めんどくさい「書き直し済み」
とある作品のパクリと指摘されかねない部分書き直しました
会場に戻ると、ミーレスとシャラーラ、アルターリアとリリムが、それぞれに人の輪を作って聞き役に徹していた。自分のことはほとんどしゃべらずに相手の話したそうなことに水を向けて、気持ちよくしゃべらせるあれだ。
オレには到底まねできないので、違う輪の一つに狙いを定めて、話が聞こえる距離で目立たないように立って会話に耳を傾けた。
どこかの商家のお坊ちゃんがとある豪農の二女を捨てて三女に手を出したとかいう話で盛り上がっていた。
暇なときに聞くにはちょうどいい話だが、情報収集には役に立ちそうもない。
別の輪に移ろうかな、とか考えていると初老の紳士が近づいてきた。
「ご都合がよろしければおいでいただきたいと、伯爵様が」
おっと。呼び出しが来た。
一応こちらの都合を気に掛けてくれているあたり、貴族だが、貴族様ではないようだ。
「いいですよ」
格好付けに持っていたワイングラスを手近なテーブルに置いて、紳士に導かれて会場を出る。
階段を上っていった先、三階に領主がいた。
クレミーとシェリィ、それにマローネもいる。
四人とも立ったままだ。
「来てくれたか」
ほっとした顔の伯爵が、オレに向けて右手を出した。この世界にも握手はあるらしい。拒否する理由もないので受けた。
魔導士だからかやわらかくて暖かい手だ。
「まずは、詫びさせてくれ。騒ぎに巻き込んでしまったことへの詫びをな」
巻き込まれたのは主にメティスなのだが・・・。
そんな風に考えていると、伯爵はオレにしか聞こえない声で言葉を続けた。
「メティスの件。先日耳にした。もっと早くに相談してくておれれば、という思いもあるが、私も公職に身を置く身。普段、いくら身内と言っていたにしても立場がある以上は救いの手を出せなかっただろう」
家が本人ともども売りに出たのだ。しかも、街の不動産は騎士団が管轄している。領主のもとにも報告は来るわけか。
オレが買ったとの報告を受け・・・ああ!
なるほどね。オレが『異世界人』というのも耳に入ったのだ。
それで、先刻の目を向けることになったわけか。
「詫びる気持ちを金銭にするのは失礼かとも思ったが、他に良い案もないのでな。10万ダラダを受け 取ってほしい」
そう言って、布袋を渡してくる。
金貨十枚にしては・・・重っ?!
「それに感謝だ。先ほどの男は素行は悪いがれっきとしたさる貴族の次男でな。あのまま死ぬか一生残る障害でも負わせていれば、我が家もどうなるかわからんところだった。それが、向こうの無礼との相殺で済んだ。正直救われたよ。30万ダラダを受け取ってくれ。その袋には詫びと合わせて40万ダラダが入っておる」
合わせての額が入っていたから、重たかったのか。
金銭で済ますのは・・・名誉や権利での褒章をしようとすれば、オレの素性も公表せざるを得なくなるからだ。
どこの馬の骨なんだ? となって人の注目が集まるのはオレも困る。
話の分かる人のようだ。
「私からは以上だ」
気が済んだ、とばかりにすっきりとした顔で伯爵が言い終え、なぜか娘たちのほうに視線を投げた。
「ク、クレミー?」
シェリィが、小声で名前を呼びつつ、背中を押している。
それに合わせて、なにかすごくいやいやクレミーが前に出た。
ギューッと、ドレスの裾を握りしめ、涙を浮かべた目でオレを睨み付けてくる。頬を膨らませているのは、拗ねているせいか?
