どくりつ
大雨により、我が家の隣を流れる側溝があふれまして、家庭菜園が半分ほど水没。
植えてあったインゲン6株、キュウリとナスが1株づつ、が根腐れを起こし、里芋2畝全滅。
と相成りました(´;ω;`)
被災地に比べれば、被害とは言えない被害ですが、悲しい…。
『ミーレス、シャラーラ。昨日の奴らは味方だ。監視を倒して解放しろ』
『伝声』で指示を送る。
二人はすぐに動いた。
「な、なにを?!」
やはり、声を出さずに指示を送れるというのは楽だ。
村長が驚きの声を上げた時には、監視四人がすでに床に転がっていて、残りの二人もすぐに沈んだ。
「・・・殺されるかと冷や冷やさせられたぜ」
縛られていた痕をさすりながら、昨日の男が立ち上がった。
「なんで俺たちを助ける?」
ギロリ、尖った視線がオレに向けられたが、軽く手を振っていなした。
「オレへじゃなく、そっちの人に質問をぶつけるべきじゃないかな?」
村長を指さしてやる。
村長たちの肩がギクリと震えた。
「・・・いや、聞かなくてもわかる」
唾と一緒に言葉まで吐き捨てた。
「さっき、そっちの姉さんが言っていた二派に分かれて争っているってのはある意味正しい。もっとも、オレはそう思ってなかったがな」
「今回の事件が起きるまでは、だね?」
そもそもは、最初に感じていたように、彼らと村長たちは『マチリパトナム』の街の協力者という同じグループだったのだ。
オレたちとマティさんをひっかけて、商人ギルド相手に一芝居打つための。
だが、村長たちは黒幕の意図を利用して、または黒幕にそそのかされて潜在的な政敵である『町長』派の主力を亡き者にすることを考えた。
飲み屋でオレたちに殺されてくれれば万々歳、だったのだろう。
そのあとで、オレたちのことは街を救ってくれた者として持ち上げておいて、酒でも飲ませて武装解除、監禁、と続くはずだったのだ。
それが、オレが彼らを殺しもせず、ほぼかすり傷程度の状態で捕らえてしまったので計画が崩れた。崩れた計画を再構築しようとしている間にオレたちは帰ってしまい、グダグダになりながら今に至っている。
冒険者一行は茶番を頼んだだけの存在らしい。
うすうすおかしいと感じつつ、金に目がくらんだだけの二流冒険者。今頃はもう違う街に消えていて、二度とこの街には来ないだろうということだった。
本当にグダグダだ。
「そういうことだ。うちの爺の言っていた通りだな。バカなことをしちまったぜ。お前たちがうまく立ち回ってくれてなけりゃ、仲間を無駄に死なせるところだった」
そう言って、オレに頭を下げた。
まぁ、確かに。
オレがその場の感情で動いていれば、こいつら全員死んでいた。
魔法では加減しなかっただろうし、酒瓶で殴るのではなく斬捨てていたかもしれない。もちろん、いまだに人を殺すことには抵抗があるから、殺さなくていい状況なら極力殺人は犯さないように配慮したとは思うが。
「お爺さん?」
「ああ。現『町長』だ。そいつらは、この街には15の村があるんだが、その村長だ。爺の後釜を狙っていやがるのさ」
わっかりやす!
だが、わからないこともある。
「あんたらのそもそもの目的は何なんだ? いや、あんたらというか、あんたらに今回のことを示唆した黒幕の狙いは、だな。オレが知りたいのは」
町長の孫と、村長ズに聞いてみる。
知らない可能性もあるが。
「俺たちが参加した理由は資金援助だ。うまくいけば、帝国から金がもらえると聞いた」
「帝国からですって?!」
マティさんが素っ頓狂な声で叫んだ。
帝国、つまり国・政府から、という意味だろう。
「ありえないことなんですか?」
元世界では、地方の県や町は地方分権ということで内政は任されていながら国からの助成金欲しさに、政府の指示はほぼ絶対だったわけだが。制度としてというより慣習的に。
「地方は独立した組織です。帝国政府が干渉することはありません。自治を許す代わりに、危なくなっても助けないという関係なのです。税金や土地の一部の収用はしても、資金援助するなんて話、聞いたことがありま・・・・・・ああ」
熱弁していたマティさんが突然トーンダウンして、口ごもった。
「そうでしたわ。可能性はあるのでした」
「どういうことですか?」
「勇者様です。勇者様が降臨されている間は、勇者様の意向で特定の街に援助が与えられる場合があります。いわゆる『ご用達』の看板が与えられて」
ご用達って!
