商談
家族に見送られて、冒険者ギルドへ一人で行く。
リティアさんに最短の行き方を教えてもらってタペストリーへ。
ちゃんと利用料金を支払って、目的地まで飛んだ。あとでミーレスたちを連れてくるのに必要だから、自分の魔力は温存しなければならない。
感覚的に、新幹線と特急を乗り換え、在来線を二つ乗り継いで、目的地へ。
これで、オレはまたタペストリーがなくても行ける場所が五つ増えたことになる。
『デスモボロス』の迷宮があるのは、『ディバラ』という街だった。
もともとが荒れ地だったところを開墾した地域ということもあってだろう。あらゆる面で物資が不足していた。
その分、大量にあるのが農作物だ。
そのためだろう、冒険者ギルドの周りにも農作物を大量に積んだ農家らしい人々がいた。商人ギルドだけではさばききれないので、冒険者にも売りつけようということらしい。
当然だが、オレ以外にも交易許可証を持っている冒険者はいるようだ。
何人かが立ち止まって値段交渉をしている。
「おにいさん、かってってよー」
そんな状況を眺めていると、ふいに裾を引っ張られた。
12歳というところだろうか、男の子がいる。
他の大人たちがオレを完全無視している中、まっすぐにオレだけを見つめて。
「オレに何を買えっていうんだ?」
「めちゃくちゃ質のいい『綿花』があるんだ!」
男の子が言ったとたん、ドッ、と笑い声が上がる。
「おいおい、ボウズ。売りてぇのはわかるがよぉ、そんなガキに買う金があるわけねぇだろうが」
「買ったとしても、運べるわけねぇだろ」
などなどの雑言が乱れ飛ぶ。
男の子は唇を噛みしめて黙り込んだ。
悔しい、というより邪魔な奴ら! と思っているのが表情からうかがえる。
「おい。その『綿花』はどこにある? ここに持ってきているのか?」
放っておいてもうるさいだけなので、ここにいなくてはならない理由がないようなら、とりあえず場所を変えたい。
「こんなとこには持ってこねぇさ。いちいち運ぶのめんどくせぇ。家にあるよ」
そうだろうと思った。
「じゃ、話はそこでしようじゃないか」
「・・・そうだね。ここじゃ話にならないもん」
ギロリ、と周囲の大人たちをひと睨みして、背を向けた。
その男の子に連れられて歩く。
『食うには困っていないが金はない。』という人々が通りのあちこちで酒を飲んでいた。
農作物は豊富なので、どんな貧乏人でも食い物には困らない。
そして、農作物が多いってことは酒も当然あるわけだな。
たいていはワインのようだ。もしくは蜂蜜酒。
ワインは色で、蜂蜜酒は匂いで判別した。
この世界にワインレッド色のウォッカとかブランディーがないならば、ワインだろうということだ。
「ここだよ」
街の中心部から離れ、かなり歩いた先にその農場がある。
なにも植えられていないようながらんとした農地が広がっているが、真新しい畝に細い線があるので種付けしたばかりなのだろうと思う。
かなり広い。
男の子の家は、その農場の真ん中にぽつんと立っていた。横には不釣り合いなほど大きくてしっかりとしたつくりの納屋がある。
周囲に畑しかない一軒家、平屋のボロ小屋だ。
「なぜ、オレに声をかけた?」
他にいくらでも金を持っていそうな冒険者はいたはずだ。
「そのカーゴトランクさ。交易許可証を持ってない冒険者が持つはずのない、ね」
肩をすくめながら、こともなげに言う。
「それに、仲間を連れていない。迷宮目当てなら仲間を連れてこないわけがないし、一人でふらっと来るには、この街への移動費はどこから来たにしても無駄に高い。買い付けに来たか、様子見に来たとしか思えない。つまり、おにいさんは見た目よりずっと金持ち」
証明終了、とばかりに会心の笑みを浮かべやがる。
