出会い
見切り発車ですね。
よろしくお願いします。
寂れたと言うか最早廃れたって言った方が良いようなゴーストタウン。
一昔前は人で溢れていたのだろうと思える程に建物が多くあり、遠くを見るとマンションらしき残骸がある。
そんな場所を俺は歩いている。
何でこんな場所を歩いているかというと師匠に本部に行けと言われたからだ。
まぁあの師匠から晴れて自由を言い渡されたのだ。
何と素晴らしき日かな。
「ところで本部って本当にここなのかな? 人の気配どころか生き物の気配すらないんだけど」
師匠は適当だからな~。
本当にこの周辺か、はたまた別の場所なのか。
頼りの時計型羅針盤だが、壊れてしまったのかグルグルと回ってしまっている。
師匠作の物だからムラが多いんだよな。
時間も適当だし。
「はぁ~。今日もここで野宿かな」
あの師匠からは『行け』と言う言葉以外の物をもらっていない。
荷物は少なく所持金も少ない。
金が無ければ食べ物も買えない。
どっかで短期バイトとかやってないかな~。
そんな事を考えていると日が傾き、廃れた残骸の街は真っ赤に染まった。
建物の影の黒さと夕日の赤が互いの色をわき立たせている。
「綺麗な夕焼けだ」
こんな綺麗な夕焼けを背景に今晩の食事が干した魚ってのは逆に優雅なのでは? と自分を慰めたくもなる。
そして夕日が終わると夜が訪れて夜空に輝く星々が姿を現す。
表現としては零れ落ちてきそうで怖いくらい満天の星空と凡庸になってしまうが、とても綺麗だ。
「何度見ても綺麗だな~」
「そうね」
やはり誰が見てもそう思うんだな。
「え?」
「あ、ヤバ!」
人がいた?
少しだけその事に疑問を持ってしまい、行動が遅れてしまったがすぐさまその人を追った。
ボロボロの布で顔を覆っていたので顔は見えなかったが、声からして女性ではないだろうか。
女性が逃げてから俺が追うまでの時間は数秒程度だった。
声が聞こえた時に僕と彼女が離れていた距離は5メートル前後。
「足早いな~」
だと言うのに数秒の遅れで15メートルもの距離を離されてしまった。
彼女は俺を撒こうとした動きをし始める。
追われているのを分かっているって事だ。
何度も曲がったり痕跡を偽ったり中々に芸が細かい。
あえて距離を開けて気配を消しているのに良く分かるものだ。
「気配遮断と感知。後は無音移動に立体移動、基礎身体能力も高そうだな」
気配も足音もなく俺の近くにいた時点で分かってはいたけど、あの女性かなり強いな。
戦いになれば地の利が向こうにある分、こちらが不利か。
負けはしないとは思うけど敵対するのは僕の考えとは違う気がする。
仕方ない、向こうが話を聞くまで追い回すか。
「追いかけっことシャレこみますかね」
そうと決まれば着かず離れずの距離を保ちながら向こうが止まればこちらも止まって、早く移動したのならこっちも早く動く。
そんな事を8時間程度やった辺りで向こうが歩いて近づいてきた。
戦いになるかと少しだけ思ったが建物の影から出て来た彼女の雰囲気に闘志は見えなかった。
「はぁはぁはぁ……」
疲労感は見えていたが。
「私に何の用なのよ」
やっと話をする気になったか。
そう思って心の中でほくそ笑む僕がいた。
「初めまして。僕は戸前 双葉 と言います。夜中追い回してしまって申し訳ありませんでした」
「《適正者》が何の用なのよ」
《適正者》と言う言葉を知っているって事は関係者か?
「実は本部を探さしていまして」
「本部? 何のよ」
「え、えっと本部としか聞いてないんですよね」
そう言えば師匠は何の組織に所属していたんだっけ?
「はぁ? バカじゃないの」
仰る通りです。
「本部ってのは誰から聞いたのよ」
「僕の師匠です」
「名前は!」
「呂玖島 石谷です」
別名はゴミカスです。
「あ~。あのろくでなしね」
「ご存知でしたか……」
「えぇ……」
微妙な空気になってしまった。
あの師匠はいなくても害のある存在って事だな。
「まぁ良いわ。付いて来なさい」
「え?」
「案内してあげるって言ってるのよ」
「よろしくお願いします!」
ようやく目的地に到着できそうだ!
「えい!」
「へぇ?」
彼女に近づいた瞬間、俺は彼女に刺されて地面に伏した。
何で……。
「悪いわね。場所を知られる訳にはいかないのよ。我らは秘密結社なのだから」
身体が痺れて動かない。
何で……耐性はあるのに。
「この毒は耐性に耐性を持っているのよ。アナタなら分かるかしら?」
眠気が……。
「おやすみなさい。目が覚めた時には本部にいるわよ」
なら……良いか。
俺は目を閉じた。
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寝た?
本当に寝た?
寝たフリで実は起きてましたってオチはない?
「寝てる……。あ~よかった」
対《訪問者》に有効なこの薬は《覚醒者》にも有効って情報は間違いではなさそうね。
それにしても寝顔が可愛いわね。
襲ってしまっても良いだろうか?
良いよね?
「何やってんのよ」
「ひゃん!」
後ろから声がしてビックリして飛び上がってしまった。
「年下好きだったかしら? アナタ」
白衣を着こみながらマスクをした変態がそこにいた。
いや、知り合いだけど。
「うるさい。良いじゃない! 純真無垢な少年が恥ずかしがりながらも自分の身体がグフッ!」
「強制規制よ。早く回収班を呼んで救護しないと出血多量で死んじゃうわよ、その子」
レンガをぶつけるな。
痛いじゃない。
「大丈夫じゃない? 彼は《覚醒者》だしね」
「ふ~ん。一応、確認なのだけど毒は言った通り100倍に薄めて使用したのよね?」
「え? そのまま使ったけど?」
「原液を使ったの? マジで死ぬわよ」
「搬送班急いで!!」
貴重な戦力が死んでしまう!
読んで下さりありがとうございます。
現代未来×現在の有名都市伝説を合わせた作品を目指そうと思っています。