江戸時代の豪商か!?
「勇者様が特産のなにかをお好きになり、特定の街を名指しすると、それを維持するのに使うようにと帝国から資金が配られますし、物によっては勇者様への献上品にしようと各地の有力者が買い付けに来るため、街には特需が生まれて潤うという現象が起こります」
「へー・・・特産って、もしかしてエビかな」
翔平は無類のエビ好きだ。
とある回る寿司屋では、必ずメニューに載っているエビを端から注文していく。全種類食べてから、思い出したようにトロとサーモンとイクラ、そしてブリを食う。
そしてまたエビ。
「よく知っているな。その通りだ。いつだったか知らんが、食事に使われていた特産のホマー・エビをいたく気に入ったそうだ。それで帝都への納品が増えていたんだが、それだけでは資金援助はもらえない。自分たちの支配下に入るなら、話を付けてやる。そう言われて・・・のっちっまった。爺さんには止められていたんだがな」
「どうおもわれますか?」
専門家の意見を聞こうと、マティさんに目を向けた。
「確かに、資金援助をもらうなら街単体で申請するよりも窓口になる組織を間にはさむ方が有利です。独立性を捨てていいならという注釈はつけなくてはなりませんけど。おそらく、街の運営全てに口を出されるでしょうね」
「反論は許されないだろうな。犯罪ギリギリか、犯罪そのものの手法で『町長』になったのでは」
「もちろんです。漁業権どころか土地も好きに使われて、治安は悪化。十数年後には、現在の町の面影はなくなっているでしょう」
可哀相な子を見る目で、マティさんは『村長』たちを見た。
『村長』たちが呆然と見返して、突然身をすくめた。
「黒幕にしてみれば、帝国政府からもらった金を流すだけで、街一つ分の支配権が手に入るってわけだ。ずいぶんと楽をしてくれるじゃないか。んで、『村長』さんたちは操り人形になることを受け入れて小銭稼ぎですか?」
まともな報酬なんてもらえないだろうから、「金儲け」なんて無理、せいぜい「小銭稼ぎ」だろう。
操り人形というのは聞き捨てならなかったのか、反論しそうな顔を向けてきた。だが、結局は何も言わずにうつむいた。
自分たちが利用されていただけの道化だと、ここまでの状況を見て気が付かないほどは、馬鹿でもないらしい。
黒幕にしてみれば、ちゃんと甘い蜜を吸わせる用意もあったのだろうが、支配する時点でそんなものは意味がない。
自由な裁量権もなく、生殺与奪も黒幕が握る。あとは飼い殺しだ。
肩書だけの『町長』に、どれほどの魅力があることか。
「ブレヒティ―に連絡付けてもらえますか? 一言、勇者様に諫言を差し上げねばならんようだ。あのバカ、権力者の言動の結果を軽く考えすぎてる」
「連絡を取ります。こちらからの接触に一日、向こうからの返答に一日。三日後までには連絡が来るでしょう」
三日か、もう少し早いかと思っていたんだけど。
郵便がようやく普及しようとしている程度の文化圏では、早い方と言わねばなるまい。
向こうが出かけている可能性もある。許容範囲とするべきか。
「ば、ばかな?! 勇者様に諫言だとぉ?! な、なに様のつもりじゃぁぁぁ?!」
『村長』さんが口角泡を飛ばす勢いで喚いた。
これは仕方ないな。
小さくため息をついて自分を納得させて、カードを突き付けた。
『村長』さんたちは塩の柱と化し、『町長』の孫は目を見開いたあとで、そう来たか、と笑みを浮かべた。ひきつっていたけど。
横で、マティさんも冷たい笑みを浮かべていた。
「えっと、マティさん?」
ちょっとビビった。
「黒幕が誰か、ハルカ様も気づいておいででございましょう?」
声をかけると、細くなった目の奥にどす黒いオーラを宿したマティさんが蛇のような声を返してきた。
予想はした。
こんな大規模な陰謀を実行できそうな知り合いなんて、他にいない。
「わたくし、これまでは歯向かうことなど考えもしませんでしたわ。耐えられなくなったらギルドを去る心づもりもしておりました」
うんうん、と頷きながら、だんだんと声のトーンと感情のヴォルテージを上げていく。
「ですが、さすがに今回のことは看過できません。わたくしだけならともかく、ハルカ様まで巻き込み、勇者様をすら利用しようとの企み。わたくし、全力を挙げて立ち向かう所存です!」
ゴォ! とばかりにマティさんの背後に炎が上がった気がする。
「まずは、街の指導者を集めて会議ですわ。主だったものを集めてくださいな。ハルカ様、申し訳ありませんが手をお貸しくださいな」
具体的な指示が出て、『町長』の孫は祖父を、村長ズは同じ村長たちを迎えに行った。
そして、オレは何やら決意を固めたマティさんに頼まれて、立て続けに転移することになるのだった。
はっきり言おう。
