いへん
「と、とにかく、進むよ」
ミーレスを促して、ゲートキーパー退治だが・・・。
「『フラムマクリス』!」
接敵と同時に、炎の投げ槍が葉っぱを貫いて、一瞬で焼き尽くした。
いや、お強い!
アルターリアさんは本当に優秀。
おかげで楽ができる。
で。
「おお、来た!」
ちょっと嬉しくなった。
『レアドロップアイテム』は『柿』だったのだ。
元世界の実家では毎年秋には干し柿を作る。
柿の木があるわけではないので、わざわざ渋柿を買って、だ。
毎年50とか60キロは買うので、ついに去年、柿の苗木を買って家の裏に植えた。
・・・ようやく一メートルくらいになったところだったんだよなぁ。
こちらの世界で、初、持ち柿の採取になるかもな。
いくら魔法がかかっているとはいえ、今年中に実がなるってことはないだろうけど。
19階層。
ゴトン!
重そうな音とともに落ちてきたのは巨大な筒状のもの。
サンドバッグか?!
と思ったのだが・・・。
「夕顔か」
世間一般では、夕顔というとまん丸でかんぴょうの原料となるものを想像する人が多いらしいが、元世界のオレのいた地域だと長い筒状のものが産直とか無人販売で売られている。ホームセンターで苗も売られているし、オレの畑でも必ず三つは植えていたものだ。
放っておくと畑の外にまでツルをのばして、知らずにいる間に雑草に紛れてボコボコと実がなっていて驚かされる。
一度など、あまりに広がりすぎたので、少し切ろうかと端を探して蔓をたどったら途中に三個もなっていた。
一メートル台の長さで太さはミーレスの腰ほどのが、だ。とても食いきれないので、切って冷凍したがそれでも間に合わず近所に配って歩いたものだ。
あと、冬瓜と同一視する人がいるみたいだが、まったくの別物である。
同じウリ科ではあるんだけどね。
『ユウガオ』。
これは、登場の仕方が悪かった。
シャラーラさんからサンドバッグにされて、何もしないうちに魔素になってしまった。
あの状態から何をするつもりだったのだろうか?
「はいっす」
苗の入ったカプセルをシャラーラから受け取って覗き込む。
もしかしてっと考えたら、予想通りタグの中で『夕顔』が『ひょうたん』になった。種としては同一のものなのだ。
ひょうたんなんて育てたことないし、実がなっても使いどころに困るので『夕顔(長)』にしてリュックサックに入れた。
元世界の実家近くにある道の駅に行くと、透かし彫りにしてLEDライトを仕込んだインテリアが売られているが、あんな手の込んだ彫刻をする技術も時間もない。
夕顔の方がよかろう。
「うおっ!」
びっくりした。
カプセルをしまって、横を見たらアルターリアが細剣を振っていたのだ。
何事?
目を向けると・・・。
『ニンニンジン』がいた。
『ユウガオ』の巨体に隠れて、隠密裏に動いていたらしい。
命名はふざけているが、やはり魔物。
油断ならない。
「させねっす」
シャラーラの声。
振り向くと、赤紫のぶっといのが暴れていて、シャラーラと殴り合っていた。
『ボク・サツマ』。
僕、薩摩?
サツマイモだから?
それとも・・・撲殺魔か?
通り魔、とか放火魔、みたいに人を殴り殺して歩くということだろうか。
なんて恐ろしい。
恐ろしすぎる!
シャラーラさんが。
殴る、殴る。殴りまくりまくる。
相手には一度も反撃を許さずに封殺してくれた。
同時に、なんか哀しげに項垂れてる感じの植物が現れて、ミーレスに切り払われた。
『シュン・ギク』だ。
なんか、お皿を数えていてほしくなるな。
いや、そこはやはり愁いを帯びた着物美人でないと・・・。
などと考えながら歩いていると、長い直線の向うに葉っぱが浮いているのを発見した。
おいおい。
入ってきて20分。
さすがに早すぎだろう。
「ゲートキーパーですね」
反射的に否定しようとしたが、ミーレスに現実を突きつけられた。
間違いなくゲートキーパーのようだ。
攻略が進むのはいいが、いくらなんでも簡単すぎない・・・か?!
飛び退いた。
足元になんか違和感があったぞ?!
