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異世界で家を買いました。  作者: 月下美人
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疑惑


 『移動のタペストリー』を通ってメルカトルの商館に戻った。

 すぐさま、こちら側の壁かけを降ろして巻き取る。ついでに、性能値を変更して硬い筒にした。これで万が一、持ち物検査をされたとしても、相手に『鑑定』を持つ者でもいない限りバレることはない。

 緊張していた意識が一瞬だけ緩んだ。

 終わったと思ったのだ。が、そうではなかった。

 悲鳴が、聞こえた。女性のものだ。

 建物の、反対側。

 おそらくは奴隷たちがいるのだろうと思われる辺り。

 盗賊は二手に分かれていたのか?!

 ありえる。

 奴隷商人の一番の財産は奴隷だ。

 その中には見目麗しの女奴隷もいる。

 男なら誰だって放ってはおけないに違いない。

 まだ見ぬ女たちの危機。

 全力で走った。

 現場はすぐに見つかった。

 同じような部屋が並ぶ廊下の奥に、盗賊らしき男たちの背中、タグを見て確かめるとやはり盗賊だった。扉を破壊して中に踏み込んだ直後、のようだ。

 走る速度は変えず、一直線に駆け寄る。

 盗賊たちは扉の向こうに意識が向いていて背後を見ようともしていない。奥の扉以外は外からしっかり施錠されている。邪魔が入る心配は全くない。

 盗賊二人がオレに気が付いた。

 振り返る彼らの手に武器を認めるが、気にしている余裕などない。

 不意は打てたのだ。先手必勝を信じるしかない。

 剣を振る。

 盗賊二人が、驚くほど軽い音を立てて床に転がる。

 目も向けずに部屋の中へ。

 部屋の中には、さらに二人がいた。一人は血の滴る手斧を下げて立っていて、もう一人は女奴隷の一人を押し倒して跨り服を剥ごうと躍起になっている。

 手斧男が襲い掛かってくる。

 だからなんだ?!

 難なく斬り捨てた。

 女に跨っていた男が立ち上がるが、それを待つようなお人好しではない。振り向いた頭を正面から叩き割った。

 「大丈夫か」

 跨られていた女に手を貸して立たせてやりながら尋ねる。

 見た感じ服もまだそれほど乱れていない。ショックで顔を青くしている以外は問題なさそうだ。

 「わたしは、でも・・・リリムが・・・」

 女奴隷は震え声で応えた。その眼が、部屋の隅、扉から入ってすぐのところにある血だまりを見ている。

 違う!

 それは人間だった。人だと判別できないほど血にまみれているが。

 そこには二人の人間がいた。一人は男で、すでに死んでいる。もう一人は少女らしい小さな身体の人間・・・いや、ダークエルフという種族の女の子だった。タグを見てようやく、それが少女だと分かる。

 なぜなら・・・。

 彼女には顔がなかった。

 正確には鼻と目、そして右の耳がこそぎ落とされている。

 手斧男の手斧から血が滴っていた理由はこれだ。

 抵抗されて振り回した手斧が、リリムというらしい少女の顔を右下から左へと削ぎ落としたのだ。

 「ぁ・・・う、ぅ」

 血に沈んだような口から呻きが漏れてくる。

 生きてる!

 慌てて駆け寄りデータ変更を試みる。

 オレにはそれしかできない。

 治癒力と回復力を上げて新陳代謝を活発にする。

 だが、・・・まったく効果がないじゃないか!

 なにもかわらない。

 「血が止まった」

 女奴隷が、力が抜けたような声を落とした。

 血が止まった。流すだけの血がなくなったからか? 

 まさか、死んだのか?

 身体の中を氷塊が滑り降りる。呆然としながら抱き上げる。暖かい。息もしている。出血が止まったのは、身体の設定を変えて傷を塞げたからだった。

 ホッとする。

 じゃ、ねえ!

 なんだよ、使えねえじゃないか!

 削り取られた顔はそのままだ。千切られた右耳すら戻ってない。

 鼻も! 目も! くそ!

