四話 つまらぬモノゲット ディア
ぬうおおおおおお。なーぜまた魔空空間があああ。
ディアブル・ダイナミックが出ない!まだ盗んでない技だからか!なぜ夢は矛盾をッ
「お食事用意できましたー。うなされていたみたいですけど、大丈夫?」
なんだ、乳臭い小娘か。このような安宿では春をひさぐことが一般的だ。
・・・と、どこかで聞いたな。忌々しい親父知識だ。脳から消したい。
「ご心配をおかけしているようですね。何、すぐに良くなりますとも。良い食事、良いサービス、気立てのいいフロイラインの献身的な看病。私は運がいい」
「♪いろおとこーかねとちからは、なかりけりー♪」
「な、なんだそれは呪文か」
「男がいる女口説くには弱いねーって意味の、故郷の言葉よ。じゃはねーうふふ」
小娘は名乗りもせず、さっさと行ってしまった。男がいるだと?生意気な。
俺は大して寝ていない。回復が足りない。食わねば。
食わねば、その男から小娘を奪うことができない。夢中で貪り食った。下品な父親のように。いまいましい。
料理の中身など何でもよかったが、傷ついた五臓に染み渡った。六腑には足りない。何、それくらいいつも耐えてきた。
少し落ち着いたら、小便がしたくなった。クソ親父の知識では、窓から裏に放尿して、誰かを怒らせて、返り討ちにして、小銭を稼ぐ・・・やはり使えない知識だ。下品だ。下品は魔人ディアブル・ブランディッシュには似合わない。
耐える。寝たい。選択の余地などないが寝たい。眠い。・・・。・・・。
「このまま寝ちまったらネションベン確定だろうが!ダボォ!!」
自分をひっぱたいて覚醒した。ぎくしゃくする体を起こす。厠は下か、外だろう。病人には遠い。両手のデュープハントゲレンクをじっと見る・・・奪いたいものは容易に奪えないようだ。
そっと部屋を出た。お人良しの魔熊、ジオなんとかが出て行ったときにはギシギシ言った床と扉は沈黙している。盗賊としての基本性能が上がっている気がする。いける。
廊下。すべるように進む。いいぞ、その調子だ。
階段。このまま降りるとどうなるか。階下には人がまだ起きているようだ。
「あれ、元気になったのなら食器をおろしてくださいなー」
ん。そうなるよな。部屋に取って返す。無駄な時間を使った。
階段を下りる。だが、人がいない。往復した時間のせいだ。まあ、それでいい。
食器をその辺の台に置く。暗い。暗視も欲しいところだ。試みに魔人の手で眼鏡を作ってみると、本当に見えた!おお、少しずつ基本性能が明らかに。
外に出よう。時間が惜しい。さっさとすますのだ。
だが、扉を開けようとすると、魔人の手がイヤイヤをした。何なのだ。うるさい。肩で開ける。その途端!
「あばれ馬だー!!!!!!!」
なんだと、どうしてこうなった!?動転している暇は無いッ。緊急避難!
あばれ馬が引く馬車は宿屋の入り口をかすめて走り去ろうとしていた。ゆえにこのディア様の逃げる余地はほとんど失われていた。誰が御しているのか、間抜けが!
魔熊の奴だったっ!ナニが親切だ!俺を殺そうと!ムカドタ魔!
俺様はあばれ馬に対して勇敢にもデュープハントゲレンクを敢行したッ!
確実に俺より強い。強奪するのは手綱だッ!!
突っ込んで来る馬面を流麗に左に回避しつつ、馬面と首の間のわずかな空間へ足の先から滑り込むッ!馬体の左側面を滑り、次の瞬間には手綱を握って馬上へ半回転!
どうだ見たか!これがデュープハントゲレンクだ!魔人の力だ!
・・・確かに俺は手綱を握っている。しかし、手綱は馬の口輪に繋がっていない。手綱ゲットだぜ!・・・違うッ、どうしてこうなったッ!
必死にたてがみにしがみついた。しまったッ、冷静に考えれば宿屋の中に戻ればよかった。今さら遅いが。とりあえずたてがみは盗まないようにする。
「あんた、いいところへ!」
なんだとう!後ろからあの小娘の声!つまりこれは男と駆け落ちかッ!そんなことに俺様を巻き込むな!宿代はどうなっているッ!
「手綱が外せるなら馬具だって外せるでしょ!!なんとかしてッ!!」
ばーかなッ!走行中の馬からそんなものが外せるかッ!・・・ん。常識ならな。
「デュープハントゲレンク!!!」
一刻の猶予も無かった。馬具を外された馬がすっぽ抜けて走り去る。俺様は御者台に緊急避難。だが、馬車の勢いはそのままだ。このままでは廃屋に衝突してしまう。
「僕にまかせるんだッ!ウムシュラーゲンアングリフッ!!」
魔熊が廃屋と正面衝突した。バカなと思う。だろう。常識では。魔熊は、廃屋を剣で受け止めていた。衝撃を剣に吸収。巨体がうなる。馬車ごと3人がきりもみし、廃屋が盛大にはじけ飛んだ。やはりこいつは魔人だったッ!!!!!
ぬはははは。俺様に技を見せつけやがった。奪ってやる!その技も、女も!
だが今では無い!今は眠い!吸い込まれるように俺は堕ちた。