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異世界で家を買いました。  作者: 月下美人
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らんち


 ミーレスを連れて、ディバラの商人ギルドへと転移した。

 後片付けとテーブルメイクはフェリシダとリリムにお任せだ。

 時間は11時48分。

 完璧なタイミングだろう。

 相手が時間に関して普通の感覚を持っているなら、数分後には合流可能なはずだ。

 「ご主人様」

 そう思いながらギルド内を見回していると、ミーレスがなにかを指さした。

 指さされた方に振り向くと、トランクを引きずるようにして、マティさんがギルドの二階から降りてきている。

 中にいたのか?!

 盲点だった。

 外から入ってくるものとばかり思って、入り口を見ていたよ。

 「時間どおりですわね」

 疲れを滲ませた微笑みで、マティさんが会釈した。

 「マティさんも」

 見事に五分前だ。

 時間にきっちりしている人との待ち合わせは気分がいいものだな。

 立ち話もなんなので、すぐに転移に入ろう。

 その前に・・・。

 「あ・・・」

 マティさんが重そうにしているトランクを受け取ろうとしたら、ミーレスに先を越されてしまった。

 女性の荷物を持ってあげるのが紳士の嗜みなのだがな。

 奴隷を持つ主に、その特権は許されないらしい。がっくりしていると、それに気が付いたらしく。ミーレスがちょっぴり落ち込んだ眼をしていて、マティさんは苦笑をごまかすように指先で頬を掻いていた。

 しかたがない。

 オレたちは『移動のタペストリー』を使って帝都に行くと見せかけて、家の移動部屋へと転移した。

 「リリム」

 移動部屋から出て、ダイニングに出るとすぐにリリムを呼んだ。

 マティさんにトランクを開けてもらい、『ロックロック』をリリムに持たせる。

 「元に戻しておいてくれ」

 時間がずれていないことを確認して、頼んだ。

 「戻してきますね!」

 元気な返事とともに、『ロックロック』を持とうとするリリム。

 小さな体で元気溌剌。そんな姿に、オレの中でのいたずら心が刺激されたようだ。脳内に、ある光景が浮かび上がる。

 「なぁ、リリム」

 「はい?」

 トランクに屈みこもうとしていたリリムが、スッと立った。

 「返事をするときさ、こうやってくれるか?」

 そう言って、思い浮かんだ仕草をやってみせる。

 脚をそろえて立ち、首を少しだけ左に捻って、指をピースの形にして人差し指と中指を額に当てる。

 「えと・・・こうですか?」

 オレのほうを真剣に見ながら、マネをして、リリムが確認してくる。

 「うん! かわいい!」

 拍手した。

 めちゃくちゃかわいい!

 なぜ、今までやらせていなかったのかと不思議になる。

 ポンッ! と音がしそうな勢いで、リリムの顔が赤くなった。

 「こ、これからは、お返事のときこうしますねっ!!」

 ビシッ、と再びやって見せてくれる。

 もう可愛くて可愛くて、自分の顔が溶けてやしないかと不安だ。いや、たぶん溶けているのだろう。リリムが、キラッキラの笑顔で、何度もポーズをとってくれたから。

 「な、なんか。豪華ね」

 リリムがリビングから戻ってくるのとほぼ同時に、メティスもダイニングにやってきた。

 テーブルの上を見て、目を見開いている。

 「かかった食費の安さを知ったら、そうは思わないだろうけどな」

 事実、ありえないほど安いので、嘘ではない。

 ただ、メティスの言う豪華とは、油と砂糖の大量投入のことかもしれないというのはある。だとすれば、うん、豪華と言えるかも。

 さて?

 彼女たちの様子をうかがいながら、食べ始める。

 海鞘は確かに鮮度がよかった。

 独特の甘みが濃く出ているし、玉ねぎとの相性も素晴らしくいい。

 サラダは完璧だ・・・と言いたいが、レモンがひと絞り必要だったな。

 イカも弾力がありながら、噛み切れないということはなくて柔らかい。パセリの風味と衣のカラッと感も食欲を誘うし、ゲソもサクッと揚がっていてなかなかにうまい。

 スズキのシソ揚げも、たんぱくになりがちな白身魚ながらも脂の乗った新鮮さ。しかも銀皮が残っているから旨味が余すことなく出ていて味に深みが出ている。噛むと、シソの香りが口いっぱいに広がって、油臭さなんかみじんも感じさせない。

 ダシを取って、塩とネギを入れただけのアラ汁が、さっぱりとした塩味で口の中をすすいでくれるから、しつこくなりがちな揚げ物だらけでも全然いける。

 毎回大好評の揚げパンは言うに及ばず。

 我ながら最高にうまい。

 「お、おいしい、です」

 信じられない!

