表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の約束 ~神の名を呼ぶ~  作者: 有沢 諒
序章 目覚め
4/51

池の主:湊

学校が終わると、特に部活もしていない俺はまっすぐ家に向かう。

圭はサッカー部だから、帰りはだいたい一人だ。


ほかに友達がいないわけじゃないけど、やっぱり部活があったり、ないやつは遊びに行ったり、そもそも帰る方向が一緒じゃない。

遊びに誘われることもあるけど、家事や家の仕事の手伝いもあるから無理だし。


まぁ、一人の方が気楽ってのもある。

一人だと、だいたい声をかけてきてくれる奴らがいるからだ。


みなと


ほら。


中学校から家までの近道に通る公園の池の側。


「久しぶりじゃん」


池の中から聞こえたなじみの声に、普通なら聞こえないくらい小さい声で答えるが、じゅうぶん伝わる。


『そうか?』


3ヶ月ぶりなんだけど、こいつらにとっては昨日みたいなものか。


苦笑して、池をのぞき込むと、水の上に佇む姿。

亀だ。

普通は公園にはいないウミガメみたいに大きい。

それどころか、目の上や口まわりに白くてふさふさの毛が生えていて、その姿はあれだ、水戸黄門みたいな立派は髭って感じで、変に人間っぽい表情さえうかがえる。


俺は池の周りにある柵に肘をついて、久しぶりの姿を観察する。


こんなじろじろ見るのって、本当は罰当たりかもな?

だってこいつらは一応「神様」って呼ばれる存在で。

俺はたぶん産まれた頃からこいつらが見えていて、普通にしゃべって触れられたから、それが特別なものだなんて思わなかった。


いや、ばあちゃんは「きちんと敬いなさい」とことある毎に言っていたけれど。

ばあちゃんは感じることはできても俺みたいに見ることはできないから、結局見てないところでは自由にしてたもんだから、なんだか今更って気がしてる。


「どっか行ってきたの?」


聞くと、亀じいさんは嬉しそうに笑って。


『あの子について行っていた』


言われて、そういや最近姿を見ない女の子のことを思い出した。

この公園が好きで、池の祠におままごとで作った泥団子とか供えていた無邪気な女の子。

迎えに来ていた母親らしい人が呼んでいた名は確か、真央まおとかいったか。


こいつらはあまり人間の名前を口にしない。

知らないわけでも覚えてないわけでもない。

一度、理由を聞いたら、名前は軽々しく口にするものじゃないとか、訳の分からないことを言われた。


てか、俺のことは名前呼びするくせに。


教えてもらえないから、俺は不敬なんだろうけどと思いながら、こいつのことを亀じいさんと呼んでる。

まあ、本人(本亀?)はどんな呼び方でも気にしてないみたいだけど。


「あの子、どっか行ったの?」


『海の近くに行くから泳げるようになりたいと言っていた』


人とは感覚が違うからか、神様ってのは説明が下手だ。

想像で補完する。


「引っ越したのか? で、泳げるようになるまで見守ってたと」


亀じいさんは目を細めてうなずく。


ああ、泳げるようになって喜んでる姿でも思い出してんのかな?

満足げな姿が、なんだか可愛くて笑みを浮かべる。


でも、神様ってのも大変だなって思った。

願いを向けられても実際は簡単に願いを叶えることができる訳じゃない。

基本は見守るだけ。

それでも願いを向けられて、それが叶ったとき、やたらと嬉しそうな顔をする。


愛すべき存在だなと素直に思った。



***************

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