入学試験①
さてさて、どうなることやら……。
とりあえず、がんばろう!
全理御法学園。
全ての理を知り、制御する方法を学ぶ、という名前そのまんまのバカげた理念を掲げる学校だ。
そんな大層な名前がついてる学校だけあって、学ぶ内容はとんでもない。
それは、現象術と呼ばれるものだ。
魔術、妖術、召喚術etc……この世界には様々な力があり、それを統合してそう呼んでいる。
現象術は、俺が生まれる二十年前くらいから発見されていたらしい。でも、その力はとても強大で、人に扱えるような代物じゃなかった。
使えば、周りが吹き飛んだり、使った奴が怪我したりと、はた迷惑な物だったようだ。
でも、さすがと言うべきか、偉い人たちが研究を重ねていって、今では実用的なレベルまでになっていた。
そして、現象術を高いレベルで扱える人間は、国からの保障すら受けられるという話だ。
だから現象術を学び、習得し、輝かしい未来を手に入れるためにみんなこの学校に入学しようとする。
・・・
そんな俺も全理御法学園に入学するために、入学試験を受けに来た一人である。
「きてやったぜ全理御法学園! この紀和 玄斗がな!」
バカでかい学校を指差し、高らかに声を張り上げる。周りにいた通学中の学生達がスススッと、俺から距離をとるのを感じたが、そんなことで動じる俺ではない。
意気揚々と大手を振って進んでいく、どんな障害があろうとも今の俺を止めることは出来ない……と思った矢先に、赤信号が立ち塞がった。俺の勢いは完全に削がれてしまった。
奇異の視線を受けながら信号を渡り、進んでいく。周りの受験者との距離がとても遠い気がした。そんなこんなでようやく校門前に到着。かなり辛かった……そこで声をかけられた。
「ほう、まだ七時半だぞ、早いな玄斗」
「まぁね、そうゆうお前だって随分と早いんだな」
気軽に話しかけて来たのは、幼馴染の大親友である円城 剛だった。目に掛かるくらいの黒髪、銀縁のメガネをかけている。見た目だけは、草食系男子である。
剛は、ふぅ、とため息をつきながら頭を掻いた。
「仕方ないだろう? 入学試験なんだ、僕だって緊張する。予定より三時間も早く起きてしまったんだよ。これも経験かな」
「はは、軟弱だなぁ剛は。そんなんじゃこの先やってけないぞ?」
「そう言う玄斗はどうなんだ? 僕よりはやく来てたみたいだが?」
「ああ、俺? 昨日の二十二時から近くのコンビニにいたけど?」
「いくらなんでも早すぎるだろ……」
確かに俺自身もそう思うが、ソワソワしてどうしようもなかったんだから仕方ない。
俺たちは、校舎の中に進み、案内を見ながら歩いていく。
その間でも剛は、ため息をつきながら話を続ける。ため息の多い奴だ、老けてしまえ。
「昔から玄斗は変わらないな……小学校の頃を思い出すよ」
「小学校?」
「ああ、お前が遠足にいく日の前日から現地に集合した時のことだ」
「昔のことをよくもまぁ覚えてるもんだな」
「ははは、当日は大雨で中止になってしまって、玄斗が泣きながら帰ってきたのが忘れられないだけさ」
随分恥ずかしい過去だ、できれば忘れてもらいたい。むしろ記憶が飛ぶように手伝ってやりたいところだった。
昔話に花を咲かせながら、長い廊下を進むこと五分、ようやく俺たちは試験会場に到着した。
「っ! 随分と人が多いな」
先に会場に入った剛が驚いた声を出す。俺も続いて入ったが、こりゃすごい。だだっ広いフロアに敷き詰められた長机と椅子、そして椅子に座る人、少なくとも千人くらいは余裕で座れそうだった。
一つの長机に十人ほど座れるようだ。そしてもう全体の椅子が半分ほど埋まっている。試験開始時間は九時、今はまだ八時前だ。俺が言うのもなんだけど、いつから来ているんだか。
俺たちはきょろきょろと空いている席を探す。よくあることだが、ひとつずつ席を空けて座るやつが多い、そうすると必然的に椅子が足りなくなる。後のやつの迷惑を考えないのかこいつらは。
俺は荷物を広げ、四つほど席を陣取った。やっぱり、パーソナリティスペースは大事だと思う。
「さて、まだ時間がある。今のうちに、試験内容を確認しておこうか」
