わいん
新年早々ミスりましたm(__)m。
こちらが新規掲載となります。
とりあえず2話書きあがりましたので上げます。
今年は例年と比べ降雪量は少なくて助かってますが、その分一度で降る量が多くて、処分が大変です。(汗
マティは、少々焦りを覚え始めていた。
テゼルとの交渉は、出だしはよかったものの、次第に難航していきつつある。
理由は至極単純なことで、『アスタス』にとっては『アルカノウム連合』に参加する意義が見つけられなかったという点に尽きる。
つまり、『アスタス』は欲しい商品があれば、商人ギルドへ『砂糖』を融通すると持ち掛ければ、即座に用意させることができる。なにか大きな事業の予定もないし、経済的には何の不安もないので、困った時の相互補助にも興味がない。
となると、テゼルと『アスタス』の側からしてみれば、自分たちには旨味がなく、『アルカノウム連合』とやらに利用されるだけとなりかねない。
そんな警戒感が沸いたらしい。
その危機感はマティも理解できた。
経済規模からすれば、彼女の疑念は正しいとさえ思う。
なにか、なにか『アスタス』側にも利点があるようにできないものか。考えてみるが、正直難しい。
「残念ですけど。私たちからすると、参加することに利益はないようです」
考えているうちに、テゼルの方が先に結論を出してしまった。
切り札に近い、『異世界人』まで出したのに!
我が身の無能が腹立たしい。
「ですけれど、『異世界人』と接点を持つことには興味があります。どうでしょう? 毎日40カーゴ分の『砂糖』を融通しますので、近いうちにその会長さんと合わせていただけますか?」
40カーゴ。
マティは自分の手にあるカーゴトランクを見下ろした。
この程度の取引ならしてあげよう、そう上から目線で言われている。
屈辱的?
そうは思わなかった。
商売人に、個人的なプライドなんていらない。
どんな形であれ、取引のとっかかりはできた。
飛び込みの営業だったことを考えれば、予想外の大成功。
敗北どころか、大勝利だ。
上から目線とか、どうでもいい。
「ありがとうございます。会長のスケジュールを調整できしだい、会談の場を設定させていただきますわ」
「どのくらい先になりますか?」
この質問の答えはちょっと考えてしまった。
「数日、もしくは十日以内を想定しています。数日以内であれば単独で。それより後であれば、『アルカノウム連合』に参加を表明してくださる方々を交えてのものとなるでしょう」
予想を口にする。
ハルカたちの動きが読めないのでそうするしかなかった。
数日で戻ると聞いているが、実際どうなるかまではわからない。
「できれば、単独がいいですね」
ぐっ、と身を乗り出して言ってくる。
「そう伝えます」
マティとしては、そう言うしかない。
帰ってくるのが数日であれ、十日先であれ、判断をするのはハルカだ。
テゼルの案内で、『陶磁器』を売り『砂糖』を入荷した。
しばらくは、持ち込んでくるものはすべて買ってくれることとなった。単価は商人ギルドの相場と同じということで話がついてもいる。
ただし、『砂糖』の売値は少し安くしてもらえた。
ともかく、道は付けた、というところだ。
「本日は、お忙しい中、時間を割いていただけましたことを心より感謝いたしますわ」
丁寧に頭を下げた。
初めと終わりは抜かりなく、いい印象を与えておくこと。
営業の鉄則だ。
またしても、フラムマ教の教会から移動した。
『アスタス』には商人ギルド所有の『移動のタペストリー』があるが、当然使うわけにはいかないので、教会を頼るほかない。
