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Time ~前世、信じますか?  作者: 鈴音
Time 1
3/10

Time 1-02 万潮東高校金管部

放課後。

自分の教室がある2階から、階段を上った。

息を切らしながら行ったのは、6階。目の前に天文部室があり、隣に生物室、そして。


『BBC』と書かれた重そうな革製のドアを見つけた。

きっとここが金管部だ。ドアの横にある掲示板に、「金管部面接、こちらで行います」と書いてあるから間違いない。


海雪「え、でもここ、本当に入っていいのかしら…」

興味があるので部室の前まで来たが、その威圧感に足がすくむ。ドアノブに1度触れてみたが、自分の手に力が入ってないからか全く動かない。しばらく入口前の廊下をうろうろしていると、一人の人に当たってしまった。

海雪「わあっ、すみませんっ」

??「え、全然大丈夫ですよー」

背の高い男子学生だ。高校生なのに茶髪で、ねむたげな表情をしている。心なしか制服も崩れていて、ネクタイも首にかけられているだけだ。

??「あのー、もしかして2年の編入生ですかー?」

海雪「へっ?」

は、話しかけられた…。

海雪「はい、2年の信田(しのだ)海雪ですが…なんで、わかったんですか?」

??「制服のリボンが新しそうだったし、色的に2年ですよねー?それに、部活バッジしてなかったから、もしかしたらそうかなーって思ったんですー」

そういえば編入した翌日に担任が言っていた気がする。


担任『いいか?制服のリボンとネクタイは、ストライプの色を見るんだ。赤が84期生、緑が85期生…君達ね。で青が86期生だから、その色でで学年は識別できるぞ。』


ということは、目の前の赤ストライプのネクタイの人は…

海雪「84期生…3年生ですか!?」

??「そうですねー。まあぼくは学年なんて気にしませんけどー」

まさか上級生だとは思わなかった私は、大いに驚いた。そして、申し訳なさも倍増だ。

海雪「先程は本当にすみませんでしたっ」

私はより一層深くお辞儀をした。

??「いいですよー、頭上げてくださいー。ぼく、そんなぶつかったくらいで怒ったり発狂したりしませんからー。」

いや、発狂って(笑)ぶつかって発狂する人がいたら見てみたいって。

心の中で思わずツッコミを入れる。

??「ところで、あなたは金管部に興味ありませんかー?ずっと部室の前をうろうろされていたので…」

よくみたら、左襟にバッジをつけている。これが金管部のバッジか…

海雪「あっ、そうなんです!私、金管部に興味があるんですが…」

??「やっぱりそうでしたかー、よかった。ぼく勧誘係なんですよー」

青ネクタイの学生は、ほっとしたような顔でこちらを見た。

??「そうですねー、前になにか楽器やってたことはあるんですかー?」

海雪「はい、双葉祥(ふたばなが)中学でホルンを吹いていました」

私のいた双葉祥中学は、吹奏楽の名門校。音楽をやっている人なら誰もが知っている有名な学校だ。

??「そうなんですか!わー凄いですね!!ぼくはトロンボーン担当なんですー」

海雪「そうなんですか!同じ中音域の人がいてなんだか嬉しいです」

同じ中音域の楽器を吹いていると聞いて、親近感が湧いた。

海雪「あの…ところで、お名前教えていただけますか?」

??「ああ、ごめんなさい、すっかり忘れてましたー。ぼくは波村(なみむら)太朗(たろう)といいますー。」

波村、と名乗ったその生徒は、私に穏やかにほほ笑みかける。

海雪「波村先輩…私、金管部の面接があるって聞いたので、受けてみたいんですけど…?」

波村「え、もう受けなくていいんじゃないですかー?」

どういう事だろう。私なんかいても邪魔になるだけなのかな。波村先輩がそういう人ではないと信じていても、どうしても思考はマイナスに働く。仕方ない、一度教室に帰って頭を冷やそう。

海雪「そう、ですよね。すみません、私、一回教室に戻りますね」

波村「えっ、え、なんでですか!?」

海雪「だって先輩、受けなくていいって言ったじゃないですか。私に受ける資格なんてないですよね…」

振り返って戻ろうとすると、急に腕を掴まれた。

波村「待ってください。何か、勘違い、してませんか?」

私は振り返りもせずに答えた。

海雪「別にしていませんよ。どうせ私なんて…」

波村「じゃあなぜ帰ろうとするんですか」

え?

もしかして私、何か勘違いしてる?

先輩を振り返ると。

波村「ぼく、今あなたの面接をしていたつもりだったんですけど…伝わってなかったらごめんなさい…」

ようやく理解した。そうか、この人は、もう面接はしたから受けなくていい、という意味で言っていたんだ。少し安心した。

海雪「…こちらこそごめんなさい。そういうことだったんですね…勘違い、してたみたいです。」

波村「よかったですー。じゃあ、早速部長のところへ行って、許可証もらいましょうー」

もらいに行きましょうー!

…って、ん?

海雪「そんな簡単に、許可証出ますかね…?」

波村「あなたならきっと大丈夫ですー」

なんか不安しかないな…でも、波村先輩を信じてついていくことにした。


波村「あ、先に個人的に聞きたいことがあったんですー」

波村先輩が立ち止まる。

海雪「はい、なんでしょう?」

波村「今でも、毎日パーティーしているんですか?」

海雪「は?パーティー!?」

毎日パーティー?何の話?どこの金持ちと間違えているんだろう…?

海雪「パーティーって、あの踊ったり料理食べたりするやつですよね?」

波村「そうですよー。以前仰ってましたよねー?毎日魚、亀、えびやかにを呼んでパーティーをしていらっしゃるって」

魚に亀!?えびやかに!?パーティー!?

