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異世界で家を買いました。  作者: 月下美人
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準備


 「ここまでくればいいか」

 奴隷商の商館から見えないところまで歩いたところで、立ち止まった。

 周囲は閑散としている。

 飲み屋や娼館が集まった一角なのだ。

 夜の開業に向け、寝静まっている。

 「これを履いて」

 空間保管庫からミーレスたちと同じサンダルを取り出して、地面に置く。

 昨夜仕上げたものだ。

 どうにか間に合った。

 アルターリアは奴隷商にいるときは裸足で、今はサイズの合っていなさそうな木靴を履いていた。

 木靴なんて、内履きならともかく、外で履く靴じゃない。

 「あ、ちょっと待て」

 素直に木靴を脱いだ踵に、靴擦れができかけている。

 上げられたままの足に手を添えて、サナーレを使った。

 傷がきれいになくなる。

 足を下ろさせて、ストラップをはめてやった。

 「あ、あの・・・。わたくしは奴隷の身、ご主人様にそのようなことをされては、立場がありません」

 大人しくオレにされるままになっていたアルターリアが慌てた様子で足を引いた。

 あー。

 確かに、見た感じ下男か男の奴隷に靴を履かせさせている女主人、の構図になってしまっているかもしれないな。

 「気にするな。うちでは万事、こんな感じでやっている」

 もう一方の足も、出すようにと促しながら言った。

 「ご主人様は、私たちを財産として非常に大切にしてくださいます。それがいかに稀有なことかは常に胸に置いておくべきですが、そのことを畏れることはありませんよ」

 「とってもお優しいっす。ご主人様にお仕えできるオラたちはとても幸せ者なんすよ」

 ミーレスとシャラーラがフォローを入れてくれた。

 おずおずと、もう片方の足が目の前に差し出された。

 同じようにサナーレをかけて、サンダルを履かせてやる。

 服のほうは古着のままだが、古着だからといってこすれて肌に傷がつくわけじゃない。こっちは放っておいてもいいだろう。

 「さて、どうする? 一度家に行くか? それともこのまま帝都で買い物にするか?」

 ミーレスたちに諮る。

 この場合、ミーレスよりもアルターリアがどう考えるかだな。

 「あの・・・」

 じっと視線を向けていると、アルターリアが口を開いた。

 「もしよろしければ、一度お話をさせていただきたいのですが・・・」

 お話、か。

 エルフ族で「さる高貴な家に生まれた」ような子が奴隷に売られたのだ。何か事情があるのだろう。

 「わかった。では家に行くぞ」

 言って目についた家の陰に足早に向かう。

 「え、あ、あの・・・」

 不審げな声を出すアルターリアをミーレスとシャラーラが左右から挟むようにして連れてくる。全員が角を曲がった瞬間、転移した。

 家の移動部屋に出ると、勢いのまま数歩歩くことになるが、予想の上なので障害物は置かれていない。全員安全に立ち止まった。

 「こ、ここはどこですか?」

 「オレたちの家だ。この部屋は、こうやって移動してくる部屋として使っているので『移動部屋』と呼んでいる」

 部屋の説明もした。

 「もしかして、移動のタペストリーがない状態で自力で転移がお出来になるのですか?」

 異世界人というのは知っている。

 そういうこともできるのだろうと、理解できたらしい。

 「そういうことだ。この先が玄関ホールで、その先にダイニングがある」

 移動部屋を出て、玄関ホール、ダイニングと移動しながら間取りを教えていく。

 「キッチンは見ての通りそこ、そっちの扉の先は風呂、こっちの扉の向こうがリビングだ。リビングの奥には二階への階段があって、寝室に行ける。詳しい案内はあとにするとして、まずは話というのを聞かせてもらえるか?」

 ダイニングテーブルのいつもの席について、聞く。

 アルターリアを正面に座らせて、だ。

 その右横にシャラーラが座り、ミーレスはまっすぐにキッチンに行って、オレのためだけにネルドリップコーヒーを淹れている。

 「わたくしは、エルフ族の中でも古い家に生まれました。それなりの権威を持っていたのです」

 はい、お嬢様だった話。

 ここから没落しますよ。

 「ですが、それは敵対する存在が多いということでもありました」

 雲行きが怪しくなってきましたね?

