リティアの災難
その日の朝。冒険者ギルド内。
冒険者ギルド帝都本部窓口業務部迷宮案内人リティア・ハティールは普段と変わりなく仕事をしていた。
他部署への冒険者からのクレームに対処し、儲けのないクエストへの愚痴を笑顔で聞き流し、勘違い野郎のセクハラを冷静に潜り抜ける。
いつもの仕事だ。
「もっとまじめに冒険者をしようってやつはおらんのかぁぁぁ!?」
ランチ時になって、そのあまりの不甲斐なさと、午前中の自分の仕事内容のくだらなさに、思わず叫んでしまうのもいつものことだった。
叫んでストレスを発散させないとやってらんないのである。
いつものことなので同僚たちは、関わり合いにならないで済むよう一定の距離を置いて自分の仕事に、またはお弁当に集中している。
「迷宮では命懸けだもん。迷宮出たときくらいはふざけたいんじゃないの?」
同じテーブルでランチを食べていた栗頭の女性職員が慣れた様子で、リティアの唾が飛ばないようランチを少し横にずらした。
安全圏にランチを避難させて、けだるげに答えている。
「私たちは危険な迷宮に入ったことなんてないんだから」
まじめに、なんてことを言う資格は本来ないんだよ?
と語りかけているのだが、いまいち、リティアには届いていなかった。
「志が低い!」
「生活するのに志はいらないよ。彼らは生活のために迷宮に入ってるの。お仕事なの。命がけで迷宮に挑むなんていうのは勇者様にお任せなの」
テーブルに頬杖をついて、栗頭は「やれやれ」という顔で有能な同僚を見上げたものだ。
「ハティール」
それに対して、リティアがなにか反論しようとしたところで、声がかかった。
「げっ!」
リティアは声のした方を見て、顔を歪めた。
直属の上司が、胃の痛そうな顔で手招きをしていた。
あの顔をしているときに呼ばれて、いいことのあったためしはない。
「まさか・・・」
なんとなーく、心当たりはある。
いやな予感が増大した。
とはいえ、無視もできない。
食べかけのランチから好きなものをパクパクと口の中に放り込むと、残りを栗頭の同僚のほうに押し出して席を立った。
「え――と。なにか御用でしょうか?」
上司に呼ばれたリティアは、ハルカと話をするときに使用することの多い個室にいた。
額に、汗が浮いている。
「ここだけの話だ。いいな?」
声を潜めた上司が、目を伏せつつ言ってくる。
うっわ!
リティアの額の汗が流れそうになってくる。
これは、かなりやばい話を聞かせられそうだ、と感じられた。
今すぐ部屋を出て家に帰りたい。
そうも思うが、社会人たるもの、そんな無責任なこともできない。
「わ、わかりました」
いやいやながら、頷くほかなかった。
「ギルド本部に行っていたんだが・・・お前のことが話題になっていたよ」
「本部で・・・話題に、ですか?」
よく誤解されるのだが、帝都にあるこの建物はギルド本部ではない。リティアたちが普段常務しているここは『冒険者ギルド迷宮案内センター帝都支部』が正式名だ。
冒険者たちを相手に業務を行う最前線ではあるが、本部ではない。
本部は別にあるのだ。
その本部では、迷宮の情報収集や職員の採用から教育、報酬の計算、支払いに人事。各支部から上がってくる収益の管理などを行っている。
「な、なんでですか?」
聞いてはみたものの、考えられることはひとつしかなかった。
「伯爵だ」
予想通りの答えが返ってきて、リティアは天井を仰いだ。
「だが、お前が嫌われているという以外にも何か理由があるようだ。わたしの伝手では深い理由にまでは手が届かなかったのでよくはわからんがな」
支社の課長クラスが、本社の取り締まり役会で話し合われる内容を知らないのと同じだ。上から指示なり命令なりが降りてこないと、噂話ですら耳には入らない。
「わかったのは、ハルカ・カワベ氏が冒険者ギルドにいるかどうかと、その担当案内人は誰なのかという問い合わせが本部に来ていて、何やら厄介そうな話になっているってことだけ。他はまったくわからん」
「は、ハルカ君がらみ、ですか?」
さすがにちょっと驚いた。
