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異世界で家を買いました。  作者: 月下美人
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うねうね

毎週五話の更新を目指していましたが、忙しい日々が続いたため、今回は三話での更新です。



※エダマメとサツマイモを植え忘れていたので追加。(トマトとピーマンのコンパニオン)



 ミーレスたちと合流して、先日の交易コースをたどる。

 「移動するだけで金貨二枚の儲け。なるほど、生活費には困っていないというのは、こういうことですか」

 商人ギルドでダイヤモンドを売り飛ばしたオレに、アルターリアが言った。なにやらため息交じりで、呆れているご様子だ。

 「楽をしすぎかな?」

 「そうは言いませんが、冒険者をしているのはなぜなのか、とは思ってしまいますね」

 交易だけで儲けが出ている。

 そう、金儲けがしたいだけなら一日フルに交易でもいい。

 合間に迷宮にも入るにしても、比率を逆にした方が金銭的な儲けは多い。

 まして、いま探索中の『デスモボロス』の迷宮は、金にはまったくならないのだ。

 「冒険者をしている理由、か。簡単に言えば、『選択肢は多い方がいい』になるかな」

 「と、言いますと?」

 「たとえば・・・アルターリアが言っていたオレに掛けてしまうかもしれない迷惑って、金を積めば解決する類のもの?」

 アルターリアがビクッとして目を逸らした。視界の隅にいるミーレスもだ。

 「金で済むんなら、交易だけしてればいいだろう。でも、世の中は金を積んだだけではダメなことも多い。まぁ、ね。だからといって腕力で何とかなるのかと言われればそれもどうかとは思うけど。最悪、それしか方法がないとなれば力づくで解決する。解決できるだけの力は身につけておきたいのさ」

