化液で分解済みだ。

 さてと、この後は溶けて液状になったこいつを俺の体内に取り込んでみた。

 

 なんとも面倒臭い食べ方だが、やっと正面からやりあうなど御免被る。

 卑怯?卑劣?なんとでも言え!こちとら命賭けとんじゃい!


 全てを吸い尽くした後に残ったのはサーベルタイガーの皮と骨だけだった。

 食事を終えた俺は奴の口から悠々と這い出した。

 勝利の余韻と不思議な満足感に俺は出るはずもないゲップを出した気分になった。

 

(この姿になってから空腹とか感じなかったが満足感は得られるみたいだな)


 振り返った俺は残骸となったサーベルタイガーの亡骸を見た。

 既に栄養はあらかた吸い尽くしてしまった為に今のこいつにはさして価値がない。

 人間だったなら毛皮なり牙なり売って金に変えただろうが今の俺はスライムに過ぎない。

 別に金なんぞなくてもやっていける訳だしこのまま放置しててもいいか。

 持って帰っても邪魔になるだけだし。


 そんな訳で残った皮と骨を放置して次なる獲物を探しに森の中へと俺は入っていった。

 しかし、探しても探してもさっきのサーベルタイガーみたいな大物は中々現れないみたいで、出てくるのと言えば群れを逸れたオオカミとかゴブリンとこばかりだった。

 勿論見つけた奴らは手当たり次第に食い尽くしたが。


(意外とスライムってのも悪くないな)


 既に何匹目かも忘れたオオカミの亡骸をその辺に放り捨てながら俺は思った。

 最初のサーベルタイガーみたいな奴に比べてオオカミやゴブリンなんてのは正直肩透かし並みに楽に狩れた。


 何しろあいつら腕っ節も奴以下だし足も遅い。おまけにこちらが奇襲したらさしたる抵抗もせずに喰われてしまうので楽なもんだ。

 

 こんだけ高性能なのに何故スライムが食物連鎖の最下位なのだろうか?


 考えられるとすれば大抵のスライムが皆単細胞なのだろう。

 本能に忠実で目の前の獲物に固執する余り周りへの注意に回す知能がなく、結果的に喰われてしまう。

 そんなとこなのだろうか。それに比べて今の俺は人間だった頃の知識がある為戦略的にこのスライムボディを使うことが出来る訳だな。


 あれ?そもそもおれの前世は人間だったのか?

 何というか前世のことを思い出そうとしてもそこだけ記憶が抜け落ちてるみたいでよく分からないんどよなぁ。

 まぁなくて困るわけでもないし、別に良いんだけどね。

 それよりも今の俺はこのスライムボディをもっと使いこなしたいと言う欲求に満ち溢れていた。

 ゲームだと体当たりとか酸吐きくらいしかしてこないけれどもそれはゲームでの話。

 ここは現実、ならば決まった姿のないゲル状のスライムの可能性は無限大とも言えた。


 それから俺は試しに狩の方法を色々模索してみる事にした。

 木の上から獲物を待ち伏せて、やって来た獲物の首にうねうねを巻き付けて首の骨を折ったり。

 うねうねの先端を針みたいに細めて獲物に突き刺して其処から消化液を流し込んでみたり。

 他には先の虎もどきの時と同じようにわざと食われて腹の中で全身のうねうねを鋭利な針状にして無数に伸ばして体内から串刺しにしてみたりしていた。


 そんな感じで生き物を狩りまくっていたせいか、気がつくと辺りから生き物の気配がしなくなっていた。

 しまった!流石に狩りすぎたか。


 スライムボディが面白くてついついハンティングにのめり込みすぎてしまっていた。

 生態系を壊しちゃいけないな。

 反省せねば。


 まぁ反省したところで結局獲物を探しに行く事にかわりはないんだけどな。

 しかしただ獲物を待ち伏せて狩るってのもきまいち芸がないな。

 いちゲーマーとしてはもっとこだわった狩りをしてみたいもんだ。

そう思いながら辺りを散策してると、都合よく一匹のゴブリンを発見できた。

 早速狩ろうと思ったが、其処で俺はまたある事に閃いた。

 まずはゴブリンの死角へと移動する。

 こういう時スライムの軟体ボディは役に立つ。

 物音ひとつ立てずに素早く移動出来るからだ。

 そして、ゴブリンの背後に周り、うねうねを伸ばして、先端を鋭利なトゲ状に変えた後、それを奴の後頭部目掛けて突き刺した。

 刺さった直後にゴブリンが奇声を挙げたが一切無視。

 まずはゴブリンの脳だけを溶かして食らった。その後に空っぽになったゴブリンの頭の中に俺の体の一部を流し込んだ。

 そう、俺が思いついたのは寄生という奴だ。

 よく昆虫の世界などで見られる行為だが今回俺がとったのも正にそれだった訳だ。

 頭の中いっぱいに俺の体を流し込んだ後にうねうねを頭から外して、寄生したゴブリンの反応を待った。

 すると、少し経ってから目の前のゴブリンが突如体を痙攣させた後に、手足を数度ほど動かして動作確認した後に俺の方を向いて来た。


「どうやら成功してみたいだな」


(そのようだな)


 寄生した俺はゴブリンの声帯を使って俺に発して来た。

 俺はというとスライムなので声帯はないが俺同士なので意志の疎通は可能だ。

 ふむふむ、寄生は成功したみたいだな。

 しかし、これは何度も出来る奴じゃないな。

 今回寄生を行なって分かった事なんだが、寄生の際に自身の体の一部を流しこまないといけないのだがこれが結構大変だ。

 今回はゴブリンなのでさほど問題はないのだが、これが大型モンスターとかになったら最悪俺の体全部でも足りなそうだ。


(まぁ、その手の問題は追々片付けるとすればいいか)


「そうだな。それよりこの体を使って何をするつもりなんだ?」


(ふむ、今回はただ寄生が出来ないか実験してみただけなんだよな。それが成功したから次の実験をしてみたいんだ)


「次の実験と言うと?」


(折角ゴブリンの体を手に入れたんだ。ならばやる事と言ったら分かるだろ)


「当然だ。何しろ俺なんだからな」


 どうやら分裂した俺の方も俺がやりたい事を理解してくれたようだ。

 さてさて、これが上手くいけばきっと面白くなるぞ。今から笑いが止まらんな。ククク・・・


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