見どころがある。
頭の回転が速い。
「なるほどな、大したもんだ。オレは、ハルカ。お前の名前は?」
「コレニ―だよ。ハルカ、か。にいさんも若いのにたいしたもんだよ。その歳で、商人ギルドに交易許可証出させるなんてね」
にやり、二人して笑みを浮かべた。
話しやすい。
結構気が合いそうだ。
だが・・・。
「男同士で褒め合ってもキモいだけだ。品物を見せてもらおうか」
「同感!」
コレニ―は納屋を開いて見せた。
鍵もかけていないらしい。
「この辺りはみんな『綿花』作ってるからね。自分のところでも持て余しているのに、盗むわけねぇさ」
不用心だな、と思っているとコレニ―は鼻で笑った。
それもそうか、とは思う。
「みてみて、最高級品だぜ」
納屋の中から、白い塊を抱えて持ってくると足元に置いた。
網のようなものにぎゅうぎゅうに詰め込んだ綿花だ。葉っぱなどの異物もしっかり取り除かれて、そのまま『綿』の状態になっている。
これなら、綿として使うにしろ糸にするにしろ楽だろう。
確かに、品質は良さそうだ。
「この塊一つで・・・そうだな100ダラダでいいよ」
ここで、リティアさんに売ってもらった相場情報が生きてくる。
この辺りは綿花農家が多いので綿花に限らず繊維の値段は底値だ。
ところが、帝国の反対側、つまり我が家のある辺りの相場は高値にある。
広い作付面積を必要とするので、農場を広くとることのできない人口密集地帯では綿花の供給は少ないのだ。
だから一生懸命に商人は運んで稼ぎたいところなのだが、ここでネックになるのが移動費用だ。
従来線二本乗り継いで、特急から新幹線に乗り換えて。地方から都会へと運ばなくてはならない。運搬費用を売価から引くと、儲けは微々たるもの、となる。
普通は。
しかし、オレは魔力の枯渇にさえ気を付ければ、原則タダで移動が可能になった。
移動費用を考えなくていい。
損のしようのない状況にある。
「よし、買おう。幾つあるんだ?」
「え? あ、あれ? 『高い、もっと安く』って言われると思ってたのに」
おおっと。
いっちょ前に取引交渉する気だったらしい。
じっさい、リティアさんから買った相場情報によれば、この辺りでの『綿花』の取引額は83から96のあたりで小幅な推移を見せている。
「100ダラダでいい。全部でいくつある?」
「・・・わかんない」
蚊の鳴くような呟きが聞こえた。
「なんだって?」
「わかんないよ。『全部で』なんて聞かれたことないもん。数えたことない!」
今度は叫ばれた。
なかなか感情の起伏のでかいガキだな。
「じゃあ、こうしよう。今日から、この塊を一日おきに80個ずつ買っていくから。お前は、この塊の質をチェックして必ず毎回80個の最高級の綿花を引き渡してくれ」
80個の最高級品を、どこから用意するのでもいいから引き渡せ。
つまりは周辺からこいつが80ダラダで買ってきて、オレに100で売ってもいい、ということだ。
それに気が付くかどうか。
一日おきにするのは、さすがに毎日では、相場が崩れるかもしれないからだ。
「い、いいよ。任せて!」
気づいたらしい。
目をギラギラさせて請け負った。
「よし、じゃあ。今日の分だ」
銀貨80枚を渡す。
で、カーゴトランクに綿花の塊を入れていく。
直接買い付けのできる、初めての取引先ができた。
商人ギルドが相手では、交易がやりにくい。
向うも各地の相場情報を把握済みなので、取引のたびに足元を見られてしまう。それが嫌で、単発的、または冒険者ギルド内での直接販売しかしてこなかった。でも、直接買い付けなら、腹の探り合いもそれほど深刻なものにはならないだろう。
これで売りさばく先も直接取引のできる相手なら、独占的に取引ができる。
本当の意味での交易ルートが完成する。
