23話 追え、海賊船! え、徒歩で? ジオ
ニーニャが宿泊したことのある宿屋で朝食にありついた。なんでも、食べるはずの役人達が早朝から借り出されてしまったらしい。お気の毒だけどいただきます。
宿の旦那は、断片的にしか情報を知らないようだ。シュトッフレパリーレンの効果で小ざっぱりしている僕たちを焼け出され者とだとは思わず、昨夜成金の屋敷が焼き討ちに合ったらしい、襲ったのは盗賊だとか海賊だとからしい、海賊は海峡城があるから大規模に入ってこれるわけがないのに、でも衛兵とか役人達が総出で後始末にあたっているらしい、ところであんたらどっから来たの、と話題を続けた。
僕は全部正直に話すつもりだったけど、ニーニャが話に割り込んで嘘八百を並べた。3日泊まって妹の婚礼の手配品をそろえたら○○村に帰ると。
どこだいその村。妹いたの?。
(今だけごまかせりゃいーの!)
ここのおかみさんには、ニーニャがディーの屋敷に呼ばれたことがばれているので、会わないうちにずらかるそうだ。結局3日分先払いして宿を出たけど、後々嘘は問題になりそうだよなあ。
ニーニャは港に向かった。誰彼かまわず青い服のかわいい幼女のことを聞いて回った。ここでは目立っても背に腹は代えられないそうだ。でもすぐに情報を得た。釣り人が、珍しい物を見たという。
桟橋の上で船員風の男と青い服の女の子が、変なハズカシイ踊りを踊っていると、水面に漁船ぐらいの大きさの、でっかいミニチュアガレオンが浮かびあがって来たんだと。
「でかいのにミニってどういうこと?」
ニーニャが釣り人に食って掛かったので引き離した。まず、立派な戦闘用帆船がガレオン。ミニチュアガレオンはその模型。模型は普通ボトルの中に入るくらい小さいが、その模型は漁船くらいの大きさはあったと。それに乗り込んで、たった2人で出航して行ったんだそうな。真っ黒い帆を張って。
「女のごは、すっげはしゃいでだな。とっても、攫われた御嬢さんのようには見えねがっだな」
「もっと驚きなさいよ!沈没船で幽霊船で一人で操れる帆船で、変な蜘蛛男に幼女セットなのよ!珍しくないの!」
「目の前の真っ赤でミニスカで履いてねーっぽいねーちゃんの方が珍しいだ」
「ちがっ。私は履いてる!ちゃんと履いている!何だったら証拠を見せてもいい!」
ニーニャ。やめようよ。昨晩張り合わせたけど、朝のシュトッフレパリーレンでまた外れちゃったかも知れないし。
「ごめんなー。おらがまちがっていだだ。ちゃんどはいでるな」
「どうだまいったかー!ごめんで済んだら警察はいらないんだから。はっはっは」
そんなことより、出航した魔法の船をどうやって捕まえればいいのか。途方に暮れていると、港湾管理官が多数接近してきた。
「おいそこの娼婦!朝っぱらから場所もわきまえず営業するんじゃない!しょっぴくぞ!そこのデカいのも動くな!」
「どうしようジオ!」
ほら、あんまり目立つから。桟橋の上は、逃げ場が無い。あるとすれば船伝いだが、管理官の方が慣れているのでは。
「ねーちゃん、ほれ、こっちだ」
すると、さっきの釣り人が見かねて導いてくれた。中型の船の甲板を通り抜けると、船と船の間に小さな釣り船が。引っ掛けた縄梯子を軽快に降りて行く釣り人。僕にそんな真似はできないので、ロープを右手で掴んで、左手にニーニャを抱えて船べりから落ちる。船腹の膨らんだ部分に身を隠して、管理官の通過を待った。
「お前みたいなデッカいの、見失うわけなーいだろがー!」
管理官は、叫びながら中型船から中型船に乗り移っていった。
ジオ式パワー隠れの術。こう見えても僕はいたずらっ子だったからね。
そろっと釣り船に乗り移った。
「ありがとうございます」
「なあに、ワシも密漁さんだし。うほほ」
密漁さんは駆け回る港湾官に見つからないようにすいすいっと出航した。船が行きかう港を常に遮蔽となる物の陰にかくれ。
「この調子でミニガレオンを追ってくれませんか」
「そんな沖までは出れんがな。岸辺の魚釣り用じゃもの」
連れて行ってくれたのは、近くの磯までだった。ミニガレオンは、しかし海峡城の哨戒艇に拿捕されるかもという情報をもらった。悪天候や朝霧・夕闇などを突かない限り、内海から海峡を突破するのは難しく、潮流もあり、港を出て逃げるにしてもすぐ海峡に直行は難しいのだそうだ。
「徒歩でも追いつけますか」
「わがんね。ま、ねーちゃんの桃尻次第じゃねーべか」
別れ際、密漁さんはニーニャのおしりに惜別のまなざしを送った。
なんだか万能通行手形みたいになってきたぞ。いや、僕だって他人に見せびらかしたくはないが、赤の他人を一瞬で味方につけるような魅力なんて他には何もないし。
とりあえず今は歩いてでも、海峡城の手前に散在するという哨戒艇の船着き場に行ってみよう。ニーニャがヒッチハイクでお兄さんあっは~んと呼び止める光景が妄想で浮かんだが、そんなことはさせられない。
・・・あれ、どうしたのニーニャ。ワナワナしてスカートの端を握りしめて。早く行こうよ。
「私、この話始まってから、どんどん恥さらしになって行くみたい!どうして!」