 そんな顔でミーレスが褒めてくれた。調理を半分は自分がしたというのもあって、感激しているらしい。

 まぁ、感激している最大の理由は、あんなゲテモノが材料なのに、ということなんじゃないだろうかと思わないでもない。

 「・・・これ、食べたことのない食感ですわ。いったい、材料は何なんですの?」

 イカのパセリ衣揚げをフォークでつつきながら、マティさんが聞いてきた。

 「名前を言っても知らないでしょう。あとで、現物をお見せしますよ」

 悲鳴を上げられるかもな。

 覚悟はしておこう。

 「それより、綿花以外に商品になりそうなものは見つかりましたか?」

 話題を変えた。

 「駄目ですわね」

 マティさんはゆっくりと首を横に振った。

 「移動費を考えるとどうにもなりませんわ」

 チラッ、ではなく、ギロッ、という目がオレに向けられた。

 視線に殺傷能力があるとしたら、今のオレは瀕死だっただろう。

 オレが直接運んでいるからこそ、綿花は商売になっている。だが、オレは冒険者であって商人ではない。

毎日毎日商品を運んでばかりもいられない。

 それが気に入らないようだ。

 でも・・・。

 「移動費が0なら、どうですか?」

 聞いてみる。

 「それでしたら、どうにでもなりますわよ。ですが、移動費0はあり得ませんでしょう?」

 あなたが一日中運んでくださいますの? と挑戦的な笑みを浮かべて、マティさんがオレを見ている。

 そういえば、聞こうと思っていながら聞きそびれていたな。

 「『移動のタペストリー』に使われている『魔力蓄蔵・供給器』って、個人で持つことは許されているんでしょうか?」

 「『魔力蓄蔵器』ですか? ええ、持てますわよ? 別に使用制限はありませんもの、というよりその必要がないと言うべきですわね。魔力を買い取るのにお金がかかりますから。個人で持てるとしたら、奴隷から徴収できる奴隷商人か、裕福な貴族ぐらいですわ」

 「それと、魔力が余っているオレたち、ですね」

 にやり、と笑って見せた。

 オレはもちろん、ミーレスたちの照魔鏡も常時魔力で満タン状態だ。魔力蓄蔵器を手に入れられるなら、毎日補充することが可能。あとは適当な『移動のタペストリー』を手に入れれば、必要なポイントへの入り口をオレが作れる。

 もちろん、『移動のタペストリー』を多数用意できれば、複数の入り口を作ることも可能。『アルカノウム連合』に所属する支部や工房を『移動のタペストリー』で繋げば移動は格段に便利になる。

 カクン・・・。

 オレが展望を語ると、マティさんの顎が落ちた。

 口が、卑猥な形に開いていて、ちょっとムラッとしてしまった。

 「そ、それは思いつきませんでしたわ! そんなことが可能だなんて!?」

 数秒で立ち直って、マティさんが興奮気味に拳を握りしめた。

 「とりあえず、ディバラのコレニ―とセブテントの公爵様、マチリパトナムの街とをつなぐことができればかなり変わってきますわね!!」

 「それと、『アルカノウム連合専属タキトゥス工房」と『アルカノウム連合所属銅製金属加工ハダット工房』とがつながれば、サイフォンの生産ラインの構築もできます』

 「素晴らしいですわ!」

 それだけではない。

 それができれば、オレが物を運ぶ必要がなくなる。

 『交易許可証』は商人ギルドが存在する街での取引を可能にするためのものであって、『アルカノウム連合』所属の支部や工房には関係ない。

 オレ以外の人間に任せても、誰からも文句は出ない。

 迷宮にこもる時間をさらに一時間増やすことができるわけだ。

 「『魔力蓄蔵・供給器』どこで手に入りますか?」

 「『タキトゥス工房』に在庫があるはずですわ。緊急に必要になることもありますので、切らすことはないはずですから。それと、『移動のタペストリー』は帝都の冒険者ギルドに行けば買えます」

 どちらも、手に入れるのが難しいものということはなさそうだ。

 こんなことなら、もっと早くに聞いておくんだったな。

 「帝都には今夜、夕食を食べに行くつもりだったんです。冒険者ギルドにはそのときに寄るとして、『タキトゥス工房』には、昼休憩が終わったらすぐに行きますか?」

 食事後のコーヒーはネルで我慢するとして、昼一で『タキトゥス工房』に行くなら、夜はサイフォンでコーヒーが飲めるかもしれない。

 「そうですわね・・・あ、いえ。ダメですわ。昼からは帝都へ行かないといけませんの。いくつか手続きをしておく必要がありますので」

 残念。

 「でしたら、夕方は帝都の冒険者ギルドで落ち合うとしましょう」

 リティアさんにもディナーの誘いをかけているし、そこで『移動のタペストリー』を入手、『レマ・ティコス』でディナーとする。

 『魔力蓄蔵・供給器』は明日にでも手に入れればいい。

 「あら? おごっていただけますの?」

 胸に手を置いて、しなを作ってきた。

 うあ。

 突然大人の女性を演出するのはやめてほしい。

 ドキッとさせられてしまう。

 なにが腹立つって、そうと気付いたマティさんが「上を取れましたわ」と、目の奥で笑っているってこと。

 て、全然大人じゃないじゃん!

