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始まり
「すまない・・・」
優しい手が頭を撫でた。
そのまま髪を梳いていく感触。
いつも、それが嬉しかったのに、今は寂しさがそれを上回る。
「言うな・・・」
泣きそうになっているのがわかったのか、微かに苦笑して。
「ごめん」
今度は違う意味で言われる。
堪えきれずに溢れた雫を指に絡めて、こんな時でさえ、見惚れずにはいられない笑みを見せる。
「・・・もう、謝るな」
再度言葉にすれば、柔らかくうなずいて、冷たい掌で頬を撫でる。
「今まで、ありがとう・・・」
別れの言葉は聞きたくなかった。
代わりに言われた言葉。
だから静かにうなずいた。
「・・・ひとつだけ、頼んでいいか?」
最期に・・・と、言わなかったのは彼の気遣いだろう。
もちろんと、うなずく。
彼が望んだ、ささやかな願い。
それが、きっとすべての始まりだった・・・
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