コレニ―と別れたオレは、冒険者ギルドに転移して『デスモボロス』の迷宮一階層に足を踏み入れると、すぐに転移した。
これまで行ったことのあるポイントをいくつか経由して、セブテントの街の商人ギルドへと向かったのだ。
ただ、出て三歩ほど歩いたところで、世の中の不条理を呪った。
あの公爵がいたのだ。
「おお、あの時の冒険者ではないか!」
覚えていたらしい。
オレを見つけて、気軽な調子で声をかけてくる。
こんな事態を避けるために、何度も確認して冒険者ギルドではなく、商人ギルドに出たというのに。完全に無駄になった。
「ご無沙汰しています」
出会ってしまったのでは仕方がない。
挨拶した。
挨拶だけで済んでくれれば、害はない。
「うむ。セブテントの迷宮には入ってくれておるか?」
無理だったか。
世間話につかまってしまった。
「えーっと。はい、ときどきは」
嘘ではない。
クルールの迷宮に行く時に鉄製の武器を手にいれようと入ったことがある。
『ときどき』の定義に当てはまるかは知らないが、あれ以来一度も入っていないわけではないから、嘘ではない。
「そうか。頼むぞ。我が町の平和はお主の肩に掛かっておる!」
いきなり街なんて巨大なものを背負わせるのはやめてほしい。
「ところで、商人ギルドには何用があってきたのだ?」
一瞬、適当なことを言って煙に巻こうという意思が生まれかけた。
だが、領主に嘘をついてあとでバレるのは面倒だ、と思って思いとどまる。
「『綿花』を仕入れましたので売りに来たのです」
「『綿花』とな」
公爵が、顔色を変えた。
「多いのか?」
「とりあえず80個の塊を・・・」
「見せてみよ!」
いきなり命令してくる。
商人ギルドの人間も興味深げに見てきていた。手招いて、ギルド内の部屋を指さした。
『商談室』、と名札がついている。そこなら邪魔にならず、人目も引かないということか。
さすがに、ギルドのホールで荷物を開けるわけにはいかないから助かる。
いや、公爵の暴走を止めてくれ。
と目で訴えたが、ムリ、と手で合図された。
おのれ!
「で、ではあちらで」
ギルド職員の勧めに乗って、その部屋に入る。公爵が鼻息も荒くくっついてきた。
鼻息荒くしてくっつくのはシャラーラだけにしてほしい。少なくともおっさんにだけはやってほしくないぞ。
カーゴトランクを開けて、ひと塊テーブルの上に出してみた。
「おお! 良い品ではないか! これならすぐにでも加工できるな」
綿の塊をつついたり、引っ張ったりしながら公爵がはしゃいだ声を上げた。
「えーつと。それほどの需要があるのですか?」
そうでなければこんなに興奮はしないだろう。
加工、とまで言っているし。
いや、事実需要があることは知っている。
相場情報で『綿花』の取引額が高く、オレが行ったことのある場所周辺にある街。ということで名前が挙がったのが、このセブテントの街なのだから。
それでも、公爵自らがこんな反応するとは思わなかった。
「うむ。最近、わが街の職人たちが椅子に布を張ることを思いついてな。我が家の椅子をすべてそれに変えたら、訪れる貴族仲間や商人どもの評判が良くてのう。名産にしようと思っておったのじゃ」
ベルベットとかモケットとか言われる生地を椅子に張ろうということだ。
確かに、こちらの世界の椅子は硬すぎると思っていた。
ソファーは柔らかすぎて沈むし。
「ですが、我々の土地では綿花があまり育たないようでして、輸入しなくてはならないことがわかり、買い付け先を模索していたところなのです」
おおっと。
いきなり入ってきた騎士団長が、公爵の言葉を引き継いだ。
後ろにさっきのギルド職員がいるところを見ると、気を利かせて呼んでくれたらしい。
グッジョブ!
