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第二話

 今日も、昼休みは三嶋のとこに行ったんだけど。三嶋の席にも、教室内どこを見渡しても、三島の姿がなかった。食堂にもいない。三嶋のパソコン部の部室にもいない。となると、残る場所は一つ。


 あたしは階段を駆け上がって屋上のドアを開けた。

 広い青空に溶け込むように、手すりに両腕で寄り掛かりながら、三嶋はぼんやりと空を見上げていた。

 三嶋! って名前を呼んだら、ビクッとする背中。


「今日はここにいたんだ?」


 あたしが笑顔でそう聞いても、三嶋は何も言わないまま黙っている。

 

「三嶋? どうしたの、どっか具合悪い?」

「……木原さんに、言いたいことがあるんですけど」

「えっ、なになに!?」


 いっつも受身で、あたしに関心のなさそうな三嶋。

 今まであたしに言いたいことがあるなんてなかったから、何だかそれだけですごく嬉しかった。


「何でも言っていいよ!」


 三嶋がちょっとためらってるから、あたしはそう付け加えた。ちょっとだけ、ちょっとだけだけど、やっぱりどっか期待する自分がいるのは、仕方ない。

 それなのに、三嶋の口からは、思いもしない言葉が出てきた。


「もう、来ないでくれますか」

「……来ないで、って?」


 心臓が嫌な感じにドキドキしたけど、あたしは笑顔を保ったまま、聞き返した。

 ……なんか、ヤダ。すごく嫌な感じがする。


「昼休みとかに僕の教室に来るの、やめてくれますか」


 嫌な予感は当たって、予想通りの言葉が降ってきた。でも予想しててもやっぱり傷つくよ。

 でも、もしかしたら何か理由があるのかも、あたしを嫌ったわけじゃないのかも、そう思いなおして、あたしは落ち着こうと必死に努力しながら、また口を開いた。


「……何で?」

「教室じゃ恥ずかしいし……木原さんが来ると、嫌なんだ」


 ……嫌? 何それ、迷惑ってこと? 今日ここにいたのも、あたしから逃げたかったから?

 そう思ったら、心の中が、悲しみとか虚しさとかそういうのでいっぱいになった。


「何よ……」


 知らず知らずのうちに、呟いてた。何だかすごく泣きたくて、やりきれなくて。だって、こんなに好きなのに、三嶋は何も応えてくれないなんて。


「そんな言い方ないじゃない! 三嶋のバカ。オタク。根暗!」


 あたし、今ひどいこと言ってる。最低なこと言ってる。

 わかってるよ。こんなの八つ当たり。だって三嶋があたしのこと好きじゃないんだからしょうがない。わかってるけど、八つ当たり言わずにはいられなかった。


「ごめん……木原さん」

「何で謝んのよ!? こんだけひどいこと言われて、何で謝ってんの!」


 当たられても謝ってる三嶋が、イライラした。だって謝るのはあたしなのに。

 思い通りに行かなくて駄々をこねる、子供みたいなことしてるのに。

 三嶋は何も言わない。ただおどおどしてるだけ。あたしのイライラも、とうとう頂点に来た。


「もういい! さっさとどっか行ってよ!」


 先にここにいたのは三嶋なのに、あたしは何を自分勝手なことを言ってるんだろう。

 でも三嶋なんて、いつも振り向いてくんなくて。三嶋なんて、あたしより何より、ゲームが大切で。三嶋なんて、三嶋なんて……!


「早く行けば。家でゲームでもしてればいいじゃない。ゲームの女の子にしか、興味ないんでしょ」


 まだつっ立ったままの三嶋に言ってやった。我ながら、全く可愛くない台詞。嫌味たっぷり。


「ボクだって、ちゃんとわかってるよ。ゲームがいくら面白くても、偽者だって。生身の人間とは違うって」


 なによ、だったら何であたしを拒否るのよって三嶋を見たら、また困ったような泣きそうな、情けない顔してる。あたしといる時は、三嶋はこの顔しかしてない。


「そうじゃなくて……木原さんは、怖いんだ。なんて言うか、ボクなんかバカにされてるみたいで」






 ああ、あっちの廊下から美恵が歩いてくる。

 とぼとぼと廊下を歩いていたあたしに気づいた美恵が、近づいてきた。


「どしたの、加奈子。死にそうな顔しちゃって」


 ん? て感じに美恵がちょっと心配そうにあたしの顔を覗き込んできた。あたしは美恵から顔を逸らす。


「怖い、って言われてさぁ。三嶋に」


 そう言って、あたしは項垂れた。『怖い』、だよ『怖い』。あんまりひどいよ。どうしたらいいのかわかんないし。

 あたしにはすっごい深刻な問題だったのに。それなのに美恵ときたら、真剣だった表情を見る間にくずしてしまった。


「なんだ、そんなこと? そりゃそうでしょ。気の弱い三嶋にしてみりゃ、加奈子は教室でも目立つしさ、そんな人間で三嶋に構ってるのって加奈子だけだ……」


 笑いながら言いかけて、美恵はふと真顔になって、黙った。あたしの顔を見たからだ。

 仲のいい美恵とはいえ、やっぱり涙を見られるのは恥ずかしくて、あたしは制服のソデでごしごし顔を拭った。


「あたしなんて、派手顔だし。おしとやかなお嬢じゃないし。もっとおとなしい子だったらよかったのに……」


 とうとうあたしは美恵にしがみついて、しゃくりあげていた。美恵はあたしの背中をさすりながら、ため息をついている。


「加奈子ぉ。やめてよ。もう、何でそこまであいつにハマってんの?」


 なんで? そんなのあたしが聞きたいよ。だって、気づけばいつも三嶋のことばっか考えてる。でもあいつは多分、あたしのことなんて考えたりしないだろうな。


 主導権はあたしのもの、だったはずなのになぁ。いつの間にか余裕なくなってんだ、あたし。


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