人形(ひとがた)の神:マナ
「すみません、マナ様」
清の呆れ果てて頭を抱えそうな様子に苦笑するしかない。
湊を見やると、恥ずかしそうにしながらも、興味津々といった体でこちらをうかがっている。
興奮さめやらぬ様子は見慣れたものだ。
自分の存在が人を惹きつけてしまう自覚はもちろんある。
実のところ、それを押さえることも可能なのだが、目覚めたばかりで体が本調子ではなく、調整が難しい。
ま、この社の人間には神であることを隠す必要もないのだから、問題はない。
「私は生き神なのだ。もう千年以上もこの姿で現世にいる」
どこから話そうかと思ったが、長話は面倒なので簡潔に伝える。
清や直之が話せばまた違った言い回しになったろうが、神であることを疑いもなく信じる湊には、社の歴史や納得させる事例は必要ない。
思った以上に簡単そうでほっとした。
まあ、気になるとしたら湊の言動か。
先ほどから湊は今まで見てきた社の人間とは、返ってくる言葉のすべてが違っていて面白い。
興味深く見守る中で返ってきた言葉は。
「・・・へえ、長生きなんだな」
一瞬あっけにとられる。
清が見たこともない顔で愕然としていた。
それを見たら堪えきれなかった。
「あははっ・・・まあ、な」
くくっと声が漏れる。
神なのだからそりゃ人間からすれば長生きで当たり前。
「えあっ・・・そうじゃなくてっ」
慌てて言い繕う。
「亀じいさんとかでも500年とか言ってたから・・・」
「亀?」
「・・・池の主様のことです」
清が補足する。
孫の無礼な態度に私が怒っているわけでもないので、とりあえず静観を決めたようだ。
「ああ、あいつか・・・」
この辺ではまだマシな奴だな。
「仲がいいのか?」
「うん、今日も帰りにしゃべってきた」
その口調と内容に、静観を決めん込んだ清の顔がひきつる。
だが、直之は息子の言動に呆れてるだけではない雰囲気。
ああ、きっと私と同じだ。
奈海を思い出す。
彼女は神を敬いながらも親しさは損なわなかった。
懐かしさに目を細める。
奈海とは彼女が五つの時から15年、一緒に過ごした。
いや、そうでなくても彼女は特別だった。
だからこそ起きずにはいられなかったのだから・・・。
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