気分転換のベーコンバーガー…… B$10.00
「なあ、リオード。転職しないか?」
「…………へ!?!?」
ここは、ローファード・ハウス。バーニーズ・タンドにおけるしがない探偵事務所である。
ばさばさと手元から大量の紙束を滑り落とした彼、リオード・カロンは、ローファード・ハウスの探偵見習いだ。そして、「ありゃ」と気の抜けた声で頬付きをつきながら見守るのが、事務所の代表、グレイ・リバース。リオードは慌ててそれを必死にかき集めて、再びグレイの方をばっと振り返る。
「……あの、僕、クビ……?」
「いや、ちょっとしたジョークさ」
「代表が言うとシャレになりませんって……!」
冷えた肝を擦って温めながら、リオードはふう、と息をついた。ローファード・ハウスの人間はそれなりの頻度で突拍子もなくとんでもないことを言い出すので、嘘か本当かわからないのだ。……いや、優秀な他のメンバーにはそれも見抜けるのかもしれないが。
グレイは右手で摘まんでいたチラシをぴらぴらと音を立てて揺らした。見てみろ、と言われていることを察して、リオードは拾い集めた書類を適当な場所に整えると、そのチラシを受けとった。
「実はな、依頼が入ったんだよ。ダイナーの店長から、『人手が足りないから助けてくれ』ってさ」
くるくると椅子を左右に回すグレイをよそに、リオードはチラシの一言一句をしっかり読み進める。そして最後まで読み終えると、じと、っとグレイのことを見つめた。
「あの」
「なんだ?」
「僕たち、『探偵事務所』では……?」
「そうだな」
「見たところ、これってただのバイト……」
リオードがそう言いかけたところで、グレイは奇妙なほどに爽やかな笑みを浮かべた。
「まあ、良いじゃないか。今はため込んでる仕事もないわけだし」
「確かに、そうかもしれませんけど……」
「それに、リオードはずっとここにいるだろ? 社会経験として、他の職場を見ておくのも悪くないかと思ってな。何せ、依頼主はこの物騒な街で飯屋をやりくりできている女店長だ。生きる処世術ってやつが学べるんじゃないか?」
「……本当に思ってます?」
「ははは」
グレイは他所を見ながら適当に笑った。とんとん、と縁で叩かれ、煙草の灰が落ちる。有無を言わせない権威の振りかざしだった。
仕事である以上、真面目なリオードが動かないはずもない。この仕事にどんな意図があるのかなんてリオードにはわからなかったが、グレイが言うのならば、きっと何か考えがあるのだろう。そうであってほしい、と自分に言い聞かせ、チラシをグレイに返した。
「つまり、そのダイナーに行って、普通に働いてくればいい……ってことですか?」
「そうそう。三日間……いや、初日はレクチャーだけって言ってたから、実質二日間かな。……ああ、人助けしておいた方が、うちの株も上がるでしょ?」
「今、思い出したように理由を付け加えましたよね?」
「まあまあ、細かいことは置いといて。三日間なんてあっという間だしさ。まあ、その……気分転換だと思って楽しんできなよ。んじゃ、明日からよろしくね」
「明日!?!?」
ガッ、と机が指一本分ずれる。リオードは膝を抱えてうずくまった。
「……大丈夫かい?」
「いや、あの、びっくりしてぶつけただけなんで、大丈夫、です……!」
「あらあら。気いつけなよ? うっかり死んで人手が減ったら困っちまう」
「心配してんのかしてないのかわかんない言い方やめてもらえませんかね……!?」
「ははは」