「この質ならば申し分ないでしょう。いかほどで、お譲りいただけますか?」
リーズンがさっそく商談に入った。
って、公爵家で買い取ってくれるのか?
いや、そうか。
名産って言っているから公爵領全体での政策の話になるんだな。
いったん領主が買い取って、そこから職人に卸す。供給されるものの品質と価格を一定にするために用いられる手法だ。
「そうですね・・・」
100で買ってきているから、それ以下はない。
移動に掛かる費用を往復で考えて、人件費があり、儲けを出すとなると。
「135ぐらいで、どうでしょうか? その塊一つで」
「買った!」
言ったとたん、公爵が塊を抱きしめて叫んだ。
そんなに欲しいのか。
「よろしいのでしょうか。こちらの見積もりよりもだいぶお安いのですが」
公爵のほうを一瞥して、リーズンが真顔で聞いてくる。
本当は舌打ちでもしたかったのではないだろうか。
公爵の反応を見たオレが、価格を吊り上げるかもしれないから。
「それで十分に儲けは出せると思います。もとより、迷宮討伐の合間を利用して交易をしているわけですし」
商売をして生活している商人ではないので、と暴利を貪るつもりはないのだと安いことに理由を付けてみた。
実際はこれでもぼろ儲けなのだが、通常なら必要になるだろう経費を引けば、小遣い稼ぎ程度の儲けにしかならない金額なのだ。
「そういうことですか、それは我々としてもありがたいことですね」
「ですが、こちらで手に入る交易品の中に安く譲っていただけるものがありますなら、取り扱わせていただけると助かります。空にして帰りたくはありませんので」
カーゴトランクを示して、すかさず探りを入れてみる。
「こちらとしては、一日おきに『綿花』を80ずつ、持ち込むことができます。その時に、なにか別の商品を持って帰れると、ありがたい」
「二日で80ですか。加工所の作業量から言うと少なめというところですね」
少し足りないらしい。
「まだ本格始動もしていない話ですし、十分でしょう」
だが許容範囲ではあるようだ。
問題ない、とリーズンが頷く。
「さて、別の商品ですか」
騎士団長殿は考え込んだ。
あまり良すぎるものは回したくない。かといって変なものを提示してへそを曲げられても困る。悩みどころだろう。
「悩むことはなかろう。『鉄器』でよいではないか」
公爵が、またしても口を出した。
再び真顔になるリーズン。
「『鉄器』ですか。確かに数は多いですが、あんなものでよいものか・・・」
思案顔をオレに向けた。
オレはと言えば、リティアさんの相場情報を思い出していた。
ここは鉄鉱石系の『ドロップアイテム』がたくさん採れることから、『鉄器』の製造が盛んではあるようだ。ただし、鉄製武器ほどには需要がなく、領内ではダブついているとか。
「かまいませんよ。ひとカーゴいくらで譲っていただけるかという問題はありますが」
ひとカーゴ。というのはカーゴトランクの枠に入れることのできる木製のカーゴに、規定量を入れたもののことだ。こちらの世界では従量制になっていて、商人ギルドが厳格なルールで管理している。
「そうですね。255というところでしょうか」
チラリ、と公爵に顔を向けてから切り出してきた。
少々高めに値を付けたようだ。
というか、高めにつけている。
タグで、チェックした。
「・・・まぁ、いいでしょう」
移動費がタダなオレはそれでも儲かるので構わない。
ぎりぎりまで交渉して、わずかな利益を確保するより、円滑な取引のできる相手と思わせておいた方が、交易をするのには有利だ。
誰かに交易を頼もうというとき、ぎりぎりまで押し込まれる相手では二の足を踏むこともある。多少なら無理も聞いてくれる相手と思ってもらえていれば、急ぎのときには「是非に」と依頼される確率が増える。
『損して得取れ』の心意気だ。
公爵と関わらないようにしていたのだから、声をかけてもらいやすいようにするというのはおかしいが、すでにこうして関わってしまったからには機会は最大限生かさなくてはならない。
「ありがとうございます。では、『綿花』の荷下ろし場所へご案内させてください。その間に『鉄器』のほうも用意させます。80でよろしいのですね?」
「ええ、お願いします」
そうして連れていかれた先は、なんのことはない。
公爵の城だった。
城と言っても一部二階建て、規模とすれば元世界日本の山城程度だ。
門番役の騎士が、リーズンを見て門を開けてくれる。
石壁で囲われた中に入った。左側に倉が並んでいる。その一番手前に案内された。
「こちらになります。わたしの許可証を渡しておきますので、ご来城の際にはこれを門番にお渡しください。すぐに担当の者が対応します」
黒いカードが渡された。
リーズンの署名と公爵家の紋章らしい湖と欅の木を意匠化したものが描かれている。
「わかりました」
黒いカードをしまって、『綿花』を下ろす。
リーズンが自ら品質をチェックしている。
信用してないのか!