「わ、わたしの、不始末で迷惑をかけたわ! 悪かったわね! 許してちょうだい!」
ふんぞり返って言ってきた。
本人は謝罪しているつもりらしいが・・・。
頭すら下げていない。
全然謝罪している態度じゃない。それどころか、ケンカ売られてるのかと疑うレベルだ。
シェリィが、ダメだこれは。と頭を抱えている。
「・・・・・・」
おいおい。
別に女の子に土下座させようと思うほど鬼畜ではないが、さすがにこれを謝罪と認めるわけにはいかないぞ。
「・・・・・・」
黙っていると、ふんぞり返っていたのを戻したクレミーが今度はうつむいて上目になって見つめてきた。
泣いているせいか、白磁器のように白い肌がピンクに染まっていて、状況が違えば、かなり可愛くていじらしいって思ったかもしれない。
しかし、謝罪もまともにできなくて、それなのに恨みがましく口をへの字に曲げているのには、かなりの減点を科さねばなるまい。
「・・・ダメ、なの?」
涙声になって聞いてくるが、視界の隅に映った父親がかわいそうな子を見る目で見ているのを見るにつけ、ここで甘い顔はできないと思う。
っていうか、親父! そんな目で見る前に何とか教育しろよ!
「あ、あの、あのさ! ボクたちで何か手伝えることない? 謝罪代わりに働くよ!」
横で聞いていたマローネが、口を挟んできた。
シェリィが、驚いた顔を向け、クレミーは「あっ」という顔をしたあと、すごく落ち込んだ顔でうつむいた。
自分が謝罪をちゃんとできなかったせいで、仲間に迷惑をかけているということは実感できるようだ。
シェリィと伯爵の顔には感謝がある。
そして、二人がなにかを期待する顔を向けてくる。
「・・・あー。わかった」
なぜかオレが責められているような気分になってきたので、もうさっさと終わらせることにした。
「じゃあ、五日間。うちで家事手伝いでもしてもらうってことでどうだ?」
最近では朝食の支度はメティスとリリムがしてくれるので、楽になってはいる。自分たちで食事の支度をすべてしていたころと比べると、地味だが大きな差だ。
だが、家事のすべてをこなすのは実際問題難しくなってきている。
前提として、そもそもいる人数に比して家が広すぎるのだ。部屋数こそ少ないがその広さは貴族のお屋敷なみだし、菜園もある。
迷宮に行く合間、一時間あるかどうかの時間で掃除洗濯、食事の支度までやるのは家電がほぼやってくれる現代日本でだって不可能な話だ。洗濯は手洗い、掃除は基本拭き掃除、お湯ひとつ沸かすだけでも火を起こすところからしないといけない世界では。
「治療院の病室貸すから、そこで寝泊まりしながら主に掃除をしてもらう。家と診療所を床下から天井までな。それならどうだ」
「・・・りょ、領主の娘をメイドとして働かせようってわけね?」
本格的に泣きそうになっていたクレミーが、なにやらスッキリした顔で口を開いた。
下働きをする屈辱を受け入れてあげた、ということで謝罪の義務を果たしたと言い張れる根拠を得たつもりなのかもしれない。
ともかく、この提案を受けてくれるなら、オレとしてはあとのことをメティスに丸投げできるから大助かりだ。
「いいじゃない。それをもっと早く言いなさいよ」
まったく、気が利かないんだから。と不満そうにのたまう。
いいんだけど・・・謝罪すべき恩人に対してする態度じゃないよな。
なんにしても五日間とも言ったし、今日これからというのも何なので、実行は明日の朝からで家に来るのは夕方ということで話が付いた。
「なんだかなぁ」
人を振り回すのもいい加減にしてほしい。
会場に戻ると、さすがに人数が減っていた。
気に入った相手の見つかった者たちは自分たちで二次会に行ったのだろうし、そうでない者たちはそこそこ食べて飲んだので元は取ったと帰宅したのだ。
ミーレスたちと合流して、再び家路につく。
今日何度目だ?