 「数年前になりますが、エルフ族を二分するような大きな事件が起こりました。わたくしの父が主導する革新派と、それを阻止しようとする保守派との激しい論争が繰り広げられました」

 雨かなぁ?

 「論争はやがて乱闘に、乱闘は暗闘に変わっていきました」

 雷雨になるようです。

 「そして・・・父は負けました。家族は散り散りになり、生死もわかりません。ただ、親族の数人に関しては人伝に殺されたと聞いています。おそらく父は殺されているでしょう。母はすでに他界していますし、兄たちはどうなったかわかりません」

 落雷とともに雹が降ってきました。

 「わたくしは生き延びるため、安全な場所に身を置くことにしました。奴隷商人の商館です。自分で自分を売ったのです。奴隷の身であれば、身分は失い家名もなくなるので追っ手をかけられないだろうと考えたからです」

 「なるほどな、しかも売り物となれば奴隷商人が身を守ってくれる」

 ミーレスがコーヒーを淹れた蒼天カップを持ってきて、オレの前に置くと、隣に座った。

 カップを手にして、一口飲む。

 絶妙な苦みと甘さが口の中に広がった。

 「仰るとおりです。確実な避難所となりました」

 賢明な判断だろうな、生き延びるという一点においては。

 「それで? 奴隷商の下から出たので、自分を買い取りたいとかいうつもりなのかな?」

 「まさか! そんなつもりはございません。奴隷として、ご主人様に身も心も捧げるつもりでおります」

 はっきりと告げて、頭を下げる。

 なら、なにが言いたいんだ?

 「わたくしが申したいことは、そういう事情でございますので、この先ご迷惑をおかけする可能性があるということでございます。そうなりましたならば――――」

 「オレたち家族が全力で守る」

 最後まで言わせずに遮った。

 「?! で、ですが」

 「実を言うと、そういう立場の人間は君だけじゃない。このミーレスも何かと問題を抱え込んでいて、『必ず迷惑をかけることになる』とさんざん言われた。だが、それでいい。なにかあったら、みんなで守るし、守られればいい。家族なら当然だろう?」

 普段はオレが思い切り守られる立場にある。

 いつか、ミーレスが何か困ったことになれば、オレが全力で守る。

 それが、シャラーラやリリム、メティスでも、アルターリアでも変わらない。

 そうでなくて、どうしてベッドに連れ込める?

 同衾するっていうのはそういうことだと思う。

 右腕を骨折した時、左手が「そんなのしらねー」などと言っていたら生きてはいけない。相互扶助は当然だ。

 アルターリアを買えたのは幸運だった。

 以前から、ミーレスに伝えたかったことを間接的に伝えられる。

 「お互い助け合うんだ。自分がいつか迷惑をかけるというのなら、役に立てるとき、家族の誰かを守るときには率先して働け。そんで、自分が迷惑をかけるときには堂々と甘えて助けられればいい。わかるな?」

 アルターリアは瞳を潤ませて、頭を下げた。

 たぶん、ミーレスもだったろうが、オレは見ていない。

 コーヒーを飲んでいたから。


 「その話はそれでいいとして、武器は何を持つ? 魔法使いだから杖とかになるのか?」

 「魔導士です。生まれつきですので、魔法使いだったことはありません」

 おお。

 ビシッと言われた。

 プライドは健在か。

 「わたくしの家系は少なくとも二度、神の血が一族に注がれています。ですので、魔法使いを経ることなく、魔導士として生まれてきます。特に女の場合は」

 血を分けたのは女神さまだったのかな?

