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異世界で家を買いました。  作者: 月下美人
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へんか


 家に帰ると朝食の支度が始まる。

 アルターリアは火と水の担当。鍋に水を入れ、火をかけてお湯を沸かして待っている。

 シャラーラはサラダ専門だ。菜園にある食べられる葉野菜とハーブを摘んできて水洗いしてボウルに入れてある。

 テーブルメイクはリリム担当。テーブルクロスを敷いて、フォークやスプーンを並べている。

 アルターリアが精霊を使って火加減を見てくれている中、フライパンを火にかけて温め、油を引いてハムと卵二個を入れてハムエッグを作るのがオレの担当、だったわけだが・・・。

 「こんな感じだけど、できそう?」

 「難しいということはなさそうです」

 一度やって見せて聞くと、フェリシダは控えめながら自信ありげに答えた。オレと場所を入れ替わって、フライパンの柄を握る。

 手慣れた様子でフライパンを小刻みに揺らしながら、調理をはじめた。

 危なげなく、ハムエッグを作ってみせる。

 「大丈夫そうだね。じゃ、そのまま全部で七人分作る。フェリシダ、君のもってことだよ? 食事は全員で一緒に食べるからね?」

 「いえ! わ、わたくしはっ!」

 「拒否は認めませーん」

 ムンッ! と睨みつけてやった。

 あわあわと戸惑っていたフェリシダが、困ったようにオレを見返して・・・。

 「わ、わかりました・・・そうさせていただきます」

 折れた。

 よし!

 フェリシダがハムエッグを作っている間にミーレスがパンを食卓に配置。

 買ってきた野菜と用意していたものを和えて、シャラーラがサラダを作り、リリムが運んできて並べる。

オレはそれを眺めるだけでよくなったわけだ。

 たいしたことではないが、楽になった。

 ミーレスがそれを好ましげに見ている。

 一家の主たるものいつもいつも厨房にいるべきではない、とでも言いたかったのだろうか。だからといって自分が料理できるわけでもないので、言わずにいただけで。

 たぶんそうなのだろう。

 12人掛けダイニングテーブルのキッチン側、右から三番目にオレ。その正面にミーレス。オレの右にリリム。リリムの前がシャラーラ。ミーレスのオレから見て左にアルターリア。その左に一つ空けてメティスが座っていた。

