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異世界で家を買いました。  作者: 月下美人
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きょうたく


 結論を言ってしまえば、間に合わないのではないかというのは杞憂だった。

 五日後には、必要な金額が用意できたのだ。

 オレたちも、久々に『ドロップアイテム』の換金して用意した。

 『アリの剣と盾』以外のドロップアイテムを売るのは本当に久しぶりとなる。

 『アムルアモーレ』の迷宮の階層も30まで上がった。

 16階層から20階層までのドロップアイテムは、『効保湿』、『防乾燥』、『坑紫外線』等の効果を持つアクセサリーの『どれか』だった。

 指輪だったりアンクレットだったり、ティアラだったりする。

 それぞれ、効果範囲が定まっていて、指輪だと手首から先だけ、アンクレットだと膝から下のみ、ティアラは髪にしか効力がない。

 中身がランダムなので、全身分揃えるのは大変そうだった。

 あと、なんかすごくゴテゴテした感じのデザインばかりで、うちのきれいどころには似合いそうになかったりもする。

 なら『レア』はどうかと言えば、種類とデザイン固定のアクセサリーがカプセルに入っていて、色だけが任意で変えられるというもの。

 変えられるのが色だけなので、これまた自由度が低くて欲しいものを探すのが難しい。

 20階層から30階層までは通常もレアも 階層ごとに種類が固定で、デザインと色を変更できるカプセルだ。

 これらも、一つたりともカプセルから出すことなく、すべて売ってしまった。

 リティアさんによると30階層までに出るアクセサリーは、15階層までのと比較して「使えはする」が、どれもデザイン的に難があるのだそうだ。

 指輪で言えば、厚みも幅もあるゴツイもの。

 腕輪なら手首から肘までを覆う、装備品の手甲のようなもの。

 そういうものしか出ないようなのだ。

 役には立つが使い勝手に難がある。

 30階層からは、もう少し洗練されたデザインとなるとのことなので、この段階のものは全て売ってしまうことにしたのだ。

 いまはアイテムより金だしな。

 なので、一昨日には30階層に到達していたのだが、昨日と今日は上には行かずに20階層から30階層までを周回して魔物を狩りまくった。

 ちょっとびっくりするくらい稼げたものだ。

 ・・・初期の初期。アルターリアが来る前からドロップアイテムの換金をしたことがほぼなかったからな。

 10階層より下、三人での稼ぎと比較すれば、そりゃびっくりもする。

 『アリの剣と盾』のことは別にして、だ。

 アダーラたちの方も、結構な稼ぎを上げていた。

 種族特性で生まれついての狩人、ダークエルフのリリムさんが活躍したそうだ。

 マローネが昨夜、夕食後のコーヒータイムに話してくれた。

 褒めてあげたくて、昨夜はちょっと弄りすぎたかもしれない。

 理由はいい。

 ともかく、目標額を上回る金を用意できた。

 ホッとする。

 「みんなには苦労を掛けたが、昨日の夕方時点で目標の五百万ダラダに達した。朝食後に帝都に行き、両替を済ませたら帝国貴族院に供託してくる。安心して、迷宮探索を普段のペースに戻していいぞ」

