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テーブルに置かれた既製品のチョコ。
それを見た横溝は、なんだか言葉では言い表せないような凄い顔で僕を見てきた。
「な、なんだよ」
「チョコ、買ったんスか」
「貰ったんだけど……なに」
「お、俺の菓子というものがありながら! ひどいっスよ!」
何言ってんだこいつ。
いつものようにドアベルが鳴らされたかと思うと、扉の前にはにっこりと笑む横溝の姿が有った。
また菓子を作ってきてくれたのだろうと部屋の中に通し、紅茶を準備していた時の事だ。
彼が来る前まで、ファンから届いたチョコレートを一つづつ消化していたから、そのパッケージがテーブルの上に出しっぱなしだった。
「良いだろ別に」
「アレっスよね、バレンタインっすスよね?」
「そうだけど」
「やっぱ売れっ子作家せんせーは違うなー。高級チョコ良いなー」
心の欠片もこもっていない棒読みで、横溝は不貞腐れたように言う。
普段自分では買わないような有名店の茶色い箱には、金色で店名が箔押しされていた。
「ファンの方からの頂きものにそんな事言うなよ」
そっぽを向いているガキは唇を尖らせていたが、反省したように眉を寄せ「すみません」と呟いた。
けれどソファにどっかと腰を下ろし、視線はチョコレートに注がれたままだ。
紅茶をテーブルに運び、僕も彼の隣に腰を下ろす。
「食いたいの?」
「違うっス」
暗い声で返された。
見た目は完全な不良である横溝が不機嫌な顔をしていると、それなりに迫力がある。
「じゃあなんだよ」
「……俺も、つくってきたのに」
「は? 聞こえねぇよ」
「だから、俺も、あんたに、渡そうと!」
急に勢いづいて、身を乗り出すようにそう声を荒げた。
しかしそこまで言ってまた気が抜けたようにソファに沈み込む。
学生カバンを漁ったかと思うと、「ん」と四角い箱を渡された。
綺麗にリボンが掛かったそれ。
自分でラッピングしたのかとその姿を想像して可笑しくなる。
包装をといて箱を開けると、美しい球体が9つ並べられていた。
一つを手に取り口に含むと、舌の上でゆっくりと溶けていき、鼻から微かにラムの香りが抜けていった。
きっと手が込んでいる。
「さすが。美味しい。ありがとう」
「……お返しは倍返しが基本っスからね」
「面倒臭ぇな……」
男子高校生に手づくりチョコ渡されても何にも思わない更科