身に覚えがない…。

海雪「!?なんのことですか!?」

波村「…やっぱり覚えていらっしゃいませんよね…なんでもありませんー。今の話は気にしないでくださいー」


波村「前世ぶりですね、『乙姫様』。」


***


身に覚えのない話をされた。波村先輩は「以前仰ってた」って言ってたけど、初対面だよね…?


波村先輩が部室の前で止まる。

海雪「あの、さっきドアを引いても動かなくて…」

波村「あーそれはですねー…このドア、開け方不思議だから間違えないでくださいねー。ドアノブを持って…こう!」

海雪「わっ!?」

そのドアは…前後に開くと思っていたのに…なんと横方向にスライドした。そりゃ私じゃ開けられないはずだ。

波村「さあさあ、どうぞ入ってくださいー」

海雪「あっ、は、はい、失礼します…」

中に入ると、正面と右にドアがある小部屋があった。ソファまで置かれている。

波村「前のドアの向こうが練習をする時のメインの部室ですー。右は事務室みたいな感じでね。今回は手続きがあるので直接事務室に行きますよー」

海雪「はい」

そう言って、波村先輩がドアを開けてくれる。

波村「でもこの事務室狭すぎてねー、しかも、部長が口煩くてねー、ちょっと面倒かもですーふふふ」

??「なんかいったか、波村」

ドアを開けた真正面にいた、黒髪で天パ(かな?)の、目が赤い男子学生が不機嫌そうに話す。

波村「あ、でたー!これが部長。まあ、たぶん見たことありますよねー」

??「俺は幽霊とかじゃないんだから、これって言うな。せめて『こいつ』くらいにしろ。」

この人を私は見たことがある。おそらく、朝、眉間にシワを寄せて校門に立っている風紀委員の人だ。ただえさえ怖い顔なのに、今は特に機嫌が悪そうなので…正直逃げ出したい。

海雪「あ、あの、確か、風紀委員の方、ですよね?」

??「そうだ。…って、は!?」

こちらを見るなり、部長さんは目を見開き顔を赤らめた。

??「なんで!?なんで、ここにいるんだよ、俺の『赤ずきん』」

…はい?

何の話だろう…?

海雪「え?何を言っているんですか?」

「赤ずきん」。昔絵本で読んだことがある気がする。確か、赤い頭巾をかぶった女の子がおばあさんの家に行く途中、狼に出会うんだっけ?なんかそんな感じの話だった。


私の言葉に、我にかえった部長さんは、すっと元の調子に戻った。

??「…ああ、悪い。私情に流された。で、波村、彼女は?」

波村「外で勧誘してきたー。ホルン経験者だって。話の感じだとおそらく実力もあるかと」

??「ホルン、か。うちには欲しい人材だな。お前、名は?」

海雪「信田海雪、2年B組です」

??「よし、認可。これ、許可証とバッジだ。よろしく、信田」

えっ。

嘘でしょ、本当にあっさりと認可されちゃった。いいのかな…???

海雪「よろしくお願いします、えっと…」

名前を見ると、許可証に『部長 有佐智安』と書かれている。あれ、読めない、うーん…

海雪「ありさ…あるさ…?」

有佐「やっぱ読めないか。ゆさ、と読むんだ。俺は有佐(ゆさ)智安(ともやす)。よろしく。」

海雪「すみませんっ、有佐先輩」

波村「あれー、有佐、女の子にだけ優しくないー?男子が漢字読み間違えたら怒るくせにー」

有佐「…気のせいだ」

あれ、この先輩ちょっと照れてるのかな?

??「有佐くん、調子はどう?あら、波村くんもいたのね」

後ろから声がすると思ったら、背が高くて声が低めの綺麗な女の先生が現れた。

海雪(あれ、あの人どこかで見たことがあるような…それにこの声聞いたことがある気が…)

波村「はいー、花生(かお)ちゃん先生ー。今ですねー、新入部員決め中でして。」

あ…名前からして思い当たる人、約1名。信じたくないけど…多分そう。

この先生、多分私の…兄だ。

この学校に勤めていることは知っていたが、まさか女装しているとは思わなかった。

…うん、家に帰ったら問い詰めよう。

花生「調子は良さそう?」

波村「はい、この2年の編入生の子も入ってくれますし、ぼくたちは嬉しいですよー」

私は見逃さなかった。『2年の編入生』と聞いた花生兄さんが一瞬こちらを見て、「しまった」という顔をしたのを。私が兄さんを睨めば、兄さんが口をぱくぱくさせた。何か言いたいのかな?

そんな私たちふたりを差し置いて、有佐先輩は懇切丁寧な口調で紹介を始める。

有佐「そうだ、せっかくなので先生にもご紹介しますね。彼女が編入生の信田海雪さんです。信田、こちらは顧問で、学校1の美人と有名な信田花生先生、通称花生ちゃん先生。…ん?信田…あれ!?」

有佐先輩が困惑し出した。

花生「そうそう、この子は私の妹なの。可愛いでしょ?」

海雪「何その紹介の仕方。しかも顧問なの?有り得ない」

花生「ちょっと海雪ひどくない?」

波村「え、お2人姉妹ですかー?確かに信田って苗字珍しいですよねー。」

花生「でしょー?」

有佐「先生も素敵ですし、信田妹もいいと思います」

花生「でしょでしょー?」

ノリノリな花生兄さんを見ていると

海雪「絶対調子乗ってるよね…」

と呆れるしかなかった。やっぱり後で問い詰めなきゃいけないよね?

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