「ご主人様?!」
ミーレスがオレを振り返ったのと、オレの目の前に何かが現れたのが同時だった。
しかも。
「二体同時か?!」
なんかでかいシルエットが二つある。
『ゴボゴボウ』と『ナガイモン』。
どちらも地中の作物。
隠れてたってことか!?
地雷かよ?!
ツッコんでいる暇はない。
『大地の刃』を抜き放って斬りつけ・・・。
こん。
え?
殴りつけ・・・。
とん。
ん?
突きさした。
ぐに。
・・・あれ?
唖然とする。
オレの剣鉈が。
『エザフォス・クスィフォス』が・・・。
効かない?
ヴゥオン!
空気が押される音。
・・・やばい!
無意識に剣鉈で防御した。
ビシッ!
剣鉈の刀身にヒビが入ったのが目に入って、身体が浮いたのがわかった。
吹っ飛ばされる! と思った瞬間。
全身がヒンヤリとしたものに包まれた。
数秒の浮遊感のあと、身体が床に叩きつけられたようだ。ようだというのは、オレには何かふんわりとしたものの上に乗ったような感触しかなかったからだ。
「・・・そうか、ウンディーネか」
ぬるり、と滑るような動きを背中に感じて、正体が分かった。
アルターリアが、咄嗟にウンディーネで包んでくれたのだ。ウンディーネが緩衝材になって、衝撃を吸収してくれたのだと理解する。
「ありがとな」
オレの顔を覗き込むように隆起したもの。のっぺらぼうだが、確かに人の顔を形作ったらしい球体に向かって、お礼を言った。
ウンディーネも、少しレベルが上がったのかもしれない。
スライムみたいだったのが、ちょっとだけ形をとれるようになった感じがする。
「ご主人様!」
ミーレスが駆けつけてきた。
チラッと視線を向ければ、魔物はすでに魔素になっていて、カロンが降りてきていた。シャラーラとアル ターリアは周囲の警戒をしている。
「ご主人様、お怪我はありませんか?!」
泣きそうな顔で聞いてくるので、腕や足に少しずつ力を入れて立ち上がった。
ウンディーネがそっと身体から離れて、床に広がる。
万一、オレが倒れ込んだら受け止めるつもりなのだろう。
幸い、そんな必要はなかった。
怪我はなかったし、打ち身の一つもなかったからだ。
「ありがとな」
もう一度、礼を言って。
やはり頭のつもりらしく隆起している、球状のものを撫でてやった。
そんなオレとウンディーネを、ミーレスが微笑ましそうで羨ましそう、で心配そう。そんな顔で見ていた。
「大丈夫だ」
頷いて見せる。
「でも、少し油断したな」
それに・・・。
「なんか不調のようだ」
右手に握ったままの『エザフォス・クスィフォス』を見下ろしてみる。
ひび割れているせいか、どうも冴えない色をしている。
生気がない、とでも言えばいいだろうか。
武器なのに?
「もう少し進んで見たかったけど、あのゲートキーパーを倒したところでやめるとしよう。で、セブテントに行く」
ラリスのところを訪ねてみよう。
修理を頼んで、なにが悪くてひびが入ったのか聞かないといけない。
「わかりました」
そんなわけで、19階層のゲートキーパーは速攻。
射程内に入ると同時にアルターリアの魔法で片付けた。
遠目で見ただけなので、『ポトリエス・シネリア』という名前以外はほとんどわからない。たぶん、灰色カビ病だろうと思う。
『レアドロップアイテム』は『桃』だった。
18階層に抜けてからセブテントに飛ぶ。
目的地は、ラリスの工房だ。
セブテントの冒険者ギルドに出て、歩いた。
オレの脳内マップは街中ではあまり役に立たないが、一度行った場所を記憶することができるので、迷う心配はない。
そういう意味では、工房に直接飛ぶことも可能だが、さすがに人の家にいきなり入るわけにもいかないだろう。
人として。
目的地にはすぐにたどり着いた。
以前と同様、汚れてはいないが雑な感じの建物の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。
「おう、お主か」
出てきてくれないのではないかと不安だったのだが、シュミーロ・・・ユミーは出てきてくれた。
トロンとした目を向けてくる。
寝不足なのだろうか。
と、雰囲気が変わった。
