早押しの奪い合いのようです。
「さあクイズ番組らしくなってきた! どんどんいこう、第三問! キラッ」
ちっ、テンションがうなぎ登りですこいつ。ウザいです。……読みますからそのキラウザ視線をやめて下さい。鳥肌ものですよ。
皆さん真剣ですし、仕方なく問題を淀みなく、聞こえやすいように読んでいきます。
「フランス語で黒」
ピンポン!
鳴りました。さてどなたでしょう。
果たして回答者は、先ほどの件で余裕は消えたものの堂々たる雰囲気を醸し出している亜美でした。
「ノワールよ!」
「ぶっぶー! 不正解だよー?」
「なっ!? くぅっ!」
無茶苦茶悔しそうですね、あの子。
まあ仕方ありませんか。なんせこのキラウザ会長思いっきり笑ってますもん。
さて読みますか。
「フ」
ピンポン!
はやっ。どうやらまた市川さんのようですね。
「ブラン。又はブランシェ」
あちゃ。
市川さんの答えを聞き、隣のやつがどんどんと愉悦に満ちた顔になっていきました。
「ぶっぶっぶー! 不正解でぇーっす! キラァッ」
「……」
おお。若干動揺しましたが露骨ではないですね。
それよりも隣の波多さんの方が喜んでいるような気がします。
気にせず続けましょう。
「フランス語で黒はノワールですが、ドイツ語」
ピンポン!
瀬本さんと亜美がボタンを連打しました。さて、回答権を得たのはどちらでしょうか。
ランプが点灯します。
「やったわ! シュバルツよ!」
亜美でした。瀬本さんは涙を浮かべて可愛らしく悔しそうにしています。…一部、椅子が赤くなってしまっている……。
「ぴんぽーん! 正解です。キラッ」
「フランス語で黒はノワールですが、ドイツ語で黒はなんと言うでしょう? という問題です。ブランは白ですね。というわけでエントリーナンバー四番の木島さん、」
「一ポイント獲得です! キラッ」
マンネリ化してるし。ええい、もう気にしない。
「続いて第四問! いくよ、キラッ」
本当にみんな真剣になっています。あの市川さんでさえさっきよりも集中しています。悔しかったんでしょうか。
「小さい柴犬の」
ピンポン!
今度は全員連打しました。さて、今度はどなたでしょうか。
ランプが点灯します。
「勝ったぁっ!!」
叫んだのは波多さんです。叫ぶのと同時に立ち上がり、お隣の市川さんに人指し指を突きつけました。
「これで宗一に勝ったぞおおぉっ!!」
初めての見せ場です、よほど嬉しかったのでしょう。生き生きしまくっています。指差された市川さんは完全に無視していますが。
「ふっふっふ、答えはー……。あれ、ねえ問題なんだっけ、」
ビーッ。
「はい残ねーん、時間切れでーす。んじゃ雛ちゃんよろしくね! キラッ」
「えっ、そんな」
「……ちぃ」
ピンポン!
あわれにもうなだれている波多さんを無視し、素早くボタンを押したのは市川さんでした。
「豆柴」
だと思いました。
「ぶっぶー! ぶっぶっぶー! 不正解ですよキラアァッ」
「……っ!」
あっ、拳を握りしめた。あそこまで悔しそうな市川さんは初めて見ました。まあこのキラウザ野郎は市川さんを憧れの視線と同時にライバル視していましたからね。
波多さんほどではありませんが。
「小さ」
ピンポン!
皆さん実に速攻でよろしいです。
今度は瀬本さんですか。ファンクラブの方々がもはや騒音です。
「わかったよ、豆知識だ!」
真剣な顔で言い放った瀬本さんは、時が経つと同時に不安になってきたのか怯えているような表情になっていきました。
……鼻血のアーチを初めて見ました。いくらなんでもやりすぎだと思います。ファンクラブ怖い。
「ぶっぶー、残念不正解でーす」
「えっ!?」
興味無さげに不正解を言い渡したキラウザ野郎は、本当に興味がないようです。
戸惑いの声をあげた瀬本さんは瞳を潤ませて、ファンクラブの方々をノックアウトしにかかりました。
ああ、会長が興味無さげなのは間違いなく同族嫌悪のためでしょう。だって瀬本さんこいつと同じ臭いがしますもの。最初はノリノリだったのにね。
まあいいです、読みますか。この問題ならおそらく最後まで読めるでしょう。
「小さい柴犬のことを豆柴と呼びますが、」
警戒してか、まだ誰も押してきません。間違えたため連続回答の出来ない瀬本さんは俯いて悲劇のヒロイン化してますが。ああ叫ぶなファンクラブ。
「豆柴と豆を掛けて作られたキャラクターの、『豆しば』の内の一体である『大豆しば』は、何オタクでしょう?」
「……?」
「は?」
「え?」
「あ、僕知ってます。悔しいなぁ…」
おや、瀬本さんは知っているようです。驚きですね。
一方回答者である市川さんは考え込み、波多さんは意外にも考え込み、亜美はボタンを押そうか迷っています。
ピンポン!
押しましたね。
「さあ答えはなんだい? キラッ」
こいつ今更でしゃばってきやがった!
気づけば会場はある一団からうめき声が聞こえるだけで静かです。少し緊張しながら亜美は答えを口にしました。
「……えと、アニメオタク?」
「ぶー、不正解。…キラン」
テンション下がったじゃないですか。