豆本
私は虫眼鏡を手に取った。
両親の寝室、その押入れの前に、豆本らしきものが落ちていたからだ。
指先にのせても指の大半が見えてしまうような、極小の書物だ。
何も書かれていないように見える表紙をめくってみると、全体的に白いが、黒い部分もある。単に汚れているようにも見えるし、模様が描かれているようにも見える。
文字情報かどうかもわからない。虫眼鏡で見ようとしても、なおわからない。
これは一体何だ。
家の誰にも、小さな人形ハウスを作る趣味はないはずだ。
私は極小の豆本を手に取り、学校に持って行った。
理科準備室にしのびこみ、顕微鏡を借りてのぞいてみると、読めた。
でも、大部分が判読不能で、読める部分もとぎれとぎれになっていて、断片的にしか読めない。
「ええと、『第九季より……途絶……続を試みるも……突如として空が開く。言い伝えの光を確……。……壊滅す……DB地区第十三道との……解と同盟が成立。空の果てとの……べき闘争に……』なにこれ」
次々にページをめくっていくと、最後のページに、明らかに手書きで走り書きされた文字があった。
『智者どもは、空の果て、巨大世界の存在を認めない。だが私は信じている。この本が読まれているならば、私が正しかったことになる』
どういうことなのかと考えようとしたとき、
「誰かいるのか」
先生らしき人の声がして、あわてて微小の豆本をポケットに入れて、逃げた。
家に戻って、ポケットに入れたはずの豆本をさがしたのだが、二度と見つかることはなかった。
夢にしては鮮明に記憶に刻み込まれているけれど、もし現実だとしたら一つ腑に落ちないことがある。
なぜ私は、あの文字を読めたのだろう。それは見たことのない言語のはずなのに。