 「そうか、それはすまなかった」

 「あっ! い、いえ。わたくしのほうこそ立場もわきまえず、無礼を申し上げました。申し訳ございません」

 詫びると、向こうも詫びてきた。

 知的で、ストイックだが、どこかかわいらしさがある。

 第一印象の『お姫さま』は正しかった。『お嬢様』ではない。

 「武器は・・・そうですね。片手剣がよいと思います。一応、こちらも修練は積んでおりますので」

 魔導士といえども護身術として剣を学んでいたわけか、なかなか気骨のある家柄だったようだ。そうでなければ、一族揃って滅ぼされるまで戦ったりはしないか。

 「わかった。帝都に行って装備を整えよう。迷宮に行くのは明日からだ」

 移動部屋から、帝都の冒険者ギルドに出る。

 今まで使っていた武器屋のラインナップでは物足りなくなってきた。もう少し上の武器を売っている武器屋を紹介してもらおう。

 「・・・服? 武器?」

 顔を振って、姿を探していると、斜め後方から声をかけられた。

 リティアさんがジト目で立っている。

 その横で栗色の頭をした女性職員が鬼の形相でオレを睨み付けていて、その頭にはリティアさんの手刀がのっていた。

 服? と聞いてきたのはアルターリアがいまだ古着のせいだ。

 ミーリスたちも簡素なチュニックとズボン、だが新品を着せている。ほつれのある服なんて着せていないのでそう思ったのだろう。

 「そうですね・・・両方で」

 このさいだ。

 ミーレスたちにも服を新調しておこう。

 今まで着ていたのは、菜園での作業用にすればいい。

 「いったいどこから、金を湧き出させているの?」

 あきれ果てた声が聞こえるが、オレは華麗にスルーした。

 リティアさんに勧められた店で、服を買う。

 デザインは一般的だが、少しだけ洗練されているように見えなくもない気がする。オレのセンスはあてにならない。なにを着ても綺麗にしか見えないので、店員さんと本人に丸投げにして金だけ払う。

 生地はいいものを使っていたから大丈夫だ。

 武器と防具もそろえた。

 エストックとマンゴーシュだ。

 魔導士なのに、両手に武器を持つのか?!

 と驚いたのだが、彼女の家ではそれが当然らしい。

 何なら背中に弓を背負ってもいいとか言い出したので、荷物持ちもしてもらうから、と言って押しとどめた。

 盾のほうは俗にバックラーと呼ばれるもののさらに小型のもの。ほぼプロテクターだ。相手の攻撃を弾くのには便利だが、防ぐのは無理だろうと思う。

 大丈夫なのかと思ったが、「防ぐことを重視しては動きが鈍る」とミーレスとアルターリア当人が言うのでそれでいいことにした。

 この辺のバランスが難しい。

 もちろん、使いやすい長さにして鋭利を上げ、軽量化もした。

 魔法攻撃用に杖はいらないのかと聞いたら、特に必要なものでもないという返事だった。

 某有名な魔法使いの主人公のように、杖を振って魔法を撃つわけではないらしい。

 そのかわり、『妖精のローブ』という魔導士用の服を買った。

 わずかに魔力を底上げする能力があるらしい。

 ・・・タグで調べたら0.02パーセントの上昇だった。

 んー・・・。

 ないよりはましなんだろうけど・・・。

 んー・・・。

 設定値変更も試みたが、あまり変わらなかったので軽量化だけしてあとはそのままだ。

 服、武器、防具と来たら当然、装身具も買う。

 魔導士ということで、前線には立たない。

 なので、『伝心』は買わず、『伝声』だけにする。

 とっさの指示、というのは必要ないだろう。

 『伝声』の色は瞳に合わせて、アメジストだ。

 そのかわり、二つ合わせて6万ダラダでおさまるもので、魔導士用に何かないか? と聞いてみた。

 リリムのとき、治癒魔法士用のがあったから、もしやと思ったのだ。

 「ありますよ」

 いつもの店員が、さも当たり前といいたそうな顔で、こともなげに答えて奥に引っ込んだ。あまりにもサラッとしていたので、ポカンと見送ってしまった。

 戻ってきた店員は、Oの字状のピンク色のものを手にしていた。サークレットのようだ。

 「『話す(ロクィオース)』です。もともとは、女性が口を他のことに使っているときにも会話ができるというものなのですが・・・」

 口を他のことに使う?

 考えて・・・噴きそうになった。

 なるほど、確かに『アノ』ときには会話ができない。息遣いとか何となくの雰囲気で意思を確認するしかない。

 その時に会話が成立するようにする装身具か。

 なんちゅうものを作るんだか。

 神ってやつは・・・。

 すごい・・・じゃ、なくて!