家に帰ると、メティスが診療所の玄関先でうろうろしていた。
見た目には、先日ようやく移植場所を決めて、植えたばかりのバラの生育状態を確認しているようにも見えるが。違う。
あれは人を待っているのだ。
たぶん、オレを。
ミーレスたちには先に家に行ってもらって、オレだけでそちらに回った。
「どうした?」
絶対気付いているはずの背中に声をかける。
ゆっくりと、本当にゆっくりとメティスは振り向いた。
顔の白磁気のように白い肌に、うっすらと赤味が差している。
泣いていたか、泣く寸前というところだろうか。
目も潤んでいるし。
「・・・ごめんなさい」
深々と頭を下げる。
土下座しそうな勢いで。
しかも、そのまま頭を上げずに下げ続けている。
「なんのこと?」
そっと肩を押して、顔を上げさせてから聞いた。
「私、奴隷なのに。気を遣わせてばかりだわ。妹には嘘ばかりついているし」
奴隷としても、姉としてもちゃんとやれていないことに自己嫌悪が募っているようだ。
いい傾向だ。
オレの黒い部分がほくそ笑むが、基本オレはフェミニストだ。
こんな態度でこんなことを言われると胸が痛む。
痛むと同時に、体の奥が疼いた。
オレって、ひょっとしてM? S? 両方か?
自己嫌悪に沈むメティスを見て高揚するということはSなのだろうし、胸が痛んで疼くということはMでもあるのだろう。
「全然フォローにならないと思うけど、駄目なメティスってかわいいと思うよ。オレは好きだな。しっかりしてる時のメティスも綺麗で好きだけど」
元々細いのに、落ち込んだせいでさらに小さくなっている肩を抱く。
甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「奴隷らしくなくても? ・・・いいの?」
「オレ・・・ミーレスたちのことも奴隷として扱ったことはないつもりだよ。あー、まぁ、本人たちの意思を気遣ったりはしてないかもだけど。通常の女性にするほどはって意味で。風呂入れたりベッドの上でのこととか・・・ね」
性奴隷なんだから求めて当然、求められたら受けて当然、という扱いはしている。でも、本気で拒まれた時には我慢するだろう。「隣に座っても、押し倒したりはあまりしないようにする」とも言っているし。 ちゃんと我慢したときもある。
「・・・そう、ね」
毎晩毎晩夜の営みを聞かされているのだ。無体なことをしていないというのはわかってくれているだろう。
ミーレスもシャラーラも、性奴隷と明記のなかったアルターリアにしても、オレに対して拒むとかそういう意思を見せたことはない。ミーレスは自分からも求めるような感じだし、シャラーラもそうだ。リリムはあーだし。アルターリアは・・・やっぱり嫌ではなく、ただし好きなわけでもない、というところだろう。
「ごめんなさいね。めんどくさい女よね・・・私」
自覚していながら、それを是正するところまでは踏み切れない。葛藤している美女の愁いを帯びた顔、うん。癖になっちゃったな。ずっと困らせていたくなる。
そっと体を起こすのに合わせて、抱いていた肩を離した。
「あー・・・その分。えと、そのときが来たら、激しいかもしれないんで覚悟はしといた方がいい。据え膳があるのにお預け状態だからな」
軽い口調で、冗談めかして言ってみる。
メティスは頬を赤らめ、困ったように眉を動かして、唇を「バカ」と動かした。でも、声に出しては・・・。
「その・・・つもり。私だって、いつまでもぐちぐちいうつもりはないわ」
なにかを踏んぎるような口調で、そう宣言した。
「・・・さて、そんなメティスに一つ頼みがあるんだが、聞いてくれるかな?」
「頼み・・・?」
オレは、クレミーとシェリィのことを話した。たぶん、マローネも含めて三人で診療所に来るだろうから、病室を貸してやってくれるように、と。
「で、明日の朝からはこき使ってやってくれ。このさいだ。床下から天井裏まで綺麗に掃除させればいい。それこそ、隅々までな」