 子供なマティさんはかわいいから好きだけど!

 「では、そういうことで」

 夕方の予定が決定した。

 「ねぇ」

 と、会話が途切れたところで、意外な人物の声がした。

 「ん? どうした?」

 珍しいことに、メティスの方から話しかけてきていた。

 マティさんとの会話が途切れる頃合いを見計らっていたのだろう。

 少し早口になっている。どうしても話さないといけないことがあって、止められないうちに、と焦っているようだ。

 「帝都に行くの?」

 「ああ、そうだが、それが?」

 「私も連れていってもらえるかしら?」

 「かまわないが、帝都に何か用があるのか?」

 「明日の打ち合わせよ。治癒魔法士ギルドの本部に出頭して順番を決めるの」

 そうか。

 治癒魔法士にもギルドがあったのか。

 それはいいが・・・。

 明日?

 「明日、なにかあるのか?」

 聞くと、メティスがあからさまに大きな溜息をついた。

 「祭りよ。ギルド加盟の地元出身の治癒魔法士は、毎年会場で医療活動するの。人数が足りなければ、本部や支部から応援も来るわ」

 ああ、祭りか。

 「って、まだやってたのか!?」

 カロンと出会ってからずいぶんと経つぞ。

 「まだって・・・。始まってもいないんだけど」

 責めるような金色の瞳が、とっても綺麗。

 「いや、だって露店が・・・」

 「ああ、あれ」

 呆れた感じにメティスがつぶやく。

 「あれ、祭りとは関係ないの。畑仕事が一段落した人が勝手に店を出して小金を稼いでいるだけなのよ。祭りのお囃子は明日の練習の音だしね」

 「ああ、それでですか。禁止されているマグルマグルがあったのは。ずいぶんと緩いと思っていたのですが、正規の手続きを踏んだものではないからだったのですね」

 腑に落ちた、とばかりにアルターリアが「なるほど、なるほど」と頷いている。

 そういえば、ミーレスたちが祭りの武闘大会に出るとか言っていたのに、何も言ってきてなかったな。

 そうか、祭りは明日なのか。

 なら、明日も迷宮は休みだな。

 うん。決定。

 それはそれでいいとして、今日のこれからか。

 「なるほどな。で? メティスのその用事ってどのくらい時間がかかるんだ?」

 「そう、ね。・・・ゆっくりと食事をとるぐらい、かしら」

 ああ。

 時計がないと、こういう表現になるのか。

 食事をとるくらい、ってことは30~40分ぐらいってことだな。

 長時間って程のものではない。

 「だけど・・・」

 「ん?」

 考えていると、メティスが言葉を続けた。

 「リリムちゃんのこと、ギルドに入れるつもりがあるのなら。もっと時間かかるわね」

 おっと。

 そうか。リリムも治癒魔法士だ。もしもギルドに入れるつもりなら、帝都に行ったついでに手続きを済ませるということか。

 「ギルドに入ったとして、メリットとデメリットはなにかある?」

 商人ギルドと敵対しようかという状況にいるオレとしては、治癒魔法士ギルドがどんな組織かわからないうちは、慎重にならざるをえない。

 「メリットは治癒魔法士として開業するとき、手続きが楽になるってことね。デメリットは住所とか登録するから災害や戦争、疫病の発生時に、半強制的に召集掛けられる可能性があるわよ?」

 「却下。リリムはフリーでいい」

 召集が掛けられるようなリスクはいらない。

 すでに治療院がある現状、開業することなどありえないしな。

 メリットがなくてリスクがあるものに、誰が入れるか。

 でしょうね、とメティスは肩をすくめている。

 でも・・・そうか。

 「片付けが終わったら、全員で帝都に行くぞ」

 「全員、ですか?」

 ミーレスが聞いてくる。

 「そうだ。ミーレスはオレ、シャラーラはマティさん、アルターリアはメティスの護衛。リリムとフェリシダはオレのお供な」

 リリムはめったに帝都に行く機会がない。たまには一緒にぶらついてみよう。




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