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五話 草刈り

 カマド作りは、粘土細工に似ている。

 そう、レチェルは思っていた。

 粘土遊びは子供のころから好きで、ちょっとした特技になっている。

 動物の形をした素焼きを作って、弟や妹のおもちゃにしたりしたものだった。

 大きさこそ全く違うものの、かまどを作るのはその何倍も簡単だ。

 まず、大きめの石を輪のように置いていく。

 この時、使う鍋よりも一回りほど大きく並べなければならない。

 並べ終えたら、隙間を粘土で埋めていく。

 水を加えてよく練ったもので、空気がなるだけはいらないように気を付けながら詰める。

 この時、輪の一か所を欠けさせておかなければならない。

 粘土で固め終えたら、その上にさらに石を並べていく。

 並べ終えたら、粘土で固める。

 それを、何度か繰り返していく。

 ある程度の高さになったところで、徐々に上の輪を小さくする。

 小さく作る輪には、切れ目は作らない。

 輪の一部は切れ目の上、何もない場所に作らなくてはならなくなる。

 だが、粘土は意外と粘り強く、そう難しい作業ではない。

 レチェルも最初のころこそ手間取りもしたが、今では慣れたものである。

 どんどん輪を狭めていき、穴が鍋が下に落ちない程度の大きさになったら、おおよその形の出来上がり。

 雪で作るカマクラの、上の部分に穴が開いた様な形である。

 この外側に、さらに粘土を塗る。

 それほど厚みを持たせる必要はないので、石の凸凹が目立たない程度に盛っていく。

 全体に塗り終えたら、木の棒で作った簡易なヘラで表面を平らにする。

 といっても、このカマドは応急的なものなので、それほど見た目は気にしない。

 大雑把に仕上げたところで、後は乾燥するのを待つ。

 明日の昼ぐらいには、程よく乾いていることだろう。

 火を入れてみて、問題が無ければ完成だ。

 上手く熱を閉じ込めて、効率よく鍋に熱を伝えてくれることだろう。

 輪の欠けた部分は、そのまま燃料を入れるための焚口になっている。

 少し小さかっただろうか、いや、その方が中に熱がこもりやすいはず、などと考えながら、レチェルはじっと焚口を見据えた。

 そこで、はっと肝心なことを忘れているのに気が付く。

 焚口の反対側に、小さな穴をあけておくのを忘れたのだ。

 燃焼効率をよくするためのもので、空気を通り抜けさせるためのものである。

 本当なら、輪を積み上げる時に、木の枝を刺しておくはずだった。

 あとからそれを引っこ抜けば、簡単に空気穴が完成するわけだ。

 火が燃えるためには、当然、新鮮な空気が必要で、空気穴は重要なものである。

 それを忘れてしまったというのは、なんともそそっかしい。

 レチェルは案外こういうことが多く、クランスにも笑われたりする。

 さて、失敗を挽回する方法を考えなければならない。

 あれこれ考えて、解決策を思いついた。

 まず、拾ってきた木の枝を削り、尖らせる。

 それを、かまどの適当な場所に突き刺す。

 貫通したら、それをぐりぐりと動かして、穴を広げていく。

 ある程度の大きさになったら、完成だ。

 クランスがこれを見たら、きっと苦笑するだろう。

 そうでなくても、こんな方法を見られるのは、ちょっと恥ずかしかった。

 以前、かまどの作り方について話した時、ありがちな失敗の例として、まさに穴のつくり忘れを上げていたからだ。

 やってしまいがちだから気を付けなければならない、と言っていたことを、自分でやってしまう。

 中々に、恥ずかしいことである。

 とにかく。

 これで、後は明日の昼頃まで置いておけばいい。

 ユカシタ広場から出て空を見上げると、だいぶ太陽が高くなってている。

 少し急いだほうがいいかもしれない。

 きっと、美味しいといわせてみせよう。

 レチェルは気合を入れるように、握りこぶしを作った。




 家を建てるには、素材集めが重要だ。

 丈夫な木の枝、イイグサ、タイラクサ、粘土。

 そのほか、こまごまとしたもの。

 どれもこれも、膨大な量が必要になる。

 大工ではない夫婦が建てるような簡易的なものでも、それは同じだ。

 ニワ草原には、イイグサとタイラクサが多く生えていた。

 どちらも家を作るのには、欠かせない素材である。

 クランスは朝からニワ草原に出て、それらの採集をしていた。

 草をかき分けていき、イイグサやタイラクサがあったら、それを刈り取っていく。

 何方も生命力の強い草なので、根元を掘り起こさなければまた生えてくる。

 いくらあっても困らない草だから、うっかり取り尽くしてしまうと大変だ。