 なにかの本で「嫌いな奴の命令を聞きたくないから」で皇帝になる話があったけど。極論としては同じ考えだ。

 オレは勇者じゃない。

 世界のために戦う義務なんてないし、世界の在り方に口だす権利もない。

 だけど、オレとオレの家族が平和に暮らすのを、理不尽な理由で邪魔する奴がいれば全力で戦うだろう。

 そのための力、武器は多いほどいい。

 それが金であり、冒険者としてのレベルなのだ。

 「今日はどうもまとまった時間が取れそうにない。迷宮は休みにする。家に帰って菜園の手入れをしよう。昨日、野菜の苗も手に入ったしね」

 なにしろ、夏野菜の定番。キュウリとナス、トマト、ピーマンが手に入ったのだ。

 これを植えずして、なんのための菜園か。

 「わかりました」

 「オラ、畑仕事なら得意だで。はだらくどぉ」

 すでに経験済みの二人は元気だ。

 シャラーラなどすでに腕まくりまでしている。

 だが、アルターリアはうなだれて、困ったような顔になった。

 「あ、の。わたくしは畑仕事をしたことがありません」

 さる高貴な生まれ、ではそうだろう。

 「農業をしようってわけじゃない。簡単なことから慣れてくれればいいよ」

 なんなら、農作業ではなく、得意の掃除をしててくれてもいい。

 そんなことを言うと、奴隷たちの間に差別が発生するかもしれないから言わないけどな。

 とにかく、家に帰り迷宮用の装備を外して菜園に出た。

 服は、奴隷商で着ていた服になる。オレのは盗賊の返り血を浴びたあと洗濯してあった服だ。シミとかついてなかったから、気味が悪いというのはない。

 化けて出てこられても、一人で寝てるわけじゃないから全然怖くない。

 ・・・トイレに行くときはミーレスでも起こせばいい。シャラーラが起きたときは、トイレで・・・コホン。

 ま、まあ、農作業のときの服なんて動ければそれでいいのだ。

 「『キュウリは光と水で作れ』という。日当たりと水気があるのがいい」

 東側の菜園。

 中央部はすでに植え付けが済んでいるので、水撒きのしやすい北側を選んだ。

 すぐ横に貯水池がある。

 定番であるだけに、土質はそんなに気にしなくていい。もちろん有機質に飛んでいて悪かろうはずもないが、ないならあとで追肥すればいいだけだ。

 初心者のアルターリアを横において、オレは鍬を肩にのせて畑を見渡した。

 ミーレスとシャラーラは、すでに芽が出始めている中央部の草取りをしている。

 うん。中央部を既に使用しているとはいえ、残っている分だけでも十分広い。

 今から収穫が楽しみだ。

 まだ植えてないけど。

 「では、作業を開始する。まずは、良く見ておくように」

 「は、はい」

 「まず畝と呼ぶ野菜を作るための場所を作り、作業などで歩く通路とはっきり分ける」

 説明しながら鍬を振るう。

 畑はすでに何度も掘り返し、そのたびに周辺の雑草や近所の牧場から分けてもらった牛糞(堆肥)、養鶏場から分けてもらった鶏糞(有機肥料)をすき入れて万全の土ができているのでふかふかになっている。

 本当はここに、野菜が好む弱酸性土壌にするためと、ミネラル分を補給するため牡蠣殻とか貝化石の有機石灰が欲しいところなのだが、今のところ手に入れられていないので、これでよいとしよう。

 ここに畝を作る。

 幅は60から90センチが使いやすい。長さは畑の長さに合わせて決めればいい。

 畝の向きは、選べる自由度があるなら、片側が日陰になる東西方向より、両面に日が当たる南北方向に長くする。

 ああ、それで思ったが、この世界でも太陽(恒星というべきか? と思ったが太陽はここでも太陽だ)は東から昇って西に沈むそうなので同じ理屈で問題ない。

 東西に長くすると、太陽が昇るのに合わせて朝から昼は東に、昼から夕方は西に日が当たって、常にどちらかが陰になる。それでは日差しがもったいないので、できれば常に両面にあたる南北方向がいい、というわけだ。

 「な、なるほど。論理的です」

 理由を説明すると、しきりに頷いて、そう言った。

 その反応を見て、オレはアルターリアが農作業を、あまり頭の使わない仕事と思っていたのではないかという気がした。

 肉体労働、と。

 まぁ、肉体労働である側面は確かにあるわけだが。

 場所を決めたら、鋤や鍬で深さ30センチくらいまで土を掘り起こし、土の固まりをほぐしていく。その後、通路にする部分の土を畝に積み上げていけばいい。

 これで自然と通路より一段高くなった畝ができてくる。

 「この、『畝』というのはなぜ必要なのですか?」

 いい質問だ。

 「まず、わずかとはいえ高くなることで日当たりがよくなる。それと、余分な水がたまりすぎないように、水はけをよくする効果もある」

 そういう理由なので、水はけが悪い場所ほど高くするべき、となる。

 普通は10から20センチほどだ。

 このとき、畝と通路の間に溝ができるようにする。

 そうすると、普段の水やりにも便利だし、作物の成長に合わせて追肥をするとき、この溝が役に立つ。

肥料はもう入れてあるので、鍬の刃の背などを使い、盛り上げた畝の表面を平らにすれば、畝の完成だ。

 「んで、50センチ間隔で苗を植える。今回は、キュウリ苗にまずネギを添えて、次がパセリ、ネギ、パセリ、って感じに交互に植えてみよう」

 キュウリは性質として温度と水分に敏感だ。

 特に土壌が水分不足になると生育が不良になりやすい。あと根が酸素を欲しがる酸素要求量が野菜の中で最も大きい方で、土に隙間がある土でよく育つ。元世界のうちの畑が、まさにそういう畑なので毎年キュウリはたくさんなったものだ。

 物の本によると、連作はうまくいかないので、一度作ったら二年は植えるな、とか書いてあるがうちは毎年植えている。

 家庭で食べる分を作るだけなら大して影響はないということかもしれないし。プランターで花を育てたあとの土を、雪が降る前に畑に捨てているせいかもしれない。

 茎や葉は意外と弱くて、風が当たると折れやすい。

 「コンパニオンプランツ、というのでしたか。植物同士の共生というのは目からウロコの発見です」

 コンパニオンプランツについては、迷宮でも話していたので、理解が進んでいるようだ。

 『ドロップアイテム』の『キュウリ苗』、『長ネギ苗』、『パセリ苗』、『ラッカセイ苗』を出して、貯水池に放り込む。

 魔力のカプセルを解除するのと同時に30分ほど水を吸わせる。元世界なら、植え付けたあと、タップリとホースで水をやればいいが、手で運ぶ水やりでは大変なので、先に水を吸わせる方が楽だ。

