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雪がはらはらと降り始めた。
地面に落ちるとすぐに水になり、これではきっと積もりはしないだろう。
明日は打ち合わせだから良かった、と思い、自分が大人になってしまった事を残念に思う。
がらりと窓を開けて狭いベランダに出ると、一気に空気が変わって身体の熱が奪われていった。
「あっ、せんせー!」
気まぐれに外に出た事を後悔しながら寒さにすぐに室内に戻ろうとして、聞き慣れた声に大声で呼ばれる。
声のした方に勢い良く顔を向けると、学校から帰って来た横溝がアパートの下でぶんぶん手を振っていた。
「先生って呼ぶな!」
「雪! 降ってる! すげー!」
何がそんなに楽しいのか、ヤンキーはにこにこしながらそう言ってアパートの階段に向かって走って行った。
少しするとインターホンが鳴らされ、玄関を開けるとプリン頭に白い粉雪を乗せた横溝が居て、雪を払おうと首をぶるぶる振っていた。
「ははは、ピアスがすげー冷てぇの」
鼻の頭もうっすらと赤くした彼はなおも楽しそうで、年下なのだなあと実感した。
「こたつ出てるから、入れよ。タオル持ってくる」
「あ、おかまいなく?」
「僕が構うんだよ!」
髪も制服も濡らした彼にタオルを渡す。
温めた牛乳の入ったマグカップも渡すと「うわー、あったけえ。せんせーありがとう」と骨ばった両手でカップを包んだ。
横溝のはす向かいに座って脚を伸ばすと、こたつの中で脚がぶつかる。
「うわっ、部屋にいたんじゃないんすか。脚つめたっ」
「ああ、冷え症? で。寒いとは思ったけどまさか雪が降るとは思わなかったな」
「積もると良いっすね」
「よかねーわ。明日打ち合わせで出なきゃいけなんだ。お前は……何がそんなに楽しいの?」
「えっ、なんすかね。わかんねーけど、テンション上がる」
「やっぱりガキだな」
「えー」
横溝が変な顔をして不満げな声を出した。
濡れた髪がきらきらと部屋の明かりを浴びている。
「大分髪伸びたんだな。黒いとこ多くなってる。染め直さないのか?」
思った事を口に出しただけなのに、横溝は先程よりも更に変な顔をして「あんたが言っちゃう?」とぼそっと言ってからマグカップの中を飲み干した。