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異世界で家を買いました。  作者: 月下美人
93/199

いも


 翌日からは『デスモボロス』の攻略を進める。

 目標は20階層突破だ。

 『クルール』迷宮での経験から考えれば、二日あれば到達できるだろう。

 今日からは、朝食後からディナーの直前まで、迷宮探索ができるのだから。

 ということで、15階層。

 最初に現れたのは『セミニトマト』。

 「ふざけんな!」

 とにかくツッコんだ。

 身長二メートルで二足歩行のセミの身体から、ミニトマトが生えている。

 ちなみにセミの種類はニイニイゼミだ。

 当然。一撃のもとに倒した。

 シャラーラさんが。

 すでにおなじみのパセリなどのコンパニオンはミーレスさん一人であしらえる。

 アルターリアがなんか暇で不満そうだ。

 続いてが・・・。

 「あははははは!」

 笑ってしまった。

 馬だった。

 んで、鈴が鈴なりについていた。

 さて、なんでしょう?

 正解者にはミーレスとの握手券進呈。

 などという冗談はさておき、『バレイショ(馬鈴薯)』・・・ジャガイモだった。

 笑われたので怒ったのか、『バレイショ』が突進してきた。

 さすがに馬、早いし迫力もある。

 スタートダッシュしていたシャラーラがすれ違って躱され、フォローに入ったミーレスが飛び越えられた。

 大地の剣を・・・構えているあいだに、アルターリアの細くて白い腕が伸びていた。

 馬の眉間を細剣が貫いている。と見えたのもつかの間、左手のマンゴーシュが背中と言わず腹と言わず突き刺した。

 魔導士なのに二刀流で、かなりの力攻め。

 アルターリアさんは相変わらず万能だ。

 魔物は床に倒れたところで、魔素をカロンに食われている。

 「大きさはともかく、かなりごつい感じになってるな」

 頭上に浮かんだカロンを眺めて、感想を呟く。

 精神世界で見た時のような大きさではもちろんないが、甲羅がクサガメのそれからワニガメのそれへの変化が顕著に進んでいるようだ。

 顎もかなり発達している。

 つよそうだ。

 なんか、あんな怪獣がいたなぁ。

 とか考えてしまう。

 どこかにマグルマを崇拝する島があって、双子の巫女とかいたりしないだろうか。

 「ご主人様?」

 バカな妄想をしていたら、ミーレスに呼ばれた。

 芽を出した種芋が入ったカプセルを持って、オレを不思議そうに見ている。

 「すまない。ちょっと考え事をしていたんだ」

 カプセルを受け取ってリュックサックに入れた。

 コンパニオンはいなかったようだ。

 その後、某有名司会者かとツッコみそうになった玉ねぎ頭の『アタマタマネギ』も撃破。

 これらと戦いながら探索し続けると、二時間ぐらいでゲートキーパーを発見した。

 「餅か?」

 なんか焼いた餅みたいに膨らんだ葉っぱっぽいのがいた。

 見た目、柏か何かの二メートル近い葉っぱを餅で挟んで焼き、しょうゆを付けました。だ。それが宙に浮いている。

 これはわかりやすい。

 『エクソパシディウム』などというかっこよさげな名前がタグには出ているが、何のことはない。餅病菌だろう。

 葉が餅を焼いたように膨らんで、黒褐色になって腐敗していくという病気だ。

 「こいつ。やわそうなのに効かねぇっす!」

 見た目のシンプルさに似合わず、あの餅のような膨らみが衝撃を吸収するのか打撃系の攻撃には強いようで、シャラーラの攻撃にはびくともしない。

「クッ! あ、当たらない」

 斬撃系のミーレスの剣はあんな膨らんでいるくせにひらひらとかわしやがる。

 難敵か?!