「・・・めんどくさいのは私だけではないってことね・・・?」
小さく微笑んで、メティスは受け入れてくれた。
もう夕方まで間がないので、迷宮に行くのはやめにして手に入れてきた苗を植えることにした。
「では、まずトウモロコシを植えよう」
苗を魔力ボールから出したところで、ミーレス、シャラーラ、アルターリアに声をかけた。三人ともすでに、菜園での作業着に着替えている。
というより、オレがいないあいだ雑草を引っこ抜いていた。
「なにか、特別な植え方をするのでしょうか?」
アルターリアが聞いてきた。
「そうだな」
トウモロコシの植え方。
実はうちの畑ではあまり植えることのない作物なので、どう植えるべきか多少迷うのだが、家庭菜園の本とかでは読んでいる。
営利目的の畑であれば、トウモロコシ、エダマメ、トウモロコシ、エダマメ・・・という間作がいいらしいが、うちの菜園には合わない。
家庭菜園でだとオーソドックスなのは、トウモロコシの畝の両脇にエダマメないしラッカセイというのがいいということだったはずだ。
厩肥力の高いトウモロコシと、チッソを固定するマメ科は相性がいいのだそうな。
だが、今回はそのどちらも使わない方法でやろうと思う。
ただし、基本には忠実に。
「トウモロコシは南北方向の畝に二列で植える」
二列で植えることで、受粉がうまくいくようにするのだ。
三列でダメな理由は、中央の列に日が当たらなくなるので育ちが悪くなるからだ。
やはり、二列がいいらしい。
トウモロコシは背が高くなるので、ナスやトマトのように光を好む野菜が陰にならないようにする必要もある。
なので、畝を作ってはあっても植える苗がなくて放置していた中央部の空き畝に植えることにする。先日植えたナスやトマトから少し離れるので、日陰の心配がない。
畝は幅90センチ、高さ15センチ。
「トウモロコシは株間30センチ、条間60センチで2列に植える。ここにスイカも植えるぞ」
「スイカも、ですか?」
「そうだ。トウモロコシの列のあいだに1メートル間隔でな」
スイカというのは野菜の中でも日照を必要とする上位に入るが、このくらい空けてあれば、十分育つ。うちの畑なんて夏の盛りには見た目が草の海になってしまうのだが、ちゃんと実をつけてくれるのでお盆のお供えに重宝したものだ。
あれに比べれば、トウモロコシの壁なんてどうということはない。
一つの畝で二種類植えられるから楽でいいし。
しかも菜園の有効活用にもなる。
広い農地を最大限に使っての野菜作り。
これは夏になったら野菜は自給自足できてしまうかも。
ミーレスとシャラーラがさっそくトウモロコシを植え始めたので、アルターリアはスイカを長ネギと一緒に植え始めた。
オレはと言えば、エダマメの苗を先日は空きを作っていたピーマンやトマトのところに植え付けた。これで、若干寂しかった畝もよくなるだろう。
それが終わると今度はエンバクだ。
エンバクはスイカがつるを伸ばし始めたら、そのつるを誘導することになる畝の外に対して植え付ける。
もうだいぶ暖かくなってきているから、今から植えると穂を付けずに地面を這うはずだ。スイカはエンバクにひげづるを巻きつけながら育っていくことになる。
そうすると、朝にはエンバクが葉の先から水滴を出してくれるので、この水分がスイカの大敵である葉にうどん粉をはたいたような白いカビができる病気「乾燥大好きうどん粉病」の胞子につくと水分が苦手なうどん粉病の胞子を破裂させてくれて病気予防になる。
エンバク(燕麦)もちゃんと穂がつくように育てれば、麦として収穫してオートミールにできるのだが・・・オレはオートミール好きではないので惜しくはない。
燕麦。カラス麦の栽培種であることから「真」がついて別名マカラスムギ。北欧の一部地域では主食にされている麦なので惜しいと思わなくはないがパンとかになる小麦と比較すれば、ムリして食べたいものでもない。
