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異世界で家を買いました。  作者: 月下美人
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しんそしき


 昼休憩明けの会議は、のっけから紛糾した。

 誰も彼もが、昼を食いながら考えを巡らせていたのだ。次々になされる提案、すかさず叩きつけられる反論。冷静に挟み込まれる折衷案。

 『異世界人』という看板を持つオレを盟主に担ぎ上げれば、たいていのことはゴリ押しで何とかなる。などという粗暴な話が上がって、「表舞台に上がる気はない」とミーレスたちを背に殺意すら漂わせて却下したりもした。

 「すまんが、ハルカ様と言われたな。表舞台に出たくないというのはやむなしと思いもするが、それならば知恵の一つくらい貸してもらえんか。わしらには答えが出せぬ難問も『異世界』の知識があれば何とかなりはせぬだろうか?」

 村長たちによる喧々囂々の話し合い、あるいは罵り合いに疲れた様子の町長に呼び寄せられたオレは救いを求められた。

 ふと見れば、額に汗したマティさんも何か訴えるような顔をしている。

 いま、彼らが問題にしているのは、自分たちで新しい組織を作り上げるのはいいが、どのみち街単体と変わらないじゃないか、ということだ。

 これでは窓口を自分たちで作る、という程度のことにしかならない。

 後ろ盾と呼べる力はないままということになる。

 「知恵というほどのことではないんですけど・・・」

 議論を聞いていて引っかかったことを口にしてみた。

 まず、なぜ『マチリパトナム』の街だけで組織づくりをしようとしているのか? という疑問だ。別の組織との連携を考えようとする様子が見られなかったのが不思議だった。

 「それでは結果として同じだろう。大きな組織に飲み込まれるだけで、自主独立など望むべくもない」

 当たり前だろう、と村長の一人が喚いた。

 何人かの村長が、その通りと頷く。

 「大きな組織にこだわるとそうでしょう。ですが、どんな組織にも主流派がいれば、その派閥に疎外されている非主流派がいます。またはそもそも組織にハブられているような

 ものもいるはず。そういった非主流派や組織から外れている者たちを集めればいい」

 「ふむ。弱き力も数を束ねれば戦う力となる、ということか」

 村長の中でも冷静なものが理解を示してきた。

 数は少ないが、何人か考え込んでいる様子がある。

 「そうです。単一の力にこだわるから難しくなる。弱くていい、ただし目的は同じ、そういう力を集めるのです」

 専制政治に民主主義を持ち込もうという考え。ある意味革命を指嗾しているような感じだが、今のところ政治的な意図はない。あくまで経済戦なのだ。

 「集めるといっても、なぁ?」

 村長の一人が、首を傾げた。

 「他の街を取り込んでも・・・」

 おっとっと・・・。

 そこから説明しなきゃならんのか。

 「取り込むのは街に限りません。どんな組織にも、と言いましたように貴族や大商人、工房、ギルド、何でもいいんです。我々と主義主張を同じくする者たちを片っ端から集めて共同体に取り込めばいいんです」

 もっと言えば主義主張なんてものがないようなのでも構わない。

 協力さえしてくれるなら。

 その協力だって、永遠になんて求めない。必要な時に必要なだけでいい。

 むしろ、延々とくっつかれて権利とか主張されるよりも、利害が一致した時だけ助け合う相手の方が便利ですらある。

 貴族に政治力、大商人に資金力、工房に技術力、宗教組織に人間力、ギルドに情報力を提供してもらう。それぞれの得意分野で助け合う、それだけの関係でも構わない。

 一丸となっての組織づくりなんて不要だ。

 巨大な魚になる必要はない。群れを成すことで敵に巨大な魚と錯覚させられればそれでいい。小魚の知恵に学ぼう。

 最後の比喩が、漁師町の人たちの胸に響いたようだ。

 言いたかったことは理解してもらえた・・・と思う。

 「そうなると、問題はその話にのってくれる組織なり人なりがどれだけいるか、どこにいるのか、どう連絡をとって話しを進めるのか、となるな」

 先ほどの冷静な村長が腕を組み、唸るように言う。

 だが、その言葉を町長は一笑に付した。

 「その問題は、わしらが考えても無駄だろうよ。マティ殿とハルカ様に任せればいい。もちろん、最終的には我々には拒否権をもらわねばならんがな」

 面倒そうな外交や交渉は丸投げするが、認めるかどうかの判断は自分たちにもさせてもらう・・・という意味だ。

 たかがと言ってはいい過ぎかもしれないが、漁師町の町長といえども政治家ということか。なかなかに狸であるようだ。

 オレとしても関わった以上は提案するなりなんなりはして責任を果たすつもりだが、街の在り方に口を出したりする気などない。自己責任において、拒否権を持ち、自らの意思で拒否をするというのなら文句はない。