 「リリム! しっかりしろ、聞こえるか、わかるか」

 とにかく、声をかけ続ける。

 「ハルカ様!」

 肩を揺さぶられたのは、どれくらい時間が過ぎてからだろうか。疲労したせいか、さっきまでの怒りとか嘆きの発作は治まり、無力感だけがあった。

 ゾンビのような緩慢さで首を回す。

 「ご主人様!」

 ミーレスの心配そうな顔が視界一杯に広がった。

 「みーれす」

 かすれた呟きが漏れる。

 途端に思考回路が再起動した。現状が目と頭に映し出された。

 リリムと奴隷たちは変わらずいる。オレの顔を覗き込むミーレス。肩に手を置いているのは、この商館の主、奴隷商人のメルカトルだ。

 帰って来たのか。

 「今、医者を呼びにやらせております。ハルカ様はどうぞ、別室でお休みください」

 物腰は丁寧だが有無を言わせぬ迫力が、メルカトルにはあった。

 ここは従うべき、まだ多少混乱している理性の声に、オレは頷いた。いや、すがりついた。

 「・・・そうさせていただこう」

 ミーレスの手を借りて、ふらつきながらもオレは立ち上がった。

 「あの傷は治らないだろうな」

 リリムの顔とは呼べなくなった顔を思い起こしながら呟く。

 メルカトルの商館、普段は奴隷を売買する商談部屋でオレはソファーで項垂れた。

 「そう、ですね。かなり高位の治癒魔法士にでないと完治は望めません」

 なに?!

 「ふ、不可能ではないのか?」

 「おそらく。ただ、部分損壊の再生ができる治癒魔法士は数人しか知られていません」

 沈痛そうなミーレスの瞳を見上げる。その瞳が全てを物語っていた。

 世界に数人。

 王公貴族と金持ち専属と見ていい。

 本人の意思など関係なく囲われていたとしても不思議ではない。裕福だが自由のない生活。うらやましいと思うべきか哀れむべきか、迷うような人生。少なくとも、奴隷の顔を治してなどくれないだろう。

 本人はよくても周りが許すまい。

 「治癒魔法士になるには、どうすればいい?」

 なら、自分がなればいい。

 「治癒魔法士に、ですか?」

 困ったようにミーレスが首をひねる。

 「申し訳ありません。わかりません」

 「ああ、まあそうだよな」

 言ってみただけだ、というように笑ってみせる。笑えるぐらいには落ち着いたようだ。

 「とんだ災難に巻き込んでしまったようで、申し訳ありません」

 自分の図太さに呆れていると、メルカトルが入ってきた。その後ろから、戦闘奴隷らしいのと・・・騎士団の騎士も入ってくる。

 いつぞやの女騎士?もいる。

 先輩騎士の御付きをしているようだ。

 「いや、災難はメルカトル殿でございましょう。たいへんなことになっているようだ」

 立ち上がって挨拶をかわす。こちらには何一つやましいことはない。普段通りを心掛ける。まあ心掛けている時点で普段通りではないのだが。

 「それにしても、随分と間のいいところに居合わせたものですな。なにゆえ、盗賊どもが暴れていると知ることができたのですかな。是非、お聞かせ願いたいものだ」

 ああ、なるほど。

 オレも共犯と思われているわけか。

 「ハルカ様、申し訳ありません。わたしは止めたのでございますが、騎士団の方がお聞きくださりませんで」

 「いや、かまわぬ。状況を見れば怪しくも映ろう」

 似合わないと承知しているが、下手に出ると舐められそうだという雰囲気をひしひしと感じたので、思い切り尊大な態度で答えてやる。

 遮音されていると、ミーレスが言っていた。

 この騎士・・・おっさんは、異変を気付くことができないはず、気付くことができるならいの一番に駆け付けるべき騎士団がなにも知らずにいたのに、というわけだ。

 メルカトルが恐縮したようにソファを勧めてきたので、遠慮なく座る。

 ミーレスは立ったままだ。

 「わたしは、この裏の離れを借りて寝泊まりしていてな。毎日この時間に迷宮に入っているのだ」

 「被害者である私が、それについては証言しよう」

 すかさずメルカトルが補足した。

 「な、なるほど」

 女騎士?が、メモを取りながら相槌を打つ。

 「今日もいつものごとく裏の離れを出て、迷宮に向かおうとしたところ。商館の周囲を怪しげなものたちがうろついているのが見えた」

 「見ただけで、盗賊とよくわかりましたな」

 騎士は尋問に移りはじめた。メルカトルの表情が強張る。騎士をあまりよくは思っていないらしい。

 「その奴隷は、私どもの商館におりましたのでおかしいと思ったのでございましょう」

助け船なのか、メルカトルが口を挟んできた。ミーレスに視線を向ける。

 「そのとおりです。ランドリクさんがいませんでした」

 ランドリクさん?