 「植えるのに遅いということはあるのですか?」

 中央部をちらっと見て、聞いてくる。

 「ほかの野菜にはあるかな。少しね。でもキュウリに関しては、早すぎてダメというのはあっても遅れて困ることはないよ」

 キュウリの発芽温度は25度以上と高い。そのあと順調に育てるには、夜間の最低気温が15度以上必要だといわれている。

 なので、温度の低い、早い時期には植えない方がいいということになる。逆に、この温度帯に近ければ、またはそれ以上ならば管理がずっと楽になるのだ。

 楽と言えば、キュウリには実をならせるために交配、受粉の必要がないというのがある。

 難しい言葉では、単為結果性というらしいが、花粉がつかなくてもついたのと同じ速さで、実が太る性質がある。

 これが同じ雌雄異花――おしべとめしべが別々の花についている――でありながら同じ仲間のスイカ、カボチャ、メロンとは違うところだ。

 ただ、これで実った実には本当の意味での種子が入っていないので、種取りに使いたいなら人工的に受粉させる必要があるそうな。

 種取りなんてしたことないので、その辺はよく知らないけど。

 「さて、植えていこうか」

 水を十分吸った頃合いを図って、植え付けを始める。

 まずはキュウリ苗一本を対角線上に長ネギの苗二本が挟むようにして植え付けたら、50センチ離して、次の苗はすぐ横にパセリを植える。これを、アルターリアと二人で交互に繰り返して、全部植えていく。

 キュウリ苗を植え終えたら、株間50センチの真ん中に『ラッカセイ苗』を植えた。

 相性という点では、ラッカセイはキュウリよりトマトなのだが・・・やたらたくさん苗が手に入っているので大盤振舞だ。

 「少し、狭く感じますね」

 苗と苗の感覚を見ていたミーレスが、呟きをこぼす。

 多少経験があると、違和感を覚えるらしい。

 「心配ない。キュウリやトマトは上方向、ラッカセイは横方向に育つから、畑を立体的に利用できて空間効率がいいんだ」

 おかげで、ただでさえ広い菜園に大量の野菜を植えられる。

 「さて、次はナスを植えようか」

 キュウリ同様高温を好むから、早植えは禁物。

 その分夏の暑さには強くて、秋の遅くまで収穫ができる。

 あれ・・・この世界のこの地域って四季あるのかな?