 「おめでとうございます」

 「めでたいっす」

 「おめでとうございますっ!」

 「お見事ですね」

 「つくづく大変な人に買われたと思い知るわ」

 ミーレスたちも喜んでくれている。

 弱冠二名、エルフと治癒魔法師が呆れ顔だが気にしない。

 「す、す、すごい、ですね」

 「むちゃくちゃだよ!」

 「ご主人様はすごいです!」

 アダーラ、マローネ、リリム、が拍手をくれた。

 つられてフェリシダと、リーバ、レジングル、あとシュミーロも。

 「皆さん、ありがとうございます」

 クレミーとシェリィが立ち上がり、頭を下げてくる。

 クレミーの後ろ髪が見えるほどの角度で。

 そう、今やクレミーは長い赤髪をひとまとめにして背中で縛るだけになっていた。

 あの日以降、髪のセットにかけていた時間を惜しんで、朝早くから迷宮に入るようになったためだ。

 「あの、これを・・・」

 シェリィが、なにやら封書を差し出してきた。

 「クレミーの委任状です。クレミー個人の権利全般にわたり、代理となれるように作りました。貴族院に供託するのに必要かと思いまして」

 なるほど。

 本人ではなく、代理としてオレが行くのだから当然そういうものが必要にもなるのか。

 「すまない。気付かなかった」

 「いえ・・・五百万ダラダもの大金を用立ててもらっているのですから、このくらいは当然です」

 そういえば、マリシオなどはフランを奴隷にして売り飛ばすことまで考えていたんだったな。

 それを思えば、ほとんど何もしないで金が用意できたというのは有り難いか。

 俯いているクレミーの口から「五百万ダラダじゃないわよ。四百七十七万ダラダなんだから!」と怨嗟のこもった呟きが漏れているが、シェリィがひきつった笑みと額にびっしりとかいた冷や汗で「ツッコまないで聞き流して」と叫んでいるので、無視してあげた。