 と思っていたら・・・。

 「『フラムマクリス』!」

 炎の投げ槍が直撃するとしおしおになって消えた。

  広がりそうになった魔素を、カロンが一飲みにしている。

『レアドロップアイテム』は『ツバキ』だった。

 大きく育てて、いずれ油でもとるとしよう。

 バラやツツジは観賞するくらいしか使えないが、ツバキなら実から油が取れる。

 特に女性の髪にツヤを出すという意味では、最高級品だった時代もあったはずだ。なんにしろ、我が家では料理で油をたくさん使うから、自家栽培で採れるなら有難い。

 14階層。

 楽しそうに笑いながら転がってくる『キャッキャベツ』。巨大な刀が浮いていると思ったら、鞘だけで、豆を撃ちだしてくるというトリッキーな技を見せた『サヤエンドウ』。サヤエンドウよりさらに大きな『テラソラマメ』。

 コンパニオンというのは妙だが、合間に巨大化しただけで野菜そのままの姿の魔物、『コマツナナ』とか 『ホウレ・ソウ』なんてものが現れてくるが、うちの綺麗どころの敵ではない。

 接敵して数分で倒してしまう。瞬く間にオレとアルターリアのリュックは野菜の苗入りカプセルで一杯になってしまった。

 そして、昼前には本日二つ目のゲートキーパーと対峙した。

 『ウロミセス』。相変わらず名前からは何なのかわからないが、葉っぱが浮いていてイボがあり、そこからサビ色の液体を放出してきたところからサビ病の一種だろうと思う。

 「『フラムマクリス』!」

 なんであれ、アルターリアの魔法があれば、ほぼ一撃で消えるのでどうでもいい。

 あとはカロンにお任せだ。

 『レアドロップアイテム』は『梨』の苗木だった。

 いよいよ果樹が出てきましたよ。

 有難いが・・・。

 「梨って言ってもなぁ・・・」

 オレは梨は『幸水』が好きだ。

 元世界の実家の近くに梨の一大産地があるので、よく買いに行ったものだ。

 道の駅なんかに行くと生産者別に試食が置いてあって、同じ種類の梨でも生産者や樹で味が微妙に違っているのがわかる。

 そのせいで、買う梨をめぐって母や従姉と何度言い争ったことか。

 もちろん『豊水』でもいいが、『二十一世紀』とかはちょっと違うなぁと思う。

 『二十一世紀』っておいしいよ?

 そうツッコミたい方々もいるだろう、そんなことはオレもわかっている。嫌いなわけではない。比較すると・・・やはりオレは『幸水』が一番好きなのだ。

 そんなことを考えながら、タグを見ていたら・・・驚いた。

 カプセルの中にある苗木の種類が、オレが考えるのに合わせて変わるのだ。

 つまり『梨』という分類のものであれば、なんにでもなるということらしい。たぶん、カプセルから出すまでのあいだなら、根本の『梨』など『科』や『属』は変わらないが『品種』は変えられるということのようだ。

 冷汗が出る。

 『クルール』迷宮で『スノーホワイト300角』ばかりが出現した理由が突然理解できた。それが基本だというだけで、カプセル内にある限り別のタイルに変更可能だったのではないか?

 そう考えれば、3枚ずつカプセルに封入されているのも、全部同一のタイルである理由も理解可能だ。

 でも、冷汗が出ている理由はそれではない。

 タイルのほうはカプセルのまま空間保管庫にしまっているからなんの意味もない。

 もしかして・・・野菜の苗もそうだったのだろうか?

 気になっているのはそこだ。

 自分の迂闊さに泣きたくなる。

 考えてみれば「そりゃそうだ」だ。

 ホームセンターでキュウリやナスの苗を買うときも、何種類か種類があるじゃないか。キュウリなんかは通常、とある病気に強いことで有名な『アレ』の一択で買うのでさほど気にしないが、トマトは病気になりにくい種類とか甘さとか、ミニトマトなら色でも選ぶ。

 エダマメなんて季節のあいだに何種類あるか、基本のものだけで4種類、某白山のだだちゃも含めると5種類ならオレでも知っている。

 ナスなんて丸ナスとか形の違うって・・・ああ!?

 『ナナス』を見て気が付くべきだったよな。

 七種類どころでなく種類があるってことを。

 それを・・・。

 「失敗したかもしれない」

 オレはかなり凹んだ。

 『科』と『属』が変わらないとしても品種を変えられるなら、『ピーマン』はトウガラシでありパプリカであり、シシトウだ。

 帰ったら、全部の苗を確認しないと・・・。

 いや、すでに植えてしまったのだ、いまさら慌てて確認してもしょうがないか?