 頭を振って、浮かび上がった光景を振り払う。

 「ですが?」

 「迷宮内で使用すると、魔法を二つ撃てるようになります」

 「はい? 二つの魔法を同時に使えると?」

 「いえ、別々のを二種類、ではなく。同じ魔法を二つということです。口が二つになるだけですので」

 ああ。

 頭はひとつだからイメージはひとつしかできない。例えば「フレアアロー」なら火が槍のように飛ぶ映像を思い浮かべなくてはならないが、そのとき同時に、風の魔法を思い浮かべるというのは無理がある。

 だから、二種類の魔法を同時には撃てない。だが、砲口は二つにできるので二発撃てるようになる、と。

 「そのかわり、魔力は三倍消費するそうですが」

 「ダメじゃん!」

 使えねー。

 「はい。誰もがそう言って買ってくださらないので、お求め安くなっております。迷宮では使えなくても、ベッドでは使えますし・・・」

 使えるったって、『アレ』をしてもらいながら話ができる・・・どんなプレイだよ!

 ちょっと離して、一言二言話すぐらい普通にできるし、口に入れたまま喋らせるというのもそれはそれで・・・って! だから、どんなプレイだよ!

 二度もツッコませるな!

 「・・・伝声と合わせて、6万ダラダでいいんだよね?」

 「はい。それで結構でございます」

 「なら、もらおう」

 6万ダラダで全員合わせられるし、魔法を二発というのもレベルが上がれば使いどころがあるかもしれない。

 

 家に帰ると、ミーレスたちが夕食の支度をはじめている間に、アルターリアを寝室に連れていった。

 別にこれから味見を、ということではない。

 寝室を仕切って個室を作るのに、場所を決めるためだ。

 「見ての通り、寝室に使っているこの空間は仕切ることが可能だ。今のところどこも仕切っていないから、どこにでも作れる。好きな位置で決めていいぞ」

 階段上の、仕切り板を見せて説明した。

 「なぜですか? ミーレスさんたちは以前からここに住んでおられるように見受けられますのに。個室がなく、わたくしだけ個室をいただけるのはなぜですか?」

 「誤解のないように言っておくが、オレは全員に個室をやってもいいと思っている」

 本当だ、ミーレスとの最初の夜のときだって、仕切り板の準備をしようとはしたのだ。それをミーレスが自分で阻止しただけで。

 「思っているけど、最初のミーレスが仕切りはいらない、と個室を拒否してな。シャラーラはちょっと理由があって、これまた個室を不要だと言い。このあと紹介するが、リリムというのも同様だ。これまでのところ、個室を作ろうとしても断られてきているというのが実情になる。アルターリアにだけ、与えようとしているわけではないよ」

 「あちらに、一つだけベッドがあるようですが、あれは?」

 奥にあるメティスのベッドを指さされた。

 やはり気付くか。

 説明が面倒そうだから避けたかったのに。

 「夕食の席で紹介するが、メティスという奴隷もいる。ただ、少し特殊な状況で奴隷になったもので、覚悟が定まっていない。なので奴隷として扱うまでの猶予期間を与えている。元は別の部屋で寝ていたんだが、リリムを奴隷として連れて来た時にいろいろあってな。今はあの隅で寝起きしている」

 要約するとこんな感じか、やはりめんどくさい。

 いろいろ漠然としていてよくわかんない説明だし。

 「事情がよく理解できません」

 そうだろうとも。

 より詳しく話さねばならんか。

 「ですが、わたくしも個室は必要ないと申し上げさせていただきます」

 なぜに?

 いや、もちろんオレ的には好都合だが。

 「そもそも、奴隷商のところでは一部屋に十数人が普通でした。ですから、個室への執着はもはやございません。かえって不安に駆られてしまいそうです。ですから、わたくしも個室は必要ございません」

 え?

 奥の部屋に一人でいたんじゃ?