スイカを病気から守ってくれれば、それだけで十分だ。
マリーゴールドのほうは、根を侵すセンチュウ対策&害虫を減らす効果を狙って畑の周りを縁取るように植えておく。
数が全然足りないから効果はないかもしれないが、ないよりはよかろう。
結局、クレミーたちが来たのはその日の夕方。ギリギリ日が残っている時間帯だった。夕食も済ませたうえで、診療所には寝るだけに来たという感じだ。
オレは、ミーレスたちと風呂に入ってたから、対応はしていない。
クレミーとしても、その方がいいだろう。
夜。
メティスはオレがシャラーラと一回戦の最中に寝室に上がってきた。
寝室のこちら側には、青白い光を放つライトスタンドと三股の燭台に蝋燭が揺らめいているが、向こうは明かりがない。
だから、暗くてどんな顔をしているのかはわからない。ただ、しばらくは横にならず、ベッドに腰かけていたのはおぼろげに見えていた。
本当に覚悟を決めつつあるようだ。
猶予期間が残り9日となった日の夜のことである。
朝、ミーレスとの買い物から帰ると、クレミーたちも食事の支度を手伝っていた。
「あ、あんたたち、いつもこんな豪勢なもの食べてるの!?」
マローネがオレの顔を見た途端、そう叫んだ。
テーブルには、パンとスープ、野菜の炒めものに焼いた肉。いつも通りの朝食がある。
奴隷だけでなく、一般人のマローネでさえそう思うのか。
「まあこんなものだな。これでも、質素な方だぞ。オレたちが食事を作るときはもう少し手を加えてるし品数も増えるからな」
抱き付いてきたリリムを撫でてやりながら答える。
メティスはどうしても、これまでの生活水準から抜けられないようで控えめになりがちだ。
「そちらの方々が綺麗なので、なんとなく予想はしていましたけど。ゆとりを持って生活しておいでなのですね」
シェリィが好ましげに微笑む。
クレミーを押っ付けようとしているからか、生活水準が高いことが望ましいらしい。
「あら、オレたちってことは、あなたも料理をするということ?」
なにか、意地悪そうな笑みでクレミーが言う。
どうやら、オレが料理をする事なんてないと思っているらしい。
「もちろんです。ご主人様はいろいろと料理を作ってくださいます」
ミーレスが少しだけ敵意を滲ませて応えた。
「おいしいんすよ」
「というより・・・メイン料理はご主人様が作ってくださることのほうが多いくらいです。私たちの知らない調理法の料理もいただけます。とても、おいしいものです」
シャラーラとアルターリアがすかさず援護射撃をして、リリムが今にもよだれをこぼしそうな顔で後方支援をする。
少し誇張しすぎではないかと思うのだが・・・。
胃袋を掴むって、大事なんだなあ。
「・・・え? ちょ、ちょっと待って、え? ご主人様って・・・あなたたち奴隷、なの?」
感慨に耽っていると、マローネが焦ったように聞いてきた。
ああ、そういえば紹介とかしてなかったな。
「はい。筆頭奴隷のミーレスです」
堂々たる態度で、ミーレスが頭を下げた。
商館で叩き込まれた作法以上の完成度だ。
「二番奴隷っす。シャラーラっす」
並んで、シャラーラも頭を下げる。
同じ商館で学んだのだから当然だがぴたりと揃っている。
「三番。アルターリアです」
アルターリアも頭を下げた。
正しくは、家に来た順番でいうならリリムが三番なのだが、パーティメンバーを優先する。とルールを明確にしたので地位としての順番ではこうなる。
順番が必ずしも来た順ではない、と示す意味でも意義のあるやり方だと思っている。
「四番、リリムです。よろしくお願いします」
嬉し気に片手をあげて宣言したあと、ミーレスやシャラーラと同じように頭を下げる。
アルターリアだけ、少し頭を下げる前の動作が違っていたが、下げる角度は綺麗に揃っていた。礼儀作法に関しては、奴隷を扱う商館全体に共通のマニュアルがあるのかもしれない。
マローネ、シェリィ、クレミーが、揃って息を呑んだ。