 思考がぐるぐると回り始める。

 「ご、ご主人様!?」

 ミーレスがびっくりして駆け寄ってきた。

 心配そうな顔がオレの目を覗き込んでいる。

 家ならとりあえずキスするところだが、ここは迷宮。

 瞬時に気持ちを切り替えた。

 「大丈夫だ。どんどん進もう」

 異世界生活一年目、今年は勉強の年だ。

 失敗を楽しむ余裕ぐらいあるさ。

 17階層。

 『イチゴん』。

 どっかのゆるキャラか?

 そう思ってしまうような、熊っぽい動物型のイチゴだ。

 攻撃方法は、あの小さな種を飛ばしてくるという遠隔攻撃。

 でも、

 「『フルメンファルクス』!」

 雷撃の鞭の前では敵ではない。

 遠隔攻撃ならアルターリアさんの方が上手だ。

 しかも雷撃系は鞭だけに、複数攻撃も可能と来ている。

 一発で、集まってきつつあった『イチゴん』複数体を魔素へ返した。

 カロンが喜んで吸っていく。

 なぜか、ぴょこっと『ミョウガ』・・・奇妙な蛾だった。や、ハツカネズミのように走り回る『ハツカダイコン』が現れたが、ミーレスとシャラーラには片手間で充分な敵だった。

 『ツルムラサキ』。

 「もう、やだ」

 右手で頭を抱えてしまった。

 紫色の鶴が飛んできたのだ。

 セブテントのクルール迷宮と比べて、魔物の名称がふざけすぎてはいないだろうか?

