第十三話
雨は弱くなるどころか勢いを増して強くなって、あたしはびしょぬれになっていた。息が上がって、呼吸するのが少し苦しい。
走ってやってきた雨の中の学校は、あの日と同じようにそこに佇んでいて。その中から、雨で部活が中止になったのか、カサをさしてあたしがいる校門の方に歩いてくる人物を見つけて、あたしはその名前を呼んだ。
「美恵……」
「加奈子!? どうしたの、びしょぬれじゃん!」
美恵はあたしを見るなりすごく驚いて、慌てて駆け寄ってくると、あたしをカサの中に入れてくれた。鞄から取り出したタオルで、あたしの頭を拭き始める。
「何があったの、カサもささないで……。今日、小池と会うんじゃなかったの?」
「違うの……」
美恵に会ったら安心して、涙がまた溢れてきた。美恵はあたしの頭を拭く手を動かしながら、言い聞かせるようにあたしの顔を覗き込んできた。
「加奈子、泣いてちゃ何もわかんないよ。何があった?」
「あたし、小池君に酷いこと……」
「え?」
「やっぱりあたし、三嶋が好きなんだよ、美恵。小池くんはすごくいい人だったのに」
「加奈子……」
「小池君といても、あたし三嶋のことばっかりで……」
美恵はタオルで拭く手を止めて、ぽん、となぐさめるようにあたしの頭に手を置いた。
「小池のことは気にしないで、あたしが何とかするから」
「でも……」
「どんなに辛くても、あいつがいいんでしょ? だったらもう止めないよ。最後まで加奈子らしく、気持ちを貫きな」
そう言って美恵はにこっと笑った。美恵の気持ちがすごく嬉しかった。また落ち込むかもしれない。また泣いて、美恵を困らせるかもしれない。それでも美恵は、背中を押してくれるんだ。
「今日、あいつも学校に来てたよ。会いに、行くんでしょ?」
「……うん。ありがと、美恵」
微笑んでる美恵を見てたら、あたしも自然に笑顔になれた。きっと、今、伝えなきゃいけない。あたしはあいつがいる学校に向かって、走り出した。
言うんだ、ずっと好きでいるって。三嶋があたしを好きじゃなくても、あたしはずっと好きだって。
しつこいって、あきれられるかもしれない。嫌いだって、突き放されるかもしれない。
――それでもどうしても今、伝えたい想いがある。
あたしは、必死で三嶋の姿を探した。きっと今日も三嶋は部活だから、校内にいるはず。でも部室には誰もいなくて、教室にも、どこにもいなくて。校舎の外を探してみても、やっぱりあいつの姿は無かった。走り疲れて息が上がって苦しくて、あたしは濡れることも気にせず、校門の前の地面に座り込んだ。
「三嶋……」
その名前を呟いた時、後ろから誰かが走ってくる音がした。水たまりを思いっきり踏んだ時の、バシャバシャという音。振り返ったと同時に、あたしの頭上に開いた水色のカサが差し出されて、あたしを濡らしていた雨粒を代わりに受け止める。三嶋と出会うきっかけになった、あのブルーのカサ。
「木原さん」
頭の上で、大好きな聞きなれた声が、あたしの名前を呼んだ。