自分と伯爵の因縁の上に、さらにハルカ君がのってくるとは。
上司は重々しく頷いて見せ、話しを続けるべく口を開いた。
「わからんが、上の連中は今、お前のことで二派に割れているそうだ」
「二派、ですか?」
「『やめさせてしまえ』派、と『外部圧力には屈しない』派、の二派だよ。追い出してしまえば簡単だろって考える奴らと、それが誰であれ外部からの圧力で何かを決定するのは我慢がならんという奴らが、お前を挟んでにらみ合ってる最中だそうだ」
リティアは頭を抱えてしまった。
「それって、私の存在関係なくないですか?」
「ないな。どちらの派閥も自分たちの間に挟まっているのが何者かなんて眼中にないだろうからな」
「ああ、やっぱり」
あははは、と乾いた笑いをリティアは上げた。
「今のうちに、こっちから辞めさせていただくってのは・・・ありですかね?」
「『外部圧力には屈しない』派を全面的に敵に回したいなら、止めんがね」
その派閥はリティアをやめさせたくないのではない。「屈しない」ことを周囲に示したくて躍起になっているだけなのだ。ここでリティアが勝手に辞めれば、彼らの面子をつぶすことになる。
そりゃ恨まれるだろう。
「うっ・・・」
「そんなわけだ。悪いが、早いうちに継続的な仕事は全部誰かに引き継いでくれ。引き継ぎもしないうちに突然、『現時点をもって追放とする』なんて命令が来ると困る」
「え―――と。かばっていただけない、と?」
「俺の力で何とかなるレベルなら、かばってやりたいんだがな。俺ごときでは時間稼ぎも無理な高いところの重い決定だ。どうにもならん」
力なく首を振る上司を見て、リティアも深くため息をついた。
上司がこれでは、自分なんて風の前の木の葉だろう。
何をしようと無駄だ。
人事を尽くして天命を待つしかない。
「わかりました、そうします」
「すまんな。俺の裁量で何とかなりそうなことなら協力は惜しまんから、なにかあれば言って来い」
呆然としたまま部屋を出ると、二人分の弁当箱を洗っている栗頭が目に入った。
弁当を作ったことはないが、率先した洗ってくれる。洗って返してこないとリティアが弁当を作ってくれないからだ。
そう、彼女の分の弁当を作ったのもリティアだ。
毎日二人分作って持ってきている。
そうしないとギルドの外に食べに行き、午後の部が始まってからしばらくたたないと帰ってこないことがあるからだ。
なまけ癖があり、他力本願なところもある。
正直、戦力とはならないタイプ。
それでも・・・。
「こいつしかいないんだよなぁ。・・・はぁぁぁあぁぁぁぁぁ」
「・・・へ? なに?」
思わず、全身の空気をすべて吐き出すような溜息をついたら、驚かれてしまった。
横に行って洗い終わった弁当箱を受け取って、さっさと拭いて鞄にしまう。そして、いつもは昼寝に出ていく栗頭を捕まえて、デスクにまで引きずっていった。
「え? な、なに?! なんなのぉ??!」
目を白黒させているのを無視して、自分のデスクに乗っていた書類の束を栗頭の前にドンッと載せ替えた。
「ジュファ! 今から、私の仕事全部、あなたにやってもらうことになるからね。さっさと引き継ぎ済ませるわよ!」
「え? ええ?! えぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇ、なんでえぇぇぇぇ?!!」
泣きたいのはこっちだ!
そう思いつつ、仕事の引継ぎを終わらせた。
終わらせたと言っても、リティアが声の届くところにいる限りは「ここ、わかんなぁい。どうするんだっけ―――?」とか言ってきて、結局面倒を見る羽目になる。
なので、リティアは受付窓口そのものから姿を消した。
立ち去り際、上司にジェファの面倒は押し付けた。
自分はいつ辞めさせられるかわからないのだ。
ジェファに仕事させるのは上司の仕事。
さっき「俺の裁量で何とかなりそうなことなら協力は惜しまんから、なにかあれば言って来い」と言ったばかりだし、がんばってジェファを教育してもらおう。
で、なにをするか?