 別にどうでもいい。

 返してもらえなかったとしても、取り立てる気なんてないからな。

 オレは他人へ物を貸すときは、返ってこないものと踏ん切りをつけてからを心掛けている。

 ・・・逆に言えば、そのくらい信頼しているか、大切な相手でなければ物や金の貸し借りなんてしないということだ。

 「たまたまあったからな」

 もし、すっからかんだったらどうしたか、それはオレにもわからない。

 たまたま持ち合わせがあったのは幸運なことだったと言うしかない。

 ともかく、朝食が済むとアダーラ組は普段通り迷宮に出かけ、オレたちは帝都へと飛んだ。


 帝都の冒険者ギルドに出る。

 「・・・いらっしゃいませ。先日はご迷惑をおかけしました」

 タペストリーから出て窓口に向かうと、先日の男性職員が応対に出てきた。

 「この度は、どのようなご用件でしょうか?」

 聞いてきたので、今回は間違いようのない状態にしようと口を開くより先に空間収納から金貨を取り出した。

 「前回と同じ、金貨の両替を頼む」

 金貨を積み上げると、即座に後ろにいた職員が群がってきて金貨を数え始めた。

 「それと、帝国貴族院とやらに行きたいのだが、場所を教えてもらえるか?」

 「帝国貴族院、ですか」

 ぎょっとしたような顔で、男性職員がのけぞった。

 「通常、貴族院とかかわりを持つ者は貴族とその直属の騎士団ぐらいですから、冒険者が場所を聞くというのは異例なのです」

 あまりの驚きように、こちらが驚いているとアルターリアが解説してきた。

 「そ、そのとおりです。もちろん、場所は知っていますが」

 そういって男性職員が教えてくれた帝国貴族院というのは街の西部、かなり奥へ入った場所だった。

 たいして遠くはない。

 換金が済んだので、そちらに向かう。

 西町の奥へと進んでいく、見るからに貴族街と呼べそうな高級な住宅街へと入っていくようだ。

 元世界なら田園調布か、白金台といった感じだろうか。

 帝国貴族院は貴族街の入り口脇に立つ建物だった。

 名前のいかめしさとは違い、芝生の庭に囲まれた静かな邸宅といった雰囲気の木造住宅。

 一部二階の平屋だ。

 入り口から中に入ると、目の前にカウンターがある。

 なんというか、ホテルのような内装だ。

 カウンターの横の方には小さな喫茶スペースのついたロビーまであった。

 「ご用件をどうぞ」

 カウンターまで行くと、執事然とした物腰の年寄りが声をかけてくる。

 「ご主人様、ここはわたくしが」

 アルターリアが進み出る。

 まあ確かに、ここは元貴族令嬢のアルターリアのほうが対応に適しているだろう。

 ・・・そうか。

 冒険者ギルドで聞かんでも、ミーレスかアルターリアから案内してもらえばいい話だったんだな。

 安心して任せてしまおう。

 オレでは、変なところで地雷を踏みかねない。

 軍人肌の強いミーレスも黙っているのは、事前に二人で話し合ってでもいたのだろう。

 「任せる」

 うなずいて、場所を譲った。

 手続きは規定されているので混乱もなく、滞りもなく進んだ。

 ときおり、ミーレスが例の書類三枚を出したりオレがクレミーの委任状を見せたりしながらことは進み、五百万ダラダの供託金の預託が済んだ。

 「ご主人様、供託手数料に三千ダラダ必要だということですが」

 最後に、アルターリアの求めに応じて手数料を払って手続きは終わる。

 あっけない。

 預かり証は、照魔鏡が兼ねるらしい。

 そういえば、書類はすべて光っていた。

 いまさらだが。

 賠償請求に対する弁済は済んだ。

 こちら側ですべきことはすべてした、ということだ。

 これで、クレミーはマリシオの股間を焼いた件について、何一つ責任を追及されるいわれはない、ということになる。

 晴れ晴れとした気分、軽い足取りで家路についた。


 「ねぇ。今日はクレミー様たち、お昼帰ってくるかしら?」

 家に戻ると、珍しいことにメティスがダイニングにいた。

 それも一人で。

 マティさんとリティアさんは『アルカノウム連合』の本部に行っているし、フェリシダは大露天岩風呂の脱衣所掃除にでも行っているのだろう。

 シュミーロが何をしているかは謎だ。

 先日の営業で取ってきた仕事を片付けているのだろうけど。

 そうなると、メティスが一人きりになるのは必然か。

 「帰ってくるはずだ」

 自信を持って頷く。

 今朝、アダーラたちはリーバとレジングルを連れて迷宮へ行った。

 いつものペースに戻していいとは言ったが、それはオレの立場での話だ。

 クレミーの立場では、一刻も早く借りを返したいことだろう。

 稼ぎたくて焦っていると思われる。

 元のペースになんて戻せなくても仕方がない。

 理解はできる。

 だが、それはクレミーだけの話。

 シェリィ以外には付き合う義理がない。

 リーバとレジングルを連れて行くことは、連れ出される本人たちの意思に任せて口出ししていないが、昼食を抜いてまで迷宮へ入るとかはダメだ。

 昨日までは見てみぬふりで許していたが、目標額を用意できたからには本人たちがよいとしても、オレは許すつもりがない。

 なので、出掛けに「ランチには必ず戻るように!」と、強く釘を刺しておいたから帰ってくるはずだ。

 帰って来ないようなら、リリムも含めてクレミーへの協力を禁止する。

 そのくらいのつもりで言った。

 伝わったと思う。

 クレミーはあやしいが、シェリィなら気付いたに違いない。

 「クレミーたちが、どうかしたのか?」

 それを聞くために、わざわざ待っていたのだろうか?

 クレアのことが心配なのかな?オレがリーバを心配するように。

 ・・・いや。

 それは、なんか違う気がする。

 クレアは騎士になるのだ。

 昼を抜くくらいで音を上げはすまい。

 「顔馴染みの騎士団員が、落馬して治療に来てたんだけど」

 そう言って、メティスは気まずい様子で視線を泳がせた。

 もしや、元彼か?!

 ありえるよな!?

 気持ちが揺れてでもいるのか?!

 身構えそうになって、必死に自分を抑えた。

 「噂話なんて、するべきじゃないんだけど・・・」

 ああ、なんだ。

 強張った体から力が抜けた。

 違う。

 職業上の倫理の問題だ。

 仕事中に知り得た情報は、外部に持ち出してはならない。

 不確定な噂なら、なおさらだ。

 風評被害とか、生じさせかねないからな。

 それをやろうとしているので、気まずかっただけだ。

 「なにか気になる話でも、耳に入ったのか?」

 当然、そういうことなんだろう。

 落ち着いて問いかけた。

 「叔父様・・・エレフセリア伯爵様が、領地から出る準備を始めたって話よ」

 は?

