クルール
「ここは・・・」
ミーレスが首をかしげる。
マクリアの迷宮ではなく、コロルの街でもない。
どこなのかわからないのだ。
「セブテントの迷宮っすね?」
鼻をスンスン鳴らして、シャラーラが言った。
「匂いでわかるのか?」
「ここは金属臭いんでわかるんすよ」
「ああ、そうか」
金臭さ、か。
オレにはわからんが、獣人にはわかるのか。
「コロルには明日の朝食後に行く。たぶんなんだが、コロルではここで手に入る武器防具の類が高く売れる。今日はぎりぎりまで時間を使って魔物を狩って、『ドロップアイテム』を集めるぞ」
「ああ。なるほど、そういうことですか。わかりました」
「狩りまくるっす」
二人とも気合を入れたようだ。
そして・・・。
すごい。
すごすぎる。
もはや二人は暴風と形容するべきかと思える勢いで、魔物を蹴散らして進む。
オレは剣を抜く暇もなく、『ドロップアイテム』を拾う作業に従事した。
そのかいあって、ミーレスとオレも頭装備を装着できた。鉄製のヘルメットみたいなものだ。かっこは悪いが、デザイン性はともかく、防御力は上がった。
他にも鉄製の武具がポンポンと出る。
「あ!」
またしても、シャラーラが魔物を瞬殺し、落ちた『ドロップアイテム』を見て、ミーレスが声を上げた。
「どうした?」
「ご主人様の武器を変えるチャンスです」
『鋼鉄の剣』。
『性能値=鋭利:65。重量:35。耐久:55。魔力:10(装備)』
今まで出たことのなかった、性能のいい武器のようだ。
これをさらに・・・。
『性能値=鋭利:90。重量:35。耐久:50。魔力:0(装備)』
とする。
おお。
かなりいい。
「んー。そうはいってもなぁ」
いい武器なんだけど・・・。
ちょっと悩む。
『ドロップアイテム』回収係にはいい武器すぎるのだ。
サイズ変更の魔法を使ってサイズを変えた。
前に使った数値は覚えている。
「ミーレス。この剣はお前が使え。お前が今使っているのは、家の寝室にでも置くといい」
剣を鞘にしまって、突き出す。
いい武器は、いい戦士にこそふさわしい。
「なにをおっしゃるのですか!? ご主人様が装備するべきです。奴隷が主人よりいい武器を持つわけにはいきません! か、家族だ、なんて言い訳はこれに関しては聞きませんから!」
うおっ?
機先を制された。
でも。
「家族はだめか、なら・・・右腕だな」
「み、みぎうで?」
「そうだ。ミーレスもシャラーラも、オレの手足、身体の一部みたいなものだ。オレの所有物なんだから、あながち間違いでもないだろ?」
「そ、それは、まぁ・・・たしかに」
不承不承、ミーレスが肯定した。
シャラーラもピコピコ耳を揺らして頷いている。
外堀は埋まった。
「つまり、ミーレスが剣を振るのは、オレが振っているのと同じだ。ミーレスはオレの右腕のかわりに剣を持って魔物を斬る。シャラーラはオレの左腕のかわりに魔物を殴る。だとすれば、ミーレスが一番いい剣を持つのも当然にならないか?」
どうだ?!