剛は長机の真ん中当たりに座り、俺は通路側に座った。そして剛は、鞄からいそいそと紙を出してくると、俺に手渡してくる。
どうやら、試験のスケジュールが記載されているようだ。
「まず、午前中に学科試験がある。これは、どこの高校とさして変わらない、国語、数学、歴史、化学、言語の五教科だ。」
「任せろ! バッチリ勉強がんばってきたからな!」
もちろん、勉強はした。しかし、努力と結果は必ずしも結びつくわけじゃないんだ。
「その後、昼食をはさんで、基礎の現象術の筆記テストがある。それと平行して実技テストを行うみたいだ」
「それはお互い大丈夫だろ! 先生に叩き込まれたじゃないか!」
主に物理的にだったけど。あまり思い出したくないが、忘れられないくらい叩き込まれたんだ。
「実技テストは分かれてて、実践、応用、知識の三つとなる。この内一つを選んで行うらしい」
「もちろん俺は実践だな。剛も実践だろ?」
「ああ、僕も実践で行こうと思う。というか、それしか出来ないし」
俺達の先生は、実戦形式でいろいろ教えてくれた。本当に、いろいろなことを……。
しかし、一つ引っかかる。そもそも、現象術が使えない人はどうするんだ? そんな疑問を感じてくれたのか、剛は続けて言う。
「現象術が使えない人は、知識を選ぶんだ。知識は現象術がいらないからね」
「なるほど、良くわかったよ。とりあえず、筆記をがんばらないとな」
「そうだな、僕も勉強に心力を注いだからね・・・・・・腕が鳴るよ」
やはり同じ道を辿ってきた幼馴染だ。考えることも一緒か。
俺たちは、無言で今までの勉強の成果をセッティングしていく。お互いの邪魔にならない最善の形を作り、筆記試験に対する城塞を作り上げた。完璧である。
城塞を作り終えた俺達は、一服していると、「ヒャハハ、俺マジ天才だから勉強とかしなくても余裕だってのー」とかいう甲高い耳障りな声が聞こえた。すると途端に、剛の目が険しくなった。
剛の目線の先には、箒みたいに逆立った金髪の男がいた。
「さて、僕は少し席を外すよ。玄斗」
「どうかしたのか?」
「いやね、知った顔を見たからさ、ぜひ挨拶しておこうと思ったんだ」
剛の目がより一層険し――というよりも、獲物を狙う猛獣のような目になっていた。
恐らくあの男と何かあったのだろう。非常にかわいそうな男だ、よりによって剛と関わるとは。
ともかく、俺の知らないところでの騒動だ。知ったことじゃないので、城塞の見直しをしておこう。
・・・
「ごきげんよう。隣、空いているかな?」
「アイテナイ、ホカ、アタレ」
俺は相手の顔も見ずに、適当に答える。声は女の子のものだったが、今は見直しで忙しいから無視した。
「どうしてカタコトなんだ。どうみても空いている、失礼するよ」
どうやら勝手に椅子に座ったようだ。まだ空いている席はたくさんある。なぜ俺の隣なんだ、解せぬ。
そして、俺の要塞が完成した。これならどんな布陣であっても突破できるはずだ。この満足感がたまらない。
「君、さきほど道路で叫んでいた人だろう?」
ハハハ、背中から冷や汗が吹き出るのを感じる。
「確か、紀和 玄斗君だったかな?」
「ダレノコトヲイッテイルンダイ?」
「ふふ。凄く大きな声だったのでな、印象に残っていたんだ。」
もう言い訳も出来そうにないので、おとなしく顔を上げた。
顔を上げた俺の目の前にはとんでもない美少女がいた。銀髪の長い髪、透き通った目、真っ白な肌、何もかもが精密に作られた人形のようだった。
「ふふ。やっと顔を上げてくれたな」
そう言って微笑む美少女。
目があっただけでゾクリとさせられる、まるで身体の中を覗き見されている気分だ。
「わ……、我が名を知る曲者め! 名乗りを上げぃ!」
何を言ってるんだ俺は。テンパってるとはいえ、これはないだろう。絶対に引かれたな、ドン引きだろう。
だが、美少女は俺の予想をはるかに上回っていた。
「そうか、私だけが名前を知ってるのは不公平だな。それじゃ私も……」
美少女は、すぅ、と息を吸い込むと
「我が名はミストラル・ダード・ウィンダルズ! この世界の理を改変するため、はるばる極東の島国にやって来た者である!! 我が名、我が声、我が姿をその目に焼き付けておくといい!」