 この迷宮を管理している神様は、おふざけが好きか、まともに考えるのが面倒なタイプか、さもなければ・・・天然だ。

 色の変な鶴が飛んでくるだけなので、倒すのは楽だが、なんか先が思いやられてくる。

 「ほらな」

 三種類目を目の前にして、オレは誰にということもなく肩をすくめて呟いた。

 『ハクサイ』

 もう、お分かりだろう。

 正解者にはシャラーラの闘魂注入をプレゼントだ。

 冗談だ。

 白いサイが突進してきている。

 名前は手抜きっぽくても、魔物の危険度は変わらない。

 変わらないが、シャラーラが正拳一発で仕留めている。

 まだまだいけそうだ。

 17階層のゲートキーパーの名は『ギムノス』。

 怪獣映画に出てきそうな名前だが、相変わらず二メートルほどの葉っぱが浮いている。

 裏面にはややコブ状の盛り上がり、毛状の突起が多数。

 たぶん、さび病の一種に数えられる菌が原因の赤星病だろう。

 「『フルメンファルクス』!」

 もはや、ゲートキーパー退治はアルターリアにお任せ状態になってしまっている。

 魔法を撃ち込めば一撃なのだ。

 わざわざシャラーラとミーレスに接近戦をさせる必要はない。

 『レアドロップアイテム』は『林檎』の苗木だった。

 手に持って、『フジ』だの『王林』だの、『紅玉』だのと名前が変わっていくのを眺める。

 やはり、カプセル内にあるあいだなら品種を自由に変えられるのだ。

 オレは林檎なら『フジ』が好きなので、とりあえず『フジ』で止めてミーレスのリュックにしまった。

 オレとアルターリアのリュックはすでに満杯になっている。

 16階層に出たところで、転移する。

 昼時を過ぎたので、一度帰宅した。

 メティスを中心にリリム、フェリシダの三人が食事の用意を整えて待ってくれている。

 目新しくはない、この世界の家庭料理だ。

 美味、とは言えないが不味いわけでもない。

 とっとと食べて、ミーレスがコーヒーを入れてくれているあいだにリュックの中身を空間保管庫にしまってコーヒーブレイク。で、再び迷宮へと飛ぶ。

 16階層に出た。

 『ヘタレタス』。

 出てきては逃げ腰で震えていて、攻撃すると逃げだすというヘタレなレタスだ。

 シャラーラさんが得意の突進力で追っかけて行って、倒してくれる。

 倒すと同時に『メキャベツ』、見た目が眼球のメキャベツだ、が飛び出したがミーレスが一撃で斬り捨てている。

 『ブロック・リー』

 ブロッコリーの姿そのままながら、ボクサーの姿をした魔物だ。

 パンチパーマの頭に、でかいグローブ。シルエットは間違いなくボクシング選手なのだが、全身緑だ。

 「おもしれぇっす」

 シャラーラが楽しげに飛び出して行って、拳を繰り出した。

 ジャブ、ジャブ、ストレート。

 相手のパンチはことごとくかわしてパンチを叩きつける。

 相手がかわいそうになる一方的な攻めで、ダウンを奪ってみせた。

 一度くらいは起き上がるだろうと思っていたのだが、ダウンしてすぐにカロンに噛みつかれて、あっけなく魔素になっていた。

 かわりに、というのも変だが姿形が全く同じで色だけ白い『カリフ・ラワー』が現れて、ワンツーのあとにストレートを食らってKOされていた。

 『パンプキン・ヘッド』。

 言わずと知れたハロウィーンの定番。

 かぼちゃ頭が登場した。

 うん。そろそろ出てくる頃合いだとは思っていた。

 夏野菜の定番ではあるからだ。しかし・・・。

 「いらないんだよなぁ」

 魔物はシャラーラの鉄拳の前に脆くも崩れて、手に入った『ドロップアイテム』の苗入りカプセルを持ったオレは、つい呟いた。

 困ってしまう。

 「かぼちゃはお嫌いなのですか?」

 ミーレスが、おずおずと聞いてきた。

 彼女はカボチャ好きなのだろうか?

 「いや、好きだよ」

 安心してほしい。

 「え? でもいま・・・」

 「カボチャを食べるのはいいんだ。だけど、我が家では作物としてカボチャを育てることを禁じられているんだよ」

 なぜなのかという理由は残念ながら伝わっていないが、我が家では先祖から口伝で「カボチャは畑に植えるな」と言われている。

 予想としては、うちは山神として「お稲荷さん」を祀っているので、キツネに配慮しているのではないかと思っている。

 全く違う地域の昔話に、似たような話があるからだ。

 とにかく、理由はわからないながら先祖からの言いつけなので、元世界ではカボチャは買って食べるが植えないことにしていた。

 異世界なんだから構わないかもしれないとも思うが、気分的に抵抗感があるので植えるつもりはない。

 なので、「いらない」ということになる。

 「禁じられて・・・」

 ミーレスが、何やら真剣な顔でぶつぶつ言っていた。

 なにか大げさに考えているようだ。

 別段、大したことではないんだけど。

 まぁ、売ればいいことだな。

 苗の入ったカプセルをリュックに入れて、探索に戻る。

 16階層のゲートキーパーは『ラクトゥーカエ』。

 相変わらずの葉っぱシリーズだ。

 汚れたような不規則な紋。

 べと病だと思う。

 「あ、あの・・・ご主人様?」

 相手の接敵範囲手前で、その姿を視認したミーレスが、オレに振り向いた。

 「ん? どうした?」

 「何と言いますか、早すぎませんか?」

 ああ、そのことか。

 オレは頷いた。

 入口から、この階層に入って一時間ちょいでのゲートキーパーとの遭遇である。途中魔物と戦ったのは8回ほどしかない。

 確かに普通じゃない速さだ。

 「どのあたりにゲートキーパーがいるか、大体わかるようになったんだ」

 「え。そ、そんなことができるのですか?」

 目を丸くして聞いてくるが、大した話ではない。

 それに・・・。

 「ここ、『デスモボロス』の迷宮限定だけどな」

 ようするに出入口設置のパターンが読めたのだ。

 この迷宮、各階層の入り口と出口は対角線になっているらしいのだ。入口が階層の右下なら、出口は左上。右上なら、左下という具合。

 この迷宮を作った神様はほんとに、いろんなことを考えるのがめんどくさいらしい。

 その点、マクリアの迷宮なんかは無秩序。サイコロでも振って作ったような、そんなでたらめさがある。クルールはしっかりとルールを決めたうえで作られているし、何より細かいところでよく考えられている。

 迷宮の性格を読む、とは冒険者として迷宮に入り始めたときに聞かされた言葉だが、こういう意味も含まれていたわけだ。

 「す、すごいです」

 感極まったような顔と声でミーレスが言い、シャラーラも陶然と見つめてくる。唯一アルターリアだけが、オレの言ったことを正確に理解しているようで、考え込みながら頷いていた。


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