この理屈。
これならいいだろう。
「うー。反論したいのに、言い返せません! な、なにか、すごく言い負かされた感じがします。でも、分かりました。仰せに従います」
悔しそうにオレを睨みつつも、ミーレスは鋼鉄の剣を受け取って、装備を交換してくれた。
「これは、ちゃんとしまっておくから」
父親の形見と言っていた剣をもとの状態に戻して、リュックサックに括り付けた。
頭の中で警報が鳴る。
「お客さんが来るぞ」
魔物の接近だ。
シャラーラが即座に反応して飛び出す。
「こっちからも来る」
続こうとしたミーレスを引き留めて伝える。反対側からも敵は迫ってきていた。
「はっ」
接敵と同時に左から右へと払われる鋼鉄の剣。
敵は『ヘイタイアリ(歩兵)』。両手に剣を持って振り回してくる。
その剣が・・・。
「斬れた?!」
斬ったミーレスが驚きの声を上げる。
払いのけるだけのつもりだったのだろう。
驚きつつも足を止めなかったミーレスが、そのままアリの懐に入り込むと、払った姿勢から、手首を回して剣を振り下ろした。
アリの左の肩口から入った刀身が、そのまま右腹部から出た。
「ぁ」
すんなりと通り過ぎたせいでバランスを崩したミーレスが、慌てた様子でたたらを踏む。
その間に、アリの上半身が斜めに滑り・・・黒い霧になった。
あとには『玉鉄』という球状の鉄の塊が残る。
鉄鉱石の塊というのではなく、すでに製鉄されているのでこのまま材料にできるという便利なものだ。
「す、すごいです! この剣!」
態勢を立て直したミーレスがキラキラの目とツヤツヤの顔でオレを振り向いた。
「見事だ、活躍してくれ」
思わず駆け寄ってキスしたくなるが、そこは耐える。
「はい!」
いい返事をくれて、次の獲物はどこだとばかりにミーレスは目を光らせた。
そのあとも全員、ドロップアイテムで動きが鈍るまで探索を続けた。
どうせなら、『ゲートキーパー』を倒して終わりたかったのだが、荷物の重さがそれを拒否していたのであきらめた。
それでも、大量の武器を手に入れたのは事実だ。
その夜は少しだけ、しつこかったかもしれない。
心がウキウキで眠れなかったから。
シャラーラはもちろん、ミーレスも文句など言わず付き合ってくれた。
リリムが物欲しげな顔で指をくわえていたので、彼女の教育はどんどん進んでいる・・・そんな気がする。
ミーレスのレイピアは寝室の壁に飾った。
インテリアであると同時に、万一の時には護身用の武器となるだろう。
期待通りだ。
オレの予想は正しかった。
コロルの街で、鉄製の武器は飛ぶように売れた。
カーゴトランクを使って、セブテントで手に入れた武器を以前のも含めて全部持ってきた。それが全部、売れたのだ。
朝早くに商人ギルドに持ち込むと、その場にいた商人たちが目の色を変えて群がってきて値段を付けてきたのだ。ミーレスとシャラーラが必死に対応してくれたが、明らかに迷宮の魔物よりも怖がっていた。
それだけ、商人たちが殺気立っていたのだ。
「助かるよ。あんたには儲けが少なくてつまらんだろうが、これからも持ってきてくれると嬉しい」
そんな中でも一番たくさん買ってくれた武器屋のおっちゃんが、ホクホク顔で声をかけてきた。
儲けが少ない?
なんで?
いや、言いたいことはわかる。
セブテントの街から、コロルの街に来るためには通常ノルテセトロと帝都の商人ギルドを経由する必要がある。
その移動に掛かる費用を経費とすると・・・なるほど。
儲けがないどころじゃない。
赤字すれすれだ。
帰りにここから何か買って帰ることで多少は利益が出るだろうが、素直にセブテントの冒険者ギルドで売ったとして手に入る額よりほんのちょっとだけでしかない。
移動に掛かる費用を経費とすると・・・な。
オレはもうこれで、セブテントとコロル間の交易に移動費用は必要ない。その分が丸々儲けになる。
くく・・・。
いかんいかん。笑いだしてしまいそうだ。
これはおいしい。
かなり儲かるぞ。
だが・・・目立ちすぎるな。
これで味を占めて、何度も同じことをしたら「なんで儲けのないことをあいつはするんだ?」と興味を持たれてしまう。
注意して見ていられたら、正規のルートでは移動していないということに気が付く者も出てくるかもしれない。
『異世界人』だということは、商人ギルド内の人間には遠からず知れ渡るだろう。
そうなったとき、このことが知れれば確実に「何か特殊能力がある」と思われる。
それは危険だ。
人は自分にない力を持つ者に嫉妬し、憎悪を募らせることがある。
異世界の人間はそんなことにならない。などと考えるのは楽観主義を通り越してただの馬鹿でしかない。
警戒はすべきだ。
オレには翔平のような、政府全体などという、無茶の利く後ろ盾はないのだから。
「こちらに伺う理由があるときにはなるべくそうする、としか約束できませんよ」
「十分だよ」
そう。
この街でのクエストがあるときだけに限定すればいい。
来るついでだから、儲けが少なくても持ってくるのだ、と思わせておけば危険も少ない。
「ご主人様。全部売れました」
金貨の入った布袋を手に、ミーレスがやってくる。
音が全くしない。
布袋に空間が余っていれば、金貨が動き回り、ジャラジャラ音を立てる。
それがない。
つまり、わんさか詰まってて、中で金貨が揺れる隙間がないということだ。
金貨の二、三十枚は入っているかもしれない。それと銀貨が大量に。
・・・銅貨が大量に入っている、のではないといいなぁ。
シャラーラは中身のなくなった各種布袋をたたんでいるようだ。
「そうか。では、クエストを片付けよう。迷宮に行くぞ」
クエストで来たのだということを周りの商人たちに暗にほのめかしてから、布袋を受け取ってアイテムボックスに押し込んだ。たたんだ袋を抱えて持ってくるシャラーラからも袋を受け取って、同じくアイテムボックスに押し込む。
アイテムボックスの容積は六十×六十×六十×の六になった。
ここまでくると、結構使い勝手がいい。
いろいろ入る。
・・・なくさないように気を付けよう。
コロルの街の冒険者ギルドまで歩いた。
街は少し粉っぽかった。乾燥しているらしい。砂漠でも近いのだろうか。
やたらとターバンを頭に巻いた人たちがいるので、そうなのかもしれない。
冒険者ギルドはレンガ造りのドーム状だった。
元世界だとトルコとかに近いのかもしれない。インドだろうか?