マティ・オレィユはその生涯で初めて、本気でブチギレていた。
その発端は二日前の出来事だ。母親の幻を見た直後に、ハルカの訪問を受けたことで少なからず動揺していたこと。
まるで、自分のピンチに駆けつけてくれた王子様に見えてしまったのだ。
なにしろ、自分を追い詰めかけていた難問を解決に導いてくれるかもしれないきっかけをくれたのだから。
マティは、そのきっかけに飛びついてハルカの案内役もしくはガイドを買って出た。
結果、たとえではなく本当に命を救われてしまった。
ハルカの求めに相乗りさせてもらっていなければ、一人か商人仲間数人でこの街を訪れて捕らわれるか最悪殺されていた。
運がよかった。
あるいは母の思し召しだ。
ハルカのために役に立つのは当然だし、現に命の危機を突き付けられたことへの意趣返しという目的もある。これまで積みあがった恨みを晴らすときは今、というのもある。
ともかく、マティ・オレィユはブチギレていた。
生き残るためには敵を倒すほかなし。
正面切って戦い、勝つための準備をしなくてはならない。
マティはバララトの官舎を引き払った。
もともと物を増やさない生活をしていたので衣類を入れる家具が一つとテーブルと椅子以外に家具はなく、衣服類はよく行く街の支部にいる友人や元部下らに何着かづつ保管を頼んで置いてもらっている。なにかあって着替えの必要が生じたときのためだ。
普通に仕事の出張だったはずが、たまたま名士のパーティーに招待されるとかいうハプニングはよくあること。
なので自宅としていた部屋には、トランク一つ分しかない。
仕事着の多くはバララト支部副支部長の執務室に置いてある。これは動かすと監視に動きを知られかねないので放置だ。
そんなわけで、全部の荷物を持ってもトランク二つにしかならなかった。
もちろん部屋にはハルカと二人だけで入り、荷物を運び出してから何も持たない姿で出ているので、監視されていたとしても荷物の運び出しには気が付かれなかったはずだ。
「はじめます」
悪魔のような瞳を見開いて、マティは戦闘開始を宣言した。
「なんか、すげぇことになっちまったな」
『町長』の孫、ラカッソが呆然と呟いた。
「変化を求めたんです。もう誰にも止めることはできないでしょうね」
ずうっと変化のない街だった『マチリパトナム』。
風のない湖のようなものだ。
そこに石が投げ込まれたからには、波紋が広がるのはごく自然なことだった。
普段が穏やかであったのなら、その変化は大きい。
「せめて、自分の手で投げられる程度の石なら良かったのに」
それなら、少しは制御できたかもしれない。
だが、実際は43年ぶりに勇者様が降臨したという超ド級の隕石による影響が広がっている中、その爆風に乗っかろうというバケモノに爆心地に引きずり込まれての巨岩の投擲。
もはや、引くことはできまい。
ちらっと視線を動かせば、マティさんの号令の下で集められた15人の村長と、町長が激しい議論を戦わせている。
あの三人の村長も、お咎めなしで参加を許されていた。
なにか動きがあれば、真っ先に働かされるだろうが大きな事業に発展しそうな気配に舞い上がっているのか、嬉々として発言と提案をしている。
一方の町長はといえば、孫の暴走を知ってやる気をなくし、隠居する心づもりだったようだがその孫とマティさんの説得で、引きこもっていた自宅から駆け付けた。
最後の奉公だ、と鼻息荒く臨んでいる。
「あー、そうだ。暇なので聞きますけど、どっかに塩漬けにしたまま数年間ほったらかしの魚とかないですか?」
交易ぐらいならともかく、街ぐるみの経済とか政治とかになると出る幕がない。オレ以下のパーティメンバーは暇を持て余していた。
だるい体を起こして、ダメもとで聞いてみる。
そもそも、この街に来た目的はそれなのだ。
体がだるいのは、オレを公用車だとでも思っているのか、マティさんに帝都とバララトを何度も往復させられたせいだ。
ブレヒティーに連絡を取るための手続きをしなくてはならなかったし、黒幕に立ち向かうための下準備も必要だった。
転移が使えるオレがいれば、監視の目をかいくぐるのも難しいことではない。「便利ですわね」と再び言われた。黒幕の目をかすめて行動するには本当に便利なのだから当然か。
主要な、または何かしら特徴のある街へのルートを、オレが着々と開拓していた効果がいい感じに出始めているというのもある。
「そ、そんなもんなにする気だ? 畑の肥やしにでもするのか?」
ああ。その手もあったな。
むかし、船に積み込んだニシンをわざと腐らせながら運んで肥料にしたなんて話を聞いたことがある。あまりに獲れすぎるので魚としては売っても金にならないが、肥料としては役に立ったとか。
しかし、塩漬けにしていたらダメじゃん!