 気を付けながら、集めていく。

 今日のクランスの仕事は、ひたすら草を集めることだ。

 大変だが、家を建てるためには必須のことでもある。

 助かるのは、ユカシタ広場から池まで続く道があることだ。

 脇には鬱蒼と草が生えているので、道を歩きながら探せば、意外と簡単に目当てのものを見つけることができる。

 ずっと草をかき分け続けるのと比べれば、雲泥の差だ。

 ただ、道の近くに生えてるものを粗方刈ってしまったら、本格的にニワ草原へ分け入ることになる。

 中々に苦労しそうだが、少し楽しみでもあった。

 草原にどんな植物があるのか、直接見ることができるからだ。

 エルフニンニクやノビル以外にも、食べられるものがあるかもしれない。

 そうなったら、随分食卓が豊かになる。

 村の特産物にできるものが、見つかることだってあるだろう。

 それも楽しみだが、今はイイグサとタイラクサの刈り取りが重要だ。

 単純な作業だが、あれこれと想像を巡らせることができる。

 嫌う人も多いのだが、クランスはこういった作業が好きだった。

 黙々と作業をしていると、レチェルの声が聞こえてくる。

 どうやら、食事ができたようだ。

 空を見上げると、太陽が高い位置にあるのがわかる。

 恐らく、一番高い位置なのだろう。

 まだ作業を始めたばかりのような気がしていたが、どうやらずいぶん時間が経っていたようだ。

 今日はどんなものを用意してくれたのだろう。

 クランスは鉈をしまうと、刈り取った草を担いで歩き出した。




 三本の真っ直ぐな木の枝を束ねて、先端近くを縛る。

 その反対側を開くようにして、地面へ置く。

 すると、三角錐のような形になる。

 あまり広がりすぎると倒れてしまうので、棒同士も縛っておく。

 これを何組か作って、ニワ草原から小屋に上がる階段の上に、いくつか並べる。

 その間を渡すように木の枝をのせれば、草干し台の完成だ。

 加工を終えたイイグサやタイラクサを縛り、草干し台の上にかけていく。

 幾らか束にして先端を縛り、挟み込むようにしてかける。

 こうすると、風通しが良くなって、乾くのがずいぶん早くなるのだ。

 わざわざ階段の上に作ったのは、ユカシタ広場では日が当たらないからである。

 イイグサとタイラクサは、天日干しにした方がしっかりと乾く。

 それに、日の光を当ててやると丈夫になるし、香りもよくなると、良いことづくめ。

 階段を上り下りする手間はかかるが、こればっかりは仕方ない。

 どんなにいい広場にも、一長一短があるのだ。


「将来洗濯物を干すのが、大変そうだね」


「んー、干し場を作ったほうがいいかも」


「人がいっぱい来て、大工さんが来てくれたら、すぐに作ってもらわないと」


「うん。洗濯場は使いやすい方がいいしね」


 レチェルの作った昼食を食べながら、あれこれと村の未来を想像する。

 口に出すのは、どれもこれも明るい未来ばかりだ。

 もちろん、辛いこともあるだろう。

 だが、きっとお互いが居れば、乗り越えることができる。

 夫婦はどちらも、そう信じていた。


「そのためには、まずはたくさんイイグサとタイラクサを集めないとね」


「しばらくは、刈り取り作業ばっかりになるかなぁ」


「いい村を作るための苦労だね」


「その間に、少しは楽しみもないと。後で、池からタニシをとってこようか。どんな味なのか、村民が増える前に二人で試してみないと」


「いいかもっ! ついでに、タテガニも獲ってきて!」


「それは難しいかもなぁ」


 タテガニはすぐに水の深い場所に逃げ込むので、捕まえるのが大変なのだ。

 道具や技術がある漁師でもないと、捕まえるのは難しいのである。


 夫婦はイイグサやタイラクサを刈り取ってきては、加工して干すという作業を繰り返した。

 三日ほどそれを行って、ようやく当面必要であろう量の準備が終わる。

 やっと一息吐けると、ほっとしていた頃。

 ついに、最初の住民候補がやってきたのだった。

実に地味でなんでもない作業ですが、欠かすことのできないことだったりします

次回は、最初の村民候補がやってくるようです

どんな人物なのでしょうか

よろしかったら、お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[一言] うんうん。 読んで良かった満足。
[一言] グリとグラのイメージです。 子育てしているとよく読む絵本なんで。。。 パンケーキつくってほしい。。。
[一言] 僕の脳内だとマウスガードみたいな感じなんですけどあってますか?
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