 「うちの使用人です。先ほどご覧いただいた男です」

 「ああ、盗賊ごときに後れをとった役立たずだな」

 蔑むように、いや、いっそあっぱれなほどはっきりと騎士が蔑み、わらった。

 メルカトルの目が険しさを増した。奴隷商人がこうも感情を露にするとは。本気でキレかけているか、なにかを誤魔化す演技か。

 メモを取っていた女騎士?も、眉をひそめて騎士に視線を向けている。

 この子は正常な感覚をもっているようだ。

 「一度中に入ってしまえば、異変のあらましは明らかであった。捕らえるべきであったかもしれんが、わたしと奴隷だけでは成敗する他なかった」

 嘘は言っていない。途中、違うことをしてはいたけど。

 「なるほど。なるほど」

 いやらしい笑みを張り付かせたまま、騎士がうなずく。強盗現場で笑えるとは、どんな頭をしているか一度カチ割ってみたいも・・・ああ、みれるんだった。

 タグをみる。

 ラードラドー。なるほど、名は体を表すと言うが、しつこそうな名だ。どうでもいい情報は放っておいて・・・。トピックスを読んで絶句した。笑いたくて笑っているのではない。こいつは、笑うしかない状況なのだ。

 おもしろい。おもしろいけど・・・どうしたものか。

 「ら、ラードラドー先輩。た、隊長がくるまで待った方がひょいのではないれすか?」

 女騎士?が、躊躇いがちに進言する。

 相変わらず、びくついているというか落ち着かないというか。騎士らしくない子だ。実際、ジョブは戦士なわけだが。

 「隊長がくるまで待つのは無能な奴のすることだ」

 それは愚か者の言うことだ。しかし、隊長がくるのか。なら簡単だな。

 「・・・メルカトル殿。被害はどれ程か」

 騎士たちが、騎士団の仲間内で話をしているのをいいことに。こちらも勝手に話をさせてもらう。隊長とやらがくるまで間をつながせてもらおう。

 「使用人のランドリクが殺され、金庫が壊されました。ですが、おかげさまを持ちまして中身は無事です。ただ、リリムは・・・」

 沈痛そうな顔だ。奴隷商人というと、人間を物として扱う印象だが、メルカトルは奴隷を商品として扱うものの物とは見ていない。信用できそうだ。たんに、儲け損ねた、と思っただけかも知れないが。

 「金銭的な被害がないということは逃げた盗賊はいないのだな」

 リリムのことは意識的に流して聞いた。

 「そうだと思います、ですが」、とメルカトルは騎士たちに冷たい視線を向ける。

 オレの方には気遣わしげな。

 ああ、オレが引き込んでおいて仲間を皆殺しにし、金だけ奪うつもりでいた。とでも考えているわけだ。騎士団の方々は。

 メルカトル自身はそうは思っていないのに、騎士の方ははっきりと疑っているのか。

 その後。オレとメルカトルはミーレスを間に挟んで雑談を続け、騎士を無視し続けた。さすがメルカトル、空気の読める男だ。

 「よろしいかな」

 しばらくして隊長さんがやって来たので雑談をやめ、先ほの説明を繰り返した。

 「ふむ。道理にはかなっておるようだ」

 オレとメルカトルの主張を、隊長さんは認めた。

 「し、しかし!」

 慌ててラードラドーが口を挟んできた。

 「・・・どうであろうか。ここでこうして議論をしていてもらちがあかぬ。照魔鏡の確認をしてはいただけぬか」

 その瞬間、オレ以外の全員が顔色を変えた。

 え? あれ? ラードラドーは判るけど、なんで?

 「ご主人様。カードを・・・照魔鏡を嫌疑のために確認するのは相手に恥辱を与えるものとされています。使いようによっては、相手の感情面の状態までも読み取れるものですので。そこまでする必要がありますか」

 ミーレスが青ざめた顔で注意してくる。

 ただの身分証ではない。

 照魔鏡ならではの話だ。

 持ち主の内心の動きをすら表示してしまう照魔鏡を提示させるというのは、人前で服を脱がして持ち物検査をするようなもの、と考えられているわけだ。

 ありがたいが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 「もちろん、そうだろう。だが、このまま時ばかり無駄にしてもつまらん。さっさと終わらせてもらう」