ツッコむ者もいようが、オレは気にしない。
自信をもって持ってきている。クレームを付けたきゃ付けてみろ、だ。
もちろん、何ら問題はなく『綿花』は倉に収まった。
「では、また明後日に持ってきます。時間はかなり早くなるでしょう」
「承知しました。明日の夕方には『鉄器』がここに運び込まれているようにします。今日の分は商人ギルドで受け取ってください」
135×80で10080ダラダ。金貨一枚と銅貨80枚を受け取った。
2800ダラダの儲けが出た。
リーズンと別れて商人ギルドに戻る。
膝が折れた。
いや、折れかけた。
危うく両膝をついてしまうところだった。
「おお、終わったか」
公爵だ。
領主様が自ら、『鉄器』の入ったカーゴを荷車から降ろしている。
どんだけ軽いんだよ!
『鉄器』の入ったカーゴがじゃなく、公爵の存在感の話だ。
いつのまにかいなくなったな、と思っていたら『鉄器』を運び出しに行っていたらしい。額に汗して、さわやかに笑い。首にかけたタオルで汗をぬぐっている。
どこの引っ越し屋か!?
まぁいい。
『鉄器』の入ったカーゴをカーゴトランクに収めた。
255×80。金貨2枚と銅貨400枚を公爵に支払う。
ここで17600ダラダのマイナス。
「それでは」
公爵に挨拶をして、商人ギルドの移動のタペストリーを使って、別の街に移動する。新幹線だ。特急に乗り換えて、『アーダマス』という街に出る。
相場情報で『鉄器』を四番目に高く買ってくれるはずの街だ。
「品物はなんだ?」
商人ギルドの交易所買取部門に行くと、ダルマみたいな丸々としたおっさんが対応に出た。何もしてないのにもう汗をかいている。
「『鉄器』です」
「はぁ、おもてぇな」
持ってもいないのに疲れ切ったため息をついて、手を振った。
わらわらと人足らしい人間が集まってきた。オレがカーゴトランクを開くとどんどんと運び出す。
「ほらよ」
図体の割に神経質なほど慎重に硬貨を数えて、板に乗せて突き出してくる。金貨と銀貨は板の上にそのまま。銅貨は百個の溝がついた箱にびっしりとはめ込まれたものが四つだ。
銀行などで、透明なもので巻かれた状態のものをイメージしてくれればいい。
毎回毎回、何百枚も数えるのは大変だと思っていたが、こんな方法があったのか。
「ケースごと持ってくんなら、ケース一つを10ダラダで買ってもらうぜ」
銅貨をケースごとしまおうとしたらそう言われたので、40ダラダ支払った。
このケースは便利だ。
320ダラダでの売り。
25600ダラダなので8000ダラダの儲けとなる。
経費の40ダラダは無視だ。
だが、まだ終わりではない。
売部門に行って、『鉄器』の買い取り額が上から四番目とわかっていながら、売り付け先にここを選んだ理由。『ダイヤモンド』を買い付ける。
80カーゴでの買い付け額は1380×80で110400。
いきなり額が跳ね上がったので空間保管庫から金を出して支払った。
あとは、これを帝都に運ぶ。
商人ギルドで売ると・・・1700×80の136000ダラダ。
8000+12800で20800ダラダの儲けとなる。
素晴らしいブラボ!