ふわふわした感じのユミ―ではなく、怜悧なラリスの顔になっている。
殺意にも似た気配を纏った視線が、向けられてくる。
「・・・何をした?」
その視線はオレではなく、オレの腰に下がっている『大地の刃』に注がれている。鞘に収まっていても、状態がわかるらしい。
「いや・・・答えなくていい。とにかく工房に来い。状態を確認してからじっくり聞く」
明らかに被告を見る目で、オレを睨み付けたラリスが工房を指さした。
工房内の巨大なテーブルの真ん中に、『エザフォス・クスィフォス』が安置され、オレとラリスはテーブルを挟んで向かい合って座った。
椅子が二客しかないので、ミーレスたちはオレの後ろに並んで立っている。
「刀身に、ひびが入っておる。いったい何をしたのだ?」
ヒビの長さ深さ、形をじっくりと観察したあとで、ラリスが問いかけてくる。
オレは包み隠さず、その時の状況を説明した。
魔物の奇襲を受けて、『大地の刃』を抜いて攻撃。まったく役に立たず反撃を食らって、反射的に防御したら甲高い音とともにひびが入った、と。
「・・・ありえぬ!」
ラリスが吠えた。
すさまじい勢いで否定されたのだ。
「シュミーロの名で打った武器ならばともかく、ラリスの剣ぞ! しかも材質がグロマタイト。魔物との戦いごときでヒビなど入るものか!」
そう言われても、それが事実なのだからどうともいえない。
押し黙ってしまった。
「・・・待て」
オレの顔をじっと見ていたラリスがふいに、自分の額に手を当てた。
「今日、『大地の刃』は他に何を斬った?」
「なにも。そのときが抜いた最初でした」
「では、それ以前にその剣で斬ったのはなんだ? おかしな使い方をしてはいないか?」
なにかを探るような目が、微動だにせずオレの目を覗き込んでくる。
おかしなって言われても、魚を捌いたのはちゃんとした包丁だし、剣鉈を戦い以外に使ったことはない。
戦いにしか使っていないのに、「おかしな」なんて・・・ないと言おうとして気が付く。
あれか?
あれのことなのか?
「あるのじゃな? なにをした?」
「なにをしたというか・・・精神世界で戦いになって、炎を出させました」
フェリシダの精神世界内での戦いの様子を説明した。
ピンチになったとき、『エザフォス・クスィフォス』が「任せろ」と言った気がして、頭に浮かんだイ メージ通りに行動したら炎の刀身が現れた、という話をだ。
「・・・・・・」
ラリスは無言だった。
信じてくれるかと、びくびくしながら反応を待つ。
「・・・魔法の結界内における異常活性化か」
しばしの沈黙に続けて、ラリスが独り言ちた。
なにか、思い当たるらしい。
「歴代のラリスの中に、同様の現象について記録を付けている者が数名おる。ある種の条件下において、剣が活性化してあり得ない現象を引き起こしたというものがな」
「条件、ですか?」
「そもそも、その剣がラリスの名のもとに生み出された業物であること。魔法の結界内で、しかもそれが物理世界ではなく、精神世界を生み出すものであること。剣と持ち主の相性がいいこと、というものだ」
なるほど・・・確かに条件には当てはまっているようだ。
でも。
「条件はわかりましたけど、なぜそんなことが起こるんですか?」
理屈がわからない。
「名刀には魂が宿る、とは聞いたことがないか?」
「ありますね」
この世界でというより、元世界での話で、だ。
どちらかと言えばファンタジー系の話ではあるが、リアルな歴史上の話にも伝説的な名刀というのは存在したし、その表現として「魂」の存在を書かれているものはある。
魔法が存在しない元世界でもあった話が、この世界にないわけがない。
「その魂のなせる業だと考えられている」
それはこうだ。
武器に魂が宿ることは、ある。
だが、しょせんは武器。物質内に閉じ込められているので、あまり大きな意味は持たない。せいぜいが、切れ味が増したり耐久力が増す程度だ。
ところが、魔法の結界内において、精神世界が生み出されたときには事情が違ってくる。
物質という枠から抜け出せてしまうのだ。
たとえば、人間がどんなに魚をまねしてもエラがない以上は水に長く潜ってはいられないし、鳥のように羽ばたいても翼をもたず腕がある人間は空を飛べない。