メティスも息を呑み、チラッとオレに視線を向けてきたが、オレの目を見ると、こちらのことは気にかけてないような態度でテーブルメイキングを続けた。
自分も挨拶するべきかと迷ったのだろう。
「先日の夕食会の時、ドレス着て装身具を付けていらしたわよね?」
腕輪他のことだろう。
「とてもよく似合っていたわ。あつらえたように」
シェリィに続いて、クレミーも口を開いた。
「ご主人様に買ってもらったっす」
「もちろん、奴隷のために買ったものは所有者の持ち物ですが、私たちの好きに使わせていただいています」
「とってもきれいです!」
シャラーラ、アルターリアときて、リリムが自信満々に胸を張る。
「え、えと、安くないよ、ね?」
マローネが、シェリィとクレミーに目を向ける。
「私の見立てでは、総額六万ダラダ以上と見ました」
おー。さすがに貴族の付き人。いい鑑定眼をしている。
「よ、四人で・・・二十四万ダラダ以上・・・?」
「ドレスも、全部いい生地使ってたわ」
クレミーも少し怯えた様子で声を震わせている。
「そちらの・・・方々の購入額は平均で四十五万というところでしょうか」
間違ってはいない。値切ったり事情があったりしてもっと安く買ってはいるが、普通の相場で言えばそのぐらいだ。
「ということは、二百万ダラダ以上・・・ですか」
とんでもない話だ、とばかりにシェリィが首を振った。
マローネとクレミーも気押されたように立ちすくんでいる。
「そんなことより、朝食にしよう、せっかくの料理が冷めてしまう」
「えっと。そうですね」
「もちろんっす」
「いただきましょう」
「今日のお勧めはスープです。リリムが作りました!」
いつものように席に着く。
12人掛けのダイニングテーブル。キッチンを背にした中央にオレが、その正面にミーレス。ミーレスの左右にシャラーラとアルターリアが付く。オレの右隣りはリリムで、左は一つ開けてメティスが座った。
マローネたちはリリムの右側にクレミーとシェリィ、シャラーラの隣にマローネだ。
広すぎると思っていた12人掛けがほぼ埋まってしまった。
ま、まあ、三人はゲストだからいいか。
普通に食事が進む。
シェリィが、チラチラとオレとミーレスたちの食べ物に目を向けて、何かを確認していた。
主人と奴隷が同じものを食べるのはそんなに奇異なのだろうか。
マローネは夢中で食事を掻っ込んでいるし、クレミーは少しだけ上の空な感じでいる。
いつもならここで迷宮の話でもするところだが、どこに地雷があるかわからないのでやめておく。
話題はもっぱら街にある店の情報交換と、祭りの話だ。
「え、武闘大会があるのですか?」
クレミーが何気に振った話題に弾むような声でのっかったのはミーレスだ。
「・・・なるほど、古書ですか。服や装備品に中古があるなら、本にだってあっていいですよね」
露店の種類の話をしていたはずのアルターリアが、シェリィの話に相槌を打つ。
話しの内容はともかく。オレとしては、彼女たちの様子に領主の娘と奴隷という垣根は見えないのでほっとした。
「とりあえず、今日も迷宮で狩りをする。ただ、昼からはバララトの商人ギルドに行きたいから早めに切り上げよう」
慎重な手つきで、ミーレスが淹れてくれたカフェオレをすすりながら、予定を話した。
どこの迷宮とかは口にしない。
クレミーたちに、どこの何階層を探索しているかとか知られたくないのだ。
11階層を越えたのでクレールに行くというのもあるが、菜園のこともあるので現状のまま『デスモボロス』で探索を続けるつもりだ。
ミーレスたちにしてみれば、オレに連れていかれたところで戦うだけなので、あまりそういうとこは気にしていないようだ。
ただ・・・。
「マティさんになにか御用なのですか?」
ドリッパーを片付けていたミーレスが聞いてくる。
個人的に、誰に何の用かは気になるらしい。
「欲しいものがあってね。手に入りそうな場所を聞きたいんだ」