 マティさんもそうだろう。

 相手への意趣返しをするのに相手が使った小道具をそのまま使おうというのが今回の行動の源なのだから、相手に一泡吹かせたあとに街がマティさんやオレを排除する側に動くなら固執する理由はない。

 もちろん、うまく組織づくりができて良好な関係を作れたなら、それを維持していけることに越したことはないが、ムリに執着する必要や理由はないのだ。

 商人ギルドに戻れなくなったとしても、自分を敵視する人間が商人ギルド内にいなくなったあとなら個人で何か商売を始めてもいい。

 「拒否権は当然ですわ。行使が皆さんの意思によるものであることを明白にして、その判断に私やハルカ様は関係ない旨を確実にしていただけさえすればですけれど」

 うん。マティさんも考えは同じようだ。

 町長および村長たちは、その意味を理解しているのかどうなのかは不明ながら、それで賛同が出たところで会議は終わった。

 マティさんとオレが、その共同体参加候補を口説き落としてきて、発表するまではすることがないからだ。

 ああ、いや。

 一つだけあった。

 例の倉庫にあった魚の塩漬けがすべて魚醤に加工されることになったのだ。

 オレたちが会議している間に、中身が気になったラカッソがオレから預かった瓶を開けて摘まみ食いをしたらしい。

 で、あまりにもうまくて止まらなくなり、同じように村長たちの様子を見に集まっていた若者たちとともに全部食っちまった。

 ここで、オレがあれを調味料だといったことをようやく信じられたので、残りを加工すると同時に今後は獲れすぎた魚や値段の低い魚を塩漬けにしての魚醤づくりを進めるそうな。

 いや、一切れ食べた時点で気づけよ。

 目論見通りだから、オレは怒ったりしなかったが少し呆れた。

 全部食ってからってなに?

 遅効性の中毒でも発症したのか、とツッコみたい。

 そうはいいつつ作り方は伝授したし、製造と販売ルートの確保の計画はマティさんが立てることになっている。

 といっても、作り始めてから完成まで最短でも一年ちょいかかるから、正式な販売は二年後をめどにすることになるということだ。

 生臭さを無視できるなら半年ぐらいでもなんとかなるだろうが、当然それでいいという人はそう多くあるまい。

 そうなると、今あるものを今から本格的に売り出したら、来年には何もなくなることになる。

 なので、安定供給が可能になるまでは限定品として、買い取ってくれそうなところにわずかづつ配るにとどめる計画。

 オレとしては自宅で使う分さえ確保できればいいので、その辺はどうでもいいと任せてしまった。

 というのも、今のオレの頭の中はサイフォンのことでいっぱいだった。

 もう少し時間がかかる、と言われてから結構日にちも過ぎた。もしかしたらそろそろできているのではないかという期待がある。

 

 マティさんとミーレスたちを連れてタキトゥス工房へと飛んだ。

 人目に付かないところから、人目に付かない所への移動。ギルド内での待ち伏せとかはこれで完全にスルーだ。見張りにも捕まらない。

 『移動のタペストリー』を使わずに転移しているのではないか? との疑問を持たれる可能性も増えてしまうが、それは仕方がないと腹をくくった。

 どのみち、『異世界人』を一生隠しきることはできない、と今回のことで痛感させられたので、今までのように必死になる気力が失せている。

 驚いたことに、タキトゥス工房はまだ建っていた。

 吹き飛んでいる可能性を完全には捨てていなかったので、変化していない当たり前の光景なのに、ちょっとがっかりした自分がいる。

 ああ、そうだ。

 変わってないわけでもない。

 屋根は直っていた。

 「これは、マティさん。と、ハルカ様も! いらっしゃいませ」

 事務所を覗くと、プールスさんが棚の向こうから現れて挨拶してくれた。

 「お久しぶりです。親方は仕事中ですか?」

 営業スマイルではない自然な笑みで、マティさんが会釈する。

 どこが違うのか、と聞かれても答えられないが、なにかが違うのは感じ取れた。

 オレだけでなく、プールスさんにもそうだったようで、一瞬だけ怪訝そうな顔をしていた。ただ、もちろん敵意を向けたとかではなく、逆に好意が感じられるものだったのでプールスさんはすぐに普段通りの態度に戻った。