これは物理的に不可能なことがはっきりとわかる。しかし、その物理的な不能を根本的に無意味にしてしまうのが精神世界なのだ。
どんなことでも、なんでも、可能にしてしまう夢の世界。
ところが、意識というものが明確にある人間は、物質としての箍が外れても、本来自分はこうであるという記憶や知識のために大きくズレることがない。
しかし、武器に宿る魂にはこの「自分がどうあるべきか」という考えがない。ゆえに、物質としての箍が外れると際限なくズレていってしまう。
これが、異常活性化だ。
自分自身への負担を考えもせず、燃料0まで動き回る子供のようなものとでも言えばいいだろうか。
「できる」、「やりたい」。そんな気持ちだけで、際限なく暴走してしまう。あと先のことなど考えずに。
「その結果、負担が物質的器である刀身に掛かり、壊れてしまう。あるいは変質してしまうという現象が起こる」
ということは・・・。
「直らない、とか?」
せっかく作ってもらったのに。
気に入っていたのに。
申し訳なさと残念な気持ちで、いたたまれなくなった。
「元に戻るのか、ということで言えば、な」
ラリスはそう答えた。
「ただし、これを成長と呼ぶのであれば、話は変わってくるかもしれん」
「というと?」
「変質してしまったものを、再び鍛えなおしたという話がいくつかあるのだ。ただ、私にそれができるかとなると・・・」
無理なのか?
表情を曇らせたラリスを、オレはハラハラしながら見つめた。
「私は・・・友達がおらんからな・・・」
ぽつり、と呟かれた。
・・・はい?
「え? 友達?」
なんだ、友達って?
なにかの必殺技か?
『みんな、おらにみんなの元気を分けてくれ!』ですか?
「うむ。先代たちの中で、その現象に対応できた者というのは魔導士や精霊使い、錬金術師などの友がおって、協力や助言がもらえたのだ。だが、私にはそんな当てがない」
ああ。
鍛冶師以外の知識と経験ってことか。
寂しげにうつむかれると、かわいく思えてしまうぞ。
23歳のはずだけど年下にしか見えないし、オレ自身も28歳のフェリシダがああだから年上ってことで気遅れることもなくなってるし。
でも、それなら。
「アルターリア、なにかわかることとかあるか?」
ここにも魔導士と精霊使いならいる。
ダメもとで聞いてみた。
あまり期待はしていない。
世の中、そんなにうまい話はない。
「残念ながら・・・」
うん、そうだろう。
アルターリアは首を振った。
「知っていそうな者になら、心当たりがないでもありませんが」
おっと。
話は繋がるのか。
「ですが、どうやってそこにいくか・・・」
考え込むようにうつむくアルターリア。
どうやって?
「遠いのか?」
「それもありますが、迷宮の存在しない小さな村なのです。これと言って産業もありませんし。冒険者ギルドにも、商人ギルドにも『移動のタペストリー』はないと思います」
なるほど。
『移動のタペストリー』が使えない遠くの村か、となると確かに大変だ。
飛行機も鉄道も、車もないということだから、あとは歩くか自転車かという話だ。
こちらには自転車もないから、馬を使うぐらいしか手立てがない。
あとは、ひたすら歩くか。
でも・・・。
「わかった。じゃ、とりあえず帝都に行ってみよう」
席を立って、そう言った。
困った時のリティアさん頼みだ。
それでだめならマティさんと、公爵。
さらに翔平という手もある。
寄らば文殊の知恵。
こういう時のための人脈だ。
とにかく聞いてみよう。
「あ・・・」
なにか言いたそうに、ラリスも立ち上がる。
問題でもあるのだろうか?
「め、目途が立ったなら、私も連れていってほしいのだが・・・」
なんだ、そんなことか。
「かまいませんよ。旅は大勢が楽しいです」
喧嘩したり、お通夜ムードを作られたりしない限り、旅の道連れは多いほどいい。
まして、女の子ならなおさら大歓迎だ。
目途がついたら迎えに来ることを約して、オレは帝都の冒険者ギルドへと転移した。
相手がラリスなら、隠すこともない。
『エザフォス・クスィフォス』は預けたままなのが寂しいが。