これまで、こういう理由の時はリティアさんだったが、帝都にはなさそうで迷宮以外となると。冒険者ギルドではなく、商人ギルドの管轄。つまりマティさんだ。
欲しいもの、というのはダシの原料なのだ。
昆布、鰹節、煮干しetc。
鰹節はともかく、昆布他の海藻類や魚の干したものなら、たぶんこの世界でも手に入る。
そうすれば料理のレパートリーと味付けの自由度はぐんと上がるだろう。
魚の多いところなら、魚醤もあるかもしれない。
「君たちのことは、メティスに一任してる。指示に従ってくれ」
メティスを指し示して、シェリィに言った。
他の二人には言うだけ無駄だろう。
意図的に忘れるか、天然で忘れるかは知らんが。
「わかりました」
「ふん、ピカピカに磨いてやるわよ!」
「えと、えと・・・がんばるから、ね?」
三人三様の声を背に、装備に身を包んで玄関から出た。
移動部屋からではないのは、自由に転移可能なことを知られたくないからだ。
そのまま治療院の方へ行き、死角に入ったところで迷宮に飛ぶ。
「めんどくさいな」
ほんの少しの歩きだというのに、つい愚痴が出た。
「手間ではありますね」
すかさず、ミーレスが同調してくれるが、どこかに「こんなことぐらいで」という響きが感じられた。
オレ第一主義っぽいがちゃんと冷静に見ているということだ。
ダメなときは叱ってくれるタイプ。
いわゆる姉さん女房というところだろうか。
「行動が、ではなく。そうしなければならないと思っている自分の考え方が・・・なのではないですか?」
そこに、さらに冷静な言葉が掛けられる。
アルターリアだ。
見事にオレの心理を分析してのけている。
やっぱり頭がいい。
「二人とも、よく見ているな。ありがとう」
苦笑しながら礼を言う。
この間、周囲に警戒の目を向けていたシャラーラも含めて、オレはこんなにも家族に恵まれている。
有難い。
「『異世界人』というのはなるべく知られたくないんだ。変に期待された挙句、それをやらないできないと分かったとたん『裏切られた』とか言われるのは本当に勘弁してほしい」
元世界でもいろいろあったんだ。
血を吐くような努力の末にした行動を、まるでインスタントラーメンにお湯を入れた、ぐらいの苦労しかしていないように思われて「あれもしてこれもして」というのが。
そのときの諍いでオレは翔平以外の友人をほぼ失った。
あの時はまだ小学生だったというのもあっただろう。
相手がバカすぎたというのもある。
だけど、「自分がしていない苦労は理解できない」そういう人間はどこにでも一定数いるのだと、その時に学んだ。
他人の意見を鵜呑みにして、こちらの話は一切聞かずに一方的に決めつけてくる人間もまた一定数いるということも。
自分の言っていることが無茶振りと知りつつ、利用できるものは骨の髄まで利用しようとする連中がいることも。
これはたぶん、世界が違ってもそんなに変わらないだろう。
というか、奴隷制度が普通にある世界なら元世界よりもそういう風潮は多いと思う。
偏見かもしれないが、ぐちゃぐちゃにこじれてから「ああ、やっぱそうなんだ」とわかってもあとの祭り。警戒はするべきなのだ。
「仰ることはわかります」
説明すると、視線を逸らしてミーレスは頷いた。
「否定したいのですけど。現実はそうなのですよね」
神妙な顔で、アルターリアも呟く。
二人とも苦々し気な表情をしている。
なにか思い当たるらしい。
やはり、そういうキチ・・はこの世界にもいるのだろう。
「できる限りの警戒はしておこう。無駄かもしれないし、無意味かもしれないけどな」
クレミーたちがそういう人間だと思っているわけではない。
ただ、秘密はどこから洩れるかわからない。知らなければ秘密をばらしようも利用しようもない。知らせずに済む秘密は知らせないに限る。
「さぁ、そんなことより、お仕事だ」
気分を変えるように明るく言って、13階層の探索に入った。
我が家の菜園に植えるべき苗が、また一種類増えるはずだ。