前から気になってはいたが、自分の仕事じゃないし人の仕事に手を出すほど暇ではないし、と見て見ぬふりをしていた。そんな、あることをすることにしたのだ。
つまり、ギルドの地下にある物置部屋の整理である。
「さて、始めましょうか」
腕まくりしてやり始め、入り口わきの棚を空にしたところで、外回りの同僚が様子見に来てくれた。そして、教えてくれた。
ハルカ君を商人ギルドの近くで見かけた、と。
あの子が帝都にいる。
昨日のこともある。
そのうち来るんじゃないかしら?
いや、絶対に来る!
リティアはギルドのロビーで、待ち構えることにした。
そして・・・。
「来たわね」
冒険者ギルドに入ると、腕組みをしたリティアさんにいきなり睨まれた。
ギルドのロビーで待ち構えていたらしい。
「へ?」
なんで?
オレ、なんかした?
ポカン、としているとリティアさんが無言で、親指を立てていつもの個室をクイックイッ、と指し示した。
理由はわからないが、ジェスチャーの意味は明らかだったので、個室へと移動した。
「なにをしたの?」
個室に入った途端、リティアさんから撃ちだされたのがその言葉だった。
いや、それ、オレが聞きたいです。
何か怒らせることをしただろうか?
考えるが、まったく思い浮かばなかった。
だって、昨日会ったときは普段通りだったじゃないですか!
叫びたくなる。
そうしないのは、ここが異世界であることを考えれば、自分が悪い可能性を否定しきれないからだ。
身に覚えがないが、それはオレがそう思っているだけで、リティアさんにとってはひどいことをしてしまっていた可能性はなくもない。
「わけがわからないって顔ね? あなた貴族と何かもめ事を起こしていない?」
なんと答えていいか、汗を流しながら、呆然としていると、口調を変えてリティアさんが質問の仕方を変えてきた。
貴族?
それなら・・・。
「貴族とですか・・・? もめ事は起きていませんが、ちょっとした問題にかかわったことはあります」
ファイク男爵の件が公式にどんなものになるかわからないし、真実をどれくらいの貴族が知っているのかもわからないので、答えは慎重にならざるを得ないが、問題にかかわったとは言える。
最小限でも、ファイク男爵の愛人という架空の人物の死を伝えた冒険者、という役割は貴族のほとんどに知られることが決定しているのだから。
「ちょっとした・・・ねぇ?」
疑わしげな瞳が向けられた。
「とある伯爵が、あんたのことを調べてるわよ? ギルドに加盟していないかと、加盟しているなら担当が誰かっていう問い合わせがあったらしいの。冒険者の素性その他はギルドの最高機密に該当するから、問い合わせは突っぱねたそうだけど」
とある伯爵。
伯爵と言われて思い出すのはドラキュラか、ファイクしかいない。
ドラキュラとは思えないから、間違いなくファイク男爵の父親。ファイク伯爵だろう。
オレを探している?
理由は何だろう?
「・・・どうやら、心当たりはありそうね?」
「いえ。オレの正体を知られた相手、という以外には全く探される理由に心当たりはないです」
異世界人、というのがこの世界では重要な意味を持つというのはわかる。わかるがそれが探し回られる理由になるかというと微妙だ。
勇者・翔平のように、立場や権益の持ち合わせがないオレに取り入るとか、利用するとかの旨味はないはずだからだ。
・・・息子の敵討ち?
命を絶ったのが自分だとはいえ、「あの小僧がいなければ」という思いを持つ可能性はないとは言えない。
逆恨みされる要素はある。
あるが・・・なんかしっくりこない。
「なにをしたの?」
重ねて聞いてくる。
最初のときよりトーンは落としているが真剣さは変わっていない。
「・・・貴族院の公式発表とは違う話をすることになりますけど、いいですか?」
非公式の、裏の、秘密の、話になりますよ?