 「ええ。実を言いますとハルカ様から注文のあった品物の濾過器でしたね? これの制作中です。一度完成したのですが、熱湯の中で圧を加えたら割れてしまいまして、強度を変えて作り直し中です。試作品で試して問題ないことの確認も終えていて、同じ方法で作っていますから。完成ししだいお持ち帰りいただけます」

 そう言ったプールスさんの後ろには台に乗ったサイフォンがあり、お湯が入っていた。沸騰させて上下させる実験を繰り返していたようで水滴が・・・。

 「ちょ、待っ、危ないですよ?!」

 慌ててプールスさんをサイフォンから引き離した。

 「え? はい?」

 驚いたようだが、素直に従ってくれたのでよかった。説明しなかったオレが悪いわけだが、これは迂闊だった。

 「水滴がついたままで火にかけると割れやすいんです。下手すると破裂しますよ?!」

 思わず叫ぶように言ってしまった。

 オレの顔はきっと真っ青だったことだろう。

 「ああ、やはりそうですか」

 落ち着いた様子でプールスさんは頷いた。

 「これでもガラス器の専門家ですので、そうではないかなと危惧はしていました。警告すべきかと思っていましたが、ご存じなら必要ないですね」

 サラッと言って片眼をつむってみせる。

 くっ。

 餅は餅屋ということか。

 釈迦に説法というべきか?

 素人のような扱いは失礼だったかもしれない。

 この時点で割れていないのだから、当然何らかの対処はして試験していたのだ。

 それにしても・・・。

 「やはり濾過器をガラスで作るのは大変だったんですね」

 元世界では通常金属製のものだ。

 ガラス製のものなんて見たことがない。

 無茶な注文だったかと反省した。

 「強度の問題で少しばかり使う材料の混合に苦慮はしましたが、最適な組み合わせが分かればそれほどの苦労でもありません。魔力供給器のしぼりに比べれば、ですけど」

 元世界にはない魔法というものがある。

 難しいが不可能ではなく。思いのほか一般的なものにできたらしい。

 量産を視野に入れ始めていたオレとマティさんには朗報だ。

 「それはよかった」

 心から言って、空間保管庫を開けた。

 「いくらになりますか?」

 「12万ダラダいただきます」

 意外に安い。

 もちろん物価十分の一説で言えば120万円なので、めちゃくちゃ高額なサイフォンなわけだが0から作ってもらったことを考えればこんなものだろう。

 金貨を12枚取り出す。

 「ありがとうございます」

 金貨を受け取ってプールスさんが頭を下げた。

 そこに、スッと自然な風を装ってマティさんが近づく。

 「?!」

 プールスさんが驚いたようにマティさんの顔を見た。

 オレの方からは角度的にマティさんの顔が見えないが、どうやら普通とは違う顔になっているらしい。

 警戒するかのように、一歩引いている。

 「ギルドへの参加を求める話なら、答えは今まで通り。変わりませんよ」

 表情の消えた顔と声が、プールスさんの口から撃ちだされた。

 変わらないとの返答でありながら、その実、答えが拒絶であることが経緯を知らないオレにも伝わるほどのものとなっている。

 これまでも何度か誘われて断ってきたことがはっきりと示されていた。

 「商人ギルドではなく。ハルカ様を中心にこれから作られる組織への協力要請ならば、どうですか?」

 プールスさんが息を呑んだ。

 驚愕で見開かれた目が、オレに向けられる。

 「どうも商人ギルドの一部の派閥に敵視されているようなので、独自の組織を作ることになりました」

 正確なことを言えば敵視されているのはマティさんでオレではないが、いまさらマティさんを切り捨てて他の商人ギルド職員との関係を構築する気にもなれないので、一蓮托生で付き合う覚悟をしている。