 敢然と言い放ち、すかさずラードラドーを指差した。

 「ただし、オレ一人だけが恥辱に耐えるのは我慢ならぬ。この者にも、照魔鏡の提示を求めたい」

 「なあ?!」

 ラードラドーがすっ頓狂な悲鳴を上げた。無理もない。だが、隊長さんは乗り気だ。

 「それでよいなら、こちらも手間がなくていい」

 ラードラドーの慌てぶりに気付いた様子もなく、隊長さんが話を進める。

 「隊長、ま・・・」

 「・・・・・・出せ」

 ラードラドーの制止は無視された。

 「か、カードをみ、見せるだけです。焦ることはあ、ありませんよ」

 堂々とカードを出したオレと、なんとか逃れようとして女騎士に取り押さえられたラードラドーのカードが衆目の目にさらされる。

 オレのは真っ白だ。

 だが・・・。

 「え?」

 女騎士?が間の抜けた声を漏らす。それでも、抑えている手を反射的に強くしたのはさすがだった。見込みがある。

 ラードラドーのカードは真っ赤だった。毒々しいほどに赤黒い。

 「ラードラドー、貴様!?」

 隊長さんが剣を抜き、問答無用で殴りつけた。斬り捨てなかったのは尋問のため、なにより商館を汚して賠償請求されたくなかったからだ。

 沈黙が降りる。

 「・・・メルカトル殿」

 しばらくの時を置いて、隊長さんが苦々しげな声を吐き出した。

 「この者を、一時預かっておいてもらえぬか。尋問が済めば、そのまま商品にしてくれてかまわぬ」

 「・・・働き盛りの騎士崩れ、買い手はつきましょう。わかりました、引き受けさせていただきます」

 「頼む」

 慇懃に礼をするメルカトルに軽く頭を下げ、隊長さんはオレに目を向けてきた。

 「貴殿には迷惑をかけた。しかし、なにゆえこやつが盗賊に身をやつしていると知っておられたのか?」

 知っていたわけじゃない。

 タグを読んで盗賊と癒着していると知っただけだ。

 「・・・出所は申せませんが、騎士の中に盗賊と通じている者がいるとの話を以前耳にしておりました。今朝までは信じておりませんでしたが、此度の事件を見るにそうであれば納得も行く。そう思ってみると、彼の挙動はいかにも妖しかった」

 「確かに、妙でしたな」

 「騎士らしくありませんでした」

 メルカトルとミーレスがオレの発言に同意をかぶせる。

 女騎士?も控えめながら頷いた。

 騎士と盗賊が癒着している、との話と今回の事件には実は何一つ関連はないのだが。

 「なるほど・・・」

 その勢いに乗せられたのか、隊長さんは重々しく頷くと女騎士?・・・いや、女騎士アダーラを引き連れて去って行った。あの油野郎よりは緑髪美人の方が騎士として有望だ。?は失礼だった。

 メルカトルのところの戦闘奴隷も騎士改め盗賊の男を抱えると出て行く。

 部屋にはメルカトルとオレたちだけが残った。

 「いや、お見事でした。盗賊どもを一掃した手腕も、騎士が盗賊になっていると見抜いた慧眼も、いや、見事でございました」

 オレに再びソファーを勧めたメルカトルが、自分も座りながらそう言ってきた。

 ミーレスが自慢げに胸を張るのが気配でわかった。

 メルカトルに対して相当強くアピールしているのではないかと思う。

 「たまたま、めぐりあわせがよかったようです」

 威張るのも妙なので、そう言っておく。この世界、侮られていいことなどないだろうが傲慢だと思われてもいいことなどないだろう。あまり目立つものではない。

 「ところで、先程のお話を少し聞いておりました」

 「話しとは?」

 「治癒魔法士のことにございます」

 ああ、とうなずく。

 そんな話もしていたのだった、と。

 とんでもない元騎士の騒動で忘れていた。

 「実は、エレフセリアにあります治療院が、売りに出る手はずになっております。そこの持ち主であった治癒魔法士も込みで」

 魔法士も・・・?

 人付き物件って・・・家具付きなら昨今普通にあるが。

 いやいや、ここは現代日本ではない。が、普通に奴隷が売買されている異世界。そんなものがあっても不思議ではない。

 「それはよくあることなのですか?」

 「普通はございません。奴隷となるとしたら、その前に家などは売り払うものです。それでも足りなくて自分を売ることになるわけで、ですから家と自分を一緒に売るというのはまずございません」

 当然、そうなるよな。

 ではなぜ?

