~開始~
アハトは氷に覆われている王国、アインス王国にて18歳の誕生日をむかえる。
幼き日に約束した少女との思い出を胸に、幼馴染のノインを連れ、冒険の旅へと出る。
「あらアハト。おはよう」
「母さん。おはよう」
「ノインちゃん、そこのお砂糖取ってもらえる?」
「はい、どうぞ!」
「母さん・・ノインに手伝わせてるのか?」
「いいんだよー!あたしも、アハトのお誕生日はお祝いしたいしね!」
「ふふ。 ノインちゃんは良い子ねぇ。お嫁に欲しいわ」
「ええっ、そんな、フィーアさん!照れるじゃないですか・・っ!」
フィーア。それはアハトの母親の名。
「全く、母さんもそんなこと言ってないで・・・」
「そんなこと?!」
「ノイン、何だよいきなり」
「・・・っ」
「アハトったら、まだまだ子供ね~」
「はぁっ? 母さんまで、何を・・」
「もーいいもんっ! フィーアさん!ちょっと家戻ります!」
「は~い。ケーキが焼けたらまた呼ぶから、ツェーンさんも呼んできてね」
「了解!」
ツェーンさんとは、ノインの母親の名前だ。
「はぁ、朝っぱらから五月蝿いなあ」
「べーっだ! フィーアさん、また来ますー!」
「ええ、待ってるわね~」
ガチャ、バタン
「なんだよ、もう・・」
「ふふふ~」
「母さん、今日なんかおかしいぞ・・」
「なんたって可愛い息子の18歳のお誕生日だもの!気分だってよくなるわよ!今日から一緒にお酒飲めるわね~」
「酒って・・母さん、飲めなかっただろ」
「ううん。いいの、今日は」
「今日は?」
「ええ。・・・ドライさんと、約束したから」
「父さんと・・・」
アハトの父親は、アハトが9才の頃に雪山で雪崩に遭い亡くなった。
それ以来、フィーアは女手一人でアハトを愛情込めて育てた。
「さあ、ケーキを焼くから! アハト、どっか行ってて!」
「は?! どこに行けと・・・!」
「適当に!」
「はあ・・・わかったよ。 いつ帰ってこればいいんだ?」
「そーね、夕方」
「まじか・・・昼飯は適当に済ましとくからな」
「はいは~い♪」
「行ってきます・・・」
結局アハトはこの日、母の手作りケーキを食べることが出来なかった。
――――家に帰ることがなかったからだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
約束の物語はどうでしたでしょうか。
あなたも、思い出の約束はあるでしょうか。
では、また会うときまで。