表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

深紅ずきんちゃんシリーズ

深紅ずきんちゃん~あなたもわたしといっしょに…………~

作者: 篝火 灯夜

始めてのホラーです。


ここでの深紅ずきんちゃんの深紅は「あか」と読みます。


赤ずきんちゃんとはまったくの別物です。


誤字脱字等ありましたら指摘お願いします。

 四月。入学式が終わって、高校からの帰り道のことだ。


「ねえねえ、お兄ちゃんは何をしているの?」


 空が茜色に染まる頃、墓地の近くを歩いていると、墓地から少女のような声が聞こえてきた。

 いや、実際少女の声だった。

 声のした方を見ると、赤黒い色をしたフードがついた服を着た少女がいた。

 僕は、なぜこんな時間に少女がいるのかという疑問より、なぜこんなところにに少女がいるのかという疑問が浮かんだ。

 僕の家はこの墓地の先にあるため、帰るにはこの道を通らなければならなかった。周りは木々が生え、鬱蒼としている。奥に行くほどの話だが。道に沿って生えているのは桜の木だからいいが。


「君はどうしてここに?」


 僕は思いきって聞いてみた。

 少女は人指し指を自分の唇に当てて考えていた。

 フードを被っていて分からないが、時々チラッと見える肌は色白かった。


「えーっとね、ここのお墓には私の家族がいるの。わたしは毎週この時間になると、ここのお墓にお参りに来るんだよ」


 少女は言った。

 僕は思った。おかしい、と。だって、この道は引っ越しが終わってから毎日通っているし、毎週いるのだったら気づくはずだ。

 だが、その考えは少女の声によって打ち切られた。


「ところで、お兄ちゃんは何をしているの?」

「ああ、僕はこの先にある家に帰るところだよ」

「この先に家があるの?」

「そうだよ。僕は先月ここに引っ越してきたんだ」

「親は?」

「二人とも、もうこの世にはいない」

「あ……ごめんなさい…………」


 少女は、両親のことを話僕の顔を見て、申し訳なさそうに言った。

 だが、僕は「気にしないでいい」と言った。

 その反応をされるのは慣れている。

 少女には言っていないが、僕の両親もここの墓地に眠っている。両親が頼んだのだ。ここにいれば、自分達は僕を見守れると。

 いい両親だった。僕が失敗しても励ましてくれた。叱ってもくれた。成功すると褒めてくれた。普通に、普通の親として、普通に生活できた。


「じゃあ、僕はそろそろ帰るね」

「止めちゃってごめんね。また会えるかな」

「君がここに来るのなら、また会えるよ」


 そうして少女と別れた。

 僕は桜並木の道を帰っていった。

----------------------------------

 五月。高校で友達ができた。

 墓地の少女とも、少しだけ仲良くなった。

 少女はまだフードを被ったままだが、墓地から出て近寄ってきてくれた。


「ねえねえ、お兄ちゃん。今日は何をしているの?」

「ああ、君か。今日はね、僕の両親のお墓にお参りに来たんだよ」

「お兄ちゃんのお父さんとお母さんは、ここにいるの?」

「そうだよ。学校で友達ができたことを報告しに来たんだよ」

「お兄ちゃん、友達、できたの?」

「できたよ」


 少女は寂しそうに言った。

 僕は少女の顔を見た。目は相変わらずフードで見えないが、寂しげな顔をしていた。


「ねえ、一緒に住まない?」


 僕は何を思ったのか、そう言っていた。

 すると少女は、驚いてこちらを見て言った。


「え!?でも、迷惑かけちゃうかもしれないし……それに、わたしは……」


 少女は口ごもってしまった。


「考えてみる」


 少女はそれだけ言うと、帰っていった。


 森の中へ……。

----------------------------------

 六月。部活に入った。テニス部だった。

 部活が忙しくなったため、少女に会えない。

 部活中に少女のことを考え、友達に声をかけられて我に帰ることがしばしばあった。

 帰り道、やはり少女はいなかった。

 墓地を過ぎた時、シャリッという音がしたので森の方を見ると、月明かりに照らされたナニかが鈍く光るのを見た。

 その日だけは怖くなって走って逃げるように帰った。

----------------------------------

 七月。テニスの大会があった。僕はまだ出ていない。

 先輩達にとっては最後の試合だった。しかし、偶々相手が強かったのか、それとも自分の力不足だったのか分からないが、ベストエイト目前で負けた。先輩は泣いていた。

 帰り道を歩いていると、少女の泣き声が聞こえた。

 やはり場所は墓地からだった。


「久しぶりだね」


 声を掛けると、少女は驚いたようで、肩がはねあがった。

 少女はゆっくりと振り向いた。


「あ、お兄ちゃん」


 少女は安心したようで、僕に飛び付いてきた。

 優しく抱き留めてやるが、僕はあることに気づいた。

 少女の身体が、氷のように冷たいことに。


「ちょっと、大丈夫?」


 僕は冷静に聞いた。


「あのね、わたしの最後の家族が死んじゃったの……」

「最後の家族って?」

「おおかみさん」

「狼?」

「うん。おばあちゃんが死んじゃってから、ずっと一緒にいてくれたの。でもね、昨日死んじゃったの」

「そっ……か」


 僕は、少女の言葉に自分の両親が亡くなった時のことを思い出した。とても悲しい気持ちになった。


「ねえお兄ちゃん。前にお兄ちゃんは、一緒に住まないかって言ってくれたよね?」

「うん、言ったよ」

「じゃあ今度、お願いしてもいい?」

「もちろんだよ」

「やったあ!!」


 少女は僕の言葉が嬉しかったのか、顔を(うず)めてきた。

 僕には少女について違和感が残った。

 やはり少女の身体は、氷のように冷たいのだ。

----------------------------------

 八月。夏休みだ。少女は現在、僕と一緒に住んでいる。

 少女は毎日夕方になると、一人でお墓参りをしに行く。