 ゲストのマティさんはメティスとは真逆のシャラーラの隣の隣に座ることになっている。

 ここにフェリシダが加わる。

 席はメティスの向かいになった。

 その席順で朝食。

 軽く迷宮での戦い方なんかのミーティングもしながら、食事を楽しむ。

 そして、ここからだ。

 昨日までなら、朝食後のスケジュールはこうだ。

 メティスは治療院に。リリムは菜園にと出ていく。

 ゲストのマティさんはもちろんオレがバララトかマチリパトナムへ送っていくので家事には関係ない。この家の住人じゃないんだから当然か。

 アルターリアが食器を洗って、シャラーラが家中を掃き掃除を始める。食器を洗い終えたアルターリアがシャラーラのあとを追って拭き掃除をする。

 ミーレスは洗い場でオレの髭を剃ってくれて、顔を拭いてくれる。

 さっぱりしたオレが、掃き掃除が終わるの待ちながらリビングか外に作ったカフェテラスに座ってボーっとしていると、ミーレスがコーヒーを淹れてきてくれる。

 オレはコーヒーを飲むだけだが、ミーレスはミルでコーヒー豆を挽いたり、カップを温めたりもしなくてはならないので40分ぐらいの時間がかかる。

 掃き掃除の終わったシャラーラを連れて交易に出ると、アルターリアが一人で残りの掃除をし、ミーレスはコーヒーの道具を片付ける。

 交易から帰ってきたオレは一息入れつつ、掃除と洗濯が終わるのを待つ。

 ここでも30分は待つことになる。

 そうしてようやく、迷宮へ行く。

 というようなことをしていた。

 それが、今日からは変わる。

 朝食が終わって、メティスが治療院に、リリムが菜園に行くことは変わらない。

 変わるのはそれ以外だ。

 人が一人、それも即戦力が増えたことにより、朝食の支度が格段に楽になるから、コーヒーを淹れる準備をミーレスが朝食の支度中に行えるようになる。

 だから、コーヒーを飲むタイミングが交易から帰ってからではなく、朝食後すぐになる。

 アルターリアが食器を洗って、シャラーラが家中を掃き掃除を始める。食器を洗い終えたアルターリアがシャラーラのあとを追って拭き掃除をする・・・必要がなくなった。

 食器洗いはフェリシダがする。

 掃除もオレたちが迷宮にいる間にフェリシダがする。

 ミーレスが洗い場でオレの髭を剃ってくれて、顔を拭いてくれるのは変わらず。

 さっぱりしたオレが、シャラーラを連れて交易に出る。

 掃き掃除の終了を待たなくてよくなったわけだ。

 洗い上がりが人の手でするよりきれいなので、アルターリアがウンディーネで洗濯するのは変わらないとして。

 掃除の終わりを待つ必要がなくなるから、オレが交易から帰ってきたら、すぐに迷宮に行けるようになる。

 迷宮に行く時間が一時間早くなる。

 地味だが、これはかなり大きい。

 オレのマップ機能のおかげで、敵との遭遇にかかる時間が少ないから、一時間違うと接敵数が4回から5回分増えるのだ。

 稼ぎが増える。

 レベルも上がる。

 魔力も溜まる。

 攻略が進む。

 いいことづくめである。

 「すばらしい」

 その事実に気が付いて、思わずにやけてしまった。

 「ま、今日は迷宮行かないけどね」

 寝不足だし疲労も溜まっている。ついでに魔力もカードに満杯だ。

 無理して迷宮に行ってもしょうがない。

 「あら、そうなんですの?」

 着替えてきたマティさんが、不自然なくらいのにこやかさで聞いてきた。

なにかあったのかな?

 と考えて、背中を氷塊が滑り落ちるような感覚を味わった。

 あれ?

 ちょっと待て。

 昨夜、寝室の防音はどうしてあったっけ?

 クレミーたちがいた時のように防音だったろうか?

 もしかして・・・背中に変な汗がダラダラ流れる。

 ま、まさ・・・か?

 い、いや、大丈夫。

 クレミーたちがいなくなったあとも寝室の壁と床の設定値は変えていない。今も防音のはずだ。

 あ、あぶねー!

 相手がメティスなら構わないが、ゲストのマティさんに一晩中『アンアン』を聞かせるのはまずすぎる。

 「あ、あの、なにか?」

 「いえ。それでしたら、お昼ご飯もこちらで頂けるのではないかと思いまして」

 ああ、なるほど。

 迷宮に行くと、マティさんのことは朝送っていって夕方迎えに行くぐらいしかできないが、迷宮に行かずに家にいるのなら、お昼も迎えに行って一緒に食事ができるわけだ。

 だが・・・。

 「時間、わからないですよね?」

 双方で合図を送り合うアイテムか、時間を合わせた時計がないと待ち合わせは難しい。

 この世界にはスマホはもとより腕時計すらない。

 普段はオレたちにマティさんが合わせる、というか待ちぼうけしてもらうことで待ち合わせが成り立っていたが、昼時に合わせようというのにそれはかなり難しい。

 「あ、あー・・・そう、ですわね」

 すごく残念そうに、マティさんはうなだれた。

 「荷物が大きくなっていいなら・・・リビングの時計もっていきますか?」

 「はい?」

 思い付きで言ってみたら、なんかすごく驚かれた。

 「リビングに掛けてある『ロックロック』が12時を指したら迎えに行くってことにして、あとは合流する場所を決めておけば待ち合わせできますけど」

 「・・・時計というのは知っています。祖父の家にもありますから。ですが、時計が示す時間はかなりずれると聞いていますが?」

 ずれるというか・・・バラバラなのでは?

 「祖父の家にあったのは勝手に時間を示すタイプで、かなり希少なものでしたが同じ街にある別の時計は同じ時間を示すのに、『移動のタペストリー』で別の街に行くと一時間ズレていたという話を聞いたことがあります」

 一時間・・・って?!