交渉時間を差し引くと、一時間足らずで金貨2枚の儲けだ。
交易も収入源として順調に開拓が進んでいる。
儲けも出たので、タッルムに転移した。
タキトゥス工房へ追加の仕事を頼むためだ。
「いらっしゃいませ、ハルカ様。生憎、ご依頼の品はまだ完成しておりませんが・・・」
工房に出て工房とは別棟の事務所を覗くと、プールスさんが声をかけてくれた。すまなそうに眉を寄せている。
「いや、それを催促に来たわけではありませんよ。もうひとつ追加で仕事を頼みたいのです」
「仕事の追加ですか?」
オレは空間保管庫にしまっておいたLED照明を出して、事務所の机に乗せて見せた。
「こいつに合う笠が欲しい」
「ああ、それでしたら、いくつかタイプがございます。こちらに在庫がありますので、ご覧ください」
ああ、考えることは同じか。
この『ドロップアイテム』を手に入れた者は、やはり工房に注文を出すということなのだろう。
自分で手に入れたか、オークションで買ったかはわからないにしても。
奥に行くと、ワイングラスなんかと一緒にランプシェードが飾られていた。
ピンクや、黄色、緑、青で百合の花のような形のものが多い。白や透明で、花弁の縁にあたる部分だけに色がついたものもあった。
そんななか、目を引いたのは正四角形のものだ。
他のが曲線主体のせいか、やたらと目立つ。
白い濁りガラスと、エメラルドグリーンのガラスとが四面に市松模様を描いている。
「あ、これいいな」
手に取ると、「ええ?!」と、叫ばれた。
おおっと。
びっくりした。
なんだ? どうした?
プールスさんがこんな大声を上げるとは。
「な、何か問題が?」
「・・・ぁ、い、いえ。問題はありません。ただ、その・・・それ、僕がデザインしたものなので。つい」
そういうことか、驚かせないでほしい。
「これは、いくらですか?」
誰がデザインしたものだろうが、気に入ったら買うだけだ。
「580ダラダです」
おずおずと金額を口にしたプールスさんに銅貨を支払った。
照明部分にちゃんとセットしてもらって、空間保管庫にしまう。
「先日ご注文いただいたものは、もうしばらくかかりそうです」
「簡単にできるとは思っていません。時間がかかっても構わないので、いいものを作ってください」
「もちろんです」
職人の顔でプールスさんが言ってくれたので、サイフォンはいつか必ず完成する。
気長に待とう。
もうネルドリップは完成していて、コーヒーは飲めているのだし。
エレフセリアの冒険者ギルドに転移、さすがに疲れたしポーションを一瓶使ってしまったので補充をした。
そのあとは買い物をする。
以前にも利用した家具屋に入った。
現在使っているのと同じデザインのクローゼットを、三つ買い足す必要があったのだ。
リリムとアルターリアの分。そして予備。
家を買った当初はミーレスとオレ、メティスの分しか買っていなかった。
なので、シャラーラが増えたときにはメティス用にとっておいたのを使わせ。リリムが来た時には、オレのを使わせてやった。メティスは自分の部屋があるし、オレには戸棚があったから。
だが、アルターリアのは全くない状態になっている。
買い足す必要があった。それに、奴隷はこれからも増える。
予備を持っておくのは保険、または先行投資だ。
今朝儲けたばかりの金が消えたが、このための金だから惜しくはない。
クローゼットが家に届くころ、オレたちは家にいないだろうが、メティスとリリムがいるから問題もない。
次回更新は、来週の日曜です。