 「その治療院は以前はそこそこ流行っていたそうなのですが、経営していた夫婦が突然の事故で亡くなりまして、娘が継いでからは業績が落ちる一方、なんとか持ち直そうと踏みとどまり続けた結果、借金が膨らんだとか。そのため家を売っただけではどうにもならず自分をも売ることになったようです」

 なるほど、どこかで見限っておけば家を売り、身一つで再起も望めただろうにそれをしなかったために動きが取れなくなったと。

 ありそうな話だ。が・・・疑問が浮かぶ。

 なぜ、いま、オレに言う?

 つい先日無一文だった・・・いや、そうだ。オレは『異世界人』。勇者とは浅からぬ関係を持つものと思われているのだ。

 そこから推測すれば、金を持っているだろうとも考えられるわけか。

 もしかすると、離れからさっさと出て行ってほしいとも思われているかもしれない。

 「以前から、業界内では有名な話だったのですが・・・いかんせん値が張りますもので買い手がつかないだろうと言われていた物件でございます」

 「・・・興味はありますが」

 「正式に奴隷商に権利が渡ったのがつい先日でございますので、公式には今だ売りに出ておりません。わたしに売り手を紹介させていただければ少しはお安く、即座に、お買い求めいただけますが・・・?」

 「むぅ・・・」

 家などいまいま欲しいというものではないのだが・・・金はある。

 廃坑――金蔵――が思い浮かんだ。

 問題は・・・。

 「一度物件を見ないと返事のしようがない。見せてもらってから検討しよう」

 家はともかく、それについてくるという『娘』には興味がある。綺麗な子だったら買ってもいい。

 だいいち、あそこにあるのがいくらくらいなのか数えてみなければならないし、その家の売値がいくらなのかもわからない。

 一軒家ではあるようだが広さは? 部屋数は? なにもわかっていない。

 「それもそうでございますな。では先方に掛け合っておきます。明日、もう一度お尋ねくださいませ」

 そうしてくれ、と告げてオレは席を立った。

 朝食の時間――街の食事処が開店する時間――まではまだ少し間がある。

 迷宮に行っておきたい。


 結果を予想してはいたが、あんなにうまくいくとは思わなかった。

 盗賊の見張りを殺したときの方法のことだ。

 あれはほとんど、魔法だった。

 ならば、本当に魔法のようなことはできないだろうか?

 試してみたかった。早く。

 「これからちょっと、ある能力を試してみる。失敗したときのフォローを頼む」

 「能力、ですか? わかりました」

 ともかく、魔物を探す。

 オレのマッピングでの、敵の位置把握はだいたい半径七十メートルらしいことが分かってきている。その範囲に魔物がいれば、そは獲物だ。

 すぐに接敵する。

 おなじみの角兎だ。

 向こうから襲い掛かってきた。

 相手に遠距離攻撃能力がない以上、こちらはただ待っているだけでいい。

 さっきは、空気の振動を抑えた。

 なら、今度は温度を変えてみたらどうだろう?

 魔物の周りにある空気の気圧を下げた上で、近くに漂う埃と酸素の温度を発火温度まで上げる。

 火が着いた。

 予想以上に高い温度の炎が、魔物の体を取り巻いた。

 兎はそのまま突っ込んで・・・オレの数歩手前で突然立ち止まった。と思ったら上から潰されたかのように倒れ込んだ。

 おお。うまくいった。

 「素晴らしいです!」

 ミーレスが褒めてくれる。

 だが・・・。

 「これだと、あまり魔力を吸収できないな」

 そう。

 カードが魔力を吸収してこそ、レベルアップや金儲けもできるというのに、遠距離攻撃では楽な半面、そういったうまみは激減してしまう。

 面白くない。

 「再考の余地あり、と」

 『ドロップアイテム』の『兎の皮』を拾い上げる。

 きれいに鞣してあって正方形だ。

 使い勝手はいいだろうが、ついさっきまで動き回っていたヤツが、と思うとすごく違和感がある。

 魔力で構成された魔物とはいえ、でたらめすぎやしないか?

 まぁ、いい。

 無理やり現実として飲み込む。

 こんなことで悩んでいても仕方ない。

 ゲームでだと魔物やモンスターが、薬を持っていたりアクセサリー持ってたり金を持っていたりするのも当然だったのだ。

 そんなものだと割り切る。

 そこからは、普通に狩りを行った。主にミーレスが。

 オレは見学しつつ、能力の使い方の検討を続けていく。

 結局、一日かかっても結論は出なかった。

 稼ぎは多かったので良しとしよう。



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