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怪物進化冒険録  作者: 黒麦茶
輪廻の森
4/15

パンツァーシュピンネ

 長い二本の前足を獲物に突き刺す。漆黒の槍は短い丸太に偽装していた巨大芋虫を正確に捉え、頭と胴体を打ち貫き命を刈り取る。枯葉の積もった大地に横たわり痙攣している獲物につま先から液状にした体を注入して捕食していく。


 蜘蛛の体は扱いに慣れるととても快適だ。八脚歩行はどんな地形でも素早く動くことができ、先程のように前足は攻撃にも使える。また自力が上がり、周囲に生えている巨樹を消化できるようになり、獲物を捕らずとも栄養補給は問題なくなった。試しに消化した際、巨樹の中が空洞になっているのには少し驚いた。


 巌石大蛇を仕留める為にこれまで準備してきたが、蜘蛛の体をベースに改造を加えた外骨格はより強靭に強化された。元の外骨格に加え、巨樹から剥いだ強固な樹皮を貼り付け衝撃吸収材としてゲル状にした体液を間に挟んでいる。三層構造をした滑らかな純黒外骨格はもはや鎧と言っても遜色ないだろう。

 巌石大蛇探し求めて夜の暗闇を歩いているが、時折現れる中型動物の攻撃を諸共せず、脚を振るえば剣のように相手を裂き、切り伏せる。


 しばらく森を進んでいると、遠くに城壁のような長大の体躯を持つ巌石大蛇が見えてきた。

 深緑の巨体を横たえて悠々と眠っているご様子。警戒心の欠片もないその雄大な佇まいは天敵がいない森の王者として君臨する捕食者だけに許された姿なのだろう。誰も自分に敵うはずがない、その油断が命取りだ。


 巨樹に登り、巌石大蛇の真上辺りに陣取る。奴を狩る為にこれまで練り上げてきた秘策を今披露する時がきた。


 鋭い杭の(きっさき)が覗く口を下方に向け狙いを定め、巌石大蛇目掛けて飛び降りる。数十階のビルに匹敵するだろう大樹からのダイブで、落下速度を上乗せし、威力を上げる。胴体を狙った紐なしバンジーは成功し、見事目標地点に到達する。口から覗く杭の先が城砦のような鱗に当たり火花を散らす。


 この瞬間、袋状の腹部に溜め込んでいた圧縮空気を口に向かって開放した。極限まで押し固められた空気はその圧力により口内に収めていた杭を驚異的な速度で射出する。射出された杭は、巌石大蛇の要塞ような鱗を貫通し、凄まじい衝撃と共に内蔵を砕き、内部まで深々と射し込まれる。これは前世で言う所のロマン兵器、所謂パイルバンカーを参考にした一撃である。


 突如として走る感じたこともない痛みと衝撃に、巌石大蛇はのたうち回る。だが此処で終わらない。杭の先端を切り離し体内に液状化した体と縮小した核を送り込む。内部が透けて見えたなら注射針を通して薬剤を注入しているようにも見えるだろう。

 巌石大蛇は、首を振り回し尻尾を叩きつけ暴れまわり、残された外骨格を粉々に粉砕する。遅い、すでに本体はそこにはいない。きさまはチェスや将棋でいう『詰み』(チェクメイト)にはまったのだ。


 かつてない狩りの成功に興奮しつつも次の作業に移る。本体である核が体内に入った時点で決着はついたのだ。巌石大蛇自身にはもうどうすることもできない。あとは単純作業だ。核に程近い奴の内蔵から時間を掛けて消化吸収し、勢いのままに増殖するだけ。


 溶かし吸収する度に巌石大蛇の興味深い生態が分かってくる。今更ながらこの森の生物は自分を含めて地球の生物と比べて大きく異なる。

 姿形は似ているのだが、内蔵の構造が全く違う。消化器官がとても発達しており、塵一つ残さず全て体内に吸収される。そのためか排泄器官が存在しない。また、神経はあるが心臓が存在せず栄養などはそれぞれの細胞に蓄えられている。


 生態は違えども全生物に共通の性質もあり、全ての細胞が消化、吸収、貯蔵、変異、増殖など様々機能を有し、単細胞生物のように個々で完結しているのだ。また、調べた限り、細胞の寿命が存在せず大きく傷つかなければ何時までも生き続ける。そもそも生物かどうか疑問になる。


 知れば知るほど機械のような無生物の群体が何らかの生命を模しているような印象になる。知識を得て考える程、地球の生物とまるで違う、常識とかけ離れた生命達だ。案外この森は一つの超常的の生命体だけで、成り立っているのかも知れない。いやそれは飛躍しすぎた考えだろう。


 のたうち回っていた巌石大蛇は筋肉まで溶かされ動かなくなった。残すは堅牢な鱗と蜘蛛形態の自分の十倍はあるかという巨大な脳だけだ。

 巌石大蛇の体内で増殖した全ての体を結集し、一息に飲み込む。脳を食らった瞬間、頭の中で何かが弾けるような感覚が走る。脳裏に次々と映像が流れ込み、熱を感じないのに焼かれたような熱さを覚える。