「いや・・・ないんならいいんだ」
説明してもわかってはもらえないだろう。
オレは、もういい、と手を振って再びマティさんに目を向けた。
魚醤を手に入れるどころの話ではなくなってしまっているのだから、とりあえずそっちの探究は休業でいい。
「あるんだけどな」
あるのかよ!
がばっ、と向き直った。
「二年前・・・かな。沖の方で小型のカニが大量に発生したのさ。んで、それを餌にしてる魚も大漁になった。獲りたくなくてもほかの魚狙いで網を入れるとかかるんだからしょうがねぇ。海に戻しても他の網にかかるだけだしな。水揚げはして、半分くらいはそれこそ肥料にしたもんさ。それでも余ったもんで、干したり塩漬けにしたりした。干したものは売れたんだが塩漬けはまったく売れなくて、まだ残ってる」
欲しいのか?
と、不思議そうな目を向けられたので「欲しい」と言って案内してもらった。
マティさんの護衛にシャラーラを残して移動する。
せっかくなのでラカッソを連れて港を歩き回りながら、イキのいい魚を買いあさってしまった。
町長の孫を連れているもんで最初っから安売りしてくれる上に、買った分以上のおまけをくれるのでついうれしくなって買いすぎたかもしれない。
なにしろ、買ったものは即座に冒険者ギルド会員証付属の空間収納庫にしまうので、一見手ぶらで買い物をしているように見えるせいか、店ごとに持ちきれないほど魚や貝を押し付けられるのだ。
オレの父方実家の祖父母かと。
んで、持ちきれないほどの荷物はすぐに空間保管庫にしまって再び買い物を続けた。
冒険者のレベルがどんどん上がっていて40間近、それに伴って空間保管庫の個数は12に増えていて広さも貸しコンテナ並みなのでかなりのものが入るようになっている。
それぞれ、現金及び貴重品用。装備品用。ドロップアイテム用。食材用。と分けているが、食材用は匂いが移ったりすると嫌なので肉、魚、果物、野菜と四枠を使っていた。
果物のところだけは入っているものが少ないので広すぎる気もするが、そのうち増えるだろうと思っている。
なにしろ、空間保管庫内は時間が流れないらしく、腐敗しないのだ。
なので、リビング横の物置にしまっていた装備品やドロップアイテムもそのほとんどを空間保管庫に移してある。劣化するのかどうかは知らんが、物置にうずたかく積むのもどうかと思ってのことだ。
場所ふさぎにならなくて済むし。
もちろん、これでギルド会員証を紛失でもすれば大損害だが、その時は仕方ないと諦めるだけのことだ。
そんなこんなで買い物をしながら必要になるだろう道具をあちこちから搔き集めた。
そうして向かった先は港ではなく、陸側の少し大きめの倉庫だった。
立派な作りだったが、鍵すらついていなかった。いや、付いてはいるが使ってなかったというべきか。
無用心だな、と思ったが重い扉を押し開けた途端理由が分かった。
発酵して崩れ去ったであろう魚の臭いが充満していたのだ。
これでは、泥棒が入る可能性なんて皆無だろう。
ミーレスとアルターリアがすかさず鼻を抑え、オレは完成してることが分かったのでにんまりと笑みを浮かべた。
腐敗臭ではないことが明らかだったからだ。
腐っていないのなら、発酵しているということ。
発酵しているのなら、あとはろ過して絞るだけで魚醤が手に入る。
魚は元世界のバスタブほどの大きさで深さは半分くらいの木桶につけられていた。それが倉庫いっぱいに並んでいるのはかなりアレな光景だが、そこは見てみぬふりで流す。
そのうちの一つを開けてみる。
上蓋を開けて、のぞき込んで見るが木の落し蓋がしてあって中身はよく見えなかった。
見えたとしてもグズグスの魚があるだけだろう。
魚醤の制作手順は恐ろしく単純だ。
魚を重量の二割ほどの塩で漬ければいいだけ。