 あ、いや、そうか。

 ディスプレイ上の理由で、買い手が来た時だけ、あの部屋で待機させられていたのか。

 「いいのか?」

 個室がない、ということの意味を理解しているのか。

 「まぁ、もちろん個室が必要だと思ったら、いつでも作るが」

 「ご奉仕の方法を教わるとき、個人個人だと思いますか?」

 頬を染めて、聞いてくる。

 商館での話か、それは・・・。

 「違うだろうな」

 そんな手間をかけるわけがない。

 何人か集めての集団体験授業になるのは当然だ。

 「そういうことです」

 頬を染めて流し目をくれた。

 つまり、オッケーサインだ。

 そういう行為をしていいですよ。

 ミーレスたちのを見せられるのも、自分が見られるのもかまわないですよ、ということ。

 人前であられもない声を出させられたりしてきたのだから、いまさら恥ずかしいとかの感情は沸かないということだ。

 集団で、でも。

 あ。

 そっか。

 だから、シャラーラもリリムも平気なんだ。

 謎が一つ解けた。

 なるほどね。

 「わかった。じゃ個室はなしでいいということで」

 「はい」

 話がついたので、二人でダイニングに行く。

 「ご主人様!」

 リリムが弾むようにして抱き付いてくる。

 治療院を開けている間は基本、治療院の仕事の手伝いと勉強をしている。敷地内にいるとはいえ、オレとはほぼ接点がない。

 こうして甘えてくる機会は、夕食時と就寝時しかない。

 就寝時はシャラーラなんかもいるのでオレを独占できないが、夕食の支度が進んでいるときには結構引っ付いていられるので、はしゃいでしまうようだ。

 下腹のあたりに頭をグリグリするのは、いろいろと刺激されるのでやめてほしい。

 「このこがリリムだ。リリム。新しい家族のアルターリアだ。仲良くしてくれよ」

 アルターリアにリリムを。

 リリムにアルターリアを紹介する。

 「リリムと言います。よろしくお願いしますね!」

 びょこん、と頭を下げてリリムがニパッと笑う。

 「よろしくお願いいたします。アルターリアです」

 アルターリアのほうは丁寧に頭を下げた。

 そのままメティスとも紹介を済ませる。

 二人とも、ちょっと微妙によそよそしいのは、立場上仕方ない。

 オレの奴隷になった順番では、メティスはミーリスの次なのだが、奴隷として扱っていない分、今の序列はアルターリアのあとになる。

 それは挨拶もしにくかろう。

 ダイニングテーブルの席順は、キッチンを背にした真ん中――右から四、左から三番目――がオレ。真向かいにミーレス。ミーレスの左にシャラーラ。シャラーラの前がリリム。オレの左側、一つ空けてメティス。アルターリアはミーレスの右側の席となった。

 迷宮メンバーが、オレを中心に固まる形になる。

 それだと、そのうちリリムとオレとの間に誰か入ることになるが、それはその時の話だ。

 「奴隷が、ご主人様と同じテーブルで同じものを食べるのですか?!」

 夕食の支度が進むのを見ていて、そうと気が付いたアルターリアが驚きの声を上げた。だが、「うちでは万事こんな感じでやってる」と靴のときと同じ返答をすると、椅子に落ちるようにして座って黙り込んだ。

 この世界の奴隷に対する常識とオレの対応の仕方が乖離しすぎていて戸惑うのだろうが、そのうち慣れるだろう。

 事実、シャラーラなんかはとっくに気にしていない。

 夕食は、シャラーラの野菜スープとサラダ。ミーレスが焼いたソーセージ、メティスとリリムが畑の雑草取りのついでに摘んだ野草の煮びたしというメニューだ。

 そこに、少し硬くなりかけたパンがつく。

 はっきり言って食事には不満が多いのだが、ガスコンロでしか料理したことのない身では、なかなか調理に挑む気力がわかない。

 火の調整がすごく難しい。

 沸騰させては味が落ちる煮物をしようにも、沸騰するか弱すぎてしまって仕舞には消してしまうか、焼き魚をすれば黒焦げか半生か、ではモチベーションが上がらない。

 何とかしたいとは思うのだが・・・・。

 ちなみに、魔力式コンロというのはあるそうだ。

 もしかしたら、と思って雑談ついでにリティアさんに聞いたことがある。

 ただ、思っていたのとは違った。

 鍋を長期間温め続ける。ようは、スープづくりをするような弱火で煮込む作業のときに火加減を見ていなくていい、というものでしかないようなのだ。調理器具というよりも、保温用といった方がいい。