近いというだけだ。
関連はあるまい。
冒険者ギルドに入り、そこからタペストリーでクルールの迷宮へと飛んだ。
迷宮はどこも変わりはない。岩の洞窟・・・だと思ってた。
「違うんだ」
呆れた声が出た。
見事なラビリンスが広がっている。
石をきちんと積んで作られた壁が、装飾用の柱や明り取りまでついて続いている。
そして、通路は常に前後と左右に続く形。
迷うと目印がなくて苦労しそうだ。
オレにはマッピング機能があるから関係ないけどな。
かなり精密なシントメトリーになっている。
きっとかなり凝り性な神様が作ったのだろう。
「造ったのは建築の神様とかかな?」
それにしては、『ドロップアイテム』が銅とか青銅というのは妙な気がする。
ただ、ドアノブとかの建具用金具の素材という可能性はあるかもしれない
「そうかもしれませんね」
予想を口にすると、ミーレスは賛同してくれた。
シャラーラはすでに屈伸運動をしている。
「最低限必要なのは『銅』と『青銅』10個ずつだ。とはいっても、どの魔物が何を落とすかわからない。しばらくはその見極めから始めるとしよう」
まぁ、結局は接敵した敵を片っ端から倒すだけではある。
「おお!」
そうきたか!
最初の敵は『ブルーゴーレム』。ひねりのない、青い色のストーンゴーレム―――いや、違った―――グラスゴーレムだ。
つまり・・・ガラス製のゴーレム?
そういえば少し透き通っている気が・・・。
体高二メートルほどのそれが、ゆっくりと歩いてくる。
迷宮の雰囲気にばっちり合っていて、なかなか見応えがあった。
やはり、ここを作った神様は凝り性だ。
「遅いっす」
体はでかいし堅そうだが、動きはとろい。
シャラーラが突撃していった。助走をつけての渾身の一撃、両手を組んで叩きつけた一撃がゴーレムの胸をえぐる。衝撃ではじかれる両腕の反動を利用して、振り上げられた左足が、えぐれた胸に突き立った。
接敵から六秒。
『ブルーゴーレム』は黒い煙となって消えた。
あとに残ったのは・・・『酸化コバルト』。
五百円玉ぐらいの大きさの青色の塊だ。
まんまかよ。
この神様、凝り性のくせに現実的というか、ファンタジーの世界観に自分のセンスを合わせる気がないものとみえる。
えーっと。魔物はガラス製で『ドロップアイテム』が『酸化コバルト』。確か、ガラスを青く染めるのに使う素材だったはずだ。
ということは・・・。
もしかして?
と思ったところで新手が接近してくる。
「次が来るぞ」
新手は右の通路から来た。
予想通りのシルエット。
やっぱりか!
