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報せ:清
不意に美しい音色が響いた。
それは、一度だけ聞いたことのある音。
しかし、もう二度と聞くことはないと思っていたものだった。
驚き、普段ならあり得ない粗雑な所作で立ち上がる。
それはちょうど昼食を取り終え、ゆっくりと食後の茶を楽しんでいた時で。
目の前で、娘婿の直之が、こちらも普段のなら見ることのない、目を見開いた驚きの表情で自分を見上げていた。
口が半開きで、いつもの柔らかい笑顔の絶えない表情からは想像も出来ない、その少し間の抜けたような顔に、逆に冷静さを取り戻す。
「お義母様、今のはもしや・・・」
直之も、すぐに我に返ったようで、すっとこちらはいつもの落ち着いた所作で立ち上がる。
真剣な眼差しを向ける直之に、うなずき返す。
「・・・お迎えの準備を」
少し、冷たく感じるであろう口調で告げた。
故意に冷静を装った自分の声音。
もう一度会いたいと願ったことも幾度もあったのに・・・と。
思わず苦笑をこぼした。
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