Time 2-02 初めての
金管部の活動は毎日、放課後にある。授業が終わったあとの16時から20時まで、1日あたり4時間だ。
中学の時は、部活は毎回ジャージに着替えて行っていたので、制服のまま部活を行うのは少し変な気もする。
そういえば昨日の帰り際、
有佐「連絡については、部室横のコルクボードに紙を貼っておく。各自見てくれよ。」
と言われたなあ。私は部室前に置かれたボードを見に行くことにした。掃除が休みだったので、まだ時間に余裕はある。早速自分の楽器と荷物を持って見に行ったところ…
森下「あ、女神先輩こんにちは!」
遠藤「…うす」
まだ部活開始まで20分はあるというのに、既に先に二人の後輩がいた。
海雪「え、えっと、女神先輩ってもしかしなくても私のこと、ですよね…?」
森下「そうです!」
なんでそんな呼び方になったんだろう…?まさかこれも、昨日宮門くんが言っていた前世とやらと関係があるのかな?
海雪「ところでなんで、こんな時間に二人ともいるの?」
遠藤「オレ達今日掃除なかったからっす。空はあるんだけどな」
森下「で、ここで待機するように、とコルクボードに指示が出ていたのです。僕達もついさっき来たところなんですよ」
森下くんに促されるようにすぐ側のコルクボードを見ると、なるほど確かに「新入生はこの場にて待機」と綺麗な字で書いてある。あ、新入生ってことは私もか。
海雪「そうだったんだ。実は私も掃除がなくて…」
??「偶然だな。俺も掃除、休みだったんだよ」
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返れば、そこには…
遠藤「三井先輩!?」
海雪「り、りんちゃん!?」
三井「ん?なんでみんなそんなに驚いてるの?」
森下「いえ、その、まさかいらっしゃると思わなくて…」
私達3人は動揺してしまった。
いや、だってまさか後ろから話しかけられると思わないじゃん?思わないよね?
…って私、誰に同意を求めてるんだろう(笑)
遠藤「三井先輩、本当にこんなところで待っていてもいいんっすか?」
三井「大丈夫。この紙、俺が書いたからね」
あの文字、りんちゃんの字だったんだ。思っていた以上に美文字で、私、結構驚いてます。
りんちゃんは咳払い1つして、説明を始めた。
三井「この後はパート練習だけど、その前に、1年の3人には、俺から説明したいことがあるから、んー、じゃあ2年1組の教室に来て」
遠藤「はーい」
森下「わかりました」
後輩2人が返事をした。
海雪「私はどこに行けばいい?」
三井「ん、はるは、有佐が話をしたいって言ってたから、事務室にいてもらっていい?多分まだあいつは来てないけどね(笑)」
海雪「わかった。ありがと、りんちゃん」
りんちゃんの指示を聞いて、私は部室の事務室に行った。
***
後輩の私が先輩を待つのに座るわけにもいかないから、とりあえず荷物を全部持って立ったまま待っていたわけだけど。
ーーー先輩、来る気配がありません。
腕時計を見れば16時なんてとっくに過ぎている。
海雪「はあ…」
人を待っている時の時間って、本当に長いなあ…
とか考えていると、外からドタドタと足音が聞こえた。がちゃりと乱暴な音をたてて扉が開いた。
有佐「信田っ!すまんっ」
ものすごいスピードで有佐先輩が転がり込んできた。
有佐「俺から呼んでおいて遅刻するなんて…本当に申し訳ない。許してくれ。」
息が上がっている。きっと先輩は走ってきてくれたんだ。
海雪「私は大丈夫ですよ」
本当はずっと荷物を持っていた腕が痛いけどね(笑)
でも、いつも(朝とか)時間に厳しそうな有佐先輩が遅れるなんて、何かあった違いない。
海雪「何かありましたか?」
有佐「…何も無い」
私が聞けば先輩は素っ気なく返した。少し言いためていたから、きっと何かあるのだが、なんとなく今は聞いてはいけない気がした。
有佐「三井からお前が待っているって聞いたよ。座ってくれ。おそらく30分近くずっと立って待っていたんだろう?」
海雪「え、はい、まあ…」
先輩が椅子をこちらに出してくれるので、有佐先輩が座るのを見て私も座った。
有佐先輩がボソボソと何か言った気がするが…まあいい。
有佐「お前に話っていうのはな、これからの部活動の時のことなんだが、パート練習の日には、7月まで新入生講義を行う。これは毎年新入生が通る道だ。月曜から水曜の部活のはじめの45分間は講義を行う。内容は、音楽について、金管部についてが中心だ。で、木曜は小テストを行う。これは翌日以降の追試もあるぞ。合格するまで追試は終わらない。あ、今日は木曜だがこのテストも講義もないから安心してくれ。」
ひえ、学校生活でも小テストが多いのに、こっちでも講義とテストがあるのか…寝ないように気をつけないと。
有佐「それから、7月末に、新入生講義の内容が身についているか、復習テストを行う。100点満点で、70点を切ったら、70からその数字を引いた日数分、部活停止になるから、気をつけろよ。」
海雪「は、はいっ!」
部活を休まないためには、最後の復習テストで70点以上とることが必要になる。大丈夫かなあ。今から心配だ。
有佐「で、担当者だが、テストは波村が作ってくれる。講義は1年と2年で内容が違うから、1年は、三井が担当で、信田は、基本的に俺が担当だ。」
海雪「わかりました」
有佐「ああ。なにか質問はあるか?」
海雪「いえ。分かりました。ありがとうございます」
私は先輩に一礼し、事務室を出ようとした。
有佐「…待って」
海雪「なんでしょうか?」
先輩の上ずった声を聞いて、私はもう一度振り返る。
有佐「講義の場所は、ここなんだけど、その、次からは、座って待っていて。俺も遅れないように気をつけるけど、立ったままだと辛いと思うし。荷物は、左の白い棚に入れてくれて構わないから」
海雪「先輩がそうおっしゃるならお言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます」
さて、パート練習に向かいますか。