次の訪問先は『ルイドンソ』。
帝国の南西にある半島の町だ。
気温が一年を通して10から20度。夏に十分な日照がある地域。
つまり、ブドウの生産が盛んで、それゆえにワインの生産が盛んだとして知られている。
「ワインが目的ということではないのですけどね」
『ルイドンソ』で最古のワイナリー『ウーヴァ』を目ざして歩きながら、誰に言うともなく呟いた。
声を出さないではいられない苦行が、マティを責め立てている。
汗が噴き出して、息も荒い。
せっかくの勝負服に汗滲みが浮いてきそうだ。
「はぁ、はぁ」
顔もほてっていて、ちょっと間違うと煽情的に見えてくる。
もちろん、本人にそんな気持ちはみじんもない。
ただ単に、ブドウ棚のある丘陵が思いのほか急だったというだけのことだ。
見ためはなだらかなのだが、ずうっと緩く上り続けるというのは、急な登りよりもきつい。地味に体力を奪われる。
「こ、こんなことなら、商工会で済ませればよかったかもしれませんわね」
手の甲で、目に入りそうだった汗の玉をぬぐう。
右手のカーゴトランクが地味に重くて憎らしい。
「ふぅ」
腰に手を当てて、じんわりと伸ばした。
振り返れば、14ものワイナリーが競い合うことで、愛飲家が集って活気立つ『ルイドンソ』の町が、小さくなって眼下に見えた。
この町の商工会も、中心地であるフラムマ教会の近隣にある。
責任者ともすぐに面会ができただろう。
だが、そういうわけにはいかなかった。
この地に、初めてワイナリーを開いた『ウーヴァ』の8代目。タベル・マエストは、この町の重鎮だ。町での発言力は町長をしのぎ、州を治める領主とも対等に話ができる存在と聞いている。
つまり、この町を連合に参加させようと思えば、誰を差し置いてでも味方に付けるべき人物ということになる。
だからこそ、こうして大汗かいて歩いて来てでも、直接挨拶をしようとしているのだ。
「なんか用か?」
小休止ついでと、辺りを何とはなしに眺めていたら、少ししゃがれた声が聞こえてきた。
振り向くと、チェックのシャツにオーバーオールを着た白髪の初老男性が剪定はさみを手に立っていた。
ブドウの剪定をしていたのだろうか?
それにしては手に持っているのは別の木の枝に見える。
なんの木かはわからない。
「『アルカノウム連合』という経済組織の会長代理マティ・オレィユと申します。組織への勧誘と取引の交渉に伺わせていただきました」
汗で塗れた顔を向けて微笑んで見る。
魅力的に見えたか、はなはだ自信がない。
「ふん。兄貴とは仲がいいらしいな。もっとも、話を聞いたときには商人ギルドの人間だったようだが」
そう、彼の兄ピカラトとは友人といっていい仲だ。
本来ならワイナリーを継ぐべき身ながら、弟に農園を譲って町を出た人物。
今は、帝都の帝宮で近衛の仕事をしている。
「わたくしのことをご存知とは思いませんでしたわ。どんな話をしておいでだっのか、お聞きしてもよろしいですか?」
この兄弟が会って話しをしていたという事実も驚くが、自分のことを話題にしていたなんて意外だった。
あまり仲が良くないと、二人を知る人たちからは聞かされていたのだ。
なんでも、長兄のピカラトが家を継がず飛び出したこととか、農園を弟に譲ってやったんだとの発言とかで険悪な様子だったとさえ聞いている。
だから、ピカラトと友人と呼べる仲だというのは、マイナスにはなりえてもプラスに働くとは考えていなかった。
「さあな。忘れたよ」
剪定はさみを腰に吊るした皮のケースにしまい、タベルはチラリと空を見た。