『グリーンゴーレム』だ。
さっきとまったく同じ形と大きさの、ただし緑色のゴーレムが迫ってくる。
ミーレスが迎撃に行った。
タタッ、と二、三歩かけていき、剣を抜きしな思い切り背中と腕を伸ばして突き出す。
胸を貫いた。そのまま全身をばねにして、剣を払う。
ゴーレムの上半身がぐるりと回る。
胸を貫いた剣が、そのまま右胸を切り抜いたのだ。
残った『ドロップアイテム』は『酸化クロム』だ。
五百円玉大の塊。
やはり、ガラスの染料である。
緑色を出すための。
ミーレスが拾って持ってくる。そのあいだにシャラーラも戻ってきた。
「目当てのものとは違うようです」
手の中の『酸化クロム』をミーレスが手渡してくれた。シャラーラも『酸化コバルト』をさしだしている。
「そうだな、もっと上の階層に行かないといけないようだ」
この迷宮のテーマ――そんなものがあるのなら――はやはり建築か工芸品制作にかかわる素材を『恵み』とするものであるのだろう。
だとすれば、今後しばらくは他の色を出すための素材が『ドロップアイテム』として出る可能性が高い。
銅や青銅は、色の素材が出尽くしたあとに、出始めるような気がする。
「なんにしても、相手の魔物とは十分に戦えるようだ。ガンガン進もう」
「はい」
「もちろんっすよ」
その後は出てくるゴーレムを叩き壊しながら進んだ。
動きの速いゴーレムが、どこかでサプライズ登場するのではないかと警戒していたのだがそんなこともなく、ゆっくりとした動作で腕を振り回すゴーレムをシャラーラとミーレスが瞬殺して進む。
なので、最初の『ゲートキーパー』とは迷宮に入って二時間経たないうちに出会えた。
『ソララフキラー』。
ひょっとこみたいな顔をしている以外は、ほぼ普通のゴーレムだった。
なので、シャラーラが突撃して翻弄している間に、ミーレスが回り込んで斬撃を加えるだけ、オレはそれを見守るだけで終わる。
ときおり口から火を噴いてはいたが、せいぜい二十センチの飛距離では攻撃力としては0だ。シャラーラも最初は驚いていたが、二度目以降は完全無視していた。
『レアドロップアイテム』は・・・。
「棒?」
棒だった。
槍くらいの長さがあって中は空洞・・・ああ!?
「ガラス吹きの道具じゃないか」
『フキ竿』だ。
二層目。
そう、この迷宮は一層目の次はそのまま二層目だった。
ただ、『ゴーレム』と『ドロップアイテム』の種類が増えた。
『酸化ニッケル』と『酸化マンガン』が加わった。
紫または灰色の着色に使われる酸化ニッケルと紫に使われる酸化マンガン。それに伴ってゴーレムの色も 『グレーゴーレム』と『パープルゴーレム』と。
色は違っているが、大きさも速度も前出のものと変わらない。
そして前出のゴーレムも時折出てくる。
ならやることも変わらない。
二層目の踏破には一時間かからずに成功した。
二層目の『ゲートキーパー』が現れる。
『カタタフキラー』。
やっぱりゴーレムだ。なにかあちこちへこんでいるが、ゴーレムだった。
既視感のある光景が繰り広げられ、ゴーレムが崩れる。
『レアドロップアイテム』の『吹き型』が手に入った。
金属製のもので、内部が空洞に・・・。
「型だな。これは」
先ほどの棒に溶かしたガラスを付け、この型の空洞部分に入れて息を吹き込むとガラスが型通りの形に成形される。そのための金属製の型だった。
電球みたいな形とか円筒形、三角柱型なんかがある。
その後はもう、同じことの繰り返しだ。
階層は一つずつ上がり、三層目。
ラベンダー色の『ラベンダーゴーレム』とピンク色の『ピンクゴーレム』が出現魔物に加わり『酸化ネオジム』と『酸化エルビウム』が『ドロップアイテム』として手に入る。
『ゲートキーパー』は『カタオオシ』。
雌雄一対のゴーレムだ。
『レアドロップアイテム』は『カナガタタ』。
雌型の型と、そこに流し込んだガラスを押すための雄型の型。
四角や三角、円形の底を持つ箱形が作れるようになる型のようだ。
四層目。
黄色い色の『カナリアゴーレム』、スカイブルー色の『スカイゴーレム』が追加され、『酸化セリウム』と『酸化銅』がドロップするようになった。
酸化してはいるが、銅が手に入ったわけだ。
階層を上がっていけば、銅そのものも手に入るのだろう。
『ゲートキーパー』は『チュウゾウ』。
なんと、両手剣を振り回すゴーレムだ。
倒すと今度もまた型が出た。
雌型のみの様々な形の型のセット。
ここにガラスを流し込めということなのだろう。
「チュウゾウ」とは鋳造のことだったらしい。
乾燥肉で空腹を抑えて、どんどん進む。
五層目。
琥珀色をした『アンバーゴーレム』と赤と黄色のストライプというサイケなデザインの『セレン・カドミゴーレム』がさらに加わり『酸化鉄』と『グラスファインカラー』を手に入れた。グラスファインカラーってなに? と思ってタグで調べると硫化カドミと金属セレン粉末を反応させた物質であると出た。
よくわからんが、どちらもガラスに色を付けるための原料なのだろう。
『ゲートキーパー』は『パート・ド・ヴェール』。
炎をまとったゴーレムだった。
ごうごうと炎を上げたまま迫ってくる姿は結構怖い。
これは近づけない。
ついに、シャラーラの突進が止まる・・・あれぇ?