 これは巌石大蛇の記憶だろうか。断片的な映像だがどれも視点が高いことから実際に奴が見た情景である事が推測できる。奴が映像で獲物を捕食する度に此方に生態情報が流れてくる。途方もない時を生きたのだろう。分割されて流れる映像は途切れる事がない。


 最初は膨大な情報と追体験しているような記憶映像に心踊った。だがしばらくすると巌石大蛇の短調な生活に飽きが来てしまう。


 あまりにも長すぎる捕食、睡眠、移動の代わり映えしない記憶の鑑賞会に内心うんざりとしながら、ある奇妙な行動に気がつく。

 巌石大蛇は定期的に草原のような場所に出向いているのだ。青々とした草原にはこの森に生える巨樹とは比べ物にならない大きさの樹。雲を突き抜ける程の超大な巨樹に巌石大蛇は向かう。根元でその堅牢で厚い鱗を全部落として、森に戻るのだ。


 一見すると地球の蛇と似た脱皮ように思えるが、奴の生態からその必要性が感じられない。この森の生物は寿命がなく自由に増殖できる細胞を持つため、古くなり体に鱗が合わなくなるという事はない。草原で鱗を脱いだあと、すぐさま増殖再生して何も変わらない元の姿に戻している。

 全く意味のない行為だ。あえて意味を考えるならば、天を衝く巨樹に鱗を捧げる事で何らかの恩恵があるのではないかと思う。


 捕食した限りでは巌石大蛇から何も感じ取れない。草原に直接行って確かめるしかないな。とりあえず巨大な鱗まで残さず捕食して、粉々になった多層外骨格を回収する。今なら巌石大蛇ような体にする事もできるが、巨大すぎる体は汎用性に欠ける。手に入れた知識から蜘蛛形態の多層外骨格と圧縮筋肉を強化する方向に決定し、今は休息に入る。新たな体を構築したら、方角を確かめ草原を目指そう。







 あれから数週間と少々時間が掛かったが草原付近の森まで来ることができた。これまでの森の様相とはかなり違う。厚く天辺を覆っていた枝葉は存在せず、優しい木漏れ日が差し込んでいる。大樹から伸びる、柳のように上空から垂れ下がる細長い枝には様々な熟れた果実が実っている。大小数え切れない程の花が咲き、小さな実を落とす様は、まさに豊穣の地と言ったところだろう。


 記憶では巌石大蛇はここの果実を一度も食べてない。毒でもあるのかと思い、熟れて落ちた実を調べてみたが特にそのような事はない。豊かな大地だが違和感が残る。八本の脚で大地を踏みしめ、周囲を警戒しながら進むが何も起こらない。杞憂だといいのだが。


 巌石大蛇の記憶から草原まで歩いて数時間だろうか。頭の上に大きな果実が降ってくる。柔らかく熟れた果実は小さな衝撃と共に潰れ、全身に赤い果汁を撒き散らす。たまにはこんな偶然もあるだろうと気にせず、体を覆う果汁を処理して先に進もうとすると視界に大きな動きが見えた。悪寒が走り、前方に全力で飛んで避けると先程まで自分が立っていた地点が爆発した。


 爆発地点を確認すると大地から槍のように鋭く太い樹の根が剣山のように天を貫いていた。根だけではない、柳のような枝が、大小の花が、大地に落ちた果実が、あらん限りの力を込めてその地点を攻撃していた。


 これが違和感の正体。最初から狙われていたわけだ。違和感は他にもあった。これほど食べ物があるのに動物が一匹たりともいないのだ。原因は十中八九この植物達だろう。森の全てが獲物を仕留める為の擬態ということか。


 あまりにも地球とは違うアグレッシブな植物達に関心を覚えるが、今はこの状況を打開しなければならない。強くなったと言ってもさすがに森を相手にするのは無理がある。奴らが自分を見失い蠢いている間に、草原へ全力で向かおう。四肢ならぬ八肢に全力を込めて逃走を図る。


 走りながら後方を確認すると、視界を覆い尽くす植物全て襲い掛かってくるのが見える。あと数十分もすれば草原につくだろう。それまでこの危険な逃走劇は続くだろうか。気が滅入る思いをしながら、森を全力疾走する。

スライムから卒業し、ロマン兵器で蛇を打倒した装甲蜘蛛(仮)の主人公はこの森の核心に迫るのでした。

小難しい説明を入れましたが、分かりやすく言うとこの森の生物は本当に生物なのか?という疑問です。詳しい解説は次回または番外編で。


名前:

全長:熊一回り程

形態:多層装甲蜘蛛 

技能:身体操作、全方位視界、異界知識、毒耐性、消化耐性、体当たり、八脚歩行、パイルバンカー触手、多層外骨格


次回はこの森の真実に辿りつき、ついに人?が登場します。お楽しみに。

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