「・・・ぐっ」
さすがに、秘密の暴露には警戒心が働くようだ。さしものリティアさんも、唇を噛んで引いた。
「深くない程度に、答えなさい」
おお!
引きはしても、引き下がりはしないのか!?
でもどこまでが深いんだか、わかんないぞ?
「息子さんの死に関係した、としか言えませんね」
違う話になりますよ、という脅しをした時点で考えていた答えを口にした。
これなら、表面上は貴族院の公式発表とも矛盾してはいない。
公式発表では、オレは伯爵の息子である男爵に愛人の死を伝えた当事者。真実は、男爵が不正と背信を企図するきっかけとなり、その事実を公にした張本人。事情が違うが、死に関係したことは変わらない。
「息子?」
一瞬、首を傾げたリティアさんだが、すぐに納得したような顔で天井を仰いだ。
「愛人の方の、ね」
ああ。
そう言えば伯爵家の跡取りではなく、よその家に婿に出た愛人の子だったっけ。
「そっか・・・伯爵がじゃなくて、あの人が、なのかぁ」
あの人?
「愛人の方ってことよ。いろいろと無茶をすることで有名な人なの・・・はぁぁぁ」
無言の疑問に答えてくれたリティアさんだが、なんか深々とため息をついた。
「あ、あの・・・なにか?」
恐る恐る尋ねてみる。
「私さぁ、もともと伯爵から嫌われてるのよ。伯爵が帝都に来るってなると、ギルドを休ませられるくらいに」
なんだそれ?
ていうか、もしかして前に「休めって命令されて暇」とか言ってたのもそのせいだったとかか?
「その私が、なにが理由かはわからないけど、伯爵が必死になって所在を探しているあなたの担当案内人でしょ? だもんで、なんか上の人たちが言い争いに発展してるらしいのよね」
「言い争い?」
「私をギルドから追放するかどうか、よ。『貴族様様』派は、たかが職員一人のことならクビにしてしまえって強硬だし。『ギルドは独立性を持った組織』派は、貴族であろうと皇帝であろうとギルド内の人事に口出しはさせないって反発してるし。ってわけ」
あはは、と乾いた笑い声をあげて、リティアさんは頭を掻いた。
たかが、と言ったら語弊もあるが、職員一人の進退で組織が割れている。そりゃ、笑うしかないか。
元世界なら明らかなパワハラだもんな。
客のクレームを受けて、社員を休ませるなんてのは。
しかもクレームが何かのミスではなく「嫌われているから」では、なおさらだ。
「めんどくさそうだから、やめようかとも思ったんだけどさ。結論が出るまではやめるなってことらしいし。困っちゃうわよね」
「それは・・・大変ですね」
「そ。大変なの。で、とりあえず理由を知りたいと思って、あんたを待っていたってわけ。仕事はほとんどなくなっちゃったからね」
あー。
存在そのものが宙に浮いちゃったから、継続性のある仕事は取り上げられちゃったんだ。
「内容によってはなんとかなるかもってかすかな期待もあったんだけどね。貴族院の公式発表には出ない話と来た」
根が深いか闇が深いか、ともかく表ざたにはならない内容ってことだから平穏な解決は望めない、ということだ。
「ねぇ? なんでそんなことに関わっちゃったの? 細かい事情までは聞かない。簡潔に答えて!」
自分の現状をどうにか納得したいのだろう。リティアさんは真剣な顔でオレを見つめている。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
細かい事情は聞かない、か。
「罪人に仕立て上げられそうになったのを回避したら、立場が逆転。相手が処断される状況になって、その相手のもう一人の被害者が巻き添えになって死にかけたので助けた。・・・簡潔に言うと、そうなります」
他に言いようはあるまい。
オレ的には過不足なく答えたつもりだ。
「・・・仕立て上げられそうに、か。処断に。助けた・・・と」
リティアさんは天を仰いで、ぶつぶつと呟きだした。
「あ、あの・・・」
なにか言葉をかけるべきかと、恐る恐る口を開く。
ギロッ!