「妻がお茶を入れる頃合いだ。ついて来い。茶ぐらいは飲ませてやる」
無愛想にそう言って、タベルがさっさと歩きだした。
ともかく、家には上げてもらえるらしい。
マティは急いでうしろを追いかけた。
偏屈で変わり者、頑固で非友好的。
聞いていた噂からすると、ひょっとしたら家の外で何時間か立ちっぱなしで待つはめになるかとさえ危惧していたので、なにか拍子抜けだ。
タベルの家は日干し煉瓦と木材とが調和した、温かみを感じさせるものだった。どこか、ハルカごひいきのレストラン『レマ・ティコス』を思い出させる。
「客だぞ」
重厚な様子を見せながら、なめらかに動く扉を押し開いて家に入り、タベルは奥へと声をかけた。本人は さっさと、別の方角へ立ち去ってしまう。
たぶん、道具をしまって、手を洗う。もしかしたら着替えもするのかもしれない。
「あらあら、珍らしい」
エプロンの前で手を拭きながら、小柄な女性が出てきた。
彼女がタベルの奥様らしい。
元は赤毛だったらしい髪が、白いものが混じったことで茶色っぽく見えている。
「タベルの妻、ベターラよ。さぁ、こっちにいらして、座ってくださいな。すぐお茶を入れますからね」
半ば強引に、玄関ホール横のサロンへと案内されて、座らされた。
お構いなく、の一言さえ言わせてもらえない自然な流れ。
熟練の主婦だ。
床にはレンガが敷かれ、暖炉がある。少し堅めのソファと、テーブル。落ち着いた雰囲気が感じられた。
「タベルは道具の調整をしてからでないと来ませんからね。ゆっくりしてちょうだい」
ティーポットとティーカップが三つ載った丸いトレイを持って、ベターラが戻ってきた。
マティと向かい合うようソファに座り、自分とマティ用にティーポットからお茶を注ぐ。
お茶を注ぐ高さが、マティでは絶対まねできないほど高い。
うん、主婦レベル90以上の猛者と見た。
「あの、わたくし・・・」
ティーカップに手を伸ばそうとして、自分がいまだ名乗っていないこと気が付いた。
慌てて名乗ろうとする。
「マティさんでしょ?」
存じていますよ、と微笑まれた。
え? なぜ?
「うちの人が、お客さんて呼ぶ人ってほとんどいないの。まして家に上げる女性なんて初めてよ」
客が少ないから、予想をしやすい。というのはわかる。
でも、それでは答えになっていない。
「え、そ、それでも名前まではわかりませんよね?」
「ピカラト君が、話をしていましたからね。可能性があるとしたら、あなただけなの」
カップを優雅に傾けて、お茶をおいしそうに飲みながら、当たり前のように言う。
「え? えっと、そんなに私のことが話題に?」
驚くというより、少し気味が悪くなって、思わず声を潜ませてしまった。
ピカラトとは確かに顔見知りだ。
ときどき共通の友人誘われてパーティーなどにいくと出くわすことも多い。だが、だからといっていつもいつも二人で話し込むなんてことはない。挨拶程度で、お互い別の友人と話すことの方が多いのだ。
それなのに、会ったこともない人が名前を覚えるほど話題にしたのかと思うと、さすがにちょっと勘弁してほしい。
友人の顔で近づいてきておいて、実は危ない人なのかとの疑惑が胸の中で膨らみそうだ。
「いいえ」
そんなマティの心情に気が付いたのだろう。
ベターラはクスクスと笑って首を振った。
「名前を聞いたのも、あなたの話を聞いたのも一度だけですよ」
一度だけ、その言葉で湧きあがりかけていた恐怖は消えた。
でも、ならばこそ疑問が浮かぶ。
たった一度で名前を覚えさせるような、インパクトのあるepisodeなんてあっただろうか?