 友達が遊びにきた。少女のことは何も言わなかった。

 僕は両親がすでに亡くなったことを話してあるので、少女がいることについては暗黙の了解だったのかもしれないし、気を遣ってくれたのかもしれなかった。

 友達は旅行に誘ってくれたが、僕は断った。親戚の妹と遊ぶと嘘をついた。少女のことだったからだ。


「なんで断ったの?」


 友達が帰ったあと、少女は聞いてきた。


「君を一人になんかさせたくないからかな」


 少女はうつむいた。

 怒らせちゃったかな。


 そういえば最近、身体が重い。


----------------------------------

 九月。身体の調子が悪くて学校を休んだ。

 最近少女が生き生きしているように見える。


 なんか頭が痛い。


----------------------------------

 十月。病院に行った。以上は見られないと言われた。


 息苦しい。身体が重い。頭が痛い。痛い。イタイ。


----------------------------------

 十一月。


 意識が……

      なんで……

           息が……

               苦しい……

                    助けて……


 目を薄く開けると、少女が笑って見ていた。

 フードは被っていないようだ。髪は銀髪、だけど目は血のように(あか)く、氷のように冷たかった。

----------------------------------

 十二月。


 身体が軽い。


 息も苦しくない。


 身体が浮いている気がする。いや、実際に浮いている……?


 下を見る。


「!!!???」


 男の子が眠っている。


 いや。


 あれは。



 僕だ。



 少女が眠っている僕に近づく。

 手には何かもっている。


「お兄ちゃん、あなたがわたしと一緒にいてくれるっていってよかった。これ以上わたしがあそこにいたら、あなたのお母さんとお父さんに消されてたもん。危なかったなー。わたしのおばあちゃんとおおかみさんが足止めをしてくれたから、助かっちゃったな。ねえねえお兄ちゃん、わたしと一緒にいてくれるんでしょ?いつまでも一緒に住んでくれるんでしょ?

 ここは、元々わたしとおばあちゃん、そしておおかみさんが一緒に暮らしていた家。おばあちゃんが死んじゃって、おおかみさんが死んじゃって、わたしとっても寂しかったんだよ?とっても、とっても、とーっても寂しかったんだよ?

 あなたが私を見つけてくれて助かった。あなたに助けてもらっちゃった。

 ねえねえオニイチャン、わたしとイッショにいよう?わたしとズットイッショにいよう?わたしを置いていかないで。

 一緒に、いっしょに、イッショニ…………フ、フフ、フフフフフ…………」


 僕は気づいた。あれは大きな鎌だ。死神が持っていると言われる鎌だ。

 少女は鎌を僕に向かって振りかぶる。そしてそれが降り下ろされた。

 僕から血が、内臓が、骨が、筋肉が、飛び散る。

 少女は何度も僕に降り下ろす。

 鎌が降り下ろされるたび、『僕』が僕でなくなっていく。

 顔が潰れる音が、腕が吹き飛び落ちる音が、骨が折れる音が、内臓が潰れる音が……何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も聞こえてくる。


「ぅ…………ぁあ……………………あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 僕は叫ぶ。叫ぶ。『僕』が僕でなくなっていく様子を見て叫ぶ。


 少女は笑っていた。浮いている僕を見上げて笑っていた。返り血を浴びて笑っていた。僕の心臓を持って笑っていた。僕の骨を叩き割りながら笑っていた。家の物を壊しながら笑っていた。そして少女は……………………

----------------------------------

 一月。僕は今少女と森の中で暮らしている。


 少女は深紅(あか)ずきんちゃん。

 この町では少しだけ有名になった死神だそうだ。

 少女が有名になった理由は僕が死んだからだそうだ。

 少女は今日も笑っている。

 あの時の冷たい笑顔ではなく、春の日溜まりのような笑顔だ。

 少女はあの時最後に泣いていた。

 笑いながら泣いていた。

 僕を殺して泣いていた。

 暦上まだ冬だけど、僕には寒さなんて関係ない。

 今日も僕らはお墓参りをする。

 少女のおばあちゃんとおおかみさん。

 そして僕のお母さんとお父さん。

 お母さんは僕を抱き締めてくれた。

 僕を一人にしてごめんねと。

 お父さんは僕を叱ってくれた。

 なぜこんなに早く死んでしまったのかと。

 僕らがお墓参りをしていると、誰かが通りかかった。


「ねえねえ、おじさんは何をしているの?」


 少女は今日も聞く。


「いやー、ここら辺に、死神が出るらしいんだよね。おじさんはその噂が本当かどうか、確かめに来たんだよ」


 おじさんの言葉に、僕は言う。


「じゃあ、この先にある家に行ってみてください。面白いものが見られますよ」


 おじさんは僕の言葉に笑って言った。


「面白いものだって?じゃあその面白いものを拝んで行こうじゃないか」


 おじさんはそう言って歩いていった。ただそれだけの用事だったようだ。


 僕らは今日もお墓参りをする。

 僕らと一緒にいてくれる人を待ち続けるために。

 僕は今日も少女と一緒に暮らす。

 少女が悲しまないように。

…………最初だけですね、怖くないのは。

……難しいですが、またホラー系の小説を書いてみたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 怖いのはそんなになくて読みやすかったです。 途中までいい話的な要素大きかったですし [一言] なぜか、私を見ているようでした。 ふふふふ…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