巨大亀との戦い3
圧倒的卑怯。
それが初めて朱夏が装備化し、それを装備した時に抱いた感想だった。
朱夏のスキルに〈装備化〉があることは最初に確認した時から分かっていたためそれを試すことは至極当然だった。
そして、いきなり戦闘時に試すということは危険だと思ったために石碑の場所で朱夏に装備化してもらい、現れたロングコートを装備したのだが、俺は呆然としてしまった。
装備したことによる変化を確認するためにステータスウィンドウを表示しながら装備したのだが、ロングコートを装備した瞬間ステータスが軒並み上昇し、スキルの数も増えたのだ。
何が起こったと思いウィンドウをよく確認してみると、増えたスキルは朱夏が持っていたスキルのうち装備化以外のスキルだということが見て分かった。
その後もロングコートの着脱を繰り返して、ステータスを確認すると、ステータスの上昇数がその時の朱夏のステータスの1割が加算されているということが分かった。
いや、分かってしまったというかなんというか。
とりあえず朱夏コートを装備した状態で探索をしてみる。
結果分かったことというか、分かっていたことというか。反則級に強かった。
攻撃は全て炎を纏った攻撃になって〈火傷〉や〈炭化〉の状態異常を付与するし、炎熱魔法は俺が思い描いた通りに発動されるよう朱夏がサポートしてくれるし、同じオーガ種相手でもほとんど問題にならない、むしろ雑魚のように討伐できた。
結果、俺はよほどのことがない限りこれを使うのはやめようと決め、奥の手とすることにしたのだ。
そして、今回満身創痍の状態になったため、奥の手としていた朱夏コートを装備した。
そのとたん、体中の炭化した部分が剥がれ落ち、同時に修復されていった。これは〈自己修復〉のスキルが発動したのだろうと思いステータスを確認すると、ものすごい勢いでMPが消耗して行くが、朱夏のMPも加算されているため、何とか全身の修復が完了し、状態異常も回復した。
すると、俺の体はふわっと浮き上がり、いまだ沸々としている溶岩の上に着地した。
俺は一瞬ドキッとしたが、すぐにスキルに朱夏の〈熱無効〉と〈熱吸収〉が追加されていたことを思い出し、しっかりと溶岩を踏みしめる。
俺の体が近づくにつれ溶岩は冷えて固まり、そして着地した時には500㎡程の溶岩の大半が岩石へと変わっていた。
ステータスを確認すると熱吸収によってHP・MP・SPが9割程まで回復していた。
「ふう、これでまた戦えるんだが...」
正直言ってラヴァトータスとか火属性の相手だったりした場合にはこの朱夏コートはほぼ無敵になるんだよな..熱系の攻撃は無効化して吸収するし、ダメージ受けても回復するし、消耗しても熱吸収して回復するし、これから火山地帯を探索するとしたら完璧に天敵になるよな。
まあ、だからってそうそう朱夏コートを装備することはないだろうな。検証して分かったけど朱夏もコートになってるときには経験値を得ることが出来ないみたいだしな。
「まあ、だからといって使わずに負けるっていうのは全力出さずに負けるのと同義だと思うからいざとなったら躊躇せずに使うんだけどな」
「ピュルル」
朱夏はコートになってもしゃべれるんだが、一体どこから声を出してるのか分からないんだよな。今のところ第一候補としては襟の所だな。
さて、俺の準備もできたところでそろそろ終わりにさせてもらいたいところだ。
朱夏コートのおかげで俺は空を自在に飛行することが可能になっているんだが、さっきの溶岩の中に飛んでいったように朱夏が勝手に動かすパターンと、コートになっているとき朱夏は俺の思考をある程度把握できるらしく、それによって俺の思うように動かせるパターンの二つがある。戦闘の時はほとんどが俺の主導で飛行するが、緊急時には朱夏が勝手に動かしたりするんだが、この場合の飛行速度は亜音速程度になっているため急に方向転換されると結構ビックリするんだよな。
そんなことを思いつつ俺はラヴァトータスと視線を合わせながら1,000mほど上昇する。
ラヴァトータスもさっきまでとは雰囲気が違う俺を見て若干警戒しているのか三本の尻尾をそれぞれいつでも動かせるようにユラユラと漂わせている。
「さて、じゃあ第二ラウンドと行こうか?」
そう言い放つとラヴァトータスも答えるように吠える。
そうして最後の攻防が始まった。
熱吸収は1㎥あたりの温度での判断となります。