 それでは煮炊きは無理だ。しかも馬鹿みたいに高額だ。買えるものじゃない。

 「アルターリアがパーティーに加わったことでもあるし、心機一転。明日からは『デスモボロス』の迷宮に入ることにする。まずはそこの11階層目に到達することが目標だ」

 夕食をとりながら、明日からの予定について話をする。

 「『デスモボロス』、ですか?!」

 すでにある程度知っていたミーレスとシャラーラ、迷宮探索には基本無関係なメティスとリリムが静かに聞いている中、アルターリアが叫んだ。

 叫んだといっても、少し高い声と言うだけのことだ。

 直前まで、びくびくしながら食事をしていたので、叫んだように感じてしまった。

 「そうだが、なにか?」

 「帝国の反対側ではないですか?!」

 ああ、そういえばリティアさんが遠いって言っていたな。

 「明日行くときは少し手間取るが、二回目以降はどうとでもなる。心配いらない」

 「あ・・・」

 オレが移動のタペストリーがなくても転移できることを思い出したのだろう。

 驚愕の表情のまま固まった。

 「それにしても、そんなに遠くにあるのに知られているってことは、本当に有名なんだな。その迷宮」

 「もちろんですわ。帝国の西側には広大な荒れ地があったのです。土地が痩せていて作物を作ることは不可能と言われていました。それを、肥沃な農業地とできたのは『デスモボロス』からの恵みによるものなのです。技術や知識などのおかげなのです」

 なるほど。

 世界的な農業改革が行われた地というわけか。

 有名なわけだ。

 「明日から、その恵みを直に見ることになる。うちの菜園も充実することだろう」

 「菜園があるのですか?」

 おっと、そうかそっちはまだ案内していなかったな。

 「ある。明日、リリムにでも案内してもらってくれ。オレが『デスモボロス』に行っている間の時間潰しに丁度いいだろう」

 『デスモボロス』まで、一度は行かなくてはならない。このとき全員で行ったらとてつもない費用を取られてしまうので、まずはオレ一人で行く。

 一時間から二時間はかかるだろうから、その間に家のことはミーレスたちでやっておいてもらおう。

 主がいない方が、円滑に進む。

そんなこともあるはずだ。

 もちろん、主がいなくてはどうにもならないこともある。

 まずは入浴。アルターリアの奴隷商での垢を、ミーレスたちが細に入り微を穿つ勢いで荒い流す。その繊細さと大胆さで、嬌声を上げさせられるのを鑑賞した。

 買ってきたその日にとは、なんて鬼蓄な奴。

 そう思う人もいるかもしれないが、江戸時代の岡場所で客を取っていた遊女が、男なしでは生活できない状態になっていたって話がある。

 毎日数人の男に身体を任せるのが当たり前の日々を送った結果、一日でも男なしで寝ると体がうずいて仕方がなくなるというのだ。そのせいで、ちゃんと身請けされたりしてまともに暮らせるようになったのに、間男作って離縁されたとか。

 商館で顧客に喜んでもらうため、日々『商品』として教育された彼女たちも似たようなところがある。そうでなければ、もともとそういう体だったシャラーラはともかく普段はまじめなミーレスまでが、夜になると乱れるようなことにはたぶんならない。

 これは奴隷を買った者の義務でもあるのだ。

 という、大義名分を掲げて、結局はオレがしたいだけだったりもするわけだけれども。

 アルターリアにしても、目の前でミーレス、シャラーラ、リリムが抱かれているのを見ていて平然としていられはしないだろう。

 ほぼ見えていて、聞こえているのに必死で無視している弱冠一名はいるが、あれはたぶん特別だ。

 そうやって理論武装をして、ベッドで存分に味わう。というか、ご奉仕を受けた。

 オレからは責めず、受け身で好きにやらせてみたのだ。

 ミーレスたちとは違う技術が、教え込まれていないかを確認するためだ。

 なにしろ奴隷商が違うし、戦闘奴隷として『も』使える奴隷だった。つまり、性奴隷のみの用途で買われることも考慮されていた。

 なにかテクニックがあるかもしれない。

 ・・・実際あった。

 初めてのため、羞恥に全身を燃やしながら、教え込まれた技術をすべて使って楽しませてくれた。

 恐るべし、奴隷商。

 結論、アルターリアは素晴らしい女性である。

 オレがダメなだけともいう。


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