 じゃなくて、四季がはっきりと分かれるのだろうか? だな。

 日本のように四季の移り変わりがはっきりわかる地域というのは世界的に珍しい、とはテレビで聞いた気がする。

 他の国に住んだことはおろか、旅行に行ったことすらないので、それはよくわからないけど。

 気候の違いはこれから経験して学ぶしかないだろう。

 よく分枝して大きくなるけど、茎葉が込みすぎると果実の色が損なわれてしまうんで、適度に枝を落とす整枝が必要になる。

 まあ、それは大きく成長してからの話だ。

 植え付けの段階で気にすることじゃない。

 「ナスもキュウリと同じ植え方をするよ」

 「あんの、これ。この組み合わせって、これでねぇといけねぇんすか?」

 ナス苗とネギ苗を持って、シャラーラが首を傾げた。

 兎耳がまた折れている。

 「いけなくはないけど。効率とか考えると、ベターなのがこの組み合わせになるんだよ」

 混植と間作。どっちの場合も一緒に植えるのに必要な条件は、育ちが悪くならないこと。それが大前提だ。

 1、根の深さ。

 浅いところに根を張る野菜と、深いところに根を張る野菜の組み合わせ。

 2、光への必要性・耐性。

 光を好む野菜が日陰を作り出し、その日陰で育つ野菜とを組み合わせる。

 3、単子葉植物と、双子葉植物の組み合わせ。

 単子葉=発芽したときに葉が一枚、のネギと双子葉=発芽したときに葉が二枚、のナスとでは、利用する栄養が違うので、栄養を奪い合うことなく育つ。

 4、養分を欲しがる野菜と、チッソを土の中で固定してくれる作物の組み合わせ。

 こんな感じで、お互いの邪魔にならなければいい。

 ナスの場合は、キュウリとまったく同じコンパニオンで問題ないので、楽だ。

 ただ、少しだけラッカセイを多めにしている。

 生育盛りになると花数がどんどん増えて、良く実どまりするのだ。原因は肥料不足なので、栄養を蓄えてくれるラッカセイをたくさん植えておくと補ってもらえて追肥が楽だ。

 あとは、夏の暑さには耐えるくせに、乾燥には弱いのでラッカセイの横に広がった葉が、土の乾燥を防いでもくれるので一石二鳥でもある。

 同じ理由でパセリも多めに植えてみた。

 本来は敷きワラ、潅水に努める必要があるので、敷きワラ代わりにする。

 「ナスも終わったな」

 植えたばかりだというのに、見ただけで充実した畝になっている。

 「さすがに4人だと早いですね」

 ミーレスがオレの額の汗を自分のタオルで拭ってくれながら笑みを見せた。

 日差しの中で白い歯が光っている。

 「では、続いてピーマンを」

 ナスよりも高温性で、定植後に低温になると育ちが悪くなる。

 夏の暑さには強く、秋の徐々に寒くなる気候にも耐え日陰でも生きられるし、霜が降りる頃まで生育を続けてくれる。

 ただ、枝が細いのに実がたくさんつくので、枝折れしやすい。

 そんな性質がある。

 「ピーマンについては、すぐ横に添えるコンパニオンはなし。株間に『ラッカセイ』と『サツマイモ』を植えることにする」

 『ラッカセイ』はともかく『サツマイモ』は数が少ないのだ

 環境への適応力の高い植物なので、敷きワラとかいらないし、病気にも強いので補助があまりいらないのだ。

 水をよく吸うエダマメがあると、多湿を嫌うピーマンにとって好都合となる。

 エダマメでなくても、ピーマンにつく虫よけになるサツマイモやニンジンもこれからたくさん手に入るかもしれない。そのときのために、キュウリやナスよりも隙間を残しておこうというわけだ。

 「残りは・・・トマトですか。これはネギは?」

 アルターリアが畑の様子を眺めながら聞いてくる。

メインになる苗はもう『トマト苗』しかなくなっているのだ。

 「ネギはだめだ。ニラならともかくネギではトマトに消されてしまう」

 トマトの原種はアンデスの山の上で他の植物を排除して生き延びた植物なので、そばにいる植物を排除してしまう多感作用が強いのだ。

 そんな中、辛うじて生き長らえることができるのがネギ属の中でも強いニラだけ。

 「ということで『ニラ』と植えよう。あとはピーマン方式で行くよ」

 つまりラッカセイを株間に植えるだけ、だ。ピーマンの場合は多湿を避けるのに役立つが、トマトの場合は水分を制限してくれることでトマトを甘くする作用がある。

 とはいえ、そのラッカセイも途中でなくなってしまった。その代わりに『エダマメ』を畝の肩に、株間に『サツマイモ』植え付ける。

 害虫避けにスィートバジルかマリーゴールドでも植えたいところだが、これも苗が手に入ってないので断念する。

 「トマトの畝だけ、妙に寂しいっすね」

 シャラーラが面白くなさそうに呟く。

 オレとしてもつまらん。

 「明日以降の階層でいい苗が手に入ることに期待しよう」

 半ば以上、自分に言い聞かせた。

 ネギ苗はキュウリ畝の脇にあるだけ並べ、パセリもトマトとピーマン畝以外のラッカセイが生育するのに邪魔にならないところを、埋めるようにして植えてしまった。

 手に入れていた苗は、全部植えてしまったことになる。

 「まだまだ、畑が余ってますから。次は何を植えられるか楽しみです」

 ミーレスの言うとおり、空間効率を最大にして植え付けているので、菜園には若干どころではない空きがある。

 まだまだ苗は必要だ。



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