ざわざわとしていたフロアが一斉に静まり返る。俺も唖然としていた。
すると、あちこちから囁き声が聞こえてきた。
「ウィンダルズだと……!?」「あの足でおもいっきり踏んで欲しい!」「どうしてこんなところにウィンダルズが……?」
途中おかしいのが混ざっていた気がするが気のせいだろう。うん、気のせいだ。
唖然としていた俺をみて、ミストラルさんは、
「どうかな?」
と、いたずらっ子のような笑顔を向けてきた。おそらく今、俺の顔は真っ赤になっているだろう。
とりあえず、聞きたいことがあったので気持ちを切り替えて話しかける。
「えーっと、ミストラルさんでいいのかな?」
「ふふ、私のことはミストと呼んでくれて構わないよ。その代わり、私も玄人と呼ばせてもらうよ?」
「ああ、オッケーそれじゃ遠慮なく……。ミストは、なんで俺に話しかけてきたのかな?」
「どういう意味だ? 私が玄人に話しかけることに、何か理由が必要か?」
「そりゃ、道端で大声出してる変人に好きこのんで話しかけるバカはいないと思うんだ」
「はははは! ……バカで悪かったな、この変態」
ミストはいきなり笑い出し、そして真顔で罵倒してきた。なんとも表情がよく変わる子である。
「まぁいい、理由としては三つあってな。一つ目、後ろ姿に隙が無かったこと。二つ目、この机になにやら細工をしていたのが見えたこと」
驚いた。かなり周囲に気を使ってやっていたのに。それに見られていて、そのことに俺も、剛も気づかなかったことに。
そうなると、三つ目が気になる。俺はミストの言葉を待つことにした。
「三つ目、それはな……」
「それは……?」
「まだ日本に来て、知り合いが一人もいなくてな。心細かったんだ」
「寂しかっただけ!?」
どうやらミストは自信満々な態度と裏腹に、かなり庶民的なようだった。
・・・
「ほほう? では、テスト対策とは名ばかりの不正行為をしていたのか」
俺はミストに洗いざらい話してしまっていた。うまい具合に話すように誘導された気がする……そうだったらかなりの話術である。
「まぁね……。ミストはやっぱり、試験官に言っちゃったりする?」
もしそうなら実力で黙らせることになってしまうから避けたいのだが、ミストは笑いながら言う。
「ははは! そんなことはしないよ、むしろどんな手でも使うというところは好感をもてるくらいだ」
とても、理解度が高いミストさんだった。
「そうだ、口止め料として私にもそのテスト対策を見せていただこうかな?」
「・・・・・・了解」
とても、要領の良いミストさんでした。
・・・
その後もしばらく雑談していると、剛が帰ってきた。
「ただいま玄人、そして、その銀髪の子はだれだ?」
帰ってきて、疑うように目を細め、不躾にそう聞いてきた。おそらく、自分の城塞が荒らされていないか心配なのだろう。
「む?」
「ミスト、紹介するよ。俺の幼馴染の剛だ」
「円城 剛だ。よろしく」
「よろしく頼む。私の名はミストラル・ダート・ウィンダルズだ、ミストと呼んでくれて構わない」
少し、剛がニヤリと口を歪めたのが見えた気がした、すごく嫌な予感がする・・・・・・。
「ああ、よろしくなミルモート」
「む・・・・・・! 私はミストラルだ。ミルモートなどという名前ではない!」
少し機嫌を損ねた顔で、抗議をするミスト。
「すまない間違えたよモスキート」
「私を蚊扱いするとはいい度胸だなキサマァ!?」
「ハッハ! やる気か、それもいいだろう。これも経験だ!」
ミストは顔を真っ赤にし、どこからともなく剣を取り出した。
対する剛は両手を広げ、こちらもいつの間にか武器を取り出している。
「ちょっと待て! 今はそんなことしてる場合じゃないだろ! てかそれどっから出したんだよ!?」
「「企業秘密だ!」」
二人揃って声を張り上げる。もうどうでも良くなってきた・・・・・・。
「さいですか・・・・・・」
その後、お互い本気でやる気は無かったらしく、武器を降ろした。
先行きがとても不安になった俺だった。
ちまちま頑張ります・・・浮気性なので他のに力入れちゃうかも・・・




