五話 ヘルムートさん ニーニャ
一時はどうなることかと思ったわ。
食事を出して、厨房に戻ると、すぐに外に来いと。
馬車が用意されていた。あわてて馬具をつけたみたい。馬が嫌がっている。
「どうしたの?」
と姉の旦那に聞く。
「急患だ。ニーニャ、となり街の先生のとこまで案内してくれ。夜道は得意だろ」
女が、夜道得意なわけないでしょーが。常識では。
月明かりでは良く見えないけど、使いッ走りの知識があるから、道ならよくわかる。
「御者は誰が?ハンスは夕方もう酔いつぶれてたわ」
「こちらの戦士様だ。ご実家で馬に乗ったことがあるそうだ」
あんた、何にでも首突っ込むのね。にこにこしないでいいから。
でもまあ、むふふ。楽に駆け落ちができそうね。速攻で準備。乗り込む。
急患は、小金持ちのヘルムートさん。食いすぎか?殴って吐かせてやろうか。でも脂汗かいてうなってる。あたしじゃわからん。
となりに乗り込んで、手を取りながら脂汗を手拭いでふいてあげる。絵に描いたようなセクハラ親父だが、こいつから金引っ張れるなら引っ張ろう。案の定弱っているくせに触ってきた。高いよ。
「出していいよ、ジオ」
「はいやあああ!!!!!!」ビシィィィィ!!!
何それ、力強すぎるよ。馬の肉が抉れるって。
グンッ。急加速。うわ、やばいよ。一頭立て3人乗り天蓋ありなのに、なんて加速。
「あばれ馬だー!!!!!!!」
ジオが叫んでる。自分でやっといて。お騒がせな奴。
でもいち早く叫ぶことで、周りは逃げることができるのだ。それが、やっちまった責任の一端だ。
あたしは、荷物を緩衝にする。ヘルムートさん、これナニ入ってるの?重い。
暴走馬車は、あたしんちに突っ込んでいく。いいぞ、やっちまえ。
「じゃなくて、ジオ、なんとかしなさいッ!」
「いまやってるんだけどっ」ビシイイイイ!
それじゃ余計暴走するじゃない!
あわてて身を乗り出して鞭を奪った。細い窓から御者台に移る。あたしならではね!
「手綱は?」
「ごめん、離しちゃった」
「じゃあこれ左側ふんづけてっ、折るなよっ」
あたしの力と重さでは無理でも、ジオなら。馬をつけている棒を左に傾斜させることで、進路も左に行くはず。よし、ぎりぎり当たらないで走りぬけられるか?
そこへ。ぽやっと出てきたのがいる。月明かりで金髪がキレイ。
死んだな。
どーにもなりそうにないので速攻諦めました。殺したのはジオです。あたしは妻としてそれを慰める役です。
次の瞬間、金髪あんちゃんは何か叫びながらすり抜けてきた。いつの間にか馬にまたがっている。あらやだ、かっこいいかも。手綱もちゃんと拾ってきたし!
ん。
なんで外れてるの。なんで手綱をあの一瞬で外せるの!それで馬をどうするの!
「あんたバカなの?!」
たてがみにしがみつきながら睨んでくるあんちゃんに要求。
「手綱が外せるなら馬具だって外せるでしょ!!なんとかしてッ!!」
「デュープハントゲレンク!!!」
馬具を外された馬がすっぽ抜けて走り去る。あんちゃんは御者台にすっぽ抜けてきた。小器用なあんちゃんだ。
でも、馬車の勢いはそのまま。このままだとアリサん家にぶつかっちゃう!あの子のうち貧乏で苦労しているのに!
「僕にまかせるんだッ!ウムシュラーゲンアングリフッ!!」
ジオがアリサ家と馬車に割り込んだ。バカなと思う。でしょう。常識では。
ジオは、家を剣で受け止めていた。大きく見える。あらやだ、すごく大きいです。
巨体がうなる。馬車ごと4人がきりもみし、アリサ家が盛大にはじけ飛んだ。
弁償だ!建て替えだ!アリサ家が新築に!・・・きっと喜ぶわ。これは馬車の主であるヘルムートさんの責任ね。
馬車はくるくる回って元の姿勢でストンと落ちた。全員無事。
無事じゃないな。ちびった。ヘルムートさんはゲロッてる。金髪あんちゃんは爆尿状態で気絶してる。ジオは一人だけキメポーズ。
アリサ達がびっくりして起きてきた。事情を話す。弁償してもらえると思ってにこにこしている。ヘルムートさんグロッキーで生返事。よし、成立。
介抱を手伝ってもらう。あたしがヘルムートさん。アリサがきんぱちゅさん。
最初はいやいや、ブリッコしてた。でもアリサはカマトト。気絶しているのをいいことに、たっぷりお人形遊びをした模様。でも全身きれいになったぞ。アリサのおかげね
「かわいそう、顔には傷がないのに、体は虐待の後だらけ。ねぇ、どこの王子様この人」
「知らないわー。ジオが行き倒れを拾って来たの。置いてこか」
「うちは食べる物に余裕ないもん。あたし売りに出されちゃう!」
もだえるアリサ。運命は自分で切り開くのよ、あたしはそうする。
そうこうするうちに、落ち着いた馬が戻って来た。お、優秀。馬具を確認し、内側のささくれを除去。痛めているところにその辺の薬草をあてがって、慎重に装着する。ん、いいかげんな仕事はいけないわ。余計な惨事が起きるじゃない。
「ジオは歩いて引いて。あたしも歩く。荷台はヘルムートさんとあんちゃんね」
「わかった。馬は並足で。僕らは全力で走ろう。」
歩くって言ったのに!でも金蔓ヘルムートさんが心配だ。
あたしは旗を持った。あんちゃんとあたしのパンツを乾かすための旗だ。ノーパンで全力疾走かよ。子供のころみたいだ。
「かぼちゃパンツ隊、西へ!」
視点が異なると、言ったことも聞いたことも時系列もズレます。
そういうもんです。
レイアウトがおかしいのはワードのせいです。
後で直そうと思います。今はスピード優先で。
・・・多少見やすくしました。