一話 ビリヒリーベス ジオ
街道を意気揚々と僕は行進していた。あこがれの戦技を習得した。左目に現れた文字も消えて爽快。紹介状をもらった。路銀もある。ただちょっと男前になってしまった。鎖骨も痛い。
翌日。
昨日は気を張っていたためか平気だったが、次の日になって熱が出た。宿屋の若いおかみさんが看病してくれた。ちょっとした役得だね。妹とかいないのかなあ。
三日後。
間二日の記憶がない。高熱でうなされていたようだ。うわ、おかみさんが若くなってる!と思ったら本当に妹さんだった。
「き、きれいだ」
つーん。
「あんたはちょっときたないわね」
え。そ、そうかなあ。
「今、拭いてあげる」
え、ええー?自、自分でやるから。
「何はずかしがってるの。昨日も一昨日もあたしが拭いたのよ。ねえさんは旦那にダメ出しをくらったの。あんたがけっこういい体してるからってね」
しゅ、修行しててよかったーっ。
「クンストマイスターの修道院に行くんだってね。」
て、手紙を見ちゃったのか?
「べらべらしゃべってたでしょねえさんに。あたしをコソ泥扱いにしたね」
ご、ごめん。
「罰として拭かせなよ。えーと、その、前を」
ん、なーーーーーーーーーーー。ダメだそんな結婚前の女の子が!
「あんた、安宿の娘の将来なんて、そんなにいいもんじゃないんだよ。見込みのありそうなのを捕まえたら離すなって、かあさんもねえさんも言うしさー。それに」
目が泳いでいた娘が、僕のそばに座った。顔は見えない。
「さっき、あたしのこと、きれいだって」
だ、だきしめたーい!で、でも僕には目的があるんです!
肩をつかんで正面に向き直ってもらいました。
「ぼ、僕の家は代々、修行を終えるまで異性との交遊は厳禁でしたッ。だからッ。修行を終えたら、必ずあなたを迎えに来ます!結婚してくださいッ!」
「う、うわ、気が早いんだかガマン強いんだか。ま、何にせよ名前くらい教えてよ、あたしはニーニャ。先祖はかなり西の方から来たみたい」
「ジオカトロ。先祖は南の方だけど、こっちに移り住んで長いよ。ジオでいい」
「ジオ、あたしに大事なものをくれるなら、覚えていてあげる」
ニーニャは左手の指を差し出した。うわ、そ、そうだ当然そうなるよな。でも指輪なんてあったかな。僕が持っている立派なものは両親が奮発してくれた剣くらいだ。けっこうな装飾が施されていて・・・。あっ。
装飾には輪になっている部分がいくつかあった。困ったら折って売りなさいと言われてたっけ。こ、これが指輪になるはずだ。
ちょ、ちょっと待っててね。
剣を持って、シーツで下半身を隠しながら一旦廊下に出た。装飾に力を込めてバキっと折る。とがった部分は刃で削ったら切れた。純度の高い金なのかな、柔らかい。
「ニーニャ、サイズが合うかわからないけど指輪だ。大事にしてほしい」
「本当?うそ?けっこうイイモノよね、これ。いえ、かなりイイモノだわ、素敵!」
感激したニーニャは僕の両手を握りしめた。あ、そんなことしたらシーツが。
「わかったわ、じゃあ次は、私の番ね」