 「時差か!」

 神々は地球と同じ基準で時間を決めているということだ。

 そうか、そりゃそうだ。

 オレの脳内時計がちゃんと時差を示すんだから、自動――間違いなく魔法――で時間合わせをする時計があるのならそうなるよな。

 「じさ・・・?」

 「あー、いえ! なんでもありません!」

 不思議そうに小首を傾けられたので、慌てて打ち消した。

 説明しようとしたらすごい時間がかかりそうだ。

 時間の概念と、一時間の割り出し方を説明するには惑星の動きと公転周期まで説明しないといけなくなる。

 世界標準時とか言い出したら、納得してもらうのに四日はかかりそうだ。

 しかも、ちゃんと説明できる自信がない。

 無謀だし、無意味だ。

 「とにかく、オレにはその時計とまったく同じ時間を示す時計がもう一つありますし、持ってってもらう時計は手動で時間を合わせるタイプなので、よその土地に行っても勝手に時間を狂わせたりもしません。ですから、可能です・・・荷物にはなりますけど」

 「・・・今。なにかを諦めましたわよね?」

 ジトッ、とした目がオレを見てくる。

 思わず斜め45度の方角を向いて口笛を吹きそうになった。

 「・・・・・・」

 我慢してそのまま耐える。

 後ろ頭に汗のマークがついてやしないだろうか?

 「・・・はぁ。まぁいいですわ。説明していただいても理解できないのでしょうし。ですが、お昼を頂けるというのは理解できました。荷物になるぐらい、かまいませんわ。持っていかせていただきます」

 ということなので、さっそく『ロックロック』をリビングの壁から外して、マティさんのトランクに入れた。

 「・・・旅行に行くような荷物になってしまいますわね」

 トランク片手に、マティさんが苦笑しているが、だからといってやめる様子はない。

 「今日はどこですか?」

 支度が整ったようなので聞いた。

 帝都か、マチリパトナムか、バララトか。

 「ディバラでお願いしますわ。綿花以外の農作物にも手を広げられないか調べてみたいので」

 ディバラ?

 コレニ―のいる街、つまりレベリオの一味に襲われたところだ。

 「えーっと。そこ、盗賊とか多いんですけど大丈夫ですか?」

 心配になって聞いてみる。

 「大丈夫ですわ。商談に出向くだけの商人を襲う盗賊なんていませんもの。危ないのは買い付けに行く商人です」

 マティさんはコロコロと笑ってのけた。

 現金を持っている相手でなければ、襲う意味がないということか。

 商談がうまくいけば、金回りのいい人間が増える。襲うのはそれから、というわけだ。

 「わかりました。では、ディバラの商人ギルドへ行きます。迎えはコレニ―のところにしますか? 商人ギルドですか?」

 「商人ギルドでお願いします」

 話は決まった。

 マティさんと二人で転移する。


 ディバラの商人ギルドにマティさんを送り届けて、ついでにエレフセリアの家具屋に行ってベッドを二つ買った。

 フェリシダ用というだけなら一つでもいいのだろうが、これからのこともある。一つ余分に買っておいたとしても無駄にはなるまい。

 ただ、惜しむらくは昼過ぎには届けてくれるというから、今夜のオレのベッドにフェリシダはいないことになる。ちょっと悲しい。

 「おお」

 家に帰ると、庭先が洗い物で埋め尽くされていた。

 掃除という仕事がなくなったもので、ミーレスたちは手が空いてしまったようだ。

 シーツやらカーテンやら家中の布製品を洗いまくったのではないだろうか。

 「て、シーツとカーテンは治療院のか?!」

 家中の、どころじゃなかった。

 アルターリアが片っ端からウンディーネを使って洗い、ミーレスとシャラーラが共同で干している。

 「うあ・・・」

 よく見ると、リリムとフェリシダまでもが、治療院からカーテンとシーツを運び出していた。

 フェリシダ、恐ろしい子。

 どんだけ掃除の手際がいいんだろうか。洗濯の手伝いができるということは、掃除は終わっているということなわけで。

 「あの・・・クレミーさんたちが掃除したあとだからです」

 驚愕のあまり立ち尽くしていると、見かねたように近づいてきたミーレスが、タネを明かしてくれた。

 そうだった。

 徹底的に掃除したばかりなのだ。

 ふと目を向ければ、菜園も雑草一つなく綺麗だった。これでは洗濯するぐらいしかやることがないのもうなずける。

 わかった、と頷くとミーレスは作業に戻っていった。

 せっかくの機会だから今のうちにやってしまおうというつもりのようだ。

 時間があるときならばこそ、やるべきことが他にあるとすれば・・・と、コホン!

 昨夜の狂乱乱舞の再現はやめておこう。

 リリムの精力回復を試してみてもいいが、さすがに気が引ける。

 とするとほかには・・・と考えたら、あった!

 やろうと思っていながら、ついつい放置していたことがある。



次回更新も来週のこの時間に行います。

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