内臓をとる必要すらない。というか、内臓内の菌にも発酵に必要な菌がいるからそのままの方がいい。
密閉はせず、発酵菌がちゃんと呼吸できるようにしたうえで魚がドロドロになるまで放置する。
そのまま一年ちょっと置けばだいたい完成だ。
ここまでが、終わっている状態のものが目の前にある。
ラカッソが用意してくれた木桶に、一部を移してみた。
「グボッ!」
ミーレスがすさまじい音を立ててむせた。
ミーレスとしては、見てる限り汚れ仕事なので「自分が」と思ったのだろうが、表面の少し硬めの部分を破ったときに噴き上がる臭いを、予想できていなかったのでまともに吸い込んでしまったらしい。
「慣れてないときついから、離れていた方がいい」
遅ればせながら警告を出した。
オレの指示なので、しぶしぶという形でミーレスとアルターリアが後退る。
かく言うオレも作る過程の臭いになんて慣れてなどいない。予想していたのでダメージが少ないだけだ。
倉庫の外に移動。
魚醤貯蔵用に広口のビンを用意して、濾し布をのせ、そこに掬い取った木桶の中身をのせていく。布からぽたぽたと茶色いが澄んではいる液体が落ちてくる。
基本的には、これで完成。
ただし、これだと元の魚に含まれていた水分の量しか採れないので、搾りかすを煮出して、それを濾す作業もした方が量は取れる。
家に戻ってからやってもいいのだが・・・臭いのこともあるのでここでやってしまう。鍋と水はすでに用意してあった。鍋を置くための鉄の台もある。
もちろん、アルターリアに頼んで火も用意した。
濾し布で包んだ搾りかすを鍋に入れて煮出していく。
結構な臭いが漂うが屋外だから潮の香りと混ざり合って、周囲に迷惑になるほどにはなっていないと思う。
ぐつぐつと煮出したあと、搾りかすを上げて鍋の中身を新しい濾し布で濾した。
広口瓶に二個。一升瓶に換算すれば、多分三本分くらいは取れただろうか。
これだけあれば、しばらくは十分だ。
後片付けはミーレスがやってくれた。
広口瓶二個にしっかりと栓をして持ち帰る。
「それ・・・なんなんだ?」
ついに、塩、砂糖、酢、以外の調味料が手に入ったとホクホクのオレに、ラカッソが恐ろしげに聞いてきた。
「調味料だよ。塩に魚の旨味が加わったものと思えばいい」
簡潔に答えたが、出汁をとるとかの調理法を知らないらしいこの世界の住人には理解不能かもしれない。
仕方ないので、帰り道でいくつか材料を買って使い方を教えてやることにした。
オレが知っている中で、魚醤を使う簡単な料理。
『シャキシャキ野菜の浅漬け』を作ってみる。
まあ、浅漬けと言えばチャック付きのビニール袋と冷蔵庫、なのにないというハンデはあるが、代用はどうとでもできる。
ガラス瓶に手に入れたばかりの魚醤、水、酢、砂糖とレモンの輪切りを適当に入れ、そこに適当な野菜を適当に切ったものを入れる。
好みによって鷹の爪でも輪切りにして入れておけば、一味違ったものになるだろうけど、この度はあくまで魚醤の味を知ってもらうことが目的なので、これでよしとする。
今回の場合はキュウリと人参、大根とキャベツだ。
キュウリは輪切り、人参と大根は短冊、キャベツは食べやすいサイズにざく切りにする。
ビンに放り込んで調味液の中で軽くもんで、密閉する。
密閉というほどの気密性はないから空気を完全には抜けないが、味の漬かり方にわずかな差ができるってだけなので、これでよしとする。
試食用なのでたくさんの人に配ることも考えてかなりの量を作ってみた。ミーレスたちも全員で運ばなければならなくなったくらいだから、全部でガラス瓶10個分は漬けただろうか。
あとは1~2時間置けばいいだけだ。
それだけあれば、マティさんたちの会議も終わってくれるだろう。
っていうか・・・ここらで昼休憩が欲しい。