顔は上に向けたまま、視線だけがオレを射抜いた。
「ふうっ」
上体と顔を戻して、ため息。
「主体ではなく、悪いのは相手で、人助けまでした。なら、文句は言えないわね」
つまらなそうに言って、テーブルに頬杖をつく。
「まいっちゃったなぁ・・・貴族を向こうに回してだなんて。これじゃ、ギルドをやめたとしても就職先は見つかんないわよね」
テーブルを見つめて呟く。
オレに聞かせようとしての言葉ではなく、自分の中の不安が言葉になって漏れた感じだ。
オレが目の前にいることを半ば忘れているというか、意識していない。
「えっと。もし、行くとこないならうちに来ますか?」
「んー? 私を囲おうっていうわけ?」
じっとりとした目が向けられた。
囲うっていうのは愛人にするとか、そういう意味だ。
「い、いや。そ、そんなつもりは・・・まったくないと言ったら大ウソになりますけど。じゃなくて! 前にリティアさん、ギルドにいても大した仕事ないようなこと言ってましたし。オレ専属ってことで雇ってもいいかな? なんて」
自分の物になるかどうかはともかく、美人が身近にいたら嬉しいのは事実だ。
それに、冒険者ギルドにオレが来る理由の九割はリティアさん目当てなのだから、リティアさんが家にいてくれれば便利なのも事実だった。
「なくはないんかい!?」
ビシッ!
頭に手刀が叩きつけられた。
まぁ、痛くなんかないけど。
「そっちはともかく。うち専属で雇ってもいいってのは本気ですよ?」
あの某電話帳をすら凌駕する厚みの迷宮図鑑はリティアさんだけのものだという話だし、あの中身は絶対にオレにとっては有益なものだ。
あまりにも迷宮探索が安直化しそうな予感がしたから、あえて細かい情報は聞かないようにしていたが、あの中にはゲートキーパーの種類や攻略法、初討伐報酬の『レアドロップアイテム』の内容も網羅されているのは確実なのだ。
それはつまり、攻略本が手に入るに等しい。
もちろん、それぞれの迷宮でわかる範囲は異なるだろうし、調査内容がどれだけ正確なのかは行ってみないとわからない。
解析率が100パーセントの階層もあれば、20パーセントのところもあったりするだろうし誤解や勘違いもあり得る。リティアさんは迷宮帰りの冒険者から聞いて情報をまとめただけで、自分で迷宮に入ったことはないはずだからだ。
それでも、事前に指標を得られるのは大きい。
今までは・・・ミーレスだけのときは生活基盤を構築するのに必死だった。シャラーラが来てからはとにかく迷宮に挑むことに集中してた。アルターリアが来てからは魔法がある戦い方に慣れることと四人での連携構築に傾注した。
おかげで生活基盤ができ、迷宮探索の連携もほぼ完ぺきに機能し始め、フェリシダを得たことで迷宮にだけ集中する余裕ができた。万一の保険として、メティスとリリムの治療院もある。
迷宮攻略に本腰を入れてもいい時期かもしれない。
「・・・ギルドをクビになったら、考えるわ」
説明すると、リティアさんは真顔でそう答えた。
「あれ? 給料交渉とかはしなくていいんですか?」
なんか深刻な空気になったので、冗談めかして言ってみる。
「それもそのときだわ。伯爵の影響がどの程度のものかもわかんないもの。普通に就職先が見つかるかもしれないのに。安易に自分を売ったりはしないわよ」
フフン! あんたの好きにはさせないわ、てな感じで鼻で笑われた。
なんだ。
なんだかんだ言って元気じゃん!
「ちぇっ! 格安で雇えると思ったのに」
残念。
両手を開いて嘆いた。
もちろんポーズだ。
「そのかわり、その時になって『やっぱり、引き取れません!』とは言わせないわよ」
「それは言いません。出す金額が銅貨数枚にならないとまでは保証しませんけどねっ!」
リティアさんとオレは、顔を寄せて睨み合い・・・。
「「ブフッ!!」」
同時に噴き出した。