 事実確認を求める視線に対して、過不足なく答えを返してやった。

 ああ、なるほど。

 そんな顔でプールスさんがマティさんを見る。

 「以前から無理はするなと言ってきましたが、それはギルドを離れてはどうかというものでした。離れる決心をしただけでなく独立しようとするというのは予想外ですね」

 「ハルカ様と知り合っていなければ、離れるだけで終わっていたでしょうね」

 もしくは亡き者にされていたか。積極的に殺そうとはしていないようだが、結果的には死んでくれていい。そんな感じは受ける。

 「そして逃げ続ける」

 ギルドにいるうちに殺したら疑われるので、ギルドから離れるのを待っている。そんな邪推もできてしまうとあっては、離れるだけでは安心できない。

 「ですが、幸運なことにハルカ様と知り合えましたので、ギルドを向こうに回して立ち回るチャンスができました。ならば、商機を生かすのが商人ですわ」

 独立するとはそういうことだ。

 この場合、商機はギャンブルの様相をも見せるが、大きな商機は得てしてそうしたもの。

 そんなことで怯むようなら、そもそも商人など名乗らない。

 「面白れぇ話だ。そういうことならいいんじゃねぇか?」

 と、野太い声が背後から聞こえた。

 いつの間に来ていたのか、タキトゥス親方が汗でテラテラの顔に深い笑みを浮かべて、立っていた。

 手には薄い青を発色している濾過器が握られていた。ちゃんと鎖もガラスで再現されている。時間をかけただけあって完成度がすごい。

 「マーちゃんのおっかさんには、なんならプールスの嫁にしてやってくれと言われてたんだがな。ギルドにいられなくなったときの避難先としてってことだろうし、こいつにその気はねぇらしいし。どうしたもんかと思っていたんだ」

 息子をニヤニヤ笑いながら指さして、言ってのける。

 「はぁ?! なにそれ!?」

 初耳だったのか、マティさんは悲鳴のような声で叫んだ。が、すぐに天を仰いだ。

 「ママなら言いそうなことよね」

 空を睨み付けて拳を握っている。

 ありえることらしい。

 どんな母親だったんだろ?

 「娘が心配だったんですよ」

 優しそうな目でプールスさんが言う。

 なんか、妹思いの兄の目だ。

 実際、そういう感覚なのだろう。

 そしてたぶん、マティさんのお母さんはプールスさんの性格も知ったうえで、「嫁に」発言をしていたのではないだろうか。

 本当に嫁にしてもらってもいいぐらいの気持ちもあったのだろうけど。そうはならないことを知っていた気がする。

 マティさんがギルドを見限ることになったとき、組織内にいては助けられないこともあり得るからギルドへの参加を固辞していたわけだ。

 ん?

 まてよ。

 ということは、タキトゥス親方もプールスさんも、商人ギルドからマティさんが逃げ出すことを念頭に置いていたってことだよな。

 ・・・母親が生きていたころからの敵同士ということなのか。あの人とは。

 「そうですね。そういうことなら、参加させていただきますよ」

 にっこりと微笑むプールスさん。

 「組織の名称は何ですか?」

 「え? め、名称?」

 予想していなかった質問にマティさんが焦っている。

 っていうか、オレ自身ちょっと慌てた。

 「そうですよ。組織に入るとなれば看板を掲げなくてはなりませんからね」

 そりゃそうだ。

 全然考えてなかった。

 「・・・・・・」

 助けを求める視線をマティさんが送ってくる。

 「えーっと・・・」

 慌てて脳みそをフル回転させてみる。

 何か思いつくだろうか?

 新しく作ることを強調して・・・弱い立場の者を集めて力を合わせて目的地に進む、そんなイメージ。

 新しい、そんで船?

 あ。

 箱舟だ!

 「『アルカノウム(新しき箱舟)』・・・」

 名称はこれでいいだろう。

 だけど、これでは組織としての形態がよくわからないな。

 共和国・・・国じゃねぇし。

 商会・・・商人だけでは構成されていないぞ。

 商工会・・・間違ってはいないかもしれないけど何かが違う。

 有限公司・・・やめよう。

 「連合・・・とか」

 この辺が無難か。

 共同体・・・というほどの結合は期待していない。

 せいぜい、「連合」ぐらいだろう。

 連立・・・もなんかイメージが悪い。

 「うん。『アルカノウム連合』、で」

 「『アルカノウム連合』ですわ!」

 ほとんど思い付きなのだが、マティさんが間髪入れずに承認した。

 『マチリパトナム』の街の代表たちの了承はいらんのか、とツッコみたいところではあるのだが、聞く耳持たなそうなので口にはしない。

 「『アルカノウム連合専属タキトゥス工房』か。悪くねぇんじゃないか?」

 「そうですね。早速看板を作り直すとしましょう」

 こうして、新組織『アルカノウム連合』への『タキトゥス工房』の参入が決まった。

 軽っ!

 それでいいのか?!、と思うが正直有難い。

 どんなものでも、先駆者となるには勇気がいる。

 二番手以降は心理的に楽なものだ。

 『マチリパトナム』の街はベースなので、一番手とかの順番には左右されるものではない。・・・とでもしておこう。



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