ハローワーク
クリスマスか……うぅぅ。
朝起きてドアの近くに石のブロックがあるのに疑問を覚えたが、そういえば咲江さんが美咲さんの後頭部にブチ当てていたな。
生きているとは思うけど大丈夫かな。
あの強さって事は師団長だったりするのだろうか。
「美咲は師団長ではないわ。副官補佐ってところでしょうね」
食堂で一緒に朝ごはんを食べている途中に聞いてみた。
「美咲さんって相当強いですね?」
「えぇ。『強さ』だけなら師団長クラスの何人かには勝てないまでも、まぁまぁの戦いにはなるんじゃないかしら」
俺は師団長の強さの基準が師匠になってしまうが、そこまで隔絶した力の差があるとは思えないんだけどな。
「師団長には『強さ』以外の『何か』が必要だと言う事ですね?」
「そういう事よ」
そういえば師匠の専門は戦闘じゃなかった。
……勝てなかったけど。
それにしても昨日はそれほど意識していなかったけど食堂には人が結構いるんだな。
男女比は一人以外男。
そして唯一の女性が俺の目の前で一緒に朝食を食べている訳で、俺に向かって微弱な殺気が向けられているのは少々居心地が悪い。
咲江さんって美人だしな。
人気も高いんだろう。
ついでに胸も大きい。
「今日は組織としての働き方を教えるわ」
「よろしくお願いします」
今日も頑張っていきましょう。
「ここがハローワークよ」
「……看板にはギルドって書いてあるんですけど?」
「良いのよ」
「そうですか」
特に深い意味はないのだろうと興味もないのでスルーした。
師匠の元にいた時に身に着けた技術だ。
ハローワークの場所は住居階層の下の4階層エレベーター真ん前だった。
何でも入口に近い程簡単で奥に行けば行く程難しいとか。
「壁一面に張られているのが仕事の内容よ」
無造作に張られている。
普通の壁にテープで。
もっとマシな方法はなかったのか。
「仕事の量が量だけにこんな感じになったわ。これはこれで便利だから良いんじゃないかしら」
そんなものか。
「一階層の掃除で貢献ポイント1万P。初心者限定?」
「救済用の仕事よ。何度も受ける事は出来ないけど割高に設定されているわ」
「僕も受けられます?」
「アナタは無理よ」
そんなバカな!?
「そんな顔しないでよ。これは初心者用で君は弟子が終わって正団員になっているのよ」
正団員か。
良い響きだ。
「またの名をフリーター。ッフ」
この人は性格が悪い。
いや、素でこの性格なのか?
「僕はどこから仕事を見つけたら良いんですか? オススメとかあります?」
「そうね。……これとか?」
捕縛依頼だった。
内容はアンドロイド側の重要勢力の誰かを捕縛する事、貢献ポイントは1000万P+捕縛対象の重要度で更にプラスになるらしい。
どう見ても駆け出しの団員がやる仕事ではなさそうだが。
「冗談よ。フフフ」
「あははは」
この人の冗談は分からない。
愛想笑いをしておこう。
「アナタにはこれかしらね」
「荷物運び?」
手紙やら物資やらの運搬だった。
「この基地の構造を覚えるのに役に立つわ」
「ではこれにしましょう」
「あ、待って」
手に取ろうとしたら止められた。
「何ですか?」
「これ」
荷物を一式渡された。
どこに持ってたんだよ。
「団員に配られる物の一式よ。後、内弟子は準団員となる決まりがあるから年数に応じてお金が支払われるわ。それから……」
色々言われた。
何故今なのだろうか、という疑問はあったが重要性が高いと思われるので一生懸命聞いた。
配られた物は、
・団員用の服一式
・バッチ
・通帳&印鑑
・バック
・書類(分厚い)
だった。
団服はとてもカッコよかった。
「通帳に1000万以上入ってるんですけど、何かの間違いですか?」
「正常よ。準団員、つまり内弟子期間は月に15万の現金が『普通なら』支払われるから1年で180万。アナタは弟子の期間が6年だから1080万になるわけよ」
咲江さんが説明の途中で『普通』ならを強調したように聞こえたが気のせいだろう。
異常だったのは認めるけど。
「なるほど」
「団員は組織の社員になるから月に最低でも25万はもらえるわよ」
「え? じゃあこの貢献ポイントって何ですか?」
働く意味は?
「お金とは別のこの組織で使える通貨って感じかしらね」
「つまり僕はお金は持ってるけどポイントは全くないって事ですか?」
「そうよ」
今の時代でお金の価値などほとんどないしな。
「外で使うのがお金で中で使うのがポイントって覚えといた方が良いわ」
「良く分かりました」
衣食住の殆どが無料だから別に問題はないんだけどね。
「一応、仕事を受けましょうか。今回はこれで良いわ」
渡された紙は仕事依頼書だった。
内容は荷物の運搬。
美咲の荷物を指定された人物に持って行く。貢献ポイントはプライスです。
「はい。これが荷物ね」
そう言って渡されたのは師匠から渡された手紙だった。
「行くわよ」
すぐさま連れて行かれた。
なるほど、こういうやり方も出来るのか。
向かったのは地下10階。
ここが最下層かと聞いたが、まだ階層はあるようだ。
何階層あるんだよ。
「ここからの階層は特級階級の人達の住居とか仕事場よ」
「特級? 師団長クラスとかですか?」
「違うわ。その上よ」
上があるのか。
「ここが総帥の部屋。斎川 十門峪総帥よ」
俺の反応を見ずにノックする。
「誰だ」
「私」
「入れ」
すぐさまドアと開ける咲江さん。
入ってすぐに書類の山に埋もれていた老人がこの組織の総帥か。
筋肉隆々の禿げたオッサンが書類仕事をしている絵は違和感しかなかった。
「連れて来ました。彼が、呂玖島 石谷師団長の弟子の戸前 双葉くん」
「君がそうか」
彼が俺を見た瞬間にゾワリとした何かが身体を舐めた。
恐らくは総帥が何かしたのだろう。
「どういう事だ。お前は本当にアイツの弟子なのか?」
総帥は俺ではなく咲江さんに聞いた。
「確かに手紙を預かったわ。淡白な内容だったけど、師団長本人の印もあった」
「こいつ、双葉と言ったか?」
俺に話が振られた。
「はい」
「お前は《覚醒者》ではないな。何者だ」
速攻でバレたか。
新しい登場人物
・斎川 十門峪
総帥