ふらっといけちゃうホットドッグ…… B$6.50
リオードは何度か脛を擦ってから、恐る恐る立ち上がった。
グレイはああ言ったが、もちろんやるべきことがないなんて状況はあり得ない。明日から外出が続くのであれば、さっさと事務所内の雑務を終わらせておかなければならない。残りの書類整理と、御茶菓子の補充と、オフィスの掃除と、洗濯と……。やりたいことは山積みだが、まずは最低限三日間自分のいない事務所内で何事もなく生活を送れる環境を整えなければならない。そう思い至って、リオードが三日間の作り置きメニューを考え始めたところで、扉が開き、そちらに視線を奪われる。
「んだよ、騒がしいな。外にまで聞こえてんぞ?」
ピンクブロンドの髪をかきあげながら、小柄な少女が入って来た。名前をジム、この探偵事務所の看板娘(?)である。
「す、すみません」
「あ、ジム。明日から三日間、リオードいないから」
グレイがくるりと椅子を回してそう伝えると、ジムはあからさまに眉間にしわを寄せた。
「雑な説明だな。代表の癖に報連相もろくに出来ねえのかよ」
しかし、その足取りは重くない。表情が不機嫌そうに見えるというだけで、案外、今日の機嫌はそう悪くはないのかもしれない、とリオードは密かに思った。
「結論を手短にまとめて伝えてるだけだよ。……まあ、そういうわけだから。リオードに頼むことがあるんだったら早めにね」
「うるせえな。自分のことくらい自分でできるっての」
一部の会話を切り抜いて見れば、まるで思春期の娘と父親の図である。そんなことを口にしては、明日の朝日が拝めなくなってしまうので、リオードは静かに唇を結んだ。
「つーか、私もいねえから」
ジムはそう言うと自室に消えて行った。時折棚の揺れるような音がするので、クローゼットでも漁っているのかもしれない。数分の後、リュック一つを肩に背負って出てきたジムは、「じゃ」と告げて事務所を後にした。
グレイは深く息をついた後、組んだ両手に顎を乗せ、神妙な面持ちでリオードに問いかけた。
「ついに、家出……かなあ。リオード、どう思う?」
「家出……、にしては随分と丁寧じゃないですか? ジムさんなら無言で窓から出て行くくらいしそうですけど」
「確かに」
「……って、良いんですか!? 三日間、二人もいないって、かなりの人員不足では……!?」
「まあ、そこは優秀なデオくんもいるしね。リオードは気にせず行ってきなよ」
「そ、そうですか」
代表が言うのであれば、それを信じるしかない。置きっぱなしにしていた書類を再び運ぼうと持ち上げた時、グレイが「それに」と付け加えた。
「ウチ、そんなに仕事ないしね」
鳥の鳴き声と、反応に困った笑い声。この街は案外、平和なのかもしれない。