覚えがないのだけど。
混乱しそうになるのを必死で押さえて、マティはベターラを見つめてしまった。
「ワインを一緒に飲んだでしょう?」
「え、ええ」
そのepisodeなら、覚えている。
知り合うきっかけとなったパーティーで、あまりにマズいワインが出されていて、最初の一杯以降まったく飲まなかった。
もともとアルコール全般、付き合いでは飲むが好んでまで飲むタイプではないので、もっぱら食事を楽しんだ。
周りの人々が「おいしい、おいしい」と絶賛しながらワインを飲んでいるのを、さほど気にもかけずに。
あとからピカラトから聞いた話によれば、そのワインは確かに本来おいしい高級ワインだったらしい。
ただし、保存状況がひどくて、飲めるものではなくなるまでに劣化していたのだそうだ。
飲めないほど味が落ちていたにもかかわらず、出席者たちは皆、ラベルを見てうまいはずと思い込んで「うまい、うまい」と称賛していたのだ。
そんな中で一人だけ、ワインには目もくれず食べ続けているマティを、ワインをちゃんと味で見てくれる。ラベルで判断しない人、ということで好印象を持ったのだそうだ。
で、パーティーが終わりかけたところで声をかけられた。
うまいワインがある、飲んでみてくれないか、と。
もちろん、そのときは見ず知らずの男だったから、露骨に警戒してしまったものだ。だが、 家に連れ込まれるのかと思いきや、商人ギルドの近所にあるレストランで待っていてくれということなので、好奇心から承知して「うまいワイン」とやらをごちそうになった。
確かにおいしかったので、素直に賛辞を贈らせてもらい、友達になった。
そのレストランの店主からは、持ち込みは困ると叱られてしまって、利用しづらくなってしまったけれど。
「そのワイン、うちの人の秘蔵ワインだったの。年に数十本、特別なお客様と身内用だけに作る特別なワイン」
「そ、そんな大切なワインだったのですか?」
年数十って、とんでもない希少ワインということになる。
貴族や金持ちが、自分用に作らせる特注品とか、手間とコストがかかるので商業ベースには乗らない個人用のワイン。
職業柄、そういった話が耳に入ることも多い。
だから意味は分かる。
いい味は出すけれど実を多くは付けない樹からとった実を、おいしくするには最適であっても人手がかかりすぎるので大量生産には向かない方法で絞り、発酵と熟成に時間をかける。
品質は最高だが、多くは作れず値段を付けることができない。
そんなワイン。
「特別ではあっても大切ってことはないわよ。そうね、祝い事とか記念日とか、あとは気の置けない友人と飲み交わすときに開けるワインってところね」
血の気が引いて固まっていると、ベターラが軽い口調で肩を叩いてきた。
たいしたことじゃないんだと言いたいらしいが、とてもそうは思えなかった。
「な、な、な、何百万とかの値がつくのでは?」
「オークションにでも出品すればそうかもしれないわね」
こともなげに言われてしまった。
無茶苦茶なものを飲んでしまっていたようだ。
「商品って考えればの話よ。たとえて言うなら子供だと考えてほしいの。うちの人が手塩にかけて育てた娘。売ろうと思えば、値はつくわね。でも売らないでしょ?」
それはそうだ。
奴隷商に売れば、当然値はつくし売れる。
でも普通は売らない。
「じゃあ、どうするか? 信頼できる方へお嫁に出すのではないかしら?」
「そ、そう思います」
大きく頷くと、ベターラは満足そうな笑みを浮かべた。
「うちの人とピカラト君が仲が悪いって聞いてない?」
突然、会話の方向が変わった。
「は、はぁ。なんとなくは」
会話の方向性を測りかねて、戸惑ってしまう。
「でもね、それは違うのよ。確かに、二人は一緒に食事をしてもムスッとして会話なんてほとんどしないわ。それはそうよ。二人とももう話なんてしなくても、相手の表情と仕草でなにを考えてるかわかるんですからね」
二人でいても話をしないから、それを見た人に仲が悪いと思われているだけで、本当は仲がいいということか。
「で、さっきの話。ちょっと前にピカラト君がきてね。いつものように二人だけでワインを飲んでいたわ。2時間ぐらい無言でね。で、唐突にピカラト君が『あのワイン、商人ギルドのマティって女が褒めてくれたよ』と言って、うちの人が『そうか』といった、てわけ」
「そ、それだけ、ですか?」
「それだけよ」
きっぱりと頷かれる。
え? ちょ、ちょっと待って。え?
さっきの話と今の話を足すと・・・。
嫁?
ピカラトの?
「おい。からかうのはよせ」
内心でパニクッていると、タベルが戻ってきた。
「あーあ、もうちょっとで面白かったのに!」
ベターラが笑顔で不満を言った。
は?
「ピカラトには婚約者がいる。誤解はせんでくれ」
しかめっ面のタベルが言ってくる。
婚約者がいる!?
からかわれていたのだと、ようやく気が付いた。
「誤解するようなことは言わないでほしいですわ!」
思いっきり叫んでしまうマティだった。