 領地を出る?

 「金は払ったぞ?」

 追い出される話なら、金で解決したはずだ。

 「・・・それ、誰か伯爵様に伝えた?」

 はて?

 首をひねる。

 「・・・オレは、伝えてないな」

 そんな義務ないし。

 「普通なら、クレミー様かシェリィさんが伝えるのが筋なのでしょうけど」

 メティスが、小さくため息を吐いた。

 クレミーは迷宮で金を稼ぐことしか頭になくなっているようだし、シェリィはそんなクレミーのお守りで忙しい。

 伯爵への報告を失念しているとしても、不思議ではないわな。

 通話の魔法道具があるらしいが、電話みたいなもので済ませられる話ではないからな。

 ついつい先伸ばしにしてしまっているのかもしれない。

 「帰って来たら、それとなく話をしてみよう」

 今夜にでも、話に行くつもりでいた可能性もある。

 なにしろ、預託したのはついさっきだ。

 預託を証明する証文を持って、話に行こうと考えているのかもしれない。

 もちろん、完全に忘れている可能性も0ではない。

 話くらいしてやろう。

 まったく、手のかかるやつらだ。

 「そうしてあげてちょうだい。伯爵様が出ていくっていうので、お城の使用人と騎士団の人たちは大混乱らしいのよ」

 当然、そうなるだろうな。

 気の毒に。

 ・・・いや!

 そうではないな。

 大混乱になるということは、いままで平和だったのだ。

 不満も持たずにいられたということ。

 気の毒に思うのではない。

 幸運だったということだ。

 事態は解決しているのだし。

 そんなわけで、気掛かりが残ってしまったので、昼までは本を眺めてすごした。

 「読む」ではなく「眺める」だ。

 パラパラとページをめくっては、なん行か目を通すだけ。

 側にはミーレスだけが待機していた。

 メティスは治療院に戻ったし、シャラーラは鶏舎、アルターリアは露天風呂の水瓶の掃除。ナシィーラは菜園の草むしりをした。

 戻ってきたフェリシダは昼食の仕度を行っている。


 昼時。

 「ふー、ようやく落ち着いてきたわ!」

 ダイニングに入ってくるなり、リティアさんが肩で息を吐いた。

 「落ち着いてきたというより、流行に敏感な人たちはほぼ買い終わったので勢いが落ちたってところですわね」

 先駆者が必要なものを買い揃え終えはじめているってことだ。

 「ご苦労様です」

 『アルカノウム連合会長』として、労いの言葉をかけた。

 「まだまだですわ。反射的に動く人たちの勢いが落ちたとはいえ、様子を見てから動く人たちの方が数的に多いものですから」

 「持続的な営業を考えるなら、その人たちをきっちり捕まえることが重要だしね」

 言いたいことはわかる。

 新しさを求めて反射的に動く連中は別の新しいものを見つけると、そっちに乗り換えてしまう者も出る。

 流行ではなく日常のものとなるかどうかは、これからの客を根付かせることができるかどうかに掛かってくるのだ。

 重要なのは、これからということ。

 「うまくやって下さいね」

 コーヒーの習慣化を促進しようとしている大事なときだ。

 迅速かつ確実に進めて欲しい。

 「まーかせて!」

 「もちろんですわ」

 まぁ、『釈迦に説法』か。

 二人とも専門家だからな。

 お任せする。

 「ご主人様!」

 と、小さな体が飛び込んできた。

 「おかえり」

 慣れたもので、リリムのタックルを受け止めて頭を撫でた。

 「ほれ。手を洗っといで」

 くるっと向きを変えさせて、背中を軽く叩いて送り出した。

 クレミーたちはさっさと洗面所に行っている。

 リーバとレジングルもだ。

 レジングルは手を洗う意味がいまいち理解できないとか言っていたが、人間の慣習を受け入れている。

 ともかく、あとはシュミーロがやって来て、メティスを呼び戻せば全員が揃う。

 ランチタイムだ。



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