止まらなかった。
全然気にせず突っ込んで行って一撃、ゴーレムの胸を蹴りつけて後退。ちょっとだけ距離をとると再度突っ込んで行く。
完璧なヒットアンドウェイ攻撃が繰り返される。
その数九回。
そして十回目に行こうかと、シャラーラが距離をとったところで崩れ落ちた。
「フィー、ちょっと焦ったっす。燃えてるってのは反則っすよねぇ」
焦ったとか言いながら、平然としているように見えるのはオレの目が悪いのか?
「だ、大丈夫か? 燃えている中に突っ込んでたけど」
おろおろとシャラーラの体の周囲を回りながら確認した。
火傷の一つでも見つけたら速攻でメティスのところに飛べるように座標を打ち込んでおく。オレでも治療は可能だが、やはりこういうのは本職が一番だ。
「大丈夫っす。燃え移るには時間が必要なんすよ? そうそう燃えはしないっす」
ケロッとした顔で言われると「ああ、そんなものなのか」とか思ってしまいそうになるが、ミーレスも青ざめているところを見ると十分無茶な行動だったようだ。
一言注意しておくか?
そうも考えたが、以前のシュンとした顔を思い出して、思いとどまった。
シャラーラも自分を心配している仲間、家族がいることは理解しているのだ。それを踏まえて大丈夫との確信があっての行動だったのだろう。
なら、叱るようなことではない。
「すごいな。シャラーラ、ありがとな」
褒めるべきところだ。
「うっす。任せるっすよ。殴り合いはおらが得意だで。ご主人様は・・・っとなんでもねぇっす」
ぱあっと顔を輝かせてシャラーラは笑みを浮かべた。
途中まで言いかけた言葉が何を言おうとしていたかは少し気にかかるが、フーッフーッという鼻息で大体わかるので追及はしない。
「ご主人様」
輝くようなシャラーラの笑顔を見ていたら、ミーレスが控えめに声をかけてきた。
嫉妬してでもくれているのだろうか?
と思ったら違った。
『レアドロップアイテム』を手にしている。
拾ってくれたのだ。
『トーチランプ』。
トーチランプって、バーナー?
見ると確かにバーナーの形をしている。
でも、ガソリンとかあるのか?
あ、いや。そうか、魔力式か。
なるほど。
簡単なアクセサリーくらいなら、バーナーでも作れるということだな。
材料だけもらっても道具がないと造れない。
通常の『ドロップアイテム』で材料を、『レアドロップアイテム』で必要な道具をくれているわけだ。
『フキ竿』から始まってずっとそうだった。
ガラスの工芸品、か。
ある物の形が脳裏に浮かんだ。
可能だろうか?
試す価値はあるかもしれない。
これはマティさんに相談だな。
それにしても、魔力式のバーナーなんてものがあるとは思わなかった。
これはかなり画期的かも。
「よし。今日はここまで、帰るぞ」
六階層に出たところで声をかけた。
帝都時間で17:30と脳裏モニターには表示されている。ちなみに、スクロールさせてみるとバララト時間は16:30。エレフセリアは18:30だ。
この帝国――そういえば名前もまだ知らない――は元世界にあったソビエト連邦並みに広いようだ。
「宿をおとりになるのですか?」
ミーレスが聞いてくる。
ちょっぴり悲しそうなのはなぜだろう?
シャラーラまでが、この世の終わりのような顔をしている。
「いや、家に帰るぞ。マティさんに相談したいこともあるし」
「あ、そ、そうなのですね。わたしはてっきりこちらで宿をとるものとばかり」
パッと、ミーレスは表情を明るいものに変えた。
「そんなもったいないことしないよ。オレは一度行った所にはタダで移動できるんだから」
「そうでした」
「ご主人様はすごいっす」
すごくほっとした顔でミーレスとシャラーラはオレを見ている。荷物がそれなりに膨らんでいなければ抱き付いてきていたかもしれない。
奴隷という身分や、今の境遇に不満を持っていないことが感